Category Archives: 分類しないようなこと

循環器症状の解釈

やっとここまできて、症状の解釈について書けます。
これが書きたい為に、長々と生理学の知識をおさらいしていました。

診察する時は、聴診により日常的に心拍数をカウントすることになると思いますが、この心拍数はどんな意味を持つのでしょうか。

診察にて日常的にチェックしている「症状」は、たいてい何かの代償作用であり、また代償機構は全身で統合的に働いていますので、症状ひとつがひとつの診断を導くわけではありません。症状は代償機構であることを意識して、ひとつの症状が他のどんな症状とセットになっているかを見ると、それがどんな代償機構によるものなのかを判断する手がかりになり、原因と現状の推定に利用できるのです。

例えば心拍数の増加を見つけたら、まずは痛みや興奮のような交感神経が働くような状態なのか、血圧低下の代償なのか、貧血か、または心臓の直接的な異常か、などを頭に浮かべ、次の手がかりを探して振り分けます。

痛みや興奮、または運動が原因で心拍が上がった可能性を確認するために、活力は正常か、粘膜の色は異常ないか、呼吸はどうかなどを確認します。

運動に対する代償で心拍数が上がっているなら、よほどのことがない限り筋力や活力は正常、意識も正常でしょうし、呼吸数は上がっていても呼吸音には異常がないでしょう。体温はやや高いかもしれません。少し安静にして心拍数が下がるのを確認すれば確定できます。

逆に心拍数上昇に加えて活力が低いなら、もともと安静でも心拍数が下がらないということですから、心因性かその他の低酸素を示す状態かもしれないと考えられるでしょう。続いて心雑音に注意して聴診し、頸静脈の怒張がないかもチェックします。これらに異常があれば、心因性の疑いを強めるわけです。

さらに浮腫や肺水腫や腹水などはないか、血圧の低下はないか、末端の温度低下はないかなどをチェックして、ショックや心不全によるものではないか、また循環障害の有無と程度をチェックします。

頻脈、血圧低下、粘膜蒼白、末端の冷感、意識混濁、という症状が揃ったらショックです。重度のショックなら緊急治療が必要ですがそれはここでは触れません。もしそのまま診断を進めるとしたら、ショックを起こす原因を知るために感染や発熱はないか、出血はないか、毒物を摂取した可能性はないかなどを調べます。

心因性の可能性が少ないとしたら、可視粘膜をチェックします。蒼白なら貧血によるものかショックか、チアノーゼなら肺換気不全や心不全か、血液ガス交換を阻害する病気かなと考えられます。粘膜の紅潮は末端の血管拡張ですから、体温上昇やアナフィラキシーによる炎症の影響かもしれません。

心拍数増加についてたくさん書きましたが、逆に心拍数が低下したときは、消化器疾患などの副交感神経が働くような状態かもしれません。他の消化器症状をチェックしてみましょう。

このように、ただ心拍数を単体の症状として捉えるのでなく、生体機能の一部分としての心拍数だと意識して、その他の症状と合わせて診断に利用してください。

そのためには、生体がどんな時、どんな反応をするのか、またその機構にはどんなものがあるのかといった生理学的な理解が必要です。診察で異常を発見し理解するには生理学が最重要なのです。

疾病の代償としての循環調節

これまで書いたように、生体はさまざまな調節機構を駆使して体を元気でいられるよう保とうとします。

そこでもし循環器のある部分に障害が起こると、その障害をカバーするように反応します。

その時現れる反応が、いわゆる「症状」です。症状はさまざまな調節機構と代償機構の結果なのです。

この後は、さまざまな障害に対する生体の反応を書いて行きましょう。

心不全に対する生体の反応

うっ血性心不全
うっ血性心不全は、心不全による心臓ポンプ作用の障害と、静脈系のうっ血が加わった病状のことです。
これまで説明した機構を用いて理解しましょう。

①心筋梗塞などがきっかけで心臓ポンプ作用が低下する。
②速い代償として、心臓に流入する血液が増え、心筋が拡張することで心拍出量を回復させる。循環反射により交感神経の緊張の高まり心拍数と心筋の収縮性が増加する。また静脈系の緊張が高まり心臓に多く戻すことで貯留してある血液を体循環に動員する。
③遅い代償機構として、心筋細胞が太くなり、結果として心臓の壁が厚くなる。同時に心臓の収縮を促す物質が生産され、心臓の拍出力が増す。腎臓によるNa+と水の再吸収が制限され、血液量が増加する。
④代償機構により一時的に循環が確保されても、心臓のポンプ機能が回復しない場合は、心不全が長引き心臓の収縮性が低下し始め、ますます代償機構に依存するようになる。
そうなると、心拍出量の低下から循環血液量の増加が起こり、さらに心拍出量が低下するという悪循環に陥ります。標準生理学p531

だから症状は、心拍数が高く、静脈が怒張、四肢や胸垂の浮腫などが起こります。

ショックについて

ショックの初期には、これまで見てきたさまざまな代償機構が総合的に働き体を維持しようとしますので、代償機構の理解と整理のためにショックについて成書をもとに解説します。

ショックとは、急性に起こる全身の血液循環が障害されている状態で、特に末梢循環が障害されている状態の事です。重要な臓器組織の微小循環が著しく障害される結果、多臓器不全につながります。
代表的な症状は、血圧の低下、微弱で頻数な頻脈、皮膚の蒼白、意識状態の変化(興奮または低下)、尿量減少などです。

原因はいずれも心拍出量を急性に減少させるものです。つまり、①心臓の収縮性が低下する場合(心筋梗塞による心拍出量の低下)②静脈還流が減少する場合(出血による血液量の減少、細静脈の緊張低下(毒素、アナフィラキシー、交感神経活動の低下))などがあります。
ショックの原因は様々ですが、病状には多くの場合共通のものがあります。病態が軽い場合は循環調節メカニズムの大小作用によって心拍出量、血圧などは正常範囲に戻ることができますが、代償能力の限界を超える重症の場合は悪循環に陥り回復不可能になることがあります。
標準生理学p589-590

