Category Archives: ヤギの診療記録と飼育方法

山羊の診療Diary症例42 離乳後の乳房炎

山羊の診療Diary症例4 2 離乳後の乳房炎

今回の症例は・・・
「離乳後、片方の乳房が腫れていて元気がない」というご連絡がきました。
お話を伺うと、離乳後1か月ほど経過しているという事でした。
食欲・元気はあるものの、熱を測ると発熱しており、左側の乳房が拳大のしこりがあり、腫脹している状態でした。


乳を搾ってみると、透明の液体に時々クリーム状のものが詰まりながら出てくる状態でした。

写真 乳頭の先から白いクリーム状のものがでてきました。

これらの症状から乳房炎を疑い治療を開始しました。

ヤギの乳房はどんな構造?
ヤギの乳房は2つ(1対)あり、それぞれ乳区が分かれ独立しています。
乳房内には、上部に乳を産生する多数の乳腺胞があり、その下に乳をためておく乳腺槽があり、
そこから繋がる乳首にも乳をためておく乳頭層があります。

乳房炎とは?

乳房に細菌などの病原菌が侵入し乳房に炎症を起こします。
乳区が独立しているため、病原菌の感染はそれぞれの乳頭からの侵入で起こり左右間をまたいでの感染はありません。
*症状
乳房の腫脹、硬結が見られ熱感を伴う事もあります。また乳汁にも変化が見られます。
(乳汁が薄くなる、ブツブツとした塊が出てくる、クリーム状になるなど)
大腸菌の感染による乳房炎の場合、内毒素のエンドトキシンにより全身症状(元気食欲がなくなる・発熱・起立不能など)があらわれ、
急性に経過が進み乳房の壊死や死亡することがあります。

治療は乳房洗浄と抗生物質の全身投与を行い、熱が下がったところで乳房内に抗生物質の投与を数日間しました。
しこりは残ったものの、乳房の腫脹が減り、全身状態も良くなったので終診としました。

乳房洗浄の方法
①乳を搾る。
②生理食塩水に抗生物質、抗炎症剤を加えて、洗浄液を作る。
③点滴のラインをつけ留置針の外芯のプラスチックの針の部分を乳頭から差し込み洗浄液を乳房内に入れる。
④その後、乳房をやさしくマッサージしながら洗浄液を絞って出す。
⑤②と③を数回繰り返す

はじめに乳を搾ります

乳房洗浄中です

先端はこんな感じです

飼い主さんにできること
・飼育場所を清潔に保つ。
・清潔で適切な搾乳をする。
・乳房炎に罹患した際は、獣医師の指示のもと頻回に搾乳する。
・乳房炎の母ヤギの乳は子ヤギに与えないで人工哺乳をする。

特に、乳房炎の場合は、飼い主さんに乳を搾っていただくことが重要になります。
乳房の中は、体温で温かく、ミルクという栄養があるので細菌が感染すると培養器のように
なってしまいます。
今回も初めは、飼い主さんが一人で難しいという事で、
通いながら一人でも搾乳できるようにヤギの保定の仕方から練習しました。
無事、できるようになり、ヤギさんも元気になりほっとしました。
乳房炎で腫れている乳房の搾乳はヤギが痛がる場合があり、飼い主さんも大変だと思いますが、
これも治療の一環なので、担当の獣医師と相談しながら頑張ってくださいね。

山羊の診療note14 ヤギの角 ~除角について~

ヤギの角ってどんな構造かご存じですか?
ウシ科であるヤギの角は角芯と呼ばれる骨の突起を角鞘という鞘が覆っています。
角芯は頭蓋骨の一部の角突起で角鞘はケラチンというタンパク質でできています。
つまり・・・
ヤギの角は骨にカバーが付いているような構造になっています。
そして、角は一生の間、生え変わることなく伸び続けます。

ヤギのくにちゃんの立派な角!

