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山羊の診療note6 ~腰麻痺(脳脊髄糸状虫症)について~

山羊の診療note6 ~腰麻痺(脳脊髄糸状虫症)について~

今回は、症例12, 14, 16の「腰麻痺」について詳しくお話したいと思います。

山羊の診療Diary  症例12  山羊の起立不能(初診) ~腰麻痺疑い~

山羊の診療Diary 症例14 子山羊の斜頸 ~腰麻痺疑い~ 

山羊の診療Diary  症例16 腰麻痺疑い ~治療をしないという選択~

 

*腰麻痺の原因

本来は牛の腹腔に寄生している指状糸状虫が、山羊に感染して体内を移動するうちに、神経組織を損傷する寄生虫の病気です。

*感染経路

指状糸状虫が寄生している牛の血液の中に子虫がいる

蚊が感染している牛を吸血すると蚊の中に子虫が入る
中間宿主の蚊 2週間で感染力を持つようになる

山羊が蚊に刺されたときに(吸血されたときに)山羊の血管に子虫が入り感染

山羊の体の中で脳脊髄神経に迷い込み症状が現れる

牛は腹腔内に移動して病害が出ることはありません。
山羊では子虫が脳脊髄神経に迷い込み、神経細胞を刺激したり、破壊することにより
運動障害などを引き起こします。

*腰麻痺 発生の時期・地域

この病気の発生は牛と中間宿主(シナハマダラカ)がいる地域に限られます。
発生時期は、蚊の活動期(6月~10月)が感染時期であり、
その2週間~1ヶ月後に症状が現れる。
沖縄のように年中、蚊がいる場合は季節に関係なく感染の危険性があります。

*腰麻痺の症状

神経が損傷された部位や程度によって症状は異なります。

腰部・後肢のまひ
歩様のふらつき
起立困難
斜頸(頭頸部が片方に傾く)
顔面神経麻痺によるよだれ、ごはんが食べられなくなる
前肢の麻痺

症例12のみやちゃんは立てなくなりました。(起立不能)

起立不能になった山羊

症例14のさしみちゃんは頭が傾きました。(斜頸)

斜頸となった山羊

神経の損傷以外は体温や呼吸、心拍に大きな変化なく
食欲もあって排便・排尿も正常なことが多いです。
しかし、立てないことで床ずれ(褥瘡)がおきて、
食欲がなくなり栄養状態の悪化すると、誇張症や床ずれからの
細菌感染などが起こり残念ながら死亡することがあります。

 

*腰麻痺の治療。オーナーさんの看護がとても重要

症状が出た場合、できるだけ早く駆虫剤の投与を行います。
また、
症状にあわせて、抗生物質や炎症を抑えるお薬、点滴などを
行っていきます。

そして、
オーナーさんの看護が回復までの間にとても重要になります。

症例12のみやちゃんは
筋肉が衰えたり、褥瘡を防止するために、
一日何度か立たせてあげることをお願いしました。

症例14のさしみちゃんは
栄養状態が悪くならないように、
人工ほ乳をお願いしました。

 

*腰麻痺の予防策

予防として以下の対策があります。

・蚊の発生時期に駆虫薬を投与すること
・蚊の発生時期には牛と離して飼うこと
(山羊から山羊の感染はありません)
・蚊の駆除(水たまりをつくらない)
・蚊に刺されないようにする
(蚊取り線香の使用やネットの設置)

マイダツ・脳天割り!!

のんびりした山羊さんの放牧風景。

山羊小屋のお掃除も終わって、

平和だなーと眺めていたら・・・

ドーン、ドーン

と大きな音が。

振り向くと、

だいわくんの必殺

マイダツ・脳天割り!!