ショックに対する生体の反応

ショック初期の代償作用
心拍出量の減少とともに血圧が下がると、動脈圧受容器が検知した情報をもとに交感神経の活動が高まり、心拍数が増え、末梢血管が収縮します。血管収縮は特に皮膚と筋肉で強く起こり、皮膚が蒼白になります。
血管収縮は腎血管についても起こり、腎血流の低下は内分泌調節機構を介して血管収縮による血圧上昇を起こし、腎臓からの水の排泄量を減少させることによる体液量の上昇を起こします。その結果心拍数を上昇させるように働きます。
出血性ショックと細菌性ショックでは心臓機能で代償しようとするため、初期には心拍出量は増加します。
出血性ショックでは血液量を回復させるために尿量の減少を起こし、毛細血管圧の低下が組織間質から血管内への体液の移動を起こします。
また、のどが渇く反応も同時に起こり、血液量を増やそうとします。

進行性ショックの悪循環
①心臓機能の低下
血圧の低下が代償範囲を超えると冠血量が低下して、心臓が動けなくなり、乳酸などの代謝産物が蓄積し、ますます心臓機能が低下します。
②血管緊張の低下
血圧低下の初期には血管収縮により血圧を上げようとするが、長期間この状態が続くと血管の収縮が維持できなくなります。
③微小循環の異常
血圧の低下が重度で微小循環が維持できなくなると、次のように悪循環に陥ります。
まず組織がうっ血状態になり組織の低酸素が起こると、血管組織の損傷が起こり、これにより血液凝固と血漿の漏出が起こると、さらに組織の低酸素と損傷の拡大が起こります。標準生理学p590

高血圧症に対する生体の反応

高血圧の原因は様々であっても循環系に見られる変化には共通のものが多いです。
高血圧が続くと、心筋の代償性変化として心臓の肥大が特に左心室で起こります。心臓の肥大と冠循環の障害は心不全を招きます。全身的に血圧が上がり血管抵抗が上がりますが、特に腎臓への影響が大きく、腎血流が不足します。腎血流の減少は血圧を上げる調節機構(レニンアンジオテンシン系)を働かせるため悪循環となります。標準生理学p588
また高血圧が長く続くと、腎臓や脳の細動脈に圧がかかり血管内の炎症を起こしたり治ったりを繰り返すため、血管の内側が狭くなります。その結果腎臓硬化症や脳卒中などの問題を起こしやすくなります。

浮腫

組織間室に過剰の水分が貯留した状態を浮腫といいます。組織液量は毛細血管の濾過と再吸収のバランスで定まりますので、ろ過の増大、再吸収の減少、リンパ流の障害が起こると浮腫が発生します。
この仕組みにより、浮腫の発生は①毛細血管壁の障害②平均毛細管圧の上昇③血漿膠質浸透圧の低下④リンパ管の通過障害、によって起こります。
このうち②の毛細血管圧の上昇は静脈圧の上昇に起因することが多いです。右心不全では体循環領域に、左心不全では肺に浮腫が起こります。肝硬変の場合は肝臓の血管抵抗が高まるので門脈血圧が上昇し、消化器系の毛細血管圧が高くなって腹水を生じます。
標準生理学p554

循環の調節と相互関係

循環系の最も基本的な機能は、末梢組織に血流を供給することです。そのためには、心拍出量と臓器への血流配分を調節することが必要です。

循環調節とは、血圧、心拍出量、血管抵抗を調節する機構です。これらは相互に影響し合い、また調節をし合っています。例えば心拍出量が増えれば動脈血圧が上がります。血圧を平衡状態に戻すために血管抵抗を下げ、続いて静脈が弛緩して血液貯留量を上げることで心臓へ戻る血液量を減らし、血圧を保とうとします。血管抵抗が増えて血圧が上がる場合も同様です。また逆に静脈の弛緩が先に起こり血圧が下がった場合は、血管抵抗を上げたり心拍数を上げたりして血圧を保とうとします。

こうして心臓の運動、流れやすさ、貯留量は、相互に影響し合い、組織でのガス交換と物質交換が円滑にできる血流を確保できるよう適切に保たれています。

心臓が時間あたり多量の血液を送り出せば、動脈血圧は上昇します。それを適切に戻すために、生体の反応として血管抵抗を下げます。血圧が先に上がれば、続いて静脈環流が増加して心拍出量が上がります。

循環の調節は平常時に一定の値を保つようされていますが、運動時や低酸素時などの特殊な状態のときは脳や心臓などの重要な器官への血流を確保しつつその他の各臓器にも血流を供給するように調節されます。標準生理学p568

これら一連の循環調節は自律神経性、ホルモン性、局所性にさまざまな調節機構があります。

血管と心臓の調節

中枢性調節、外来性調節

生体は血圧が上がれば、下げようとします。心拍数が上がれば、下げようとします。逆もまた同様に行われます。血圧、心拍数、心拍出量について、適切な値を維持しようと常に調節を行い、各組織に適切な血流を維持しようとしています。

安静状態で適切だった心拍や血圧は、ある時危険が訪れると、逃走や闘争に適した値に調節されなければならなくなります。そういう時は中枢から心臓や血管に指令を出して、適切な状態に変更するよう指示が出ます。循環器内で調節されるのではなく、循環系外からの調節という意味で外来調節、それぞれの臓器ではなく指令塔からの調節という意味で中枢性の調節と表現されます。

局所性調節

生体全体として、循環器をどのような状態に保つのが適切かを判断して設定するのは中枢です。ただし、各組織で起こっていることを感知して、組織でそのまま対処する仕組みもあります。それらを局所性調節といいます。

中枢が血圧を上げなければならないと判断して血管収縮と心拍数増加指示を出したら、増加した血圧と血流に対して局所で自己判断し、増えた仕事をこなすように働くようになります。

どの臓器にどれだけ血液を配分するのかは、臓器ごとの血管抵抗を増減することで調節することができます。例えば逃走時に筋血流を増やすなど中枢性に調節されることもあれば、筋運動や組織代謝に伴い発生する物質(乳酸やCO2など)に反応して局所性に調節されることもあります。

