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5)排尿のしくみと症状

「調節の仕組みと生体のサインについて」の5項目、排尿についてです。

5)排尿のしくみと症状
「調節の仕組みと生体のサインについて」の5項目、排尿についてです。
「尿意」というのはどういうものでしょうか。

尿は腎臓から膀胱まで尿管を通り、少量ずつ膀胱内に流れ込みます。生体はこの尿の流れを感じることができませんが、膀胱内に尿がいっぱい溜まると膀胱壁が引き伸ばされ、この刺激が神経を介して脳に伝えられ、尿意となるのです。
その後大脳で「排尿をしよう」と決めると、膀胱の収縮、尿道の弛緩、そして腹圧をかけることによって排尿に至ります。

さて、「尿が出ない」という症状は何を示すでしょうか?
①尿道の閉塞②尿量が生産されていないか生産が少ない③頻尿のため尿が出ていないように見える、の3つが考えられますね。どれが正しいのかを、症状から探っていきましょう。

※「尿が出ない」かどうか「排尿は正常」かどうかをチェックするには、実際に排尿している姿を見て確認しなければなりません。外尿道孔をやさしく揉んで刺激することで、排尿反射を誘発することができます。尿道の刺激は脳に届いて尿意を起こすということですね。これで通常の排尿が確認できれば、尿閉つまり「尿道の閉塞」は除外できます。または尿道カテーテルを挿入してみて膀胱まで到達できれば、同様に尿道閉塞を除外することができます。「尿が出ない」は意識的にチェックしないと見つけづらいので、もっと一般症状である「食欲不振」や「怒責(お腹に力を入れて苦しんでいる)」として発見されるかもしれません。

まず尿道閉塞であれば、尿は生産され膀胱に運ばれますから、膀胱内には溜まっているはずです。
そして膀胱壁からの反射により尿意を感じますから生体はお腹に力を入れて排尿しようとします。これが「怒責」と言われる症状です。怒責があるなら尿道閉塞の可能性が高まるわけですね。
エコーや触診等で膀胱の拡張が確認できれば、尿道閉塞と確定できるでしょう。

尿道の狭窄(不完全閉塞)であれば、「持続的排尿」「尿淋瀝(にょうりんれき)」(ポタポタ少量ずつ排尿する)の症状が見られます。この場合も、膀胱の拡張及び怒責が見られます。

尿生産の低下であれば、膀胱以下の排尿はできるものの、排尿回数の減少が見られます。加えて膀胱拡張はなく、尿の貯留にかかる時間も長くなるでしょう。そして腎臓が原因であればそれに伴う腎不全症状が見られるでしょうし、脱水が原因であれば脱水症状が見られるでしょう。

頻尿であれば、「持続的排尿」と「尿淋瀝」が見られますが、膀胱内の尿貯留はありません。

このように、排尿に関する症状もまた、同じような症状でも原因が全く異なる場合があります。

症状を正しく理解するためには、「今、生体は何をしようとしているのか」を考えることが大切です。「尿が出ない」以外の症状や状態の観察から正しい診断に近づく事ができます。

ちなみに仙髄損傷では骨盤神経の麻痺により排尿反射が起こらなくなり、排尿困難を生じます。この場合膀胱拡張しているにも関わらず尿道の閉塞は無いという事になります。また腰髄の損傷により排尿を抑制する神経が麻痺すると頻尿になります。
大動物ではあまり出くわす事はありませんが、念のため付け加えておきます。

尿道閉塞が長時間続くと、膀胱がさらに張り詰めて腹痛症状、疼痛による心悸亢進、苦悶、起立不能と症状は進んできます。そして膀胱が破裂すれば、一時的に疼痛症状は治まり、時間の経過とともに腹膜炎や尿毒症が現れて来ます。

慢性の排尿困難であれば腎不全の症状や尿毒症の症状が出てくるでしょう。

(参考)
https://www.kango-roo.com/learning/3287/
排尿はどのような仕組みで行われるの?看護roo

いつも研修獣医さんにお話する事ですが、本を見なくても生体の仕組みを普通に考えれば、症状の理由はある程度推測できるものです。ですから初期診断に本は使用せず、きちんと体系的に「診察」を行う事が大切です。

その後、見落としをなくすためのチェックとして、症状が網羅されている教科書を参照します。