Category Archives: ヤギの診療記録と飼育方法

おっぱい大作戦 ヤギ編

おっぱい大作戦(ヤギ編)

今回は、おっぱい大作戦のヤギ編です。

山羊の診療Diary症例29 子ヤギの下痢(コクシジウム症)でご紹介した、ヤギののどかちゃん。
生後1か月でお母さんヤギが亡くなってしまい、コクシジウムという寄生虫の下痢のため入院していました。
また、お母さんが亡くなってから、1週間、草しかあげていなかったという事で、栄養も足りず、
消化もうまくできていなかったので、人工哺乳をする必要がありました。

普段は、ヤギの人工哺乳をするのに人間用の哺乳瓶を使っています。
しかし、乳首が太いのと硬さが固いので、慣れるまでに時間がかかる子がいます。
そこで、おっぱい大作戦(ウシ編)で手作りした、乳首を再度作成し使用してみることにしました。

材料
・お掃除や炊事の時に使う手袋
・ペットボトル
・ペットボトルのふた
・ガムテープ

作り方
1.ペットボトルのふたの部分をくりぬく手袋の指の部分を切る
2.ふたにかぶせてガムテープなどで固定する
3.指の先端に穴をあけてミルクがちょうどよく出る量を調整する

早速、のどかちゃんに試してみました。

のどかちゃんのお口に手作り乳首をくわえさせて、初めは少し押してミルクを出しました。
何度かやっているうちに・・・
自分で吸うことができました!!
手作り乳首大成功。

その後、人間用とヤギ用の乳首でも哺乳しましたが、すぐに上手に使うことができました。
そして、人間の哺乳瓶よりも手作り乳首のほうが吸いやすそうでした。

人工哺乳をする態勢は、足の間に挟んで壁際で後ろに下がれないようにします。
お母さんのおっぱいを吸うときみたいに、頭の前を手で押さえてあげるのも飲みやすくなります。

一つ注意点があります。
手袋を使う場合は、しっかりふたにくっつけないと、勢いよく哺乳した際に、手袋の先が外れて飲み込んでしまう危険性があります。

実際、一度外れて慌てて口に手を突っ込んで飲み込むのを避けられましたが、かなり焦りました…。

もし飲み込んでしまったら取り出すには手術しかありません。哺乳どころではありません。十分注意してくださいね。

 

退院時に、オーナーさんに人工哺乳のやり方をお伝えし、これからしばらくがんばっていただくことになりました。

前回の牛編では、手作り乳首での哺乳は成功しませんでしたが、人間の哺乳瓶よりも飲みやすそうでヤギさんでは大成功でした。

下痢も治って無事退院したのどかちゃん。オーナーさんにミルクをもらってすくすく大きくなってね!

山羊の診療Diary症例29 子ヤギの下痢(コクシジウム症)

山羊の診療Diary症例29 子ヤギの下痢(コクシジウム症)

今回の症例は・・・
「生後1か月の子ヤギが下痢をしていて元気がない」という連絡が来ました。

子ヤギさんは、1カ月齢の女の子でのどかちゃん。
先週にお母さん山羊さんが突然死してしまい、その後、下痢をしているそうです。
お母さん山羊さんが生きているときは、おっぱいを吸っていたそうですが、亡くなってからは草を食べていて人工哺乳はしていなかったという事でした。

早速、のどかちゃんを診察すると、立ってはいましたが、足がふらつき、目が落ちくぼみ脱水していました。
おしりは下痢で汚れ、のどかちゃんのいた周りには、匂いの強いタール状の水様便がいくつも落ちていました。

草は食べていたという事ですが、おなかが膨らんでいるのに痩せている状態でした。
熱はなく、聴診では異常が見られませんでした。

脱水していて、診療中も何度かタール状の下痢をして元気がなかった為、山羊舎で点滴を行った後、入院することになりました。

まどかちゃんが初めにしていた便はこちらです。

タール状でお魚が腐ったような生臭いにおいの便でした。
糞便検査では、コクシジウムが検出されました。
生臭かったのは、便に血が混ざっていた可能性があります。

〜〜〜〜

*コクシジウム症とは・・・
コクシジウムという原虫が腸管に寄生して下痢を引き起こす病気です。
コクシジウムが増えるときに腸の粘膜上皮細胞に傷害を与えるので、下痢や血便などの症状を引き起こします。
大人のヤギさんでは感染しても症状が出ることは少ないですが、子ヤギさんが感染すると下痢とそれに伴い脱水が起こり亡くなってしまうこともあります。