具体的な調節機構を、一応確認しておきましょう。

血圧調節のための血管の調節

①生体は細動脈の太さを調節します。 細動脈の平滑筋を使って細くすると血管抵抗が増加するため同じ心拍出量でも血圧が上昇することになり、太くすると血圧が低下します。

②生体は静脈の太さを調節します。静脈系を収縮させると、静脈系に貯留させてある血液を心臓にたくさん戻すことになります。すると循環血液量が増え、血圧が上がります。

③生体はバソプレッシンというホルモンを介して、腎での尿生産を減らします。その結果体水分の節約となり循環血液量が維持されます。

④局所では細動脈の収縮、細静脈の軽い収縮が起こり、その差により毛細血管圧が下がります。すると毛細血管内に組織から水分移動が起こり、循環血液量が増加します。

血圧調節のための心臓の調節

①交感神経は洞房結節のパルスを増加させ心拍数を増やし、また収縮力も増やします。副交感神経は逆です。

②心臓は変動する血圧に対し、1回拍出量を一定にし、心臓への流入量と拍出量が等しい状態に心臓自身が自動的に調節する仕組みがあります。

これは心筋の張力によって筋力が変化するためです。簡単に言うと、生理的範囲では心筋が伸びるほど収縮力が増えるからです。これをスターリングの心臓の法則または内因性機構といいます。標準生理学p519

血管抵抗の増加により血圧が上がると、一時的に心拍出量が減りますが、それに伴い心臓内に貯留する血液が多くなると、自動的に収縮力が増すためすぐに回復します。

また静脈圧の上昇で心臓への流入が増えると、同様にしばらくは心筋が伸展し収縮力が増加し拍出量が増えます。いずれ流入量と拍出量が等しい平衡状態まで回復します。

③遅れて働く代償機構として、心臓に長期的な圧負荷がかかると、心筋が太くなり心拍出量が増加する。

心拍出量の調節

心拍出量を生理的に調節する機構は次のようなものです。

(1)心臓の心拍数と収縮性の調節

 ①神経性調節として、心臓交感神経は心拍数増加、収縮性増加。心臓迷走神経は心拍数低下、収縮性低下。

 ②液性調節として、副腎髄質からのノルアドレナリンとアドレナリンは心拍数増加、収縮性増加。無機イオンとして、カルシウムイオンは心拍数増加、収縮性増加。カリウムイオンは心拍数低下、収縮性低下。

(2)平均体循環圧を変えて静脈還流量を調節する

 ③神経性調節で静脈圧を高めると静脈還流量と心拍出量が増える。逆の調節も可能。

 ④液性調節のノルアドレナリンとアドレナリンも③と同様。

 ⑤血液量が増えると体循環圧が増加して静脈還流量が増える。出血の場合は逆の反応となる。

 ⑥局所調節として、運動により筋肉が筋静脈を圧迫すると、静脈弁の作用により静脈還流量が増える。

標準生理学p527

3)血圧と循環

ご存知の通り、動物の体には、血液が流れています。
しつこいようですが、勝手に流れているのではありません。生体が流していると意識してください。

さて、生体はどのようにして血液を全身に循環させているのでしょうか。その調節機構を確認していきましょう。

まずは基本的な構造と機能の確認です。

血管の構造

動脈も静脈もゴムホースのような伸展性をもった管ですが、動脈は厚いゴム様、静脈は薄いゴム様で静脈の方が20倍も伸びやすく出来ています。標準生理学486

容量は静脈系が循環血液量の75%、動脈系が20%、毛細血管網が5%を収めており、静脈圧を変化させることで循環血液量の調節を行っています。標準生理学P543

静脈流

心臓から一番遠く、心臓に戻る血管が静脈ですが、静脈環流の主な駆動力はやはり心臓が押す力です。血液は心臓の圧力に押されて心臓に流れ込みますが、それを補助する力として①筋ポンプ②呼吸ポンプ③心臓の吸引作用があります。

静脈には逆流防止の弁がついており、筋肉の隙間を走る静脈を筋肉の運動によって圧迫すると、弁のおかげで血液は1方向にのみ流出します。そして筋肉の圧迫が解けると、1方向からのみ流入します。こうして筋肉少しずつ血液が運ばれていく構造が筋ポンプです。

腹腔内の圧力は息を吸うとき上がります。この時腹腔内にある静脈では、筋ポンプで押されるのと同様に心臓方向、胸腔方向に血液流出が起こります。続いて息を吐くとき、腹腔は圧力が下がり、末端からの血液流入が起こります。同時に胸腔では圧力が上がり、き胸腔内の血液は心臓にむかって流出します。この作用を呼吸ポンプといいます。

心臓が血液を駆出するのは心室の心筋が収縮する力によりますが、その収縮が解けると、心筋の弾性により静脈からの血液を吸引します。この力が心臓の吸引作用で、これも静脈環流を助ける力として働きます。標準生理学p545

心拍動を引き起こす信号

心臓には、周期的に電気信号を発して拍動のタイミングを決める洞房結節という場所があり、その信号をどう伝えるかを決める房室結節という場所があります。この信号の発射と伝達を調節することで、心臓の拍動を調節しています。

心臓は拍動するたびに、心筋の強い収縮とともに血液を動脈に押し出しています。

動脈流

全身から集まった血液は心臓から肺に向かって拍出され、ガス交換を終えて一旦心臓に戻ります。それから改めて大動脈内に拍出され、一気に全身の末梢組織に流されていきます。血液が動脈に入ると、動脈内の血液は心臓の力で流されます。

大動脈は弾性血管とも呼ばれ、全身に血液を届けるために心臓が強く収縮する圧力を血管の弾性で受け止めています。血管の弾性がなければ心拍出が直接血管内に伝わり、高圧と低圧の差が激しく繰り返すことになりますが、この弾性により内圧の変動を減らすことができ、結果として末梢組織への血流が平滑化されます。標準生理学486