除角の方法は、デホーナーを用いる方法とのこぎりを用いる方法があります。
しかし、どちらの方法も除角は強い痛みを伴います。
また、出血や化膿、破傷風、脳に障害を与えることやショック死などを起こす場合があります。
痛みを軽減し何かあった際は適切な処置ができるよう、獣医師の処置をお勧めします。

・デホーナーを使用する方法
生後7~10日で実施します。子ヤギを保定し、局所麻酔後、熱したデホーナーを角芽部に強く押し当て焼き切ります。
その後、電気ごてで除角部の周りを焼き皮膚をはがします。除角部に抗生物質の軟膏を塗布し、抗生物質、破傷風血清を注射します。
この方法は頭蓋骨にデホーナーをあてるので、加熱しすぎると脳に障害を与え、
ショック死することがあるので子ヤギの様子を観察しながら注意深く行う必要があります。

・のこぎりを使用する方法
角がすでに伸びているヤギの除角をする際は、のこぎりによる切断になります。
しかし、この方法はヤギの角の構造からもわかる通り、骨を切るという事になります。
出血や痛みを伴うので、鎮静や局所麻酔を行い、のこぎりで切断後、電気ごてで止血を行います。
その後、抗生物質、破傷風血清の注射を行います。

ヤギの分娩について

ヤギの分娩について、知っておかなければいけない事。

https://anchor.fm/vetinc./episodes/ep-e15b910

以前ご質問いただいた内容を改めて。音声にてまとめてみたいと思います。

今回も中田さんとの対談です。

山羊の診療note 13 破傷風

みなさん、破傷風という病気はご存じですか?
人の破傷風はワクチンのおかげで今ではだいぶ少ない病気になりました。
地域性があるので、この病気をみないところもありますが、
今も存在する病気です。
私の住んでいる島は、破傷風常在地域です。
普段は牛の診療を主に行っていますが、牛では破傷風は年に何度か診療します。

ヤギも破傷風にかかる動物です。
その為、ヤギの診療でもいつも頭の片隅にこの病気はあります。
ヤギの去勢手術などの際は破傷風の血清を注射してから行っています。

そして、人もかかる病気で、少なくなったとはいえ、治療が困難な病気なので
私自身も破傷風トキソイドの注射(ワクチン)を接種して診療にあたっています。
人の破傷風についてはこちらを参照してください。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/466-tetanis-info.html

*破傷風ってどんな病気?
破傷風菌が傷口から体に入ることによって感染します。
破傷風菌は土の中など環境中にいる菌で、そして空気のないところで増えます(嫌気性菌)
土のついた傷口のなかの酸素のないところで増えて毒素を作ります。

破傷風菌の作る毒素は、「神経のはたらきを抑制する神経」に作用します。
すると筋肉がずっと収縮し続けて、筋肉のけいれんをひきおこします。

(基礎知識)
・筋肉の収縮・・・神経からの伝達でおこなわれます
・けいれん・・・自分の意思とは無関係に起こる筋肉の収縮のこと

咬筋、舌筋、嚥下筋に影響があると→開口困難、咀嚼困難および嚥下困難 (口が開かない、飲み込めない)
眼筋および鼻筋に影響があると→瞬膜突出、鼻翼開帳

*飼い主さんが気が付く症状

元気がない。ふらふらしている。歩き方がおかしい。
食欲がない。口が開かない。涎が出る。痙攣する。

このような症状が出る前に、手術や除角、外傷などがあった
またはお産後(母ヤギの胎盤停滞)、赤ちゃんヤギ(おへそからの感染)などが疑われます。
(潜伏期間は通常2~5日、1~2週間の時もある)
しかし、釘などを踏んだりなどの、飼い主さんが気が付かない小さな傷でも感染する場合があるので、
実際は発症した時どこ傷から感染したかわからないことも多いです。