治療は、抗コクシジウム剤を注射や飲み薬で投与します。

コクシジウム症の症状は、感染の量に比例するといわれていますので、コクシジウムがお口に入る量が多いほど、症状がより悪化します。

その為予防は、お掃除をしてヤギさんのお口に入るコクシジウムの数を減らすことです。コクシジウムは環境や薬剤に対して抵抗性が強いため完全に除去することは難しいですが、ヤギ舎のお掃除よって、コクシジウムの数を減らすことはできます。

〜〜〜〜

のどかちゃんにも、抗コクシジウム剤を注射と飲み薬で投与しました。

さらにのどかちゃんの場合、下痢の原因としてごはんの問題もありました。
まだ、おっぱいを飲む時期なのに、母ヤギさんが亡くなってしまって、1週間くらい飲めていない状態です。
草だけでは栄養が足りず、また消化も上手にできていないことが考えられました。

そこで、点滴の後少しお休みをはさんで人工哺乳をしました。
今まで、お母さんのおっぱいしか飲んでいなかったために、哺乳瓶で飲む練習が必要でした。
(このことについては、後日、「おっぱい大作戦ヤギ編」でお伝えしようと思っています)
練習の後、無事に哺乳瓶に慣れることができました。

ミルクの量の目安は、1か月齢では、体重の20%なので(家畜改良センター 飼養管理マニュアルより)
3kg弱ののどかちゃんは600ml必要です。
200mlを1日3回に分けて哺乳しました。

コクシジウムの治療と人工哺乳によって、便はこのように改善していきました。

2日目

3日目

おっぱいも上手に飲めるようになり、便もコロコロうんちに戻ったので無事退院することができました。
オーナーさんにあと1か月は人工哺乳をがんばっていただくことになります。

 

おっぱいを飲むのどかちゃんはとてもかわいくて、
元気になって退院して本当に良かったのですが、
帰った後の入院室をみてさみしい気持ちになったのでした。
診療の合間に顔を見に行こうと思っています。

のどかちゃん、お家のヤギさんたちと仲良く元気にね!

山羊の診療note11 山羊の食餌と栄養

様々な野草と、手差し給与が有効です。
という記事を書きました。

そこで登場した島野草とお芋の茎の栄養成分をのせておきます。

*オオバギ
TDN 65.5
CP 16.4
NR 3.0
タンパクが多めです

*ガジュマル
TDN 56.0
CP 9.6
NR 4.8

タンパクと炭水化物のバランスがとれています

*バナナの葉っぱ
TDN 59.0
CP 15.7
NR 2.7

タンパクが多めです

*センネンボク
TDN 68.9
CP 8.6
NR 6.9

炭水化物が多めです

*センダングサ
TDN 57.7
CP 12.6
NR 3.4

タンパクが多めです

*サツマイモの茎と葉っぱ
TDN 64.0
CP 13.0
NR 3.9
タンパクが多めです。

 

*草の栄養で使われる略号

・CP=粗タンパク    (主にタンパク質の指標)
・TDN=可消化養分総量 (主に炭水化物の指標、CPと炭水化物が混ざっている)
・NR=栄養比 (TDN-CP)/CP

→ヤギでは4.5前後がバランスが良い

値が低いと・・・タンパクが多い

値が高いと・・・炭水化物が多い

栄養学は、英語の略語も多く、少し頭がこんがらがると思います。
まずはじめは、難しく考えず、草を2種類以上あげてみてください。

お家のヤギさんの好きな草を見つけてみましょう。

1種類の草だけで栄養バランスをとるのは難しいけれど、
配合飼料やいくつかの草を組み合わせると

ヤギさんのごはんのバランスが取れますよ。

院長追記>>

飼料設計のガイドになると思うので、ヤギの栄養について詳しい説明のあるページを載せておきます。

ノースカロライナ州立大学のページです。
https://content.ces.ncsu.edu/nutritional-feeding-management-of-meat-goats

ヤギは牛ほど効率よく細胞壁を分解できません。なぜなら食物がルーメンに滞在する時間が短いからです。加えて、消化管のサイズが要求量に対して小さいので、牛より高栄養の飼料を必要とします。牛と比べて体重当たり約2倍の栄養を必要とします。

ヤギは低木類の枝を避けて葉のみを選ぶことができるので、比較的高タンパクの部分のみ食べることができます。また味はあまり気にせず、タンニンを含むものも解毒して食べることができます。

ヤギの栄養要求量自体は他の反芻獣に比べても非常に高いものですが、ヤギはその中から高品質の部分を選びとることができるので、低品質の飼料が多い場合でもよく耐えることができます。