心臓から血液が出てしばらくはこの弾性血管が拍動を受けとめて平準化していますが、組織の直前まで拍動は完全になくなるわけではありません。

動脈は大動脈から分岐を繰り返し、遠くの組織に行くほど細くなり、抵抗が増します。血管が細くなるということは、それだけ血液が通り難くなるということで、この通り難さを血管抵抗といいます。

心臓から遠くなり組織に近づくにつれ、動脈はさまざまな組織に血液の分配を調節することができる構造になり抵抗血管と呼ばれます。抵抗血管には平滑筋が増え、内腔を拡げたり狭めたりすることで通り難さを調節することができます。動脈が心臓から一番遠く細いところを、細動脈といいます。

毛細血管

その先は組織内を走る毛細血管です。
毛細血管には平滑筋がありません。
毛細血管は赤血球がギリギリ通れるくらいの細さで、組織細胞の間を通ります。血流の速さは毛細血管で最も遅くなります。

毛細血管における血流の速さと血管内外の物質交換速度は動脈血圧と静脈血圧の差に影響を受けます。

リンパ流

リンパ管は組織間質(細胞の間、毛細血管の外)に開口して、血管壁を通過できない高分子の老廃物や細菌などの不要物を回収します。また血圧によって毛細血管から滲み出た血漿(血球以外の液体部分)を回収し、リンパ管を伝って心臓まで運びます。
このリンパには、血管内に入れたくない大きな老廃物や、外傷などで感染した細菌などの病原体が含まれます。リンパ管には要所ごとにリンパ節が設置されており、ここに免疫細胞が待機して危険なものを通過させない関所のように機能しています。
例えば後肢の外傷により細菌が侵入すると、膝下リンパ節、鼠径リンパ節において感染が身体の中心部に拡大するのを防いでいます。

心臓と血管の構造を理解したら、次回は血圧と循環の調節についてお話しますね。

代表的な疾患と便性状

食事性下痢(成牛)

 濃厚飼料の過剰、不適切な栄養バランスにより、消化不良を起こした場合、消化管内の浸透圧の上昇、消化管内の細菌叢の変化などが起こります。

便色が淡くなるのは通過速度が速くなるときで、分解が間に合わない速度で通過している状態です。この時は便中にビリルビンが残存しているために、便が排泄された後、ビリルビンが酸化して淡褐色から暗緑色に変化します。また便中に未消化物が含まれるため、便臭が強くなります。

初期は浸透圧性の下痢となりますが、病状が進むと細菌叢の変化や感染等を併発しやすくなり複合要因に移行します。

細菌性下痢

毒素性大腸菌による下痢は分泌亢進を主とする下痢です。毒素および炎症の刺激のため、分泌と運動亢進が同時に起こるり急性の水様性便がでます。
動物病理学各論p210、

サルモネラ菌よる下痢は大腸菌と同じく分泌主体の下痢を呈します。盲腸、結腸炎を起こし、感染程度によっては出血を伴います。動物病理学各論216
悪臭、泥状〜水様で粘液、血液、偽膜を混ずることがあり、1〜2週間持続する。牛の臨床332

ヨーネ病は小腸に広範な肉芽腫性病変を作り腸粘膜が肥厚するため粘膜機能が障害され、動物病理学各論221
黄褐色、泥状〜水様、血液の混入はなく腐敗臭はありません。薬剤に反応し難く慢性下痢となります。
感染性が強く根治不可能なため法定伝染病に指定されています。
牛の臨床313

ウイルス性下痢

牛ロタウイルスは十二指腸から空腸、牛コロナウイルスは小腸の全部位の吸収上皮細胞に病変を形成し、分泌亢進性下痢を起こします。動物病理学211-212
水様で黄色、乳白色、淡黄緑色の便を排泄します。牛の臨床p307
水の排泄が重度の時は米とぎ汁のような白色透明の便を排泄します。

大腸からの粘液が多量に含まれる場合は濃さが均一でないように見えるため「卵スープ状」と表現されます。
BVD-MD 滲出性腸炎(線維素性腸炎)、広範な腸粘膜潰瘍のため滲出性下痢を示し偽膜排泄
動物病理学各論209-216

寄生虫性下痢

動物病理学各論209-216 動物病理学各論226-

コクシジウム感染による下痢の便性状は、初期は暗赤色泥状、中期は出血の増加により赤色、後期は血漿と血液を多く含む黄赤色となります。
コクシジウムは小腸、大腸、直腸の腸粘膜に寄生し病変を形成します。病巣が拡大するにしたがって便性状は変化します。
直腸付近の炎症は排便行動を促進するため頻回排便(しぶり)を起こします。

クリプトスポリジウムは小腸の微絨毛内に寄生します。
動物病理学各論p227
小腸絨毛に障害を与えるため、分泌亢進および吸収不良性の下痢です。便性状は黄白色の水溶便であることが多いです。
有効性の高い治療薬はありませんので、自己回復するまで脱水を防ぐ治療を続け体力を維持します。

線虫症は腸炎が起これば下痢になります。腸管の炎症による下痢です。
条虫症は反芻獣ではベネデン条虫、拡張条虫が知られており、吸着部位に上皮の剥離や潰瘍、炎症が起こるため下痢、血便の原因となります。条虫症は発生が散発的であり、かつ診断には能動的な検査が必要となるため、発見が遅れやすい印象です。条虫用の薬以外は無効な為、通常の治療に反応しない場合は早期に糞便検査にて除外してください。

その他の下痢

カビ中毒
 カビ毒(マイコトキシン)による下痢で、突発性の悪臭のある不消化下痢を排泄し、食欲減退を伴います。牛の臨床p341

母乳性下痢(子牛の消化不良性)
母牛の飼料不足、飼料変更によるルーメン環境の悪化などにより乳汁中に脂肪が増えると、脂肪不消化性下痢が起こります。
酸臭のある脂肪便で白色〜黄色です。重症なほど黄色味が抜けます。脂肪便は脂肪を多く含むため、艶があり水に浮きます。
牛の臨床p285
黒毛和種子牛の母乳性 白痢に関する研究,岡田,1999
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjvc1990/22/2/22_2_51/_pdf