マイダツ・脳天割りとは・・・

沖縄県多良間島の闘山羊大会、
ピンダーアースで山羊さんたちが繰り出す技のひとつです。
ちなみに多良間島の方言で、

ピンダ=山羊 アース=闘う

わたしは今年の5月に観戦に行ってきました!
この時の模様は改めて、記事にしますね。

公式パンフレットによると・・・

「マイダツ・脳天割りとは、
山羊特有の攻撃パターン。
自分を大きく見せ、相手を威嚇するために前足を高く上げ、
体を反らして、後ろ足立になる(マイダツ)。

目をひんむいて相手をにらみつけ体を預けるようにして正面に割り込む
(脳天割り)

両者がマイダツし合い割り込むタイミングが合えば、カキーンと角のぶつかる大きな音を
発し迫力がある。積極的な攻めとして認められる。
体力を消耗するワザで、これを多用するとバテることにもつながるため、必ずしも勝つとはいえない。」

だいわくんダイナミック!!

次のピンダーアース一緒に狙ってみようか?

決める痛みと、生まれる希望。臨床獣医の仕事で大切かつ難しい「相手の気持ちを汲む」ということ

 

臨床獣医師として、常に直面する共通テーマ

前回の山羊腰麻痺疑いの記事、山羊の診療Diary  症例16 腰麻痺疑い ~治療をしないという選択~ について、院長の私からも書きたいと思います。

アン先生のまとめが素晴らしいので、読んでない方はぜひどうぞ。

臨床獣医師として常に直面する、共通のテーマなので、僕も書かせてもらいたいと思います。

アン先生の言うように、獣医師は「飼い主の選択に寄り添う」事をしています。そして、「動物との関係は人それぞれ」なんです。

  • 伴侶としてともに生きる人、盲導犬などと助け合って生きる人
  • 動物は好きではないけど、家族の動物をお世話している人
  • 家畜として飼い、動物をお世話する事で、生活資金を得る人
  • 家畜から生活資金を得る一方、飼育自体が生き甲斐であり、ライフワークである人

それぞれの人に事情があり、動物や、その関係に問題が起こることがあります。

 

VETの獣医療サービスが目指すところは、「きぼうをつくる」ということ。治療はひとつの手段に過ぎない

私たちの獣医療サービスが目指すところは、

「きぼうをつくる」です。

飼い主さんが希望を持つには、これからどうするか、自ら選択する事が必要なんだと思います。

そのためにまず目の前にある問題に対処し、飼い主さんが選択できる様な情報を提供します。

治すのはひとつの手段に過ぎないのです。

例えば今回の腰麻痺のヤギのように、交配する目的で飼っている動物が立てない時。

死にはしないけど、立って交配出来る確率は50パーセントか、もう少し低いかも。反面、治療開始したら約2ヶ月は出荷できないので飼育労働費と経費がかかる。

飼い主はもちろん治って欲しいんです。一生懸命お世話してきたんですから。

でもね、このオスヤギが交配できないなら、この飼い主さんにとっては一緒に居る理由がないのです。

諦めるのは心痛が伴います。一方で治療するのは損失も、不安も伴います。

どうしていいか決められないので、獣医が呼ばれているんですね。

 

獣医師には、「飼い主の選択に寄り添う」という役割もある

獣医は治療するだけじゃなく、あるいは科学者のように研究成果をあげたり、真理を追求するだけじゃないんです。

獣医はこの飼い主さんがヤギに求める関係性を汲んで、気持ちを汲んで、動物の状態を診断して、それから手段を提示します。経験や知識、技術を総動員してわかる事を整理して、先行きを示します。

そして飼い主さんの言葉にならない想いを生かす、本当の気持ちを生かす選択をしてもらうのです。

そういう事が「飼い主の選択に寄り添う」なんです。

選ぶ時には痛みが伴っても、次への希望を持てる結論を出せること。これからも悔いなく頑張れること。

それが臨床で行う獣医療のゴールなんです。

ある現実が、その人にとって苦しすぎて、どうしても選択できない時もあるでしょう。そういう時は、その人がそれを受け入れるまで、全力で治療し続けます。飼い主が諦めないなら、一緒に諦めず頑張ります。