とのことでした。

山羊の診療note10 山羊の島野草セット

山羊の診療note10 ヤギの島野草セット

ここ最近、分娩前のゆりるちゃんがが下痢と食欲不振で治療を続けていました。

基本の治療を行ったもののなかなか改善されず、食欲が日に日に落ちてきて飼い主さんもとても心配されていました。

どうにかゆりるちゃんにごはんを食べてもらおうと、私たちの住む島に生えている野草でヤギさんが好きなものを集めて診療の時に持っていきました。

ヤギの島野草セットです。

今回用意した島野草は

がじゅまる

バナナの葉っぱ

センダングサ

センネンボク

オオバギ

ハイビスカス

食欲がない動物にごはんを食べてもらいたいときは、与え方に小さなコツがあります。

食べやすいように小さく切ってあげて、手でお口の前までそっと差し出してあげると、
ただ目の前のお皿に置いておくだけより食べてくれることがあります。

手の平に乗せる、手でお口の前に持って行ってあげる・・・
手であげるのがポイントです。

この手であげるごはんの上げ方は、犬と猫の病院で働いているときに先輩の女性の獣医さんから教えていただきました。
そして、特に飼い主さんにお願いすると動物も安心して食べるようです。
(犬や猫のごはんの場合はさらに温めて匂いをたててあげると良いです)

ある時、入院したヤギさんに思い出してやってみたら、特にガジュマルの新芽の小さい葉っぱを手であげると1枚づつ食べていました。。
やはり元気がないときは大きい葉っぱは食べにくいようでした。
またある時は、1枚食べ始めるとそこから食欲が出てくるヤギさんもいました。

この経験から犬猫だけでなくヤギさんにも効果がありそうなので、食欲のない場合、診療中に私がやってみて飼い主さんにお願いしています。

ヤギさんによってそれぞれ好みの葉っぱが違ったり、昨日までは好きだったのにの急に違うものが食べたいヤギさんもいるので、食欲がないときには何種類かの草を試してみると良いと思います。

今回もゆりるちゃんに一つずつお口の前に持っていってあげてみました。

どの葉っぱが好きかな?

人気の小さなガジュマルの葉っぱはどうですか?

「食べたくない」

センダングサのお花はどうですか?葉っぱもおいしいけど
病気の時はお花ばっかり食べる子がいましたよ。

「食べたくない」

せんねんぼくはどうですか?
しゃきしゃきのはごたえですよー。

「はじめて食べるからちょっとだけ。
でもそんなにいらない。

少しだけたべてみる。

ハイビスカスは全然食べたくない。」

では、最後にオオバギは?

葉っぱが大きいから小さくすると、少しずつ食べはじめました。
なぜか、葉っぱよりも茎が好きな様子。

点滴の治療が終わると、少し気分がよくなったようで、茎と今度は乾草を少し食べてくれました。

わたしが帰った後、近所の方がお芋のつると葉っぱをもってきてくれて、
ゆりるちゃんは少し食べはじめたとのうれしい知らせが届きました。

基本の下痢の治療、輸血・輸液の治療の効果、そして好きな草もみつかり食欲が戻って本当に良かった。

ゆりるちゃんは今回、茎を好んで食べてくれました。

この後、ゆりるちゃんは出産に挑むことになりますが、このお話はまた改めて。次回はヤギの栄養の話をします。

〉〉ゆりるちゃんは島の民宿のヤギさんです。

あがりの宿さんさーら公式ホームページ

 

山羊の診療Diary症例28 難産 (頭位屈曲位)

山羊の診療Diary28 難産 (頭位屈曲位)

今回の症例は…
ゆうきさんから、山羊のメリーちゃんが
「はじめの子山羊が生まれた後、風船のようなものが出てから2時間経っても状態が変わらず
2頭目がいるかもしれないがでてこない」という連絡が来ました。
第1子目は順調に生まれたとのことです。
すぐに、牧場に向かいました。
到着後、まずメリーちゃんの様子を確認しました。


はじめに、乳房の付け根を持ち上げて、子山羊がもう1頭お腹にいるか確認しました。
お腹に子山羊が入っていることが確認出来ました。
(詳しくは妊娠鑑定を参照にしてください)
引き続き、陰部の汚れをお水で洗い流し、直腸検査用の手袋をはめて陰部から内診を行いました。手を入れてはじめに子山羊さんの「あし」が触れました。この時にこの「あし」が前肢なのか後肢なのかを確認します。確認の仕方は関節を触って確認します。
後肢のときは飛節が触れます。

