Monthly Archives: April 2020

山羊の診療Diary症例27 乳頭損傷②

山羊の診療Diary症例27 乳頭損傷②

今回の症例は…
飼い主さんから「子山羊の鼻におっぱいを飲んだ後、血がついている。母山羊のおっぱいに傷があるかもしれないからみて欲しい」と連絡がありました。
山羊舎に伺うと、子山羊さんが元気におっぱいを飲んでいました。
そして、おっぱいを飲み終わった子山羊さんの顔を見ると・・・

お口が血で真っ赤に!!
これは大変です。すぐに子山羊さんを捕まえて、離れたところに縛って診療の間、待っていてもらうことにしました。
そして、母山羊さんを繋いで診療をはじめました。
飼い主さんにお話を伺うと、
この母山羊さんはセリで導入して、年齢や産歴は不明とのことでした。セリの時におそらく妊娠しているだろうと元の飼い主の方に言われたそうです。
そして、2ヶ月前に一度、飼い主さんから「おっぱいが異常に大きくなって心配」と連絡をいただき診療に伺いました。その時は、確かにおっぱいは大きくなっていましたが乳房や
乳頭に異常がなく「出産前でおっぱいが大きくなっている」というお話をしました。そして、その次の日、出産して1頭の子山羊さんが生まれたとのことでした。
母山羊さんを繋いで診察してみると・・・

全身状態は良好、体温は39.2度、肺音、心音も異常はありませんでした。
そして、乳房を見てみると右側の乳房はしぼんでいましたが、左側の乳房は張っていました。
その左側の乳頭の上の皮膚に直径2cmくらいの円形の傷がありました。

今回のこの症例も乳頭損傷と診断し治療をしました。
(乳頭損傷に関しては山羊の診療Diary症例26を参照にしてください)

治療は、症例26よりも傷口が大きいので場合によっては外科処置(傷をデブリードマンをして縫合する)
も考えられましたが、まずはヨード剤でで消毒して、抗生物質の注射を行いました。


そして、子山羊さんがおっぱいを吸って傷が悪化してしまわないように、
子山羊さんを離して飼育して頂くことにしました。
子山羊さんは、もう離乳しても大丈夫な体つき、そして飼料も草も食べているようでしたが、
場合によっては、人工哺乳をお願いしました。

その後、3日間治療を続け、傷がかさぶたになり治ってきたので、消毒を続けてもらい経過を観察することになりました。

前回に引き続き今回も乳頭損傷の症例でしたが、
どちらの山羊さんもおっぱいが大きく下に垂れ下がっていました。
このような山羊さんの場合、出産前のおっぱいが大きくなってくる頃から
自分で踏んでしまったり、または他の山羊さんに踏まれないように、
山羊舎の環境を整えてあげること(狭すぎないか、頭数が多すぎないか、乳房を傷つけるような鉄線がないか等)や
場合によってはブラジャーを作って擦れて傷がつかないようにすることが予防につながると思います。

その場で処理する習慣

その場で処理する習慣。

目に止まったことを、その場で解決して、頭の中から全て消し去ってしまうように心がけている。

そして次のアクションは、その行動の結果から自分の目の前に現れる仕掛けをしておく。

例えば、必要なものがあったときに、その場でアマゾンから発注してしまう。

発注した事は忘れていても、しばらくすると荷物の到着により次の仕事がスタートするように。

例えば誰かから何かをの質問を受けたときに、その場で調べてしまう。または、その場で調べて伝えられる形にまでしてしまう。

そしてそれを、次にその人と会うタイミングの予定表に書き込んでしまう。

覚えておかなければいけないとか、次回に持っていかなければいけないものがあるときは、予定表に書き込んでしまう。

とにかく一度に覚えていられる数には限りがある。そしてその数を超えると、古い方から押し出されて忘れてしまう。

だから、次に思い出すポイントを作ってしまうか、その場でできる事を可能な限りやってしまう。

そうして、自分の頭にものがいっぱいになってしまうのを防いでいます。

どんなに気をつけてても、どうせ一度にいくつも覚えていられないんだから。

プルプルプル

「はい、あ、すみません。今日行く予定でしたっけ?

急いで行きます。」

それでも、予定に入れるのを忘れてしまうと、完全に忘れてしまうのをどうしたらいいのか考え中です。

第21回日本山羊研究会で発表しました!

2020年3月25日(水)に開催されました第21回日本山羊研究会で発表をしました。

本来は京都大学での開催でしたが、コロナウィルスの影響で「ZOOM」というシステムを使用したWEBでの開催となりました。

私たちの病院からは2題発表しました。

・小動物病院と一緒にできる山羊の診療
~日本における山羊の診療体制の確立をめざして~

山羊がいつでもどこでも安心して診療が受けられるようになるには、大動物病院だけでなく小動物病医院での受け入れが必要ではないかと考えています。そのために、診療手技やお薬、薬の薬用量、症例などを発表して山羊の診療体制の確立の一助になればという想いから発表しました。

・山羊のルーメンアシドーシスの事例報告
~沖縄県宮古島において1年間に診療した山羊の病気~

山羊のルーメンアシドーシスを3例の症例発表です。原因として飼い主さんの飼養管理の失宜により容易に発生する病気です。早期発見と牛の治療を準用した治療で回復したので治療法をご紹介しました。

