Monthly Archives: September 2019

山羊の診療Diary  症例19  眼のふちのけが

*山羊の診療Diary  症例19 眼のふちのけが

今回の症例は・・・

山羊さん同士がけんかