Category Archives: ヤギの診療記録と飼育方法

山羊の診療Diary症例35 中手骨の骨折②

山羊の診療Diary症例35 中手骨の骨折②

今回のお話は、前回の続きになります。

左前足の中手骨を骨折してしまったおおちゃん。
副木とテープで仮に固定をし、次の日にギブスで固定することになりました。

まずはじめに、昨日仮で固定した副木とテープを外しました。

確認すすると、やはり中手骨が折れて、ガタガタしています。

はじめに「オルテックス」というギブス用包帯を巻きます。
これは、ふわふわした綿のようなもので、
ポリエステルとレーヨンの混紡で、肌触り・吸湿性に優れていてクッションの役目をします。
また、手で簡単に切れるので使いやすく、色が青いのでギブスをとる際に目印になります。

足先まで巻いたら、次に「スコッチキャスト」を巻いてギブス固定をします。
これは水で硬化させるキャスティングテープです。
素材はガラス繊維にポリウレタン樹脂を含浸させたもので、水に浸すと固まります。
石膏ギブスのような固定ができます。

ベタベタと接着するので必ず手袋をつけて行います。
素手では触らないようにしてくださいね。
そして、袋から出すと、どんどん固まってきてしまうので時間との勝負。
しっかり巻いた後は、お水をつけるとさらに固くします。

無事にギブス固定ができました。
しっかり固まっているので、足をついて歩けるようでした。

そして、3週間後・・・

ギブスを外しました。

外して骨折部位を確認するとしっかりとくっついていました。

立たせてみると、足を少し上げていましたが、このままリハビリもかねて様子を見ることになりました。

その後、飼い主さんからご連絡があり、徐々に足も地面について元気にしているというお話でした。

さらに1か月後・・・

診療の途中でおおちゃんのおうちのそばを通りかかったので、

「おおちゃーん!」
と声をかけると・・・

こちらに元気に歩いてきてくれました。


おっ!足も地面につけるようになっているね!
良かった、良かった。
これで広い放牧場で元気に遊べるね。

山羊の診療Diary症例35  中手骨の骨折①

山羊の診療Diary症例35 中手骨の骨折①

今回のお話は、・・・

「前足を上にあげてびっこひいているので診療してほしい。」

というご連絡が来ました。

早速、ヤギさんたちがいる放牧場に行ってみると、

1頭だけゆっくり前肢をあげて最後にそばに来たヤギさんがいました。
近くに来てくれたおおちゃん。左の前足を上にあげています。

飼い主さんにお話を伺うと
女の子のヤギのおおちゃんは、今朝、放牧場のフェンスにに足が挟まっていたそうです。
すぐに、おおちゃんの足を外して助けてあげたそうですが、その時から左の足をあげて歩いているという事でした。
食欲はあり、声をかけるといつも通り来るという事でした。

この放牧場は、草原の中に、大きなガジュマルの木があり、琉球石灰岩で作った岩山もあります。
岩山はヤギさんたちの遊び場になっていて、
大きなガジュマルは木陰を作り、みんなの休憩所になっていました。
近くをよく診療で通りかかるので、いつもヤギさんたちが気持ちよさそうに暮らしているなと思ってみていました。

ヤギさんたちが岩山に昇っています。

おおちゃんを飼い主さんにおさえてもらって、左前足を触診してみると
触った瞬間「折れている!」ということがはっきりわかりました。

肢をよく見ても傷もななく骨も飛び出したりという事はありませんでした
場所は、中手骨で触ると折れた骨がこすれるざらざらする感触が伝わってきます。
開放性の骨折ではなかったので、ギブスで固定して治療することになりました。

しかし、この時、診療車にギブスなどが載ってなかったので、
今日は応急処置の固定をすることになりました。

はじめに足をまげて固定してみました。
これは、犬の前肢の骨折のときの包帯法「ベルポースリング法」という方法です。
牛の上腕骨折の治療で使用している例もあり、ヤギの治療でも有用なのではと考えたからです。
これなら、足を地面につくことがなく、骨折した部分に負重がかからずにすみます。

しかし、固定はうまくできたものの今回は中手骨の骨折だった為、関節を曲げたままにしておくよりも伸ばして固定したほうが良いのではと考え直し、全部外してやり直すことにしました。

