Monthly Archives: July 2021

山羊の診療note6-② ヤギの去勢について (精巣の解剖学)

以前、山羊の診療note6山羊の診療note6でヤギの去勢についてお話しましたが、
今回は、精巣の構造を詳しく見ていきたいと思います。

精巣は左右別々に陰嚢という袋に2つ入っています。
陰嚢中隔で左右に分かれています。

陰嚢を切開すると精巣は精巣鞘膜という膜に包まれています。

精巣鞘膜をメスで切ってめくるとこのような状態になります。

精巣鞘膜は一部、精巣上体尾部に付着しているのでここをはがすと
きれいに露出することができます。

*陰嚢
ヤギの陰嚢は身体の外に垂れ下がっていて、精巣が縦に収まっています。
牛や羊も同じスタイルです。

ちなみに・・・
猫や犬は体の外にありますが垂れ下がっていません。
イルカは身体の中に精巣があります。

精巣が体の外側に近い場所にあるのは、精子が作られるときの温度は身体の中の温度より
低めが良いからです。

体の中にあるイルカは大丈夫なのかな?と調べたところ、
背びれの静脈の温度が低くこの低い温度の静脈血が精巣のまわりにある静脈にきて冷やしているそうです。
生き物の身体の仕組みってすごいですね。

*精巣
精子と雄性ホルモンのテストステロンを作成しています。

ヤギの精巣は体の大きさに対して重量があります。

牛は精巣1つが300g~400g
ヤギは145g~150g

体の大きさはずいぶん違うのにヤギはおっきめなんです!
雄ヤギさんの足の間に存在感たっぷりにぶら下がっています。

*精巣上体
精巣で作られた精子はまだ未成熟で、精巣上体の中で成熟していきます。
精巣上体は未成熟な精子を運搬しながら濃縮・成熟・貯留を行います
頭部・体部・尾部の3つに分かれています。

*精管

精子は精巣→精巣上体→精管と移動していきます。

山羊の診療Diary症例41 子ヤギの深部膿瘍 (ドレーン留置)

山羊の診療Diary症例4 1 子ヤギの深部膿瘍

今回のお話は・・・

「子ヤギのあしからしばらくの間、膿が出続けている。消毒したけど治らない」
とのご連絡で診療に伺いました。

ヤギ舎に伺うと、かわいい子ヤギさんがいました!

しかし、あしからはこの通り、膿がでていました。

 

触って詳しく見てみると、膿が出ているところに穴があり足全体が腫れていました。
皮膚の下の一部ではないようだったので、麻酔をかけて治療することになりました。

まずは膿が出ている穴の周りをきれいに剃毛します。


そして、傷口を良く洗います。


カテーテルを入れるとかなり深部まで化膿していることがわかりました。
ここまで深いと1度の洗浄や、抗生物質の投与だけでは傷がきれいにならないので
ドレーンを入れることにしました。

ドレーンは栄養カテーテルを切って作成しました。
栄養カテーテルの先端を一度結び、その上に切り込みを入れます。
それを、排膿している穴から挿入し、奥まで入ったら、糸でとめ留置しました。

このままでは、すぐに取れてしまうので、
傷口の保護も含めて、ビニールで被膜しテーピングを行いました。

カテーテルの反対側の先端は出しておいて、ここからPVPヨード液で
1週間、飼い主さんに傷の洗浄をお願いしました。

1週間後、腫れはひいています。自壊創はやや改善が見られます。

2週間後には排膿もなくなり、腫れもさらに改善したのでドレーンを外すことができました。

左右差もありません。歩行も正常にできていて、一安心です。抗生物質の注射をし、飲み薬を処方して診療を終えました。

今回は比較的早くきれいになりましたが、
皮下だけでなく腱や関節にまで膿瘍が及んでしまうと治療が困難になります。
あしのけがや関節炎で立てないというのは、ヤギさんにとって致命的なのです。
傷が深い場合や、足全体が腫れている場合は、早めに治療をお願いしてくださいね!

山羊の診療Diary症例40 子ヤギの上腕骨の骨折 (固定の失敗からの治癒)

山羊の診療Diary症例40 子ヤギの上腕骨の骨折 (固定の失敗からの治癒)

今回の症例は・・・
「子ヤギの男の子が牧場の柵に前あしを挟んでいて、
助けたらその後、前あしをぶらぶらしているから診てほしい」

というご連絡が来ました。

さっそく、牧場に伺ってみると、

左の前あしをあげたまま走り回る子ヤギさんを見つけました。
どうやら左の前あしを地面に着けないようです。

子ヤギさんを捕まえて、左の前あしを触診してみました。
足先から触診をします。
蹄問題なし。
中手骨、関節大丈夫。前腕骨も問題なし。
そして・・・
上腕骨を触ったとき、折れているまたはひびが入っている部分が
明らかに触診でわかりました。


骨は皮膚から出ておらず、開放性の骨折ではありませんでした。

動物病院でしたら、レントゲンを撮れば詳細がわかると思いますが、
往診での診療の場合、ここで骨折の治療にはいります。
(参考 山羊の診療Diary症例35 中手骨の骨折)

はじめに「オルテックス」というギブス用包帯を巻きます。
これは、ふわふわした綿のようなもので、
ポリエステルとレーヨンの混紡で、肌触り・吸湿性に優れていてクッションの役目をします。
また、手で簡単に切れるので使いやすく、色が青いのでギブスをとる際に目印になります。

次に「スコッチキャスト」を巻いてギブス固定をします。
これは水で硬化させるキャスティングテープです。
素材はガラス繊維にポリウレタン樹脂を含浸させたもので、水に浸すと固まります。
石膏ギブスのような固定ができます。

ベタベタと接着するので必ず手袋をつけて行います。
そして、袋から出すと、どんどん固まってきてしまうので時間との勝負。
巻き終わったら、お水をつけて完全に硬化させます。

感染予防のために抗生物質を最後に打ちました。
そして、ケージに入れて、安静状態で様子を1週間様子を見ることになりました。

次の日、診てみるとまだあしが地面についていません。
おまけにギブスの上がすれている様子でした。
テープで補強して様子を見ました。

しかし、このまま1週間してもあしが地面についていません。
そこで、院長に再診をお願いしました。

私の、巻き方が甘くて、一番固定したい骨折の部分がしっかり固定されていないことが判明。
大、大、大反省です。
強く巻きすぎて、血流が阻害されて浮腫がおこるのを心配しすぎてしまいました。
骨折部位が固定できてないからいつまでたっても骨折部位が良くならずあしも地面に着けない状態になっていました。

一度ギブスを外して、院長に巻きなおしてもらいました。
前膝の上、なるべく高い位置までギプスを巻き、その上から防汚のためテープを巻いています。

2週間後外してみると、骨折部位は接合し、前からも横からもわかるくらい太くなっていました。

ギブスを巻きなおしてから地面にあしが着くようになり、外してからしばらく経つと元気に走り回れるようになりました。

単純骨折の場合は、骨折部位が動かないように固定することが大切です。もちろん皮膚の血流を阻害しないように注意することも同時に大切です。
子ヤギの場合、成長期でもあり骨も付きやすく予後が良いようです。
ただし、私のように巻きが甘いとくっつくものもくっつきません・・・
とてもとても反省する症例になりました。