*実際の診療
私がこれまで経験した牛のお話をします。

実際の現場では、歩き方が破傷風特有のものであったりする場合はすぐにわかりますが、
たいていの場合、他の病気を除外しながら破傷風の症状がないか診察することになります。
特に、「口が開かない」は破傷風を疑うポイントになります。
飼い主さんからは、なんとなく元気がない、様子がいつもとなんとなく違う、
えさを食べないというお話を伺うことが多いです。

*治療
残念ながら治癒率は低い病気になります。
抗生物質の連続投与や対処療法を行って経過をみます。

最後に大切なこと
この病気は人獣共通感染症であり、見つけた時は県知事に届出し、適切に処分しなければなりません。疑わしい時は、獣医師及び家畜保健衛生所に連絡してくださいね。

さらに詳しく知りたい方は・・・
http://nichiju.lin.gr.jp/tksn/deer/deer21.html

余談
私は小学生の頃に「震える舌」という小さい女の子が破傷風にかかってしまう映画を見て、破傷風を知りました。その映画が小さい頃の私にはとても恐ろしく、映画を見た後、しばらくけがをすることがとてもこわかったのを今でも覚えています。

山羊の診療note6-② ヤギの去勢について (精巣の解剖学)

以前、山羊の診療note6山羊の診療note6でヤギの去勢についてお話しましたが、
今回は、精巣の構造を詳しく見ていきたいと思います。

精巣は左右別々に陰嚢という袋に2つ入っています。
陰嚢中隔で左右に分かれています。

陰嚢を切開すると精巣は精巣鞘膜という膜に包まれています。

精巣鞘膜をメスで切ってめくるとこのような状態になります。

精巣鞘膜は一部、精巣上体尾部に付着しているのでここをはがすと
きれいに露出することができます。

*陰嚢
ヤギの陰嚢は身体の外に垂れ下がっていて、精巣が縦に収まっています。
牛や羊も同じスタイルです。

ちなみに・・・
猫や犬は体の外にありますが垂れ下がっていません。
イルカは身体の中に精巣があります。

精巣が体の外側に近い場所にあるのは、精子が作られるときの温度は身体の中の温度より
低めが良いからです。

体の中にあるイルカは大丈夫なのかな?と調べたところ、
背びれの静脈の温度が低くこの低い温度の静脈血が精巣のまわりにある静脈にきて冷やしているそうです。
生き物の身体の仕組みってすごいですね。

*精巣
精子と雄性ホルモンのテストステロンを作成しています。

ヤギの精巣は体の大きさに対して重量があります。

牛は精巣1つが300g~400g
ヤギは145g~150g

体の大きさはずいぶん違うのにヤギはおっきめなんです!
雄ヤギさんの足の間に存在感たっぷりにぶら下がっています。

*精巣上体
精巣で作られた精子はまだ未成熟で、精巣上体の中で成熟していきます。
精巣上体は未成熟な精子を運搬しながら濃縮・成熟・貯留を行います
頭部・体部・尾部の3つに分かれています。

*精管

精子は精巣→精巣上体→精管と移動していきます。

山羊の診療Diary症例41 子ヤギの深部膿瘍 (ドレーン留置)

山羊の診療Diary症例4 1 子ヤギの深部膿瘍

今回のお話は・・・

「子ヤギのあしからしばらくの間、膿が出続けている。消毒したけど治らない」
とのご連絡で診療に伺いました。

ヤギ舎に伺うと、かわいい子ヤギさんがいました!