一胃絨毛の形成不全(4-5か月令の慢性下痢)
哺育期の穀物摂取不足により第一胃絨毛の形成不全が起こると、VFA吸収効率の低下により慢性下痢になります。褐色泥状便を排泄します。

抗生物質による菌交代症
腸内細菌の減少や死滅により胆汁の代謝が阻害された結果、緑色下痢を排泄します。

胆汁分泌不全による下痢
胆管炎や胆石等で胆管閉塞が起こると、胆汁の排泄が阻害され、絵の具のように真っ白な下痢が排泄されます。

環境性下痢
寒さで下痢をするということが俗説的にはよく言われていますが、寒冷刺激と下痢の直接的な関連を示唆する論文等は見つけられませんでした。

湿潤環境、寒冷ストレス、群ストレスは免疫低下を起こすことで、各種病原体に感染しやすくなる可能性があります。

ストレスによる交感神経の興奮は消化管機能を低下させます。消化管運動、分泌を低下させ、水分吸収を亢進させます。
長期間のストレスによる免疫低下は感染を起こしやすくします。ストレスによる消化機能低下は消化不良を誘発したり、腸内細菌叢に悪影響を与えたりした結果、下痢を引き起こす要因になるのではないかと考えています。
またストレスにより第四胃潰瘍が起こると、炎症や疼痛により継発的に下痢が起こっている可能性があります。

寒冷ストレスについて
https://www.nosaido.or.jp/livestock/%E5%AF%92%E5%86%B7%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9/

胃潰瘍
上部消化管(胃と十二指腸)からの出血では、赤血球が消化され黒色となり、黒色タール便が排泄されます。胃潰瘍や壊死性腸炎などで重度の出血があるときに円筒状の黒色血餅が排泄されます。

まとめ

便性状と色についてさまざま例を挙げましたが、結局のところ便から推測できるのは、病巣の位置と重症度であって病名ではありません。
便性状はさまざまな調節機構が働いた結果ですので、便と病気を直接関連づけて早合点し、他の症状を見落とすことがないよう気をつけてくださいね。

便性状の変化する要因

黒色は上部消化管(胃、十二指腸)からの出血です。赤血球が胃酸により消化された結果です。タール便と表現されることがあります。

赤色や暗赤色は下部消化管(小腸、結腸、直腸)からの出血です。色は出血の部位と量に応じて変化します。量が少なく持続的である場合や腸内滞留時間が長い場合は消化液の影響を受け暗色が強くなります。逆に量が多い場合や結腸以下の出血で排泄までの時間が短い場合は鮮血色に近くなります。

褐色は通常時に見られます。通常時は腸内細菌によって胆汁に含まれるビリルビンが分解されステルコビリンが生成されるため便は褐色になります。

緑色は、胆汁中のビリルビンが分解されず消化管内に残った時に見られます。ビリルビンが腸内細菌の不活化により分解できないか、ビリルビンが増加して分解しきれないと便中に残存することになり、腸内の酸化ビリルビンにより便は緑色になります。

白色は、胆汁の量が少ない時に見られます。胆管閉塞の時は便中に胆汁が排泄されなくなるため、便は白色になります。下痢により水分が増えて薄まることで淡褐色〜乳白色になりますが、程度によっては白に近くなります。さらに水分が増えると透明に近くなります。米とぎ汁と表現されることがあります。
粘液の分泌が多いと便性状が不均一になり、卵スープ状と表現されることがあります。

このように便性状や色は、出血の部位や量、消化管内の分泌と再吸収のバランス、腸運動の変化による食渣の腸内滞留時間、消化管内の細菌叢の活性、生体内のビリルビン濃度の要因が複合的に作用した結果変化するのです。加えて食物自体の色も影響します。

ですからさまざまな疾患に特徴的な便性状というのは確かに存在しますが、必ずしも同じような便が出るわけではありません。病因は同じでも、その障害を受けている部位、範囲、程度と生体の反応の程度により便は変化するからです。

便性状だけでは病因の確定まではできませんが、障害されている部位と程度を推測して診断と治療に役立てることができます。それぞれの病因によって障害されやすい部位が異なるためです。

便性状を見る時は、これら複合的な仕組みが働いた結果であることを理解した上で評価し、診断に利用してください。

下痢とは何か

下痢とは、便中の水分が通常より増えた状態のことです。
ヒトでは「便の量が一定以上になった場合」と定義されることもあるようですが、ここではより一般的に便性状の水様化のこととします。

大量の下痢により水分を失う速度が速い場合、脱水による合併症で死亡することがあるので早期の対応が必要です。

しかし下痢は消化管内の病原体を速やかに物理的に洗い流すという生体レベルでの防御反応であり、重要な防御機構ですから、ただ止めようとするのではなく脱水を補正しつつ原因を改善することが大切です。

下痢の病態生理

生体は消化管の分泌および吸収機能によって、消化液を多量に分泌し、ほぼ同量を再吸収しています。(ヒトでは1日約10L分泌し、9Lを吸収しています。1日摂取量の2Lよりはるかに多いです。)
ですから、この機能に変化が生じると容易にバランスを崩してしまいます。下痢は、腸管で水分の分泌が吸収を上回った場合に起こります。

機能による分類と原因

①分泌の増加または滲出液の漏出

平時より胃や小腸、肝臓、膵臓からは多量の消化液が分泌されていますが、感染症や消化不良により分泌が増加します。

例えば消化管の免疫活動により細菌毒素を感知した時、アレルギーや炎症が起きた時は、ヒスタミン、セロトニン、プロスタグランジン等が放出され消化液と粘液の分泌増加が起こります。
消化不良の結果、腸管内に未消化の脂肪や胆汁酸が増えると、結腸からの分泌増加が起こります。

コクシジウム感染症では、病勢が進むと結腸と直腸粘膜が破壊され漿液の滲出や出血がみられます。
このように腸管の分泌機能亢進だけでなく、腸粘膜の破壊により体液が滲出した場合も、便中水分が増加します。

