山羊の勉強会 ~山羊の病気と繁殖について~

地域の山羊流通生産組合さんより
山羊の勉強会の講師依頼がありました。

テーマは
「山羊の病気と繁殖について」

第1部では私が

この半年間、このブログでご紹介してきた症例をもとに
山羊の病気についてお話させていただきました。

第2部では院長が
山羊の繁殖についての基本や妊娠鑑定について
お話しさせていただきました。

講演の後には、山羊農家さん達から質問をたくさんいただき、
交流を持つことができました。

獣医師だけでは病気を見つけたり治すことはできません。
予防も含めて、山羊さんのオーナーさん達と一緒に
地域の山羊さんたちを大切にしていけたらと感じました。

木箱の診療セット

今日は、夕方に牛舎に行くととてもうれしいことがありました。

なんと、手作りのお薬など診療の道具を入れる箱をゆうきさんが作ってくれていました。

私は、診療車に乗せる診療セットを入れる箱について、しばらく悩んでいました。

プラスチックのバスケットをいくつか試したり、
100円ショップやホームセンターに行っては、ちょうどよいものがないか探していました。
なかなか、実用的でなおかつ好みのものが見つからず・・・。
緊急時に対応できて、なおかつ自分が心地よく使えるものがあったらいいなと思う日々。

私が探していた箱は、

・あまり箱が深いとお薬が取りにくいから深すぎないもの。
・薬を上から見ると何の薬かわからなくて、探すのに時間がかかるから一目で見えるようなもの。
・車まで薬を取りにいかなくて済むように持ち運びができるもの。
・病院の共用の車は診療の他にセリや荷物の運搬などいろいろな用途にも使用するので、
使う用途、使う人それぞれにアレンジができるように動かせるもの。
・衛生的に牛舎の下に置かずに掛けられるもの。
・個人的に木の素材が好き

しかし、こんな箱はどこにも見つかりませんでした。

すると、
DIYの得意なゆうきさんが、
木箱の診療セットを作ってくれることになったのです。

もともと、
ゆうきさんの人工授精の時に使用している車は、工夫がいっぱいで
見せていただいたときに、
素晴らしいな、私もこんな風にしたいなと思っていました。

物の場所がきちんと決まっていて、
それぞれ手作りでサイズがぴったりに収まるようになっています。

そして、車を見せてもらったときに、聞いたおはなしが
とても心に残っています。

ゆうきさんのお父さんは電気屋さんで、
その工具箱がいつもきちんと整えられているのを見てきたそうです。
自分が仕事に使う道具を整えておくこと、手入れしておくこと。
それは、きっと
お客様に対する誠意でもあり、自分の仕事に対する誇りでもあると思いました。

山羊さん達の草をいつも電気屋さんの車で運んでくれるお父さん。
その道具箱はお父さんの車の助手席にそっと置かれています。

・・・

私も作っていただいた木箱に
さっそくお薬や診療に使う道具を入れてみました。

お薬が一目瞭然。
緊急の時も、すぐにお薬を見つけることができます。
注射器や針もちょうどよく収まりました。

木箱の横には、ゆうきさんオリジナルの
可愛い山羊さんや牛さんの絵があります。


木を焼いて素敵な色合い。
そして、
肩に下げられたり手持ちにもできます。

診療車に置いても、ぴったりでした。

実用的で素敵な箱を作っていただいて感謝感激。
ありがとうございました。

新たな相棒の木箱。
木箱を使い込んで良い風合いになる頃には、
山羊の診療も私もこの地域になじんでいますように。

山羊の人工授精チャレンジ 現場での妊娠鑑定

山羊の人工授精チャレンジ 現場での妊娠鑑定

今まで、私たちは現場で、
牛の直腸検査に使用するエコーで妊娠鑑定を試みていました。
エコーのプローブを乳房の付け根にあてて、羊水に浮かぶ赤ちゃん山羊を探す方法です。
赤ちゃんの心臓が動くのを確認できたら、妊娠と診断していました。

長野の家畜改良センターで勉強させていただいたときは、この方法で妊娠鑑定が容易にできました。
しかし、私たちが使用しているエコーではなかなか乳房横のアプローチでは、
胎児を探すこと、特に心臓の動きを確認することが難しい状況でした。
おそらくプローブが小さいことやエコーの機械の精度などがが関係していると思われます。

確実に妊娠しているか、していないかがわからないと妊娠鑑定をする意味がなくなってしまいます。
超音波診断法の中でも経膣プローブを用いて膣の中に挿入する方法は、高い精度で妊娠を診断することができますが、
経膣プローブはとても高価なので、購入しなくてもできる方法をまずは検討してみました。

現場での妊娠鑑定の精度を上げるために、
はじめに試して見たのは・・・

「超音波ドップラー法」です。
この方法はお腹の中の赤ちゃんの心音または血流音を確認して妊娠を判定します。。
人工授精後、60日以降で診断が可能です。
人間の赤ちゃんの心音を自宅で聞ける、ドップラーを購入しました。

ひとまず、自分の胸にあてて心音を聞いてみると・・・

どきどきどきどき・・・・

はっきり聞こえる!!
これは期待できるかもとわくわくしながら、
さっそく確実に妊娠している山羊さんにドップラーをあてて見ました。

しかし・・・残念ながら全然聞こえず・・・。

そこで、院長発案、牛の妊娠鑑定と同じように直腸にプローブを入れる方法を
試してみることになりました。

この方法の問題点は、

・山羊さんは牛のようにおしりから手が入らない。

・プローブだけでは中に入っていかないということです。

この問題を解決するために、プローブにアタッチメントをつけました。

痛くないように、ゼリーをつけておしりから優しく挿入すると・・・
羊水に浮かぶ胎児が確認でき、心臓の動きも見ることができました。

現場での妊娠鑑定の決定版!!

この方法なら、精度が高く、
山羊さんのオーナーさん達からの妊娠鑑定の依頼を受けることができるようになりました。

妊娠鑑定をすることにはメリットがあります。

1つ目は
妊娠していない山羊さんを見つけることができ、再度種付けや雄山羊さんと一緒にすることで
妊娠に導くことができるということです。

畜産として、山羊さんを飼養している人たちには、子山羊が生まれないというのは死活問題になります。
妊娠鑑定によって、長い間、妊娠していない山羊さんがそのままでいることがなくなる、
すなわち生産性をあげることができるのです。

2つ目は
いつ妊娠したかわからない場合、エコーで胎児の体長を測ることで、おおよそのの月齢がわかります。
まだまだ、人工授精が山羊さんで行われていることが少なく、
雄山羊さんと一緒にして、妊娠するのを待っている方が多いです。
そのため、いつ種がついたかわからない、ということは分娩がいつなのかわからないのです。
分娩時期がわかれば、分娩前に母山羊さんの栄養状態を整えたり、分娩事故の予防にもなります。

参考までに…

ザーネン種の妊娠日齢と体長の関係は以下の通りです。

妊娠日齢
12日   0.2cm
18日   0.6cm
25日   1.0cm
35日   2.0cm
42日   3.0cm *超音波での妊娠鑑定の時期
56日   5.0cm
63日   9.0cm
84日   16.0cm *ここから急速に成長
140日  50.0cm
150日  出産

今後、直腸からの妊娠鑑定の精度を高める工夫や私の住む島の山羊さん達のデーターを妊娠鑑定時に集めていきたいと思っています。

山羊の診療山羊の診療Diary  症例17 足の外傷 ~山羊のトーマススプリント&福木での固定~

*山羊の診療Diary  症例17 足の外傷 ~山羊のトーマススプリント&福木での固定~

今回の症例は・・・

山羊さんが足を骨折しているみたいだから診療してほしいという依頼が来ました。

伺って見ると
子牛用のケージの中でうずくまっている山羊さんがいました。

前足どちらも曲げたままで伸ばせません。

両方の足に傷があり、ケガもしているようです。

お話しを伺うと
朝、オーナーさんがケージを覗くと
ケージの隙間に片方の足を挟んで、もう片方の足もケージの柵のところに引っかかって
宙づりの状態になっていたとのことです。

右足は膝のところの傷が
左の前足は脇のところに傷がありました。

まず傷の状態の改善のために
初診は抗生物質の注射を行いました。

そして、2診目。

傷は完全に治っていないものの
オーナーさんのお薬の塗布や看護のかいあって
快方に向かっていました。

食欲、元気はあって、立つ意欲もあるものの
前足、両足とも曲がったままになっていて、
伸ばせない状態でした。

私は固まっている膝をまっすぐに伸ばすのは
牛の症例をみていいると
とても難しいことを感じていました。
しかし、飼い主さんも私もやれるだけやってみたいという気持ちが
強く、院長先生にどうにかならないかと訴えました。