でも、本当は諦めた方が楽なのがわかってても言い出せない…。みたいな場合もあるので、そういう時は別の方向性を提示してみます。それでも飼い主が決められないなら、決めないまま一緒に結果を見てあげます。

そういう事も「飼い主の選択に寄り添う」なんです。

決めないという選択でさえ、納得して次に進むためにはとにかく自分で選ぶ事が大切だと思うからです。

 

臨床獣医の仕事で大切・難しいことは、「相手の気持ちを汲む」こと

「治る病気」を治すのなんか、簡単なんですよ。そんなのは、真面目に勉強してたくさん症例にあたって、ちゃんと治療してたらできるんです。

臨床獣医の仕事でもっと大切で難しいのは、むしろ相手の気持ちを汲む事です。いろんな人が命に向き合う時の苦悩なんかを一旦預かって整理して、その人がそれを受け入れられるような、前向きになれるような形で返してあげる事です。

そうして、その人が悲しんだり苦しんだりした後にも、また頑張ろうって思ってもらえることが、治す事よりずっと大切な成果なんです。

ね、共に臨床で頑張ってる獣医の先生方。

そう思いませんか?

山羊の診療Diary  症例16 腰麻痺疑い ~治療をしないという選択~

*山羊の診療Diary  症例16 腰麻痺 ~治療をしないという選択~

今回の症例は・・・

昨日から雄山羊が立てないから診察してほしいという連絡がありました。
現場に向かってみると100kg以上はある大きな雄山羊さんが座り込んでいました。

座り込む大きな雄山羊

さっそく、オーナーさんからお話しを伺うと、
4~5日前から、いつも決まった場所におしっこをするのにその場所まで行かなくなったそうです。
観察していると歩き方がおかしくて動くのが辛そうに見えた、
そして、今日から後ろ足が立たなくなってしまったということでした。
また、食欲、元気はあっておしっこ、うんちは問題ないということです。

後ろ足が立たなくなったヤギ

診察してみると・・・
体温 39.8℃
聴診 問題なし
腹部 ガスの貯留など膨満なし
後肢 立てない。
蹄から腰まで観察するものの外傷(ケガ)や骨折、股裂けなどなし。

以上のことから、
オーナーさんのお話し、診察を合わせると「腰麻痺」が強く疑われました。

腰麻痺については、山羊の診療note6 ~腰麻痺(脳脊髄糸状虫症)について~ に詳しく記載しています。

治療の話を始める前に、2つの選択肢を提案

今までの症例では、治療のお話しからはじめます。

しかし、今回ははじめから2つの選択肢を提案しました。

それは、

「治療する」

もしくは

「治療しない」

という選択です。

それでは、今までの症例と今回は何が違うのでしょう?

 

「産業動物としての山羊」という観点から

私の住む島では山羊肉を食べる文化があります。
このオーナーさんは畜産農家さんとして山羊を飼養しています。
山羊農家さんとして、地域の食文化を支えているのです。

今回は、産業動物としての山羊を診療しています。

この雄山羊さんは、
雌山羊さんと交配して子山羊を増やすという役割がありました。
その子山羊たちが大きく育って出荷され、お肉になっていくのです。

今回の症例は、
治療をして回復する可能性も
後遺症が残る可能性も
そして、死んでしまう可能性もあります。

こんなとき
どのような選択をすれば良いのでしょう。

 

治療した場合と、治療をしなかった場合。さまざまなケースを考慮しお話をする

今回、オーナーさんとお話ししたことは・・・

*治療した場合*
①完全に回復
→山羊さんも飼い主さんも獣医師もハッピーエンド。

②回復したけど麻痺が残った
→繁殖用の雄山羊として役目が果たせないので、お肉として出荷されることになる。
ただし、この症例で使用したい薬は注射すると2ヶ月出荷できない。
この2ヶ月間、えさ代など飼養する費用が増え、牧場全体の損失になる。
このような積み重ねから経営不振になり牧場自体立ちゆかなくなることはよくあること。
また、この2ヶ月の間に麻痺のため筋肉が衰え、お肉としての価値が下がる。
最悪の場合、腰麻痺の合併症から死んでしまうこともある。