注意
蹄の向きだけで判断すると診断を誤るので、必ず関節を確認するようにしてください。

下胎向の場合(上向きで万歳している状態)前足を後足と間違えてしまう事があります。

メリーちゃんの場合、触診で前肢であることが確認出来ました。しかし、頭が、頚が曲がって横向きになっていることがわかりました。この体位を「頭位屈曲位」といいます。

頭位屈曲位とは・・・
頚が曲がって横を向いて、前肢だけが出てきている状態をいいます。
通常だと、子山羊さんは前肢と前肢の間に頭が挟まれて、前肢と連動して頭も出てきます。
しかし、前肢だけでてきてしまい頭が横向きになっていると、頭が引っかかって生まれることができない状態になります。
そのため、頭を前肢の間に戻す必要があります。

内診で、頭位屈曲位であることがわかったので、子山羊さんの頭の位置を戻すために分娩介助の準備をしました。
消毒液に頭や肢を引っ張るロープを浸しました。牛ですと産科チェーンを使いますが、山羊では洗濯用のロープを使用しています。

そして、準備が出来たので、分娩介助をはじめました。
前肢2本はすでに陰部から出ていますが、このままでは一番狭いところに。横に曲がった頭があるため頭の向きを直すことが出来ません。
一度、前肢と頭を奥へ戻す必要があります。
奥のスペースのあるところに、肢と頭を押し戻したら、そこで頭の位置を直します。
頭を前肢と前肢の間にのせます。ここまできたら、頭の上に手を添えながら両前肢をお母さん山羊のいきみに合わせてゆっくりひきます。(産道が狭くて頭の上に手を添えられないときは、頭の位置を整復できた時点で頭の後ろから口にロープをかけます)

この症例では、子山羊さんの頭がなかなか前肢の間に戻せず苦労しました。
なんとか、位置を正常に戻せ、両前肢を頭の上に手を添えながらひいて、
無事に生まれました。

1頭目の子山羊さんは男の子で2頭目の子山羊さんは女の子でした。
お母さん山羊さんが疲れていてので、初乳を絞って、元気な男の子にはほ乳瓶で、
後から生まれた女の子ははじめに人工呼吸をおこない、吸う力が弱く飲まなかったので経鼻チューブで初乳をあげました。


また、頚が生まれた後も、曲がっていてうまく立てなかったので、ゆうきさんが
頚にサポーターを巻いたところ次の日には自分で経って、おっぱいも飲めていたとのことでした。

難産は、時間との勝負でとても緊張する診療です。
山羊は安産が多いといわれていますが、このように難産のケースがあります。
お産が通常どうり進まない場合はすぐに獣医さんに連絡してくださいね。
(あらためて正常なお産について記事にしたいと思います)
無事に生まれた2頭の子山羊ちゃんをみて、
ほっとするとともにとても幸せな気持ちになりました。
ふたりとも元気におおきくなってね!!

山羊の診療Diary症例27 乳頭損傷②

山羊の診療Diary症例27 乳頭損傷②

今回の症例は…
飼い主さんから「子山羊の鼻におっぱいを飲んだ後、血がついている。母山羊のおっぱいに傷があるかもしれないからみて欲しい」と連絡がありました。
山羊舎に伺うと、子山羊さんが元気におっぱいを飲んでいました。
そして、おっぱいを飲み終わった子山羊さんの顔を見ると・・・

お口が血で真っ赤に!!
これは大変です。すぐに子山羊さんを捕まえて、離れたところに縛って診療の間、待っていてもらうことにしました。
そして、母山羊さんを繋いで診療をはじめました。
飼い主さんにお話を伺うと、
この母山羊さんはセリで導入して、年齢や産歴は不明とのことでした。セリの時におそらく妊娠しているだろうと元の飼い主の方に言われたそうです。
そして、2ヶ月前に一度、飼い主さんから「おっぱいが異常に大きくなって心配」と連絡をいただき診療に伺いました。その時は、確かにおっぱいは大きくなっていましたが乳房や
乳頭に異常がなく「出産前でおっぱいが大きくなっている」というお話をしました。そして、その次の日、出産して1頭の子山羊さんが生まれたとのことでした。
母山羊さんを繋いで診察してみると・・・

全身状態は良好、体温は39.2度、肺音、心音も異常はありませんでした。
そして、乳房を見てみると右側の乳房はしぼんでいましたが、左側の乳房は張っていました。
その左側の乳頭の上の皮膚に直径2cmくらいの円形の傷がありました。

今回のこの症例も乳頭損傷と診断し治療をしました。
(乳頭損傷に関しては山羊の診療Diary症例26を参照にしてください)