そして、ただのギブスだけでは足を伸ばすのは難しいから、
トーマススプリントが良いのではという方針を院長先生からいただき、
やってみることになりました。

トーマススプリントとは、肢先が床につかないようにして
負傷した部位や手術部位に負荷をかけないように
固定する外副子です。

そして、
牛舎にある材料を集めてオーナーさんの協力の下、院長先生が手作りしました!

固定が終わると・・・

治癒へのおおきな第一歩。
なんとか立つことができました。
このまま様子を見たいただくことになりました。

3診目は・・・

肢の経過を見るために山羊舎に伺うと、
あたらしいギブスが固定されていました。
オーナーさんにお話しを伺うと、
トーマススプリントだと立った後、立つことはできても
問題として、自分で座れない、
自力で立ち上がれない状態になってしまったとのことでした。

そこで、オーナーさん自身が先生の作ったトーマススプリントを参考に
改良し福木で固定し直したとのことです。

山羊さんの様子を観察してみると、
オーナーさんの工夫によって、
自分で座ったり立ったりできるようになっていました。

山羊さん自身もとても意欲のある山羊さんで一生懸命立とうとしているのを感じました。

以下の2つのことを注意していただいてこのまま経過を見ることになりました。

①足がむくんでいないか、足先が冷たくなっていないかを確認すること。

ギブスが強く巻きすぎていると、血流が阻害されてしまい、足がむくんでしまったり、
ひどいときには壊死してしまいます。

②皮膚の状態(褥瘡)に気をつける。

ギブスの端がずっと皮膚にあたったままの状態になると傷ができ感染が起こったり、
褥瘡ができてしまいます。

そして経過を伺いながらの1ヶ月後・・・

元気になりましたー!!
オーナーさんの献身的な看護のおかげで
最後にはギブスがなくても立つことができました!!

牛の診療時に
肢や膝がケガや感染でまっすぐにならない状態が続くと、
治療しても、立てないままの状態や足が曲がって固定されてしまう症例をいくつも見てきました。

しかし、今回はじめの状態はなかなか厳しいものでしたが、
山羊さん自身の治る力、オーナーさんの諦めない献身的なお世話の力で立つことができました。

動物の治る力を信じて、できることをしっかりやっていく大切さを感じた症例になりました。

この山羊さんは、もともとこの土地にゆかりのある血統の山羊さんで、
縁がつながり、違う島からオーナーさんのところに来たそうです。

雄山羊さんなのでこのまま元気に大きくなって、
この牧場で子山羊さんたちの誕生に貢献し、また新たな縁が繋がりますように!!

山羊の診療note6 ~腰麻痺(脳脊髄糸状虫症)について~

山羊の診療note6 ~腰麻痺(脳脊髄糸状虫症)について~

今回は、症例12と症例14の腰麻痺について詳しくお話したいと思います。

*原因

本来は牛の腹腔に寄生している指状糸状虫が、山羊に感染して体内を移動するうちに、神経組織を損傷する寄生虫の病気です。

*感染経路

指状糸状虫が寄生している牛の血液の中に子虫がいる

蚊が感染している牛を吸血すると蚊の中に子虫が入る
中間宿主の蚊 2週間で感染力を持つようになる

山羊が蚊に刺されたときに(吸血されたときに)山羊の血管に子虫が入り感染

山羊の体の中で脳脊髄神経に迷い込み症状が現れる

牛は腹腔内に移動して病害が出ることはありません。
山羊では子虫が脳脊髄神経に迷い込み、神経細胞を刺激したり、破壊することにより
運動障害などを引き起こします。

*発生の時期・地域

この病気の発生は牛と中間宿主(シナハマダラカ)がいる地域に限られます。
発生時期は、蚊の活動期(6月~10月)が感染時期であり、
その2週間~1ヶ月後に症状が現れる。
沖縄のように年中、蚊がいる場合は季節に関係なく感染の危険性があります。