山羊の研究者のみなさんや獣医さん、社会学の研究者の方のお話など「山羊」をキーワードに
様々な分野のお話が聞けて、とても楽しく勉強させていただきました。また、私たちの発表にも、いろいろなご意見やご質問をいただきありがとうございました。
今後の診療に役立てていきたいと思っています。
発表に関することでご質問がございましたら、ブログのコメント欄からお気軽にご連絡ください。

山羊の診療Diary症例26 乳頭損傷

山羊の診療Diary症例26 乳頭損傷

今回の症例は・・・

飼い主さんから「前回の出産の時、ひどい乳房炎になった山羊が朝からおっぱいを蹴って
痛そうにしている」という連絡がありました。

早速、診療に伺うと4月はじめに出産予定のボーボちゃんが、おっぱいを蹴り蹴りしながら山羊舎の中でたたずんでいました。

飼い主さんにお話を伺うと、前回の出産の時に乳房炎になったのでまだ産前だが心配になって連絡をいただいたとのことでした。
食欲と元気は変わらないとのことです。
ボーボちゃんを外に出していただき繋いで診療をはじめました。

お熱を測ると39.8℃で微熱がありました。全身状態は良く、健診での心音・肺音は異常ありませんでした。腹部触診と聴打診でも問題はありませんでした。そして、乳房の状態を診てみました。

はじめに乳房炎に感染していないか確認するために乳房の状態を確認しました。
出産後のおっぱいをあげていない時期でも、乳房炎にかかることはあります。
ボーボちゃんの場合もまだ出産前ですが、乳房炎に以前感染したことがあることから、
乳房炎の細菌がおっぱいの中に残っていた場合、産前やストレスがかかったときに乳房炎が再発する可能性がありました。また、まだ一度も赤ちゃんを産んでいない場合でも乳頭から細菌感染が起これば、乳房炎を発症する場合があります。
ボーボちゃんのおっぱいは、左右の乳房ともに熱感や硬結などの乳房炎の症状はありませんでした。次に乳頭を診てみました。

右側の乳頭は異常がありませんでしたが、左側の乳頭に傷があり、硬くなっていました。
触るととても痛がっていました。ボーボちゃんのおっぱいは大きく下に垂れている形のため、おそらく自分で乳頭を踏んでしまった可能性が考えられました。
以上のことから、乳頭損傷と診断して治療をはじめました。

はじめに傷口をヨード剤で消毒した後に抗生剤と炎症を抑えるお薬の注射をしました。
また、飼い主さんに様子を見ていただいて、乳頭が体のどこかにこすれている場合は、
乳房をおおって傷が保護できるようなブラジャーをつけてもらうように飼い主さんにお願いしました。

飼い主さん次の日ご連絡があり、だいぶ痛みが治まっているということでした。
抗生物質のお薬を処方して経過観察となりました。

*乳頭損傷について
乳頭損傷は乳牛で良く起こる病気です。しかし、山羊さんでも今回のように乳頭を自分で踏んでしまって起こることがありますし、乳用山羊さんではさらに起こりやすい可能性があるので乳牛の乳頭損傷を参考にして、山羊さん用にまとめておきます。

<乳頭損傷とは>
物理的、あるいは科学的な原因により起こる乳頭の障害をいいます。

<原因>
①物理的な損傷
・放牧地の有棘鉄線やワイヤーフェンスで傷つけてしまう
・密飼いや飼育する部屋が狭くて、自分でまたは他の山羊の乳頭を踏んでしまう
・寒冷感作により乳頭の先が傷ついてしまう
・搾乳機でおっぱいを絞りすぎてしまう
②化学的な損傷
・搾乳時の乳頭の消毒の時に消毒剤で皮膚が荒れてしまう

<症状>
皮膚が荒れているだけでも痛みがあります。痛みがあると気になり自分で蹴ってしまいさらに悪化することがあります。

また、傷の深さや場所によってはおっぱいを出すことに障害がでます。たとえば、乳頭の先端の傷では炎症から組織が厚くなり管が狭くなることで、おっぱいが出にくくなったり、乳頭管より上で乳頭が切断された場合はおっぱいが漏れてしまいます。こうした場合、搾乳や哺乳することが難しくなってしまいます。

<飼い主さんにできること>
・山羊舎にゆとりを持たせて自分で踏まないようにする
・1つのお部屋で適切な数の山羊を飼育する(他の山羊の乳頭を踏まない)
・削蹄をして蹄で傷つけないようにする
・乳頭の消毒剤は適切な濃度で使用する
・搾乳機のメンテナンスを行い、整備不良での絞り過ぎを防ぐ
・おっぱいが大きくて擦れてしまう場合は、ブラジャーを作って着せてあげる。
牛さんには牛用ブラジャーというのがあります。
私も山羊用を作ってみたいです!

<獣医さんの治療>
・傷の洗浄・消毒
・軟膏の塗布
(乳頭を保護するため、ただし殺菌作用のあるものでないと感染を広げる場合があるので注意)
・抗生剤の投与
・外科処置(乳頭管拡張、切開、縫合など)