②吸収の減少

胃、十二指腸、小腸では消化液の分泌が大きな役割ですが、吸収も行なっています。一方で、結腸、大腸では分泌も行いますが水分吸収が大きな役割です。

吸収を減少させる要因は、感染症、消化管の運動亢進、浸透圧負荷などです。

例えば感染性細菌が出す毒素(エンテロトキシン)はナトリウムとカリウムの能動輸送系を障害することで水分吸収を阻害します。

浸透圧負荷とは消化管内の浸透圧が上がることです。ソルビトールやキシリトールなどの消化管より吸収できない物質を多量に摂食すると、浸透圧負荷により腸管の水分吸収が阻害され、下痢の原因となります。
消化不良による便中の乳酸増加も浸透圧に影響を与えることが示唆されています。

細菌性因子や過度の腸管内容物による伸展刺激によって消化管運動の亢進が起こります。そうすると便の通過速度が上がり水分吸収が間に合わなくなるため、結果として水分吸収量の減少が起こります。

また寒冷ストレスや群ストレスも消化管運動を亢進させることがあり、下痢の原因となります。

③複合要因
食事性の浸透圧性下痢や神経性の胃腸運動亢進性下痢のように、単一要因の下痢もありますが、大抵の下痢は一連の生体防御反応として分泌の増加、吸収の減少、運動の亢進が同時に起こります。

例えば大半の感染性下痢では、分泌亢進が主体ではありますが、吸収の減少、蠕動の亢進も同時に起こります。どの機構に大きく影響を与えるかは、それぞれの病原体の特徴によります。

寄生虫やその他の感染により免疫反応としてヒスタミンが放出されることにより、分泌亢進と運動亢進が同時に起こります。感染症でない場合でも、物理的、科学的刺激、アレルギーなどで消化管の炎症が起これば同様です。

消化不良では未消化物質により消化液の分泌亢進、腸内での病原性菌の増殖、それに起因する感染、または未消化物質による浸透圧上昇などが連鎖的に起こり、これもまた同様に複合的な反応となります。

2)便と消化管

消化管の機能

便に注目する前に、消化管の機能を整理しておきましょう。消化管の機能は消化吸収のみではなく、詳しくみると以下の7つがあります。

①食物の推送
消化管は食道の一部、喉、肛門を除き平滑筋です。蠕動(ぜんどう)運動により食物を推送します。
②消化液の分泌
消化液には酵素や電解質が含まれています。
③他の臓器から消化液を分泌させるホルモンを分泌
④栄養素の吸収
栄養素の吸収の多くは能動輸送系で能動的に行われています。
能動輸送系は細胞膜に存在し、栄養素や電解質を生体内に移動させています。物質の移動は受動的拡散により移動される場合と、能動的に移動される場合がありますが、大半は能動的に輸送されています。
消化液には酵素や電解質が含まれています。
⑤電解質の調節
体内の電解質の寡多によって消化管の能動輸送系を調節しています。例えば生体内でマグネシウムが不足すると、吸収能力が上がります。
⑥体水分の調節、便の水分調節
消化液の分泌により、ヒトで1日7〜10Lの水を分泌しています。栄養素の吸収には溶媒としての水が必要で、電解質を移動させるために、ヒトで1日9Lの水を吸収しています。
栄養素の吸収および電解質の分泌のために通常時から体内では大量の水を移動させているので、下痢が起こると体水分に異常をきたしやすくなります。
⑦消化管内からの感染を防ぐ免疫機能
消化管内は体内という見方もできますが、体外という見方もできます。消化管内は外界と接して栄養素を取り込まなければならない場所であり、かつ、病原微生物を通さないようにしなければならない場所です。ですからそこでは、活発な免疫機構により感染から身を守っています。免疫細胞の70%が消化管に存在していると言われており、生体の感染防御における最大の関所なのです。

消化管の調節機構

前項の基本機能を順序よく効率的に行うため、さまざまな調節機構があります。消化器の調節機構の全体像を掴むために生体レベルの調節を中心に解説します。

前項の消化管の機能に対して、それらが達成されるように、生体は協調的に調節を行います。

神経性の調節と内分泌性の調節

消化管の分泌調節は神経性の調節と内分泌性の調節(ホルモンによる調節)があり、またこれらが連携して行われることもあります。
神経系と内分泌系について以前書きましたが、神経通路を介して直接情報を伝えるか、血中濃度を介して伝えるかの違いでしたね。

神経性の調節では、食事による味覚、嗅覚、機械的刺激による無条件反射、あるいは食事に関する視覚や聴覚刺激による条件反射によって、脳から迷走神経を経て分泌指令が送られます。また胃内や腸内では胃内PHの感知、胃内の各種栄養素の感知、胃壁の伸展の感知により、反射性に調節を行います。

消化管には、消化管同士で連絡をとるための内在性神経があります。ですから消化管の神経性調節は中枢を経由する調節と、中枢を介さず消化管内での連絡(内在性神経)による調節があります。
内在性神経の存在により消化管単独でも自律的に調節することが可能となっています。

ホルモンによる分泌調節は、消化管自体がホルモンを使って他臓器や消化管自身に情報を伝えて調節を行います。消化管ホルモンには、胃液や膵液を分泌させるホルモンや、分泌を抑えるホルモンなどがあります。

分泌の調節

まず空腹感や視覚からの条件反射などにより消化液の分泌と胃の収縮が起こります。
そして食物が消化管に入ると、味覚や胃の伸展を感知して消化液が出され、量と質に応じて消化管運動は亢進したり抑制されたりします。消化液と混ざった食物が、下部消化管に流れていくと、その刺激を感知してさらに適切な消化液を分泌したり運動を調節したりします。食物が通過し空になった胃では、胃液の分泌が抑制されます。
これらの情報伝達には、神経系と内分泌系のどちらも関与しています。

吸収の調節

栄養素や電解質などの生体に必要な物質は、消化管内壁の細胞膜を通って輸送されます。また、不要な物質を排泄したり、消化液の分泌に伴って消化管内に排泄されたりします。

そういう吸収と分泌は、濃度勾配による自動的な拡散によるものと、濃度勾配に逆らった能動的な輸送によるものがありますが、多くは能動的な輸送によるものが占めています。
養分の吸収や消化液の分泌に伴って、溶媒である水も同時に輸送されています。