足を伸ばして、段ボールで副木を作って布テープで固定しました。

この布テープは、ホームセンターで売っているものですが診療でよく使います。
水や汚れに強くて、しっかりくっつくのにはがすときはきれいに剥がれます。
(牛の臍ヘルニアのときおなかに巻いたり、関節炎の時にも足に巻いてりして使っています)

副木とテープで固定が終わると、足先を下について立っていました。
あまり今は、この足に負重をかけて欲しくないのですが、
治療が終わると、岩山のみんなのところに一生懸命登っていきました。

感染がおこらないように抗生物質のお注射を打って、明日ギブスを巻きなおすことになりました。

次回は、ギブスでの固定のお話です。

つづく。

はじめてヤギがお家にやってきた(ヤギの飼養相談)

今回のお話は・・・

まいぱり熱帯果樹園のヤギのペーターくんがお引越しすることになりました。

私たちは先春、まいぱり熱帯果樹園のヤギのはなこちゃんが3つ子を出産し、クララ・ハイジ・ペーターと名付けられ、ヤギ担当の方が一生懸命育てていたのを見てきました。健康チェック、駆虫なども済ませてお引越し前の準備は万全でした。

そしてお引越し先のご家族の方から、
初めてヤギと暮らすので相談したいという依頼が来ました。

お伺いしてみると・・・

まだ、お引越ししてから1週間、
すっかり子供たちと仲良しになっているペーターくんが待っていました。

到着するなり、子供たちがペーターくんのことをいっぱい教えてくれます。

一緒にお散歩してるんだよ。
走るととっても早いんだよ。
でも、好きな草があると歩いてくれないの。
あの木の葉っぱ全部食べちゃった。
ヤギには胃がいっぱいあるの?
トマトは食べたらだめですか?

と元気にお話してくれます。

はじめに、お話を聞いて、ひとつずつ質問に答えました。
そして、ペーターくんが元気でいられるように、
健康チェックを一緒にしました。

まずはお熱の測り方。
おしりから優しく体温計をいれてあげてね。

お母さまから
体温計は人間用ので大丈夫ですか?
というご質問があり、
「測るのは人間用ので大丈夫です。
ペーターくん用に一つあると良いと思います」とお答えしました。

次は心臓の音を聞いてみてもらいました。

ヤギさんがどんな風だったら具合が悪いのかのお話をしました。

この後、ペーターくんとお散歩しながら、

ペーターくんのおうちを見せてもらいました。

そこには・・・


立派な表札が!!
これは、まいぱりのヤギの担当の方がお別れの時にプレゼントしてくれたそうです。

そしてペーターくんのお家はこちら。

屋根が上から開くようになっていて、掃除や換気がしやすいつくりになっていました。

床が高床でないので雨の時のことを伺うと、
雨の日はガレージに行くという事でした。

この後、
ペーターくんが何を食べているのか伺いました。
ヤギ用飼料、オーツヘイ、野草というお話でした。
ごはんはバランスよくあげられていて、体格も問題ないとお話ししました。
アドバイスとして草を2種類以上あげていただくことにしました。
そして、お庭にある、草木の中でヤギさんの好きな草木を子供たちと一緒に探しました。

はじめてヤギと暮らすという事でしたが、こちらのお父様は先日、まいぱり熱帯果樹園で開催した勉強会にも参加されていました。
またお子さんたちも、すっかりヤギが大好きになり、勉強会の資料を読んだり、インターネットでいろいろ調べてくれたりしていたので、すでにヤギについてとっても詳しくなっています。ですから大きな問題もなく、改善点はありませんでした。

病院ではこのような、飼養相談の依頼も受けています。なぜなら、病気にならないことが一番だと思うからです。
そのためにまずヤギがどんな動物か知ることからです!

ご家族でお休みの日にペーターくんとお散歩するのが楽しみだそうです。
そして、女の子のヤギさんを迎えて、いずれは赤ちゃんに会いたいとお話されていました。

ペーターくん。ご家族様。元気に楽しく暮らしてくださいね!!

