Monthly Archives: May 2021

山羊の診療Diary症例39 角結膜炎(ウシとヤギ)

山羊の診療Diary症例39 角結膜炎(ウシとヤギ)

今回の症例は・・・
ウシさんのお話ですが、以前同じ症状の子ヤギさんがいて、
まだお話していなかったので一緒にご紹介したいと思います。

先日、妊娠鑑定に伺った牛農家さんで、
「目が腫れて、目やにが出ているから診てほしい」
との依頼を受けました。

お話を伺うと、昨日から目が開かず痛そうにしていて、
食欲元気は変わらないというお話でした。

早速、ウシさんを繋いで診てみると、
結膜が上も下も腫れて、目やにがでて目がくっついていました。
水でよく洗い、まわりの目やにや汚れをとって目を開けると、
角膜が白く濁っていました。

結膜とは・・・
上はまぶたの裏の赤いところです。
下はあっかんべーしたときの赤いところです。

角膜とは・・・
目の表面の透明なところです。光を目に取り込む役割をしています。
透明で傷つきやすくそして痛みを強く感じる組織です。
角膜の傷が深く一番下の角膜実質まで傷がつくと「角膜潰瘍」という状態になり
この時は、目をしばらく閉じておく手術が必要な時があります。

角結膜炎の原因としては、
一緒にいる牛と遊んでいるうちに目をつついてしまったり、草や床材が目に入ったり、
かゆくて柱や柵で目をかいてしまったり、物理的な刺激で傷がつき感染がおこり
炎症を起こしてしまう事があげられます。

しかし、ウシさんには伝染性のの角結膜炎もあります。
モラクセラ(Moraxella bovis)という細菌で起こる「伝染性角結膜炎(ピンクアイ)」
やウシヘルペスウイルス1型の感染によるIBR(ウシ伝染性鼻気管炎)という病気です。

今回のウシさんは、眼は結膜炎、角膜の表面の白濁、
全身状態は良好でほかのウシさんへの感染もなかったので
抗生物質の注射をして、主に目の局所的な治療から開始しました。

目をはじめにお水で目を洗って汚れを落としました。
そして、抗生物質入りの点眼剤を作って点眼しました。
1日に5~6回の点眼をお願いして1週間後、再診としました。

1週間後、お電話をして様子を伺うと
「目やにもでなくなって、良くなってきているよ!」
というお話でした。

経過を見に伺うと、目がすっきり開いているウシさんがいました。

 

結膜の腫れがなくなり、あと少しで角膜の白いところもきれいになりそうです。

以前、診察した同じような症状の子ヤギさんの写真です。

この時も、同じように目の洗浄と
飼い主さんが、点眼をがんばってくれて、2週間でよくなりました。

山羊の伝染病で角結膜炎での病気はないかと調べたところ
「伝染性無乳症」という病気がありました。沖縄県での発生のようです。
関節炎や他の全身症状も見られるようなので、眼だけの症状ではないときは注意が必要ですね。

今回のような、全身症状のない角結膜炎の場合、
水で目やにや汚れを洗浄して、
1日5~6回の点眼をがんばると2週間ぐらいで改善することが多いです。

ですが!簡単なことではないのです。
1日5~6回の点眼をおねがいしますが、
毎日実行するのはとても大変だと思います。
今回の症例もそうですが、
農家さんや飼い主さんのがんばりで、
このうしさんもやぎさんも改善しました。

1つの病気が治るとき、動物の生命力。
そして、
飼い主さんや農家さんができること。獣医さんができること。
それらが合わさったときに光が見えると私は感じています。

山羊の診療Diary症例34 熱中症&呼吸困難(鼻腔拡大手術)再手術

山羊の診療Diary症例34 熱中症&呼吸困難(鼻腔拡大手術)再手術 ③

今回のお話は、以前「山羊診療Diary症例34」でご紹介した、
オス山羊のたつくんの再手術のお話です。

病院のある南の島は、4月の晴れの日は、夏のような暑さになります。
そんなお天気が続いたある日、

「たつくんがまた苦しそうにしていて、息をしているときに音がする」

という連絡が来ました。

そこで、たつくんのヤギ舎に行ってみると、
前回と同じように鼻からいびきのような音がして苦しそうなたつくんがいました。
前回の手術でしっかりあいた鼻の穴が再び狭くなっていました。
それでも、冬の間は問題なく元気に過ごしていたそうですが、
熱くなって再び症状が出てきてしまったようです。
ガーガーとたつくんから音が聞こえます。
そこで、症状を少しでも軽くするために再手術をすることになりました。