治療は、症例26よりも傷口が大きいので場合によっては外科処置(傷をデブリードマンをして縫合する)
も考えられましたが、まずはヨード剤でで消毒して、抗生物質の注射を行いました。


そして、子山羊さんがおっぱいを吸って傷が悪化してしまわないように、
子山羊さんを離して飼育して頂くことにしました。
子山羊さんは、もう離乳しても大丈夫な体つき、そして飼料も草も食べているようでしたが、
場合によっては、人工哺乳をお願いしました。

その後、3日間治療を続け、傷がかさぶたになり治ってきたので、消毒を続けてもらい経過を観察することになりました。

前回に引き続き今回も乳頭損傷の症例でしたが、
どちらの山羊さんもおっぱいが大きく下に垂れ下がっていました。
このような山羊さんの場合、出産前のおっぱいが大きくなってくる頃から
自分で踏んでしまったり、または他の山羊さんに踏まれないように、
山羊舎の環境を整えてあげること(狭すぎないか、頭数が多すぎないか、乳房を傷つけるような鉄線がないか等)や
場合によってはブラジャーを作って擦れて傷がつかないようにすることが予防につながると思います。

山羊の診療Diary症例26 乳頭損傷

山羊の診療Diary症例26 乳頭損傷

今回の症例は・・・

飼い主さんから「前回の出産の時、ひどい乳房炎になった山羊が朝からおっぱいを蹴って
痛そうにしている」という連絡がありました。

早速、診療に伺うと4月はじめに出産予定のボーボちゃんが、おっぱいを蹴り蹴りしながら山羊舎の中でたたずんでいました。

飼い主さんにお話を伺うと、前回の出産の時に乳房炎になったのでまだ産前だが心配になって連絡をいただいたとのことでした。
食欲と元気は変わらないとのことです。
ボーボちゃんを外に出していただき繋いで診療をはじめました。

お熱を測ると39.8℃で微熱がありました。全身状態は良く、健診での心音・肺音は異常ありませんでした。腹部触診と聴打診でも問題はありませんでした。そして、乳房の状態を診てみました。

はじめに乳房炎に感染していないか確認するために乳房の状態を確認しました。
出産後のおっぱいをあげていない時期でも、乳房炎にかかることはあります。
ボーボちゃんの場合もまだ出産前ですが、乳房炎に以前感染したことがあることから、
乳房炎の細菌がおっぱいの中に残っていた場合、産前やストレスがかかったときに乳房炎が再発する可能性がありました。また、まだ一度も赤ちゃんを産んでいない場合でも乳頭から細菌感染が起これば、乳房炎を発症する場合があります。
ボーボちゃんのおっぱいは、左右の乳房ともに熱感や硬結などの乳房炎の症状はありませんでした。次に乳頭を診てみました。

右側の乳頭は異常がありませんでしたが、左側の乳頭に傷があり、硬くなっていました。
触るととても痛がっていました。ボーボちゃんのおっぱいは大きく下に垂れている形のため、おそらく自分で乳頭を踏んでしまった可能性が考えられました。
以上のことから、乳頭損傷と診断して治療をはじめました。

はじめに傷口をヨード剤で消毒した後に抗生剤と炎症を抑えるお薬の注射をしました。
また、飼い主さんに様子を見ていただいて、乳頭が体のどこかにこすれている場合は、
乳房をおおって傷が保護できるようなブラジャーをつけてもらうように飼い主さんにお願いしました。

飼い主さん次の日ご連絡があり、だいぶ痛みが治まっているということでした。
抗生物質のお薬を処方して経過観察となりました。

*乳頭損傷について
乳頭損傷は乳牛で良く起こる病気です。しかし、山羊さんでも今回のように乳頭を自分で踏んでしまって起こることがありますし、乳用山羊さんではさらに起こりやすい可能性があるので乳牛の乳頭損傷を参考にして、山羊さん用にまとめておきます。

<乳頭損傷とは>
物理的、あるいは科学的な原因により起こる乳頭の障害をいいます。

<原因>
①物理的な損傷
・放牧地の有棘鉄線やワイヤーフェンスで傷つけてしまう
・密飼いや飼育する部屋が狭くて、自分でまたは他の山羊の乳頭を踏んでしまう
・寒冷感作により乳頭の先が傷ついてしまう
・搾乳機でおっぱいを絞りすぎてしまう
②化学的な損傷
・搾乳時の乳頭の消毒の時に消毒剤で皮膚が荒れてしまう