*症状

神経が損傷された部位や程度によって症状は異なります。

腰部・後肢のまひ
歩様のふらつき
起立困難
斜頸(頭頸部が片方に傾く)
顔面神経麻痺によるよだれ、ごはんが食べられなくなる
前肢の麻痺

症例12のみやちゃんは立てなくなりました。(起立不能)

症例14のさしみちゃんは頭が傾きました。(斜頸)

神経の損傷以外は体温や呼吸、心拍に大きな変化なく
食欲もあって排便・排尿も正常なことが多いです。
しかし、立てないことで床ずれ(褥瘡)がおきて、
食欲がなくなり栄養状態の悪化すると、誇張症や床ずれからの
細菌感染などが起こり残念ながら死亡することがあります。

*治療

症状が出た場合、できるだけ早く駆虫剤の投与を行います。
また、
症状にあわせて、抗生物質や炎症を抑えるお薬、点滴などを
行っていきます。

そして、
オーナーさんの看護が回復までの間にとても重要になります。

症例12のみやちゃんは
筋肉が衰えたり、褥瘡を防止するために、
一日何度か立たせてあげることをお願いしました。

症例14のさしみちゃんは
栄養状態が悪くならないように、
人工ほ乳をお願いしました。

*予防
予防として以下の対策があります。

・蚊の発生時期に駆虫薬を投与すること
・蚊の発生時期には牛と離して飼うこと
(山羊から山羊の感染はありません)
・蚊の駆除(水たまりをつくらない)
・蚊に刺されないようにする
(蚊取り線香の使用やネットの設置)

マイダツ・脳天割り!!

のんびりした山羊さんの放牧風景。

山羊小屋のお掃除も終わって、

平和だなーと眺めていたら・・・

ドーン、ドーン

と大きな音が。

振り向くと、

だいわくんの必殺

マイダツ・脳天割り!!

マイダツ・脳天割りとは・・・

沖縄県多良間島の闘山羊大会、
ピンダーアースで山羊さんたちが繰り出す技のひとつです。
ちなみに多良間島の方言で、

ピンダ=山羊 アース=闘う

わたしは今年の5月に観戦に行ってきました!
この時の模様は改めて、記事にしますね。

公式パンフレットによると・・・

「マイダツ・脳天割りとは、
山羊特有の攻撃パターン。
自分を大きく見せ、相手を威嚇するために前足を高く上げ、
体を反らして、後ろ足立になる(マイダツ)。

目をひんむいて相手をにらみつけ体を預けるようにして正面に割り込む
(脳天割り)

両者がマイダツし合い割り込むタイミングが合えば、カキーンと角のぶつかる大きな音を
発し迫力がある。積極的な攻めとして認められる。
体力を消耗するワザで、これを多用するとバテることにもつながるため、必ずしも勝つとはいえない。」

だいわくんダイナミック!!

次のピンダーアース一緒に狙ってみようか?

決める痛みと、生まれる希望

前回の腰麻痺の記事です。

アン先生のまとめが素晴らしいので、読んでない方はぜひどうぞ。

臨床獣医師として常に直面する、共通のテーマなので、僕も書かせてもらいたいと思います。

アン先生の言うように、獣医師は「飼い主の選択に寄り添う」事をしています。そして、「動物との関係は人それぞれ」なんです。

○伴侶としてともに生きる人、盲導犬などと助け合って生きる人
○動物は好きではないけど、家族の動物をお世話している人
○家畜として飼い、動物をお世話する事で、生活資金を得る人
○家畜から生活資金を得る一方、飼育自体が生き甲斐であり、ライフワークである人

それぞれの人に事情があり、動物や、その関係に問題が起こることがあります。

私たちの獣医療サービスが目指すところは、

「きぼうをつくる」です。

飼い主さんが希望を持つには、これからどうするか、自ら選択する事が必要なんだと思います。

そのためにまず目の前にある問題に対処し、飼い主さんが選択できる様な情報を提供します。

治すのはひとつの手段に過ぎないのです。

例えば今回の腰麻痺のヤギのように、交配する目的で飼っている動物が立てない時。

死にはしないけど、立って交配出来る確率は50パーセントか、もう少し低いかも。反面、治療開始したら約2ヶ月は出荷できないので飼育労働費と経費がかかる。

飼い主はもちろん治って欲しいんです。一生懸命お世話してきたんですから。

でもね、このオスヤギが交配できないなら、この飼い主さんにとっては一緒に居る理由がないのです。

諦めるのは心痛が伴います。一方で治療するのは損失も、不安も伴います。

どうしていいか決められないので、獣医が呼ばれているんですね。

獣医は治療するだけじゃなく、あるいは科学者のように研究成果をあげたり、真理を追求するだけじゃないんです。

獣医はこの飼い主さんがヤギに求める関係性を汲んで、気持ちを汲んで、動物の状態を診断して、それから手段を提示します。経験や知識、技術を総動員してわかる事を整理して、先行きを示します。