吸収の調節では、生体内に不足している栄養素や電解質に応じて、吸収能力を高めたり抑えたりします。
摂食によって食物が与える胃や腸の伸展刺激や、生体内で不足している物質を感知した情報により、吸収機能は促進されます。もう十分だと感知されれば、その物質の吸収は抑制されます。

例えば腸管内に栄養素(グルコース、アミノ酸など)が存在すると、腸液の分泌を抑えて栄養素を吸収しやすくします。
また例えば腸管から集めた血液が通る門脈にはNa濃度を感知する受容器があります。この受容器で高Naを感知すると、神経反射を介して腸管の副交感神経を活性化させ、消化管からのNa吸収抑制(および腎臓からのNa排泄促進)を行います。

ちなみに調節機構ではなく物理性質によるものとして、吸収不可能な物質をたくさん摂取すると便中の水分が多くなることがあります。
消化管内に吸収不能な物質が存在すると、管内が高浸透圧となり、水分吸収が阻害されるからです。

外来神経による調節

消化管は消化管内で感知された刺激による反射性調節だけでなく、消化管外の神経支配(外来神経)の調節も受けます。消化管は生体が消化機能を調節するべき状況だと判断された時にも調節を受けるということです。

例えば交感神経が興奮すると、通常消化機能は抑制されます。外的の襲来で逃げなければいけない時などは、消化活動にエネルギーを割くのではなく走ることに集中させなければならないからです。また急な出血のため貧血状態になったとします。すると同様に消化活動は抑制されます。消化よりも優先順位の高い生命維持装置である心臓や肺、脳に血量を集めなければならないからです。
ただし、消化機能は抑制されますが、循環血量を増やすため電解質の吸収は亢進します。
一方副交感神経が興奮すると、消化機能は促進されます。生体レベルで休息や栄養吸収を行う状況であると判断された時です。同時に心臓機能が抑制されます。

免疫による分泌調節

炎症反応またはアレルギー反応の結果、電解質、粘液、IgA分泌亢進、腸管運動の亢進が起こります。
また細菌の毒素に反応して、腸液分泌は促進され、吸収抑制が起こります。腸管内に存在する細菌の情報を感知した時は、栄養素が吸収できなくなったとしても、細菌を洗い流すことを優先して調節されているということです。
標準生理学p682

捕足

少し分かりにくいところがあるので捕足します。

「分泌」というと何かを放出することですね。

「消化液」というと唾液、胃液、膵液、胆汁、腸液などのことです。

消化液は胃内、腸管内など(体外)に「分泌」されます。

「ホルモン」は特定の機能を持った細胞から血液中(体内)に「分泌」されるものです。

消化液のうち、唾液、胃液、膵液、胆汁は主に食物の分解が仕事ですから、たくさん分泌されると消化は促進されることになります。

一方腸液は、分泌亢進しすぎると吸収がうまくできなくなります。腸液は電解質および栄養素の吸収が仕事なので、一定量は必要なのですがたくさんありすぎると流れてしまうからです。同じ消化液でも、腸液の分泌亢進は、細菌などの不要物を流してしまいたい時に起こります。

腸管内に栄養素を感知した時は腸液の分泌抑制が起こります。腸液の分泌抑制は、栄養素の吸収促進とも言えます。

さて、これでやっと便のお話に行けますね。

1)呼吸

ここでは呼吸運動に影響を与える要因を整理したいと思います。呼吸の調節は、ほぼ神経系により行われています。

呼吸の機能と副作用

まず、呼吸の機能を4つ覚えましょう。
①組織に送るための酸素を肺から取り入れる

②組織から受け取った二酸化炭素を肺で排泄する

③血液phの調節

④体温調節

生体は、血液ガス、血液PH調節、体温を感知して、呼吸数と深さを変化させているということです。

これらの調節がうまくいっているときは呼吸数が安定しており、うまくいっていない時は呼吸数が増減します。

ここで、生体は呼吸というひとつの動作を、複数の目的のために利用している事実に注目してみましょう。同時に複数の調節を行っているので、ある1つの異常を感知して呼吸数を調節すると、異常のない方にも影響を与える(異常を作ってしまう)ということです。

例えば、呼吸数を増やせばCO2が減るという目的を達成しますが、同時に体温を下げてしまいます。逆に体温を下げる目的で呼吸数を増やせば、CO2が減ってしまいます。
低酸素状態は呼吸数の増加を引き起こしますが、同時にCO2の過剰放出し、血液PHの上昇(アルカローシス)になります。逆にアルカローシスは呼吸数を減少させますが、換気量が低下しますのでCO2の蓄積と放熱の減少が同時に起こります。

実際にはその、副作用的に起こしてしまった異常は別の仕組みで速やかに解決されています。(代償機構)

ひとつの仕組みではなく、その代償的な仕組みを知ると、生体内で何が起きているのか知ることができるのです。

呼吸数に影響する要因

呼吸数に影響する要因は、
・換気量
・呼吸に関わる筋肉(吸息筋と呼息筋)
・気道抵抗
・肺と胸郭の膨らみやすさ(コンプライアンス)
・肺及び組織の血流量
・ヘモグロビンと酸素や二酸化炭素との結合しやすさ
などがあります。
それぞれを一応軽く説明すると、換気量が少なければ、ガス交換がうまくいきません。呼吸筋がうまく働かなければ胸郭をうまく拡張できません。気道抵抗が高いと空気の移動が大変になります。肺が硬くなって膨らみ難くなると、うまく換気できません。換気量はうまく働いていても、肺血流が足りないと血液ガス交換ができません。ヘモグロビンがうまく働かないか、量が少ない時は、ガス交換がうまくできません。