<症状>
皮膚が荒れているだけでも痛みがあります。痛みがあると気になり自分で蹴ってしまいさらに悪化することがあります。

また、傷の深さや場所によってはおっぱいを出すことに障害がでます。たとえば、乳頭の先端の傷では炎症から組織が厚くなり管が狭くなることで、おっぱいが出にくくなったり、乳頭管より上で乳頭が切断された場合はおっぱいが漏れてしまいます。こうした場合、搾乳や哺乳することが難しくなってしまいます。

<飼い主さんにできること>
・山羊舎にゆとりを持たせて自分で踏まないようにする
・1つのお部屋で適切な数の山羊を飼育する(他の山羊の乳頭を踏まない)
・削蹄をして蹄で傷つけないようにする
・乳頭の消毒剤は適切な濃度で使用する
・搾乳機のメンテナンスを行い、整備不良での絞り過ぎを防ぐ
・おっぱいが大きくて擦れてしまう場合は、ブラジャーを作って着せてあげる。
牛さんには牛用ブラジャーというのがあります。
私も山羊用を作ってみたいです!

<獣医さんの治療>
・傷の洗浄・消毒
・軟膏の塗布
(乳頭を保護するため、ただし殺菌作用のあるものでないと感染を広げる場合があるので注意)
・抗生剤の投与
・外科処置(乳頭管拡張、切開、縫合など)

山羊の診療Diary症例25 産後の膀胱炎

山羊の診療Diary症例25 産後の膀胱炎

今回の症例は・・・

飼い主さんより「お母さん山羊が元気がなく寝てばかりいておしっこが赤い。おしっこが出にくく、苦しんでいるので診てほしい。」
という連絡がありました。
早速、伺ってみると、木の下に座り込んでいるお母さん山羊とその周りを元気いっぱいに走り回っている子山羊さんが2頭いました。

そして、少し遠くに強そうなお父さん山羊もつながれていて、こちらをじっと見ていました。体調不良のお母さん山羊がなんとか立ち上がると、子山羊さんたちが飛んできて、おっぱいを頭でぐいぐい押して飲んでいる状態でした。

まずは飼い主さんにお話を伺いました。
お母さん山羊の名前はキキちゃん。2歳。

今回2回目の出産とのことです。

1か月前に双子を出産して、ここ2~3日で元気がなくなってきたとのことです。食欲はあるが、赤いおしっこをしているようだとの事でした。

キキちゃんを診察してみると・・・
全身状態はかなり痩せていました。
眼や口の中の粘膜を見ると真っ白で貧血が疑われました。聴診で頻脈をおこしているのがわかりました。
お熱は39.1℃で平熱でした。
食欲はあるということでしたが、お腹の触診によりお腹いっぱいには食べられていないことがわかりました。

この時点ではおしっこを確認できなかったので血尿なのか、もしくは子宮に感染が起き子宮からのおりものなのかわかりません。また、尿閉といっておしっこが出ないのか、それとも頻尿で残尿感がある状態なのかわかりません。

そこで、直腸からのエコー検査を行いました。すると、膀胱は通常〜やや小さく、星空様のエコーフリー像が確認できました。つまり尿閉ではなく頻尿であり、膀胱内に浮遊物を伴う液体がある事がわかりました。

その直後、
真っ赤なおしっこが出てきました。


ここで一つ注意点があります。
赤い尿がすべて血尿とは限らず、例えばある種の中毒の時などは「血色素尿」という赤いおしっこが出るときがあります。そういった類症鑑別をするため追加で尿検査や血液検査など行う場合もあります。

今回は膀胱炎と仮診断し診断的治療を始めることにしました。

飼い主さんのお話、山羊さんの状態、検査などから総合的に診断しての治療になりますので「赤い尿=膀胱炎」ではないので獣医さんにご相談くださいね。

治療と経過
1日目
・抗生物質の投与、止血剤の投与、輸液
・子山羊さんのほ乳をストップ
(おっぱいは血液から作られるので、血尿が出て貧血状態にあるキキちゃんの状態での哺乳は身体に負担になります。
そこでキキちゃんが元気になるまでは人工哺乳をお願いしました。)
・栄養状態の改善のためにキキちゃんに配合飼料をあげてもらう。

2日目
・抗生物質の投与、止血剤の投与、輸液
・輸血
(おしっこへの出血、貧血の状態に変化なく、活力も改善されなかったので輸血をおこないました。同居の雄山羊さんから採血をして、
事前に輸血適合試験”クロスマッチテスト”を行い、問題がなかったので輸血ができました)