そして飼い主さんの言葉にならない想いを生かす、本当の気持ちを生かす選択をしてもらうのです。

そういう事が「飼い主の選択に寄り添う」なんです。

選ぶ時には痛みが伴っても、次への希望を持てる結論を出せること。これからも悔いなく頑張れること。

それが臨床で行う獣医療のゴールなんです。

ある現実が、その人にとって苦しすぎて、どうしても選択できない時もあるでしょう。そういう時は、その人がそれを受け入れるまで、全力で治療し続けます。飼い主が諦めないなら、一緒に諦めず頑張ります。

でも、本当は諦めた方が楽なのがわかってても言い出せない…。みたいな場合もあるので、そういう時は別の方向性を提示してみます。それでも飼い主が決められないなら、決めないまま一緒に結果を見てあげます。

そういう事も「飼い主の選択に寄り添う」なんです。

決めないという選択でさえ、納得して次に進むためにはとにかく自分で選ぶ事が大切だと思うからです。

「治る病気」を治すのなんか、簡単なんですよ。そんなのは、真面目に勉強してたくさん症例にあたって、ちゃんと治療してたらできるんです。

臨床獣医の仕事でもっと大切で難しいのは、むしろ相手の気持ちを汲む事です。いろんな人が命に向き合う時の苦悩なんかを一旦預かって整理して、その人がそれを受け入れられるような、前向きになれるような形で返してあげる事です。

そうして、その人が悲しんだり苦しんだりした後にも、また頑張ろうって思ってもらえることが、治す事よりずっと大切な成果なんです。

ね、共に臨床で頑張ってる獣医の先生方。

そう思いませんか?

山羊の診療Diary  症例16 腰麻痺疑い ~治療をしないという選択~

*山羊の診療Diary  症例16 腰麻痺 ~治療をしないという選択~

今回の症例は・・・

昨日から雄山羊が立てないから診察してほしいという連絡がありました。
現場に向かってみると100kg以上はある大きな雄山羊さんが座り込んでいました。

さっそく、オーナーさんからお話しを伺うと、
4~5日前から、いつも決まった場所におしっこをするのにその場所まで行かなくなったそうです。
観察していると歩き方がおかしくて動くのが辛そうに見えた、
そして、今日から後ろ足が立たなくなってしまったということでした。
また、食欲、元気はあっておしっこ、うんちは問題ないということです。

診察してみると・・・
体温 39.8℃
聴診 問題なし
腹部 ガスの貯留など膨満なし
後肢 立てない。
蹄から腰まで観察するものの外傷(ケガ)や骨折、股裂けなどなし。

以上のことから、
オーナーさんのお話し、診察を合わせると「腰麻痺」が強く疑われました。

今までの症例では、治療のお話しからはじめます。

しかし、今回ははじめから2つの選択肢を提案しました。

それは、

「治療する」

もしくは

「治療しない」

という選択です。

それでは、今までの症例と今回は何が違うのでしょう?

私の住む島では山羊肉を食べる文化があります。
このオーナーさんは畜産農家さんとして山羊を飼養しています。
山羊農家さんとして、地域の食文化を支えているのです。

今回は、産業動物としての山羊を診療しています。

この雄山羊さんは、
雌山羊さんと交配して子山羊を増やすという役割がありました。
その子山羊たちが大きく育って出荷され、お肉になっていくのです。

今回の症例は、
治療をして回復する可能性も
後遺症が残る可能性も
そして、死んでしまう可能性もあります。

こんなとき
どのような選択をすれば良いのでしょう。

今回、オーナーさんとお話ししたことは・・・

*治療した場合*
①完全に回復
→山羊さんも飼い主さんも獣医師もハッピーエンド。

②回復したけど麻痺が残った
→繁殖用の雄山羊として役目が果たせないので、お肉として出荷されることになる。
ただし、この症例で使用したい薬は注射すると2ヶ月出荷できない。
この2ヶ月間、えさ代など飼養する費用が増え、牧場全体の損失になる。
このような積み重ねから経営不振になり牧場自体立ちゆかなくなることはよくあること。
また、この2ヶ月の間に麻痺のため筋肉が衰え、お肉としての価値が下がる。
最悪の場合、腰麻痺の合併症から死んでしまうこともある。