山羊の診療Diary症例34 熱中症&呼吸困難(鼻腔拡大手術)②

山羊の診療Diary症例34 熱中症&呼吸困難(鼻腔拡大手術)②

今回は前回のお話の続きです。

たつくんは前回の処置、「糸で鼻を持ち上げた状態」で過ごしていました。

5日後、飼い主さんにご連絡すると、
食欲も以前のように戻り、とても元気という事でした。
処置の前に、聞こえていた呼吸をするときのいびきのような音も聞こえなくなったそうです。
また、飼い主さんも早速、避暑用に日中木陰で過ごせるようにヤギ舎の外に、
たつくんの他、雄山羊さんたちが快適に過ごせる場所を作ったという事でした。

お話しから、たつくんの経過が良好なので、いよいよ仮止めの糸を外し、
手術に踏み切ることになりました。

まず、鎮静をかけて横になってもらいました。
前回の処置で糸で鼻の上の皮膚を持ち上げています。

このようにしっかりと鼻の穴が開いています。

この釣りあげている糸をはじめに抜糸しました。
そして、今日の処置をする部分に、痛みが少ないように部分麻酔をしました。

今日はこのように皮膚を三角に切開しそこを縫い縮めて鼻の上の皮膚を持ち上げる予定です。

皮膚を切開すると、出血が見られたので止血を行いながら皮膚の切開を行いました。

三角に切開できた後は、縫合します。

無事、縫合が終わり、鎮静を覚ましました。


鎮静が覚めたのを確認して今日はこれでおしまいです。

そして、10日後の抜糸の様子です。
傷はきれいに閉じていました。


鼻の穴の開き具合は、糸で釣っていた時のほうが大きく開いていましたが、
飼い主さんのお話では、今のところ呼吸ができているようだったので、ひとまず様子を見ることになりました。
もし、また息苦しい症状やいびきのような音が出る場合は、もう少し広げるための再手術が必要というお話をしました。

抜糸から10日後のたつくんです。

今回の症例の後、他のヤギ舎でボア種の雄山羊さんの顔をよく見ると、
顔の構造上、ザーネン種よりも鼻孔が狭いように思いました。
たつくんのように、いびきのような音がでて息苦しいくらい鼻孔が狭いときは、暑い時期に熱中症のリスクが上がります。
また、通常の時でも、運動時に呼吸が苦しくなり疲れやすかったり、交尾などが上手くできない可能性もあります。
今後、ボア種の雄山羊さんの様子をよく観察してみようと思っています。

なにはともあれ手術後、すっきりしたたつくんの顔をみてほっとしました。
雄山羊のリーダーとしてこれからもこのヤギ舎で活躍してくださいね!

山羊の診療Diary症例34 熱中症&呼吸困難(鼻腔拡大手術)①

山羊の診療Diary症例34 熱中症&呼吸困難(鼻腔拡大手術)①

今回のお話は・・・

「雄ヤギが餌を食べなくて元気がないから診療してほしい」
という連絡を飼い主さんからいただきました。

早速、伺ってみると、大きな雄ヤギのたつくんがヤギ舎の中に雌ヤギさんと一緒に居ました。

飼い主さんにお話を伺うと、
たつくんはここ最近、以前より食欲がなく、特にここ数日餌をたくさん残すようになった。
一緒にいる雌ヤギさんに餌をほとんど食べられてしまっている。」
というお話でした。

たつくんの様子を見ると、ヤギ舎の中で普通に歩いてはいますが、
時折、鼻からいびきのような音を鳴らしていて、少し呼吸が苦しそうに見えました。
そのことを飼い主さんに尋ねると、
「このこは小さいときから、鼻をこんな風に鳴らしていて、他の場所にいる兄弟もこんな感じだよ。ボアの系統が入っていて顔の形が違うからかな?」と教えてくれました。
確かに、ザーネン種より鼻のところがいわゆる鷲鼻(鼻筋が途中から隆起し、鼻筋が湾曲した鼻の形)のようになっています。
また、この日は数日間、夏の暑さが続いていました。
ヤギ舎の中も蒸し暑い状態でしたが、一緒にいる雌やぎさんや、隣のお部屋のヤギさんたち3頭は呼吸は荒くなく元気にごはんを食べていました。

まずはロープで縛って診療をはじめました。
この時、たつくんは大きな体で捕まえられるのは嫌だーとヤギ舎の中を
ぐるぐる逃げ回っていました。
100kgくらいある雄山羊さんをいつもより元気がないからといっても捕まえるのに一苦労。
ようやく縛って、診察をはじめると、呼吸が先ほどよりもだいぶ苦しそうになっていました。
熱を測ると41.0度まで上がっており、ひとまず熱中症の可能性があったので、
飼い主さんに濡れたタオルとお水、扇風機を用意してもらいました。
はじめに首周りを濡れたタオルで冷やしながら、静脈輸液のための留置をとろうとすると、
さらに暴れてしまい、呼吸の状態が悪化しそうなので、皮下補液に切り替え、
安全に保定をしながら診療を続けるのが困難と判断して、院長にも助けを求めました。