今回さらに感じたことは、麻酔をかけても鼻を広げても相かわらずガーガーと音が聞こえたことから、
もしかすると、鼻の穴の大きさの問題だけでなく、
犬で見られる気管虚脱や軟口蓋過長症など身体の中の問題があるのかなということも考えました。

参考までに・・・

*気管虚脱とは・・・
気管が押しつぶされて呼吸が上手くできなくなる病気

子牛では気管虚脱の症例の論文がありました。

「子牛の気管虚脱の3例:外科的矯正手術の試みと病理所見
小笠原 俊実, 河原 智, 星 史雄, 山崎 憲久, 福村 俊美, 小笠原 成郎」

*軟口蓋過長症とは・・・
軟口蓋が長くなり過ぎてしまい、気管の入り口である喉頭をふさいでしまう病気

子牛では軟口蓋の異常の症例の論文がありました。

「軟口蓋背方変位(dorsal displacement of soft palate)と診断された牛の1例
檜山雅人, 田浦保穗, 高木光博, 谷口雅康, 原殿花織, 佐々木直樹」

いずれにしても、レントゲンや内視鏡の検査が必要になります。

それでは、たつくんに戻って、
たつくの手術前の写真 (鼻の穴が閉じています)

手術後の写真 (鼻の穴が開きました)

今回の術式はこのような方法にしました。
1.鼻の上の皮膚を切開する

2.縫い縮めるように皮膚の下をバッテンに縫う(左右)

3.鼻の穴の上の皮膚が持ち上がり鼻の穴が大きく開く。

今回、症状を改善するための手術となりましたが、もし気管虚脱や軟口蓋に異常がある場合、気を付けることを考えてみました。
(犬の気管虚脱、軟口蓋過長症を参考)

・太らないようにする(太ると気管のまわりに脂肪がついてしまいます)
・高温の環境に気をつける(風通しを良くする)
・激しい運動を避ける
・きつい首輪をしない

幸い、たつくんは麻酔から覚めると、いびきのような呼吸音は消えました。
しかし、これからが夏本番。
たつくん、食べすぎ注意!!そして涼しい環境を飼い主さんに整えてもらって元気に過ごしてね。

山羊の診療Diary症例38 耳のむくみ

山羊の診療Diary症例38 耳のむくみ

今回の症例は・・・
「子ヤギのチャーリーの耳が腫れているからみてほしい」
というご連絡がありました。
実はこの子ヤギのチャーリーくんは「山羊の診療Diary症例15 子山羊の下痢・沈うつ」
のゆきぽよちゃんが産んだ子ヤギさんです。

小さくてかわいかったゆきぽよちゃんがすっかり大きくなって、
先月、ふたごの子ヤギさんを産みました。
子ヤギの女の子がこゆきちゃん、男の子がさんがチャーリくんです。
(実はこの分娩がとても大変だったのですが・・・このお話はまたあらためて!!)

診療を受けた時、みんなで遊んでいるうちに
耳をけがして化膿してしまったのかな・・・
と考えながら診療にむかいました。

到着して、飼い主さんに様子を伺うと、
昨日から何となく元気がなくふらついているように感じる。
食欲もミルクは飲んでいるけどいつもより少ない。
そして耳が腫れているのに今日気がついた、昨日はいつもと違うところに繋いであった。
一緒にいたこゆきちゃんは元気ということをお話してくれました。

そして、チャーリーくんをつかまえて、診察をはじめました。
歩いている様子は、私が見た時はふらつきはなく正常な歩様でした。
(つかまるまで走っていました)
そして、耳を診てみると
腫れているというか耳全体がむくんでいました。
指で押すとあとが残ります。
(夕方むくんだ足のよう。低反発枕のような感触)


片耳だけでなく両耳同じ症状でした。
両耳とも外傷はなく、耳の中も外耳炎はなくきれいでした。
全身状態は、熱は平熱で栄養状態もよく、聴診、聴打診でも異常は見られず、便も正常でした。

うーん。この段階で正直原因はわからず診断はつけられませんでした。
往診での臨床の現場にいると、すぐに診断がつかないこともたくさんあります。
それでもできる検査をして、また治療の反応で症状の経過を見て診療を進めます。
でも、どうしても見逃してはいけないことがあります。
今回、院長から助言をいただいて、いろいろな可能性を考えて治療を決めました。