しかし、あしからはこの通り、膿がでていました。

 

触って詳しく見てみると、膿が出ているところに穴があり足全体が腫れていました。
皮膚の下の一部ではないようだったので、麻酔をかけて治療することになりました。

まずは膿が出ている穴の周りをきれいに剃毛します。


そして、傷口を良く洗います。


カテーテルを入れるとかなり深部まで化膿していることがわかりました。
ここまで深いと1度の洗浄や、抗生物質の投与だけでは傷がきれいにならないので
ドレーンを入れることにしました。

ドレーンは栄養カテーテルを切って作成しました。
栄養カテーテルの先端を一度結び、その上に切り込みを入れます。
それを、排膿している穴から挿入し、奥まで入ったら、糸でとめ留置しました。

このままでは、すぐに取れてしまうので、
傷口の保護も含めて、ビニールで被膜しテーピングを行いました。

カテーテルの反対側の先端は出しておいて、ここからPVPヨード液で
1週間、飼い主さんに傷の洗浄をお願いしました。

1週間後、腫れはひいています。自壊創はやや改善が見られます。

2週間後には排膿もなくなり、腫れもさらに改善したのでドレーンを外すことができました。

左右差もありません。歩行も正常にできていて、一安心です。抗生物質の注射をし、飲み薬を処方して診療を終えました。

今回は比較的早くきれいになりましたが、
皮下だけでなく腱や関節にまで膿瘍が及んでしまうと治療が困難になります。
あしのけがや関節炎で立てないというのは、ヤギさんにとって致命的なのです。
傷が深い場合や、足全体が腫れている場合は、早めに治療をお願いしてくださいね!

山羊の診療Diary症例40 子ヤギの上腕骨の骨折 (固定の失敗からの治癒)

山羊の診療Diary症例40 子ヤギの上腕骨の骨折 (固定の失敗からの治癒)

今回の症例は・・・
「子ヤギの男の子が牧場の柵に前あしを挟んでいて、
助けたらその後、前あしをぶらぶらしているから診てほしい」

というご連絡が来ました。

さっそく、牧場に伺ってみると、

左の前あしをあげたまま走り回る子ヤギさんを見つけました。
どうやら左の前あしを地面に着けないようです。

子ヤギさんを捕まえて、左の前あしを触診してみました。
足先から触診をします。
蹄問題なし。
中手骨、関節大丈夫。前腕骨も問題なし。
そして・・・
上腕骨を触ったとき、折れているまたはひびが入っている部分が
明らかに触診でわかりました。


骨は皮膚から出ておらず、開放性の骨折ではありませんでした。

動物病院でしたら、レントゲンを撮れば詳細がわかると思いますが、
往診での診療の場合、ここで骨折の治療にはいります。
(参考 山羊の診療Diary症例35 中手骨の骨折)

はじめに「オルテックス」というギブス用包帯を巻きます。
これは、ふわふわした綿のようなもので、
ポリエステルとレーヨンの混紡で、肌触り・吸湿性に優れていてクッションの役目をします。
また、手で簡単に切れるので使いやすく、色が青いのでギブスをとる際に目印になります。

次に「スコッチキャスト」を巻いてギブス固定をします。
これは水で硬化させるキャスティングテープです。
素材はガラス繊維にポリウレタン樹脂を含浸させたもので、水に浸すと固まります。
石膏ギブスのような固定ができます。

ベタベタと接着するので必ず手袋をつけて行います。
そして、袋から出すと、どんどん固まってきてしまうので時間との勝負。
巻き終わったら、お水をつけて完全に硬化させます。

感染予防のために抗生物質を最後に打ちました。
そして、ケージに入れて、安静状態で様子を1週間様子を見ることになりました。

次の日、診てみるとまだあしが地面についていません。
おまけにギブスの上がすれている様子でした。
テープで補強して様子を見ました。

しかし、このまま1週間してもあしが地面についていません。
そこで、院長に再診をお願いしました。

私の、巻き方が甘くて、一番固定したい骨折の部分がしっかり固定されていないことが判明。
大、大、大反省です。
強く巻きすぎて、血流が阻害されて浮腫がおこるのを心配しすぎてしまいました。
骨折部位が固定できてないからいつまでたっても骨折部位が良くならずあしも地面に着けない状態になっていました。