皮下補液をしながら、飼い主さんには扇風機を設置してもらい、
その間に、便の異常はないこと、おしっこは出ていること、
聴診で心音・肺音の確認、聴打診で腹部に異常がないことなどを確認しました。

冷やしすぎないように体温を測りながら、皮下補液を続けていました。
体は少しづつ冷えてきましたが、相変わらず呼吸の苦しさは改善されませんでした。

そこに、院長が到着して、たつくんの顔をみるなり
「鼻の穴がふさがっているよ」と。

よくよく正面からたつくんの顔を見ると、
息を鼻から吸うごとに、鼻の穴の上の皮膚がふたのように鼻をふさいでいる状態になっていました。

たつくんの顔は、鷲鼻の鼻の形でさらに最後の鼻の上の皮膚が垂れ下がっていて
普通にしてても、鼻の穴が線の細さで、他のヤギさんたちの様に鼻の穴が開いていませんでした。
逃げ回ってさらに苦しくなったことで、
吸うたびに鼻がピタッと穴をふたのように閉じるのが顕著になっていたのでした。

ここまでの症状やたつくんの診療で考えられることは、
もともと鼻腔が狭かったところに、暑さが重なり、呼吸で熱を下げることがほかのヤギさんより難しく、熱中症や食欲不振などの症状で元気がなかったことが考えられました。
その他の原因があるとしても、まずは呼吸の状態を改善することが必要でした。

横から押さえながら、診療するのに精いっぱいで
すぐに気が付かなくてごめんねとたつくんと思いながら、
急いでたつくんの鼻の上を上向きに豚さんのように押し上げました。

そのまましばらくすると呼吸がどんどん改善されていきました。
鼻の穴さえ開いてさえすれば、熱中症もおそらく食欲不振なども改善されそうでした。
しかし、私がずっと鼻を押しているわけにもいかないので、鼻の穴を拡張する手術が必要です。

しかし、今のたつくんは熱中症を併発しており、数日間の食欲不振もあり、
長い時間鎮静をかけるのは危険な状態と判断し、
短い時間の鎮静で応急処置で糸で鼻を持ち上げることになりました。

処置の様子はこちらです。

処置が終わり、鎮静が覚めたころには、体温も安全なところまで下がり、呼吸も楽になっていました。
良かったーとほっと一安心。

そして、むくっと立ち上がったたつくんは・・・

ごはんを食べに行くのかと思いきや
雌ヤギさんのおしりのにおいをかいで
フレーメン!!
それから草を食べ始めたのでした・・・。

えー。まずはそこなの!?たつくん・・・。
本能だからしょうがないのかもしれませんが、
助かったと思ったらまず女の子・・・

緊急事態で緊張した現場でしたが、
たつくんの行動に思わずみんなで笑ってしましました。

そして、
飼い主さんには、たつくんのヤギ舎を涼しい環境に整えていただくことと
呼吸の状態の観察をお願いしました。
食欲が改善されたら、鼻の整形手術をすることになりました。

数日後、飼い主さんから、
すっかり元気を取り戻し、鼻の音も消えて、
ごはんをもりもりたべて、雌ヤギさんをを追いかけまわしている・・・
というご連絡をいただきました。
たつくん良かったね。今までいろいろ苦しかったのかもしれません。
根本的な改善を目指して次に鼻腔拡大の手術に踏み切ることになりました。
たつくん、あともう1歩、一緒にがんばろう。

手術の様子は次回へつづきますー。

山羊の診療Diary症例33 難産(若齢出産&頭部先行)

山羊の診療Diary症例33 難産(若齢出産&頭部先行)

今回のお話は、

「山羊の診療note10 ヤギの島野草セット」でご紹介したゆりるちゃんの分娩のお話です。

ゆりるちゃんの妊娠がわかったのは、初診時の診察でした。

その時は下痢の治療で伺いました。

全身状態を診るのに妊娠鑑定をしたところ、妊娠がわかりました。

まさか妊娠しているとは飼い主さんも思っていなかったのです。

なぜならゆりるちゃんの月齢を聞くとまだ妊娠するにはずいぶん早かったのです。
しかし、譲っていただいたお家の方に確認してもらったところ、雄山羊さんとずっと一緒にいたという事でした。