考えられることとチャーリーくんの症状を合わせていきました。
・ケガをして化膿して耳が腫れている→耳に傷はない、熱がない。
・外耳炎からの耳血腫→外耳炎はなし
・栄養不良からのむくみ→栄養状態は良好
・アレルギー、中毒→いつもと違う草を食べた可能性はある。目の周りなどの腫れや下痢はなし。
・水が溜まっていたら針を刺してバイオプシー検査→全体的にむくんでいるため不可。

という事で、診断はつきませんでしたが、まずは炎症をおさえる薬を使って症状が治まるかを見ることにしました。その際、感染しやすくなるため、抗生物質を併用し、また、全身状態として、飼い主さんからふらつきの問診を得ていたので、麻痺の治療として駆虫剤の投与を行いました。

状態が悪化するようなら、すぐにご連絡いただくことにして、
薬の効果がなくなる1週間後に再診としました。

そして、再診してみると・・・
すっかり、耳は元に戻り、元気になっていました。


飼い主さんにお話を伺うと次の日には両耳とも腫れがひいてきたということでした。

チャーリーくんがが元気になってほっと一息。
実はチャーリーくんのお家は海の見えるcafeなので、飲み物をいただくことにしました。
看板ヤギのお母さんのゆきぽよちゃんもでてきてくれました!
えーゆきぽよちゃん頭突きするの?!

とにかく元気になって症状もおさまってほっとした気持ちと、
はっきりと特定できなかった獣医としての悔しさを感じながらヤギさんたちと海をみていました。

シークワサーレモンスカッシュ(コーヒーもおいしいですよ!)

なかよしこゆきちゃんとちゃーりーくん

「診断がつく」ということで私は個人的にとても救われたことがあります。
診断がつくことで辛い現実もありますが、事実がわかり苦しみをこえて受け入れた時には心を決め次に進むことができます。
だから、治療は結局一緒でも、良くも悪くも結果が一緒でも、なるべく診断をしたい。
でも、一番大切なことは、目の前の動物や飼い主さん。
病気ばかりをみて動物や飼い主さんがみえなくなってしまわないようにという事をあらためて心に感じた診療になりました。

山羊の診療note 12-4 正常な胎位

「ヤギの友43号」に寄稿した「ヤギのお産」を改めてこちらのブログでも図解などを入れてお話したいと思います。
今回は、正常な胎位についてお話します。
分娩介助の時に最初にすることは胎位の確認です。
前回、前あしと後ろあしの確認の仕方をお話しました。さらに頭の位置を確認すると胎位がわかります。そして、正常な胎位は2つありますとお話しました。
みなさん、答えはわかりましたか?

正解一つ目。

①背骨が上で前肢2本と頭が触れるもの。

正解2つ目。

②背骨が上で後ろ肢2本が触れるもの。

牛農家さんでもよく「逆子だ!異常だ!大変だ!」
と大騒ぎで連絡がくることがありますが、これは正常な胎位です。
ただ、途中で止まってしまったときは要注意。
へその緒が切れやすいので、切れたまま止まると酸素が赤ちゃんに行かなくなります。
こうなると時間との勝負。すぐに介助する必要があります。

そして、その他は全部異常になります。
参考までに、今までの症例の異常な胎位をご紹介します。

頭位先行

頭位屈曲位

側位側胎向

見えないところで胎位を把握しなければなりませんが、胎位の確認はとても大切です。
正常であることが確認できないときはあきらめずによく触って確認しましょう。
そして、正常な胎位に直します。ここまでできれば分娩介助成功まであと少し!!

山羊の診療note12-3 胎位の確認の仕方

前回ご紹介した「ヤギの友43号」に寄稿した「ヤギのお産」を改めてこちらのブログでも図解などを入れてお話したいと思います。
今回は、胎位の確認の仕方を復習してみましょう。

2次破水からお産が進まない時はまず胎位を確認する必要があります。
陰部から手を挿入して確認します。

*前肢?後肢? 胎位の確認の仕方
前肢と後肢の区別の仕方は肢端から2番目の関節を触って確認します。
前肢の時は膝関節(人間の手首の関節にあたる)が触れます。

後肢のときは飛節が触れます。


蹄の向きだけで判断すると診断を誤るので、必ずこの関節を確認するようにしてください。
下胎向の場合(上向きで万歳している状態)前肢を後肢と間違えてしまう事があります。
前肢が2本確認出来たら、頭が前に向いているかを確認します。横に曲がっているときはきちんと前を向くよう整復します。
正常な胎位であれば、産道を通れるように頭に手を添えて、ゆっくりいきみに合わせて肢を引きます。後肢2本の場合は肢のみを引いて大丈夫です。

次回は正常な胎位についてお話します。
実は、今回の中に答えがあります。
正常な胎位は2つありますよー。