3日目
・抗生剤の投与、止血剤の投与、輸液
昨日まではメリーちゃんの状態がかなり悪く、最悪の事態も考えての治療だったのでお電話で元気が出てきたと飼い主さんからお話が聞けて少しほっとしました。 実際診療に伺いキキちゃんに会うと、 顔色も全身状態も昨日より明らかに良さそうで私たちもうれしく思いました。

4日目
抗生剤の飲み薬を処方
おしっこの色も改善し食欲元気も出てきたとのことで内服薬を処方し経過観察となりました。

勝脱炎の原因は確定することはできませんが、今回は、産後すぐから徐々に症状が出ていたので、出産後の陰部から排出される悪露が感染源になった可能性が高いです。

悪露は母山羊さんの勝眺炎や子宮炎などの感染の元になるだけでなく、子山羊さんの下痢の原因にもなりますので、 産後2週間を過ぎても悪露の排泄が止まらない場合は受診してください。

また、陰部から垂れ下がって落ちない胎盤は、 無理矢理引っ張らないでビニールなどで保護しながら母山羊さんの状態を経過観察します。 (症例24  胎盤停滞を参考にしてください)

産後は体力を消耗しているのでいろいろな病気にかかりやすい状態になっています。

ミルクを出すのにかなりのエネルギーが必要なので、この時期は配合飼料などを上手に使って、母山羊さんの栄養状態や体力が落ちないようにしてあげてくださいね。
牛では、出産後すぐにお味噌汁を飲ませるのも効果的なようです。ヤギにも応用可能かもしれませんね。

診療後記・・・
キキちゃんのふたごの仲良し子山羊さん。 キキちゃんの治療中、お母さんと離ればなれになると、1頭はとっても甘えん坊の子山羊さんで、
キキちゃんを呼んでずっーと、 めーめーめーめ一泣いていました。
もう 1頭の子は草をもぐもぐ食べてみたり、繋がれているロープで遊んでみたり。
子山羊さんも性格はそれぞれですね。
小さな子どもの頃、 みなさんはどちらのタイプでしたか??
ちなみにわたしは めーめータイプでした・・・強くなったのかな。
何はともあれ、キキちゃんが元気になってまたみんなでくっついて暮らせますように。

山羊の診療note9 山羊の血液型

山羊の診療note9 山羊の血液型

先日、山羊さんの治療で輸血を行いました。

輸血を受ける山羊

今日はその輸血のお話の前に山羊の血液型のお話をしたいと思います。

人間の血液型の分類方法

まず、私たち人間の血液型のお話を少ししましょう。

人間の血液型で一番有名なのは、ABO式ですね。
これは血球の表面にある血液型抗原と呼ばれる物質で血液を分けたものになります。

ABO式血液型

赤血球にA抗原を持っている→A型
赤血球にB抗原を持っている→B型
赤血球にA抗原もB抗原もない→O型
赤血球にA抗原もB抗原もある→AB型

Rh式血液型

そして、もう一つ有名なのがRh式です。
Rh式血液型には血液型抗原の数が50種類もありますが、
その中のRhD抗原が輸血で重要な血液型抗原でRhDがあるかないかでRh型の分類をしています。
RhD血液型抗原がある→Rhプラス
RhD血液型抗原がない→Rhマイナス
ちなみに、日本人は99.5%の人がRhプラスとのことです。

 

山羊の血液型の分類方法

そして、肝心の山羊さんですが・・・
山羊さんにはA・B・C・M・R-O・V-Wの6種類の血液型システムがあります。
さらにB血液型システムの中には数十種類の血液型抗原(型)があり、
品種によって血液型の割合が違い、ザーネン種はB15型が多く、アルパイン種はB17型が多いそうです。
次回は輸血のお話をしたいと思います。

今回、参考にさせていただいた本はこちらです!!
「人とどうぶつの血液型」編著 近江俊徳 博士 (医学)緑書房

「人とどうぶつの血液型」編著 近江俊徳 博士 (医学)緑書房

山羊の診療Diary症例24 胎盤停滞

山羊の診療Diary症例24 胎盤停滞

今回の症例は・・・

出産後の母山羊さんが元気がなく、
陰部から胎盤が垂れ下がったままになっているという連絡が来ました。

産後に「陰部から何か出ている」という飼い主さんのお話があったとき、
出産後排出されるはずの胎盤が出ない「胎盤停滞」という病気や、子宮が出てしまう「子宮脱」という主に2つの病気が考えられます。
(子宮脱については、山羊の症例Diary症例1 「子宮脱」参照)

子宮脱の時には、診療に向かうまでの間に飼い主さんにお願いしたいことがあり、
それがその後の治療にとても大切なことになってきます。
そのため、電話でていねいに飼い主さんのお話を聞き取ります。