ヤギさんがいつから赤ちゃんを作ることができるのか?
ということですが、

性成熟は5~6か月ごろと言われています。

しかし、実際は個体差もあり3か月ではじめての発情がくるヤギさんもいます。
その為、正書では3か月過ぎたら、雄と雌を別々に飼育することをお勧めしています。
実際、3か月過ぎの男の子と女の子の子ヤギさんを一緒に飼育していたら妊娠してしまったというお話を
別の飼い主さんから伺っています。その妊娠発覚以降そこでは3か月で必ず、雄雌を分けて飼育しているそうです。

元の飼い主さんに聞いたゆりるちゃんのお誕生日とお腹の赤ちゃんの大きさの様子が、
一致せず、いつ妊娠したかは正確にはわかりませんでした。

しかしまだ、成長過程で妊娠してしまったことには間違いがありませんでした。
お父さんだと思われるヤギさんも体が大きく、難産が予想されました。

どうして、若齢での妊娠が危険かというと、
まだ体が出来上がっていないので、骨盤の広さを赤ちゃんが通れない可能性があります。
お父さんヤギの体格が大きいときはなおさらです。

ゆりるちゃんは分娩前に下痢と食欲不振が続いていたため体力がかなり消耗していました。

出産に挑むにはギリギリの状態だったのです。

分娩予定日も不明だったため、治療に通いながら分娩を待ちました。

飼い主さんの懸命の看護もあり、ようやく食欲が戻ったのですが、すぐに陣痛がはじまることとなりました。

飼い主さんから、陣痛がはじまっているというご連絡があり、現場に向かいました。

治療経過と体格を考えると通常の自然分娩で生まれない可能性も十分あるので、帝王切開の準備をしてゆりるちゃんの元へと向かいました。

到着すると、
ゆりるちゃんの陰部からは子ヤギさんの鼻先が見えていました。
これは「頭部先行」という難産の胎位となります。
ヤギでは頭から出てきてしまうと、足が引っかかり出ることができません。

はじめに通常通り頭を押して引っ込めて、
両前足を確保しました。

その次に、頭を足の間におき、後頭部に手を添えてひいて赤ちゃんを出そうと考えました。普通ならこれで赤ちゃんを無事に産ませることができます。

以前ご紹介した、
「山羊の診療Diary症例2 難産 頭からでてきた場合」
に胎位を直して生まれる映像がありますのでご参考にしてください。
https://vet-present.com/goat/268/

しかし!
今回はこれではまだ赤ちゃんを出してあげることができませんでした。
なぜなら、ゆりるちゃんの骨盤腔はとても狭くて、両足と頭が同時には通らなかったのです。

とにかく、頭と前足を骨盤腔に通さなければいけません。

そこで、まず前あしそれぞれひもをかけて一旦引っ込めます。そして、頭を参道に入れ、後頭部にひもをかけます。実際は結び目は口の中にはいっています。

産道の狭い部分を、先に頭だけ通り抜けてもらいます。その後、首の隙間から前足のひもをひっぱり両足を出しました。

ここまでで、なんとか骨盤腔から出すことができたので、あとは外陰部を通れれば無事に誕生です。

ここからの様子はこちらの映像になります。

無事に生まれることができました!!

飼い主さんのご家族のみなさんや、ご近所のみなさんに見守られて、
赤ちゃんヤギさんが生まれた時は喜びの声が上がりました。

 

この動画中で起こっていることを解説すると、

骨盤腔は通っていたものの
頭が外陰部ギリギリ通るか通らないかだったので
外陰部を手で広げました。

生まれた後に、まだおなかに赤ちゃんがいないか確認しました。
今回はいませんでした。

また、呼吸が弱かったので、
水につけてシャワーの皮膚からの刺激で呼吸を誘発するとともに、
前足を開いたり閉じたりして、肺が広がるのを補助しました。

自分でしっかりと呼吸するのが確認できたので、赤ちゃんヤギさんはタオルにくるんで少し休憩した後、お母さんのゆりるちゃんのケアをして初乳を飲ませました。

今回の症例は、
まだ体が成長途中のお母さんヤギさんで骨盤腔が狭いためとても難しい症例になりました。
今回、とても幸運なことにお母さんヤギさんも子ヤギさんも無事でしたが、、
若齢での妊娠・分娩はとても危険で、ヤギさんの体に大きな負担をかけてしまいます。
また、お母さんも子ヤギさんも助からないという悲しい結果になることもあります。
獣医師として、診療やこのような難産介助も大切ですが、このようなことが未然に防げるように
ヤギさんの性成熟などの体のことをみなさんによく知ってもらったり、日頃のごはんや暮らし方などの飼養管理についてお話していくことの大切さを改めて感じました。