反射性調節機構にはどんなものがあるか

・肺伸展受容器→呼吸中枢→吸息性活動停止(ヘーリングブロイエル吸息抑制反射)
・CO2増加→呼吸刺激で肺の拡張速度の増加、吸息時間が短くなると、呼息時間も短くなるよう影響する。
・低酸素→呼息時間の短縮(速く吐こうととする)
・鼻粘膜への機械的刺激と低温刺激→くしゃみ反射と無呼吸反射を誘発
・上咽頭粘膜への機械的刺激→吸引反射、嘔吐反射、嚥下反射。嚥下反射は咽頭閉鎖と呼吸停止の反射を含む。
・上気道の陰圧刺激(上気道(鼻腔から喉頭までの間)に閉塞が起きた時)→気道の虚脱(代償的に上気道拡大筋の活動増加して、完全なる虚脱も防いでいる。)
・四肢の筋肉、関節からの固有受容器→運動時に呼吸数を上げる
・皮膚の痛覚→呼吸促進、同時に頻脈と血圧上昇
・腹部内臓痛→呼吸抑制、同時に徐脈と血圧低下
・動脈圧受容器→吸息、呼息ニューロンの抑制 (要調査)
・末梢の低O2→呼吸促進が起こると血圧上昇と頻脈
→呼吸促進が起こらないか、人工呼吸下では血圧低下と徐脈
・肺鬱血、肺塞栓①→肺伸展受容器が刺激される→吸息の抑制と呼息時間の延長
肺鬱血、肺塞栓②→肺侵害受容器も興奮→咳、無呼吸、気道収縮などが起こる
・無気肺→肺伸展受容器の閾値低下。無気肺領域の中枢側の気道が過伸展になるため
・アナフィラキシー→肺侵害受容器の過剰興奮により、気管支収縮
標準生理学P604-607

症状からみた原因と代償機構

さて、では呼吸が速い時、他の症状を合わせて観察して、どこに問題があるのか探してみましょう。

初めに書いたような呼吸の目的から考えると、呼吸が速い時は、O2不足、CO2過剰、高体温、低PHのどれかです。それ知るために、直接原因と代償機構による症状をチェックして振り分けていきます。

・高体温、皮温上昇→暑い(体温の産生が多い、放熱が少ない)
・努力性呼吸(吸う時にも吐く時にも力を入れている)→気道抵抗が高い、肺の膨らみが悪い
・心音の異常、頸静脈怒張→循環が悪い(心臓の拍出が悪い、肺の血流が悪い)
・心拍が強く速い、粘膜蒼白→血液ガスの運搬が悪い(貧血)
・下痢→代謝性アシドーシス(消化管からのhco3-喪失)

・浅速呼吸(極端に速い呼吸)→胸郭の運動障害や疼痛、または速い呼吸でも調節しきれない時(熱中症、co2の極度低下など)

・元気あり→運動による酸素消費

放熱目的で呼吸数を上げた場合、同一目的の他機構として末梢血管の拡張や皮温上昇、開口呼吸などが同時に見られます。

肺血流の低下が原因なら、それを補おうと心臓がたくさん働きます。

心臓がうまく動かないことが原因なら、呼吸数の増加が代償機構とも言えます。

アシドーシスで呼吸促進されているなら、代償機構としての呼吸数の増加です。その原因となる症状(下痢、ケトーシスなど)をみつけます。

このようにひとつの作用(今回は呼吸)の目的と副作用を理解し、代償機能を観察することで、原因を絞り込むことができます。

対処の方法

原因をきちんと推定することができれば、対処の仕方は自動的に分かってきます。

呼吸数が速く、呼吸を抑えたい時は、運動は呼吸数をあげる要因ですから、まず安静は必要です。なるべく暴れさせないようにします。原因がO2不足であれば安静にして消費を抑えます。呼吸運動や換気量の問題であれば、換気量を増やすため気管拡張、人工呼吸、酸素吸入、ということになります。放熱の異常であれば送風や水冷で放熱を助けてあげます。PHの異常であれば、点滴で補正します。

貧血、心疾患、肺水腫、肺炎など、さまざまな疾患で呼吸数の増加は起こりますが、そうした疾患が原因ならそれらの治療をします。

呼吸数が少なく、呼吸促進したい場合は、鼻粘膜、皮膚に対する刺激をします。

通常の状態ではO2不足の刺激は呼吸促進に働きますが、麻酔、意識不明など他の原因で呼吸停止してしまった場合は、反射そのものが働いていません。ですから人工呼吸を行い正常な呼吸リズムが出てくるまで強制的にガス交換を行います。

(3)調節の仕組みと生体のサイン

さて、神経系や内分泌系など恒常性維持機構の基本的な仕組みを理解したら、やっと臨床症状が理解できます。
何もかも解明されているわけではありませんが、症状には必ず原因があるのです。

本項では、診断や原因究明の手がかりとして利用できる仕組みについて解説します。観察可能な症状から、それに影響を与えている調節機構を理解していきましょう。

仕組みを考えて症状を見る習慣がないと、「子牛が元気ないんだけど、なんでかな?」→「きっとこれは流行りのRSウイルスに違いない!」とか、「妊娠しないのはなんでかな?」→「きっとこれは消毒が足りないからだ!」などといきなり検討違いの診断を下して迷走することになります。それがたまたま合っていることもあるのですが、その思考パターンを改善しないと、上手に飼育することも、適切な診断をすることもできません。直感は自分が知っている範囲でしか役に立たないのです。

丸暗記出来るシンプルな対処法を覚えることも大切ですが、それらは生理学的な裏付けがまるまる省略されているということを意識するようにしてくだい。

例えば「熱が出た→水で冷やす」ということを暗記していると、熱を下げるべきではない時に水をかけてしまうことがあります。もし暗記していたのが「元気がない→水で冷やす」になっている場合はさらに深刻な間違いをするかもしれません。

ですから適切な対処をするためには、病名や対処法を先に決めてはいけません。必ずその前に症状から生理学機構を踏まえて、原因を推定してください。言い換えると、根拠を持った仮説を立てる必要があるということです。

熱が出たのはなぜなのか、元気がないのはなぜなのかという「原因の推定」または「根拠を持った仮説を立てる」をしてから、「診断と対処をする」という順番が大切です。

次は具体例を解説していきます。