一度ギブスを外して、院長に巻きなおしてもらいました。
前膝の上、なるべく高い位置までギプスを巻き、その上から防汚のためテープを巻いています。

2週間後外してみると、骨折部位は接合し、前からも横からもわかるくらい太くなっていました。

ギブスを巻きなおしてから地面にあしが着くようになり、外してからしばらく経つと元気に走り回れるようになりました。

単純骨折の場合は、骨折部位が動かないように固定することが大切です。もちろん皮膚の血流を阻害しないように注意することも同時に大切です。
子ヤギの場合、成長期でもあり骨も付きやすく予後が良いようです。
ただし、私のように巻きが甘いとくっつくものもくっつきません・・・
とてもとても反省する症例になりました。

山羊の診療Diary症例39 角結膜炎(ウシとヤギ)

山羊の診療Diary症例39 角結膜炎(ウシとヤギ)

今回の症例は・・・
ウシさんのお話ですが、以前同じ症状の子ヤギさんがいて、
まだお話していなかったので一緒にご紹介したいと思います。

先日、妊娠鑑定に伺った牛農家さんで、
「目が腫れて、目やにが出ているから診てほしい」
との依頼を受けました。

お話を伺うと、昨日から目が開かず痛そうにしていて、
食欲元気は変わらないというお話でした。

早速、ウシさんを繋いで診てみると、
結膜が上も下も腫れて、目やにがでて目がくっついていました。
水でよく洗い、まわりの目やにや汚れをとって目を開けると、
角膜が白く濁っていました。

結膜とは・・・
上はまぶたの裏の赤いところです。
下はあっかんべーしたときの赤いところです。

角膜とは・・・
目の表面の透明なところです。光を目に取り込む役割をしています。
透明で傷つきやすくそして痛みを強く感じる組織です。
角膜の傷が深く一番下の角膜実質まで傷がつくと「角膜潰瘍」という状態になり
この時は、目をしばらく閉じておく手術が必要な時があります。

角結膜炎の原因としては、
一緒にいる牛と遊んでいるうちに目をつついてしまったり、草や床材が目に入ったり、
かゆくて柱や柵で目をかいてしまったり、物理的な刺激で傷がつき感染がおこり
炎症を起こしてしまう事があげられます。

しかし、ウシさんには伝染性のの角結膜炎もあります。
モラクセラ(Moraxella bovis)という細菌で起こる「伝染性角結膜炎(ピンクアイ)」
やウシヘルペスウイルス1型の感染によるIBR(ウシ伝染性鼻気管炎)という病気です。

今回のウシさんは、眼は結膜炎、角膜の表面の白濁、
全身状態は良好でほかのウシさんへの感染もなかったので
抗生物質の注射をして、主に目の局所的な治療から開始しました。

目をはじめにお水で目を洗って汚れを落としました。
そして、抗生物質入りの点眼剤を作って点眼しました。
1日に5~6回の点眼をお願いして1週間後、再診としました。

1週間後、お電話をして様子を伺うと
「目やにもでなくなって、良くなってきているよ!」
というお話でした。

経過を見に伺うと、目がすっきり開いているウシさんがいました。

 

結膜の腫れがなくなり、あと少しで角膜の白いところもきれいになりそうです。

以前、診察した同じような症状の子ヤギさんの写真です。

この時も、同じように目の洗浄と
飼い主さんが、点眼をがんばってくれて、2週間でよくなりました。

山羊の伝染病で角結膜炎での病気はないかと調べたところ
「伝染性無乳症」という病気がありました。沖縄県での発生のようです。
関節炎や他の全身症状も見られるようなので、眼だけの症状ではないときは注意が必要ですね。

今回のような、全身症状のない角結膜炎の場合、
水で目やにや汚れを洗浄して、
1日5~6回の点眼をがんばると2週間ぐらいで改善することが多いです。

ですが!簡単なことではないのです。
1日5~6回の点眼をおねがいしますが、
毎日実行するのはとても大変だと思います。
今回の症例もそうですが、
農家さんや飼い主さんのがんばりで、
このうしさんもやぎさんも改善しました。