大変なお産になりましたが、
はじめてお家にきたヤギさんがすでに妊娠していて分娩という事態にも関わらず、飼い主さんやご家族のみなさんの懸命のサポートによって、
お母さんヤギのゆりるちゃんが、体調を壊しながらも最後まで分娩をよく頑張ってくれました。

そして、私もこの分娩に立ち会えて、生まれた子ヤギちゃんの生命力の強さに心が震えました。

後日、赤ちゃんヤギさんのお名前はリンクに決めましたとご連絡をいただきました。
「ヒトやモノや出来事を結びつけるもの、絆」という意味が英語ではありますよね。
誕生のときにすでにおおきな感動をみんなにくれたリンクくん。
リンクくんがこれからもいろいろな人や出来事を結びつけてくれますように。

ゆりるちゃんとりんくくんにはこちらで会うことができます!
宿のホームページはこちらです。

山羊の診療Diary症例32 難産(側位側胎向)

山羊の診療Diary症例32 難産(側位側胎向)

前回、ヤギの正常な分娩についてお話しました。
今回は、お産に介助が必要だった難産の症例をご紹介します。

飼い主さんより、
「朝から陣痛がはじまっているが、赤ちゃんが出てこない。とても苦しそうなので来てほしい」との連絡が夕方に来ました。

ご連絡いただいた農家さんのところに急いで向かいました。
到着すると、母ヤギさんが「うーうー」と苦しそうにうめいていました。
陰部からは何も出ていませんでした。

すぐに手袋をして、陰部を消毒し手を入れて、内診をおこない
赤ちゃんヤギさんの向きがどうなっているか確認しました。

通常なら、前足または後ろ足が触れます。

前足が2本触れた場合は次に頭が触れます。

いわゆる逆子で。後ろ足が触れる時もあります。
逆子であせる方がいらっしゃいますが、ヤギやウシの場合は、異常ではなく、前から生まれる時よりも頭が引っかからず、するりと順調に生まれることが多いのでびっくりしないでくださいね。

注意するのは、胴体の部分で引っかかってしまうと息ができずに亡くなってしまうので、そういう事がないようよく観察して、危険な時は引っ張って介助してあげる必要があります。

前足と後ろ足の区別の仕方は肢端から2番目の関節を触って確認します。
後肢のときは飛節が触れます。前肢の時は膝関節(人間の手首の関節にあたる)が触れます。
蹄の向きだけで判断すると診断を誤るので、必ずこの関節を確認するようにしてください。
下胎向の場合(上向きで万歳している状態)前足を後足と間違えてしまう事があります。

そして、今回はどうだったかというと・・・・

なんと足も頭も触れませんでした!!
いったいどうなってたかというと・・・

こんなふうに背中が産道にきてしまって、つまっている状態でした。
名前を付けるなら側位側胎向でしょうか。

お母さん山羊は、苦しそうにうめいていて早く出してあげたいのですが、
ここは落ち着いて、どうにか赤ちゃんヤギさんが出られる胎位にもどしてあげる必要があります。

初めに、赤ちゃんを押して奥に戻しました。
産道では、狭くて向きが直せないので、何とか赤ちゃんの向きを変えるスペースを探します。

奥の少し広いスペースに押したところで片足が触れました。
足をたどっていくと頭が確認できました。
なかなか、向きが直らなかったのですが頭をさらに押して、自分の片手で前足2本を確保し、
もう片方の手で、頭の上に手を添えて、
やっと引っ張り出すことができました。

生きてる!!