③死んでしまった
→治療代の損失、お肉にできなかった損失だけが残る。

*治療しない場合*
→今すぐ出荷すれば、しっかりお肉がとれるのでお肉代がこの山羊さんを購入した代金よりも
高くなり、利益が得られる。またこのお金で新しい雄山羊さんを牧場に連れてくることができる。

お話しの後、
オーナーさんは今回「治療しない」という選択をされました。
この山羊さんは出荷され、お肉として町の商店に並ぶことになります。

そして・・・
診察の後、他の山羊さんをオーナーさんが見せてくれました。
1頭ずつ牧場の山羊さんのことをお話ししてくれます。
治療をしないと決めた山羊さんのことも、どんな経緯でこの牧場に来たのか、
どんな山羊さんだったのか、どんなことを期待していたのか・・・

動物との関係は人それぞれです。
治療の選択もそれぞれのベストがあります。

産業動物としての山羊さんを診療するとき、治療のことだけを考えません。
オーナーさんの状況、想いを伺い、獣医学的なことを総合してお話しして
オーナーさん自身が選択肢の中から「決めること」を目指します。

獣医学の技術の向上や治療だけでなく、
その選択にそっと寄り添えるようになりたいと
感じた症例になりました。

旅人同士

今、目の前にいるあなたが
あした
わたしの前に
いるとはかぎらない

今、目の前にいるわたしが
あした
あなたの前に
いるとはかぎらない

わたしもあなたも
旅人同士

いつかどこかで
道が別れる

あなたはあなたらしく
わたしはわたしらしく

一緒に
行けるところまで

目の前のあなた
今、この時

それを感じて

最後の日まで

ハーブと山羊

今日は、縁あって養鶏農家さんの
ホーリーバジルの畑を見せてもらいました。

畑で一息ついて深呼吸すると・・・

わー!!良い香り。

鶏のごはんに混ぜて使うために育てているそうです。

ビタミンや繊維不足の解消に役立てているということでした。

私もぜひ山羊たちに食べさせてみたい!!とお話ししたら、

快くハーブを分けてくださいました。

早速、牧場に帰ってみんなにあげてみると・・・

やったー。

食べてる、食べてる。

お家に帰って

ホーリーバジルの効果を調べてみると、

葉っぱに含まれる、ジエチルエーテルに、抗菌効果があることもわかりました。

今までも山羊農家さんから、グワバの葉っぱが下痢に効くというお話しや、

タンニンを含む葉っぱが寄生虫症に効果があるというお話しを耳にしてきました。

植物やハーブの効果はなかなか興味深い。

また、少し前になりますが飛行機の機内誌で、山羊が特集されていてました。

その中の記事で、
石垣島では山羊農家さんで山羊肉のにおいを軽減するために、
長命草、よもぎ、レモングラスを混ぜてあげているというお話しがありました。

また、沖縄本島の南城市ではハーブ生産が盛んで、
その一環でハーブの加工過程で出る残渣(絞りかす)を粉末化したものを
山羊のご飯に混ぜて山羊を青立てて地域ブランドとして特産化するプロジェクトに
官民あげて取り組んでいるそうです。
一年に及ぶ試験飼育と成分分析の結果、
「ハーブ類を与えると、与えない場合に比べて、脂肪を燃焼させる機能性アミノ酸
のL-カルニチンと、疲労回復を助けるタウリンが豊富な肉質になると判明した」
ということでした。

山羊とハーブ。
なかなか興味深い。
私もこの記事を読んで、
少しずつ山羊牧場のまわりにハーブを植えはじめました。

ミント、バジル、レモングラス、ローズマリー。
そして、今日いただいた
ホーリーバジル。

ハーブたちがたくさん増えたら、山羊さんたちのごはんに
少しずつ混ぜていけたらいいなと思っています。