1つの病気が治るとき、動物の生命力。
そして、
飼い主さんや農家さんができること。獣医さんができること。
それらが合わさったときに光が見えると私は感じています。

山羊の診療Diary症例34 熱中症&呼吸困難(鼻腔拡大手術)再手術

山羊の診療Diary症例34 熱中症&呼吸困難(鼻腔拡大手術)再手術 ③

今回のお話は、以前「山羊診療Diary症例34」でご紹介した、
オス山羊のたつくんの再手術のお話です。

病院のある南の島は、4月の晴れの日は、夏のような暑さになります。
そんなお天気が続いたある日、

「たつくんがまた苦しそうにしていて、息をしているときに音がする」

という連絡が来ました。

そこで、たつくんのヤギ舎に行ってみると、
前回と同じように鼻からいびきのような音がして苦しそうなたつくんがいました。
前回の手術でしっかりあいた鼻の穴が再び狭くなっていました。
それでも、冬の間は問題なく元気に過ごしていたそうですが、
熱くなって再び症状が出てきてしまったようです。
ガーガーとたつくんから音が聞こえます。
そこで、症状を少しでも軽くするために再手術をすることになりました。

今回さらに感じたことは、麻酔をかけても鼻を広げても相かわらずガーガーと音が聞こえたことから、
もしかすると、鼻の穴の大きさの問題だけでなく、
犬で見られる気管虚脱や軟口蓋過長症など身体の中の問題があるのかなということも考えました。

参考までに・・・

*気管虚脱とは・・・
気管が押しつぶされて呼吸が上手くできなくなる病気

子牛では気管虚脱の症例の論文がありました。

「子牛の気管虚脱の3例:外科的矯正手術の試みと病理所見
小笠原 俊実, 河原 智, 星 史雄, 山崎 憲久, 福村 俊美, 小笠原 成郎」

*軟口蓋過長症とは・・・
軟口蓋が長くなり過ぎてしまい、気管の入り口である喉頭をふさいでしまう病気

子牛では軟口蓋の異常の症例の論文がありました。

「軟口蓋背方変位(dorsal displacement of soft palate)と診断された牛の1例
檜山雅人, 田浦保穗, 高木光博, 谷口雅康, 原殿花織, 佐々木直樹」

いずれにしても、レントゲンや内視鏡の検査が必要になります。

それでは、たつくんに戻って、
たつくの手術前の写真 (鼻の穴が閉じています)

手術後の写真 (鼻の穴が開きました)

今回の術式はこのような方法にしました。
1.鼻の上の皮膚を切開する

2.縫い縮めるように皮膚の下をバッテンに縫う(左右)

3.鼻の穴の上の皮膚が持ち上がり鼻の穴が大きく開く。

今回、症状を改善するための手術となりましたが、もし気管虚脱や軟口蓋に異常がある場合、気を付けることを考えてみました。
(犬の気管虚脱、軟口蓋過長症を参考)

・太らないようにする(太ると気管のまわりに脂肪がついてしまいます)
・高温の環境に気をつける(風通しを良くする)
・激しい運動を避ける
・きつい首輪をしない

幸い、たつくんは麻酔から覚めると、いびきのような呼吸音は消えました。
しかし、これからが夏本番。
たつくん、食べすぎ注意!!そして涼しい環境を飼い主さんに整えてもらって元気に過ごしてね。

山羊の診療Diary症例38 耳のむくみ

山羊の診療Diary症例38 耳のむくみ

今回の症例は・・・
「子ヤギのチャーリーの耳が腫れているからみてほしい」
というご連絡がありました。
実はこの子ヤギのチャーリーくんは「山羊の診療Diary症例15 子山羊の下痢・沈うつ」
のゆきぽよちゃんが産んだ子ヤギさんです。

小さくてかわいかったゆきぽよちゃんがすっかり大きくなって、
先月、ふたごの子ヤギさんを産みました。
子ヤギの女の子がこゆきちゃん、男の子がさんがチャーリくんです。
(実はこの分娩がとても大変だったのですが・・・このお話はまたあらためて!!)