呼吸を確認して、まだ赤ちゃんがいないかすぐに確認しました。
するともうひとり子ヤギさんがいました。この子もそのまま介助して無事生まれました。

その時の映像はこちらです。

陣痛開始から長い時間がかかっていたことと、体の向きが異常だったので、心配しましたが無事生まれて、
私もほっとして飼い主さんと一緒に喜びました。

お母さんヤギもすぐに赤ちゃんヤギたちをぺろぺろ舐めてお世話をしてくれました。

分娩介助はとても緊張する仕事ですが、
元気に生まれた時は本当にうれしく幸せな気持ちになります。

今回の症例のように、前あしも後ろあしも触れない場合があります。
胎児の体位が正常かどうかは目で見ることができず、手の感覚での作業になるので少し難しいです。
しかしどんな時でも、お落ち着いて、ヤギの体の構造を頭の中で思い浮かべて、まずは体がどんな向きになっているのかを確認することが大切です。現状を把握したあと、解決に向けて、体位を正常に戻すことをひとつづつ試していきます。

院長先生によく言われているのは、
「同じことをずっとしない。一つだめだったら次の手を考えること」

私も焦ると「あれ?あれ?」と同じことを繰り返しそうになります。
今回もなかなか頭がまっすぐにならず正直とても焦りましたが、いろんな角度から押したり引いたり試行錯誤し、2頭とも無事に生まれました。

赤ちゃんヤギさんたちの元気な様子をみてほっとしたときに、分娩だけでなく病気の治療でもこれは大切なことだと心から感じました。

山羊の診療note12 ヤギのお産

山羊の診療note12 ヤギのお産

ヤギの難産の症例をこの後2つご紹介したいのですが、
その前にヤギの正常な出産について今日はお話したいと思います。

ヤギの分娩は難産になることが少なく、安産であることが多いといわれています。
実際、私の住む島のヤギの飼い主さんたちから、「自然に生まれていた」「難産は見たことない」という声をききます。
しかし、診療で難産の依頼を受けることはもちろんあります。
お産の異常に飼い主さんが気がついて対処すれば子ヤギさんを助けることができるので、
まずは、正常なお産を知っておきましょう!

*正常なお産の進み方

①陣痛開始
・ごはんを食べなくなる
・うろうろする
・地面をひっかく動作 など

②1次破水

③足胞(ふうせん)が出る
風船の中に足が2本みえます

④2次破水 重要 *ここから先お産がスムーズに進まないときはすぐに連絡!!

⑤足2本と鼻が出る

⑥頭が出る

⑦体が出る

子ヤギさん誕生!!

これが正常なお産の順番です。

陣痛から1次破水まで、牛や羊は2時間から6時間程度ですがヤギでは12時間かかることもあるそうです。
(家畜改良センター山羊の飼養管理マニュアルより)
私たちの病院では牛では陣痛開始から2時間しても1次破水しない場合は連絡いただくようにしていますが、
ヤギはこのように牛に比べて12時間と陣痛の時間が長いため、ここでの異常の発見は難しいです。
しかし、陣痛が始まって、半日経過しても生まれないときや異常に苦しんでる様子など見られた際は獣医師に連絡してください。

一番注意してほしいのは2次破水してそこからお産が進まないときです。
この時は待たずにすぐに獣医師に連絡するようにしてください。
赤ちゃんが出られない体の向きだったり、体のどこか(頭や腰)が引っかかって出られないことがあります。

また、ヤギさんは双子や三つ子のことが多くあります。
正常な分娩の場合、1頭目から次の赤ちゃんは1~2時間の間に生まれます。
1頭目が生まれた後、まだおなかに入っていないか確認しましょう。
飼い主さんが確認する方法として、妊娠鑑定の時にお話しした、
「おなかを持ち上げる方法」があります。乳房の付け根を上に持ち上げておなかの中にいる子ヤギさんを確認します。
詳しくはこちらの記事を参考にしてください。

そして、ヤギの分娩は日中(早朝から夕方)が多く、夜間は少ないと言われています。
分娩に立ち会うチャンスがあった場合は、このような異常がないか確認しつつ、
そっと見守ってあげてくださいね。

山羊の診療Diary症例31 皮下膿瘍 2例

山羊の診療Diary症例31 皮下膿瘍 2例

今回の症例は・・・
皮下にできた2つの膿瘍の症例をご紹介します。

①おしりにできた皮下膿瘍
初めの症例は、下痢の治療で往診治療を依頼された際に、
おしりのところにできものがあることに気がつきました。
おしりの左側のしっぽの斜め下にピンポン大の腫瘤がありました。