 

子宮脱を発見したときに、獣医さんが来る前に飼い主さんができること

子宮脱を発見したときに、
獣医さんが来る前に飼い主さんができること(復習)

・山羊を立たせる
・子宮の汚れをお水でそっと流す
・砂糖を振りかけておく
・ビニールでおおう

今回は、電話で確認すると子宮ではなく胎盤の可能性高かったので、
そのまま診療に向かいました。

早速、診療をはじめると・・・

胎盤停滞の症状がある山羊

この母山羊さんは昨日の夜に3つ子の赤ちゃんを出産していました。
残念ながら1頭は亡くなっていました。

熱を測ると38.7℃で平熱でした。
陰部からは排出されきれなかった胎盤がぶら下がっていました。
全身状態は脱水があり、栄養状態はやせていました。

胎盤停滞と診断し、治療を行いました。

 

胎盤停滞とは・・・

胎盤(たいばん)とは、母牛のお腹の中で、赤ちゃん山羊さんとつながって栄養を与えているものです。
胎盤は通常、分娩後1~6時間で排出されます。
これが12時間以上残ってしまうものを胎盤停滞といいます。
胎盤停滞を起こすと子宮に炎症を起こし、食欲不振や発熱することがあります。
また、垂れ下がっている胎盤は細菌感染のもとになるので、お母さん山羊の乳房炎や子山羊の下痢の原因にもなります。

 

胎盤停滞の治療

①垂れ下がっている胎盤は、基本的に自然に排出されるのを待ちます。

乳房を汚して子ヤギの細菌感染の元になるので出ている部分にカバーをつけました。

山羊の胎盤にカバーをかける

この状態で山羊さんの全身状態、検温をしながら数日経過を見ます。
経過を見る際、食欲がなくなったり、熱がある場合は早めに獣医さんに相談してください。

注意 胎盤停滞の時にやってはいけないこと!!

強く引っ張って無理矢理出すことです。
引っ張って胎盤が千切れ、子宮内に残ると子宮の回復が遅れたり、産褥熱や子宮炎の元になることがあります。

②脱水の補正

脱水状態だったので静脈から点滴をしました。

③ブドウ糖・ビタミン剤・カルシウム剤の注射

元気・食欲がなく、栄養状態も良くなくやせていたのでブドウ糖と産後の低CA血症の可能性も考えてカルシウム剤を点滴剤と一緒に投与しました。

④抗生物質の投与

発熱はこの時点でなかったものの、元気がなく全身状態も良くなかったため、子宮炎や乳熱の可能性も考え抗生物質の注射を行いました。

⑤子山羊さん達に初乳の投与

このお母さん山羊さんはおっぱいがかなり下の方に垂れ下がっており、子山羊さん達が上手に飲めない状況でした。おっぱいをしぼってみると乳は良く出る状態でした。
はじめにお母さん山羊さんに台に乗ってもらって、おっぱいの位置を高くしました。

次に子山羊さん達を口を乳頭に近づけて、おっぱいの場所を教えてあげるとなんとか2頭とも吸うことができました。
しかし、口をつけたもののすぐに座り込んでしまう状態だったので、乳をしぼって初乳の人工ほ乳を行うことにしました。

元気のない白い子山羊さんは経鼻カテーテルで飲ませました。
初乳を飲まないと、子山羊さんは病原体から身を守ることができません。生存する可能性が極端に低くなってしまう為、どうしても飲ませる必要があります。

経鼻カテーテルで初乳を飲む子ヤギ茶色の子山羊

茶色の子山羊さんは自分で吸う力があったので、ほ乳瓶で飲ませました。

飼い主さんには、母山羊さんの胎盤と全身状態の観察、子山羊さんがおっぱいを飲めているかの確認、もし飲めなければ人工ほ乳をしてもらうようにお願いしました。

次の日、飼い主さんから胎盤が落ちて、お母さん山羊さんも子山羊さんたちも食欲・元気があるとご連絡いただきました。
ほっと一安心。子山羊さんたちがこのまま元気に大きくなりますように!!

 

胎盤停滞発生の仕組みはまだ未解明。分娩前の栄養管理をしっかりしてあげることが大切

胎盤停滞は、牛では、難産、早産、双子、分娩前の栄養不良等の時に発生が多いといわれていますが、具体的な発生の仕組みはまだ解明していません。
そのため、飼い主さんができる予防策はありませんが、少なくとも山羊でも要因の一つと考えられている分娩前の栄養管理をしっかりしてあげることが大切だと思います。