診療を受けた時、みんなで遊んでいるうちに
耳をけがして化膿してしまったのかな・・・
と考えながら診療にむかいました。

到着して、飼い主さんに様子を伺うと、
昨日から何となく元気がなくふらついているように感じる。
食欲もミルクは飲んでいるけどいつもより少ない。
そして耳が腫れているのに今日気がついた、昨日はいつもと違うところに繋いであった。
一緒にいたこゆきちゃんは元気ということをお話してくれました。

そして、チャーリーくんをつかまえて、診察をはじめました。
歩いている様子は、私が見た時はふらつきはなく正常な歩様でした。
(つかまるまで走っていました)
そして、耳を診てみると
腫れているというか耳全体がむくんでいました。
指で押すとあとが残ります。
(夕方むくんだ足のよう。低反発枕のような感触)


片耳だけでなく両耳同じ症状でした。
両耳とも外傷はなく、耳の中も外耳炎はなくきれいでした。
全身状態は、熱は平熱で栄養状態もよく、聴診、聴打診でも異常は見られず、便も正常でした。

うーん。この段階で正直原因はわからず診断はつけられませんでした。
往診での臨床の現場にいると、すぐに診断がつかないこともたくさんあります。
それでもできる検査をして、また治療の反応で症状の経過を見て診療を進めます。
でも、どうしても見逃してはいけないことがあります。
今回、院長から助言をいただいて、いろいろな可能性を考えて治療を決めました。

考えられることとチャーリーくんの症状を合わせていきました。
・ケガをして化膿して耳が腫れている→耳に傷はない、熱がない。
・外耳炎からの耳血腫→外耳炎はなし
・栄養不良からのむくみ→栄養状態は良好
・アレルギー、中毒→いつもと違う草を食べた可能性はある。目の周りなどの腫れや下痢はなし。
・水が溜まっていたら針を刺してバイオプシー検査→全体的にむくんでいるため不可。

という事で、診断はつきませんでしたが、まずは炎症をおさえる薬を使って症状が治まるかを見ることにしました。その際、感染しやすくなるため、抗生物質を併用し、また、全身状態として、飼い主さんからふらつきの問診を得ていたので、麻痺の治療として駆虫剤の投与を行いました。

状態が悪化するようなら、すぐにご連絡いただくことにして、
薬の効果がなくなる1週間後に再診としました。

そして、再診してみると・・・
すっかり、耳は元に戻り、元気になっていました。


飼い主さんにお話を伺うと次の日には両耳とも腫れがひいてきたということでした。

チャーリーくんがが元気になってほっと一息。
実はチャーリーくんのお家は海の見えるcafeなので、飲み物をいただくことにしました。
看板ヤギのお母さんのゆきぽよちゃんもでてきてくれました!
えーゆきぽよちゃん頭突きするの?!

とにかく元気になって症状もおさまってほっとした気持ちと、
はっきりと特定できなかった獣医としての悔しさを感じながらヤギさんたちと海をみていました。

シークワサーレモンスカッシュ(コーヒーもおいしいですよ!)

なかよしこゆきちゃんとちゃーりーくん

「診断がつく」ということで私は個人的にとても救われたことがあります。
診断がつくことで辛い現実もありますが、事実がわかり苦しみをこえて受け入れた時には心を決め次に進むことができます。
だから、治療は結局一緒でも、良くも悪くも結果が一緒でも、なるべく診断をしたい。
でも、一番大切なことは、目の前の動物や飼い主さん。
病気ばかりをみて動物や飼い主さんがみえなくなってしまわないようにという事をあらためて心に感じた診療になりました。