③死んでしまった
→治療代の損失、お肉にできなかった損失だけが残る。

*治療しない場合*
→今すぐ出荷すれば、しっかりお肉がとれるのでお肉代がこの山羊さんを購入した代金よりも
高くなり、利益が得られる。またこのお金で新しい雄山羊さんを牧場に連れてくることができる。

お話しの後、
オーナーさんは今回「治療しない」という選択をされました。
この山羊さんは出荷され、お肉として町の商店に並ぶことになります。

 

動物との関係は人それぞれ。獣医学を含めた総合的なことをお話し、オーナーさんご自身に「決めてもらう」

そして・・・
診察の後、他の山羊さんをオーナーさんが見せてくれました。
1頭ずつ牧場の山羊さんのことをお話ししてくれます。
治療をしないと決めた山羊さんのことも、どんな経緯でこの牧場に来たのか、
どんな山羊さんだったのか、どんなことを期待していたのか・・・

動物との関係は人それぞれです。
治療の選択もそれぞれのベストがあります。

産業動物としての山羊さんを診療するとき、治療のことだけを考えません。
オーナーさんの状況、想いを伺い、獣医学的なことを総合してお話しして
オーナーさん自身が選択肢の中から「決めること」を目指します。

獣医学の技術の向上や治療だけでなく、
その選択にそっと寄り添えるようになりたいと
感じた症例になりました。

旅人同士

今、目の前にいるあなたが
あした
わたしの前に
いるとはかぎらない

今、目の前にいるわたしが
あした
あなたの前に
いるとはかぎらない

わたしもあなたも
旅人同士

いつかどこかで
道が別れる

あなたはあなたらしく
わたしはわたしらしく

一緒に
行けるところまで

目の前のあなた
今、この時

それを感じて

最後の日まで

ハーブと山羊

今日は、縁あって養鶏農家さんの
ホーリーバジルの畑を見せてもらいました。

畑で一息ついて深呼吸すると・・・

わー!!良い香り。

鶏のごはんに混ぜて使うために育てているそうです。

ビタミンや繊維不足の解消に役立てているということでした。

私もぜひ山羊たちに食べさせてみたい!!とお話ししたら、

快くハーブを分けてくださいました。

早速、牧場に帰ってみんなにあげてみると・・・

やったー。

食べてる、食べてる。

お家に帰って

ホーリーバジルの効果を調べてみると、

葉っぱに含まれる、ジエチルエーテルに、抗菌効果があることもわかりました。

今までも山羊農家さんから、グワバの葉っぱが下痢に効くというお話しや、

タンニンを含む葉っぱが寄生虫症に効果があるというお話しを耳にしてきました。

植物やハーブの効果はなかなか興味深い。

また、少し前になりますが飛行機の機内誌で、山羊が特集されていてました。

その中の記事で、
石垣島では山羊農家さんで山羊肉のにおいを軽減するために、
長命草、よもぎ、レモングラスを混ぜてあげているというお話しがありました。

また、沖縄本島の南城市ではハーブ生産が盛んで、
その一環でハーブの加工過程で出る残渣(絞りかす)を粉末化したものを
山羊のご飯に混ぜて山羊を青立てて地域ブランドとして特産化するプロジェクトに
官民あげて取り組んでいるそうです。
一年に及ぶ試験飼育と成分分析の結果、
「ハーブ類を与えると、与えない場合に比べて、脂肪を燃焼させる機能性アミノ酸
のL-カルニチンと、疲労回復を助けるタウリンが豊富な肉質になると判明した」
ということでした。

山羊とハーブ。
なかなか興味深い。
私もこの記事を読んで、
少しずつ山羊牧場のまわりにハーブを植えはじめました。

ミント、バジル、レモングラス、ローズマリー。
そして、今日いただいた
ホーリーバジル。

ハーブたちがたくさん増えたら、山羊さんたちのごはんに
少しずつ混ぜていけたらいいなと思っています。