初めに針を刺す検査(バイオプシー検査)を行いました。
すると、針先に白いチーズ様のものが吸引できました。
この時点で、細菌感染の膿の可能性が大きくなった為、はじめの治療は、
1週間抗生物質の投与をして経過を見ることになりました。
病院に戻り、バイオプシー検査でとれた白いチーズ様のもので塗抹を作り
、染色して顕微鏡で確認しました。はっきりとした好中球の像は見られなかったものの、
異形の細胞なども見つかりませんでした。

1週間後の再診で、下痢はすでに治り、食欲・元気も元にもどったもののできものの大きさは
そのままだったので、切開して洗浄することになりました。

やはり、白いチーズ様の膿がたくさん排出されました。
ヨード剤にて洗浄しました。
その後、飼い主さんからきれいに治りましたと連絡いただきました。

②顔にできた膿瘍(乾酪性リンパ節炎疑い)

飼い主さんが右側の耳の下が腫れていることに気が付き往診に伺いました。

女の子のヤギのくにちゃんの診療をしてみると、
右側の耳の下にピンポン玉よりやや大きめのできものができていました。

食欲、元気もあり全身状態は良好でした。

顔、特に耳の下にこのような腫瘤ができる場合、耳下リンパ節に細菌が感染して膿の入った腫瘤ができる
乾酪性リンパ節炎が疑われます。

*乾酪性リンパ節炎とは・・・
膿瘍の原因がコリネバクテリウム属菌の場合、膿瘍から細菌が血流やリンパ系を介して
体内リンパ節や内部臓器に転移すると、乾酪性リンパ節炎を引き起こします。

症例20のヤギのけんとくんも同じ場所に膿瘍ができ、この病気が疑われました。
詳しくは・・・

山羊の診療Diary 症例20 顔にできた膿瘍

くにちゃんは、体の大きなヤギさんで穏やかですが、治療が安全にできるように軽い鎮静をはじめにかけました。
次にくにちゃんを横に寝かせてから、
腫瘤をイソジンで消毒し、針を刺す検査(バイオプシー検査)をして白い膿を確認しました。

そのまま、メスで腫瘤を切開し

膿の排出と洗浄を行い

最後にヨード剤で洗浄・消毒を行いました。

抗生物質のお注射と1週間の抗生物質の処方をして経過観察をしました。

10日後です。きれいに治りました。

ヤギさんの膿瘍は、固いカッテージチーズ様のものが多く、
なかなか自然には排出されずこぶのようになってしまう場合が多いので、
見つけた時には、獣医さんに相談して洗浄や消毒、お薬の処方の相談をしてくださいね。

山羊の診療Diary症例30 乳頭の皮膚にできた膿疱

山羊の診療Diary症例30 乳頭の皮膚にできた膿疱

今回の症例は・・・
「出産した母ヤギのおっぱいが腫れているように見える今朝から、子ヤギがおっぱいを飲もうとすると足で蹴って
嫌がっているみたい。」
というご連絡がありました。

産後で乳房が痛そうという事で、乳房炎や乳頭損傷の可能性を考えながら、早速診療に伺いました。

お母さん山羊の星ちゃんは22日前に出産したとのことです。
星ちゃんのそばには元気な男の子と女の子の双子の子ヤギちゃんがいました。

飼い主さんに詳しくお話を伺うと、
昨日から、食欲はあるけれどいつもより元気がなく座っていることが多いとのことでした。

お熱を測ると、微熱でした。全身状態は良好です。
食欲も、乾草を診察中ももりもり食べていました。

乳頭の診察をしてみると、左右の乳頭にぶつぶつができていました。


針を刺してみると、白い膿が排出されました。


乳房自体は腫脹や熱感などはありませんでした。

治療は、
抗生物質を1週間投与、
そして、乳頭の刺激を減らすため、母ヤギさんから子ヤギさんを離す時間を作ってもらい、その間は人工哺乳をしていただくことにしました。

乳頭にいくつもの膿疱ができるのはヤギそして牛でも経験がないため、
詳しい病態については不明なままでしたが、まずは膿疱の基本の治療からはじめて見ることにしました。
乳頭の子ヤギさんの哺乳などで小さな傷ができ化膿してできた膿疱なら抗生剤の投与で改善されるのではと考えています。
しかし、基礎疾患やほかの原因の場合は、哺乳が維持できるような違う治療も考えなければと思っています。
人では無菌性の膿疱もあるようです。
このような症例を経験されている方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてください。

また経過はご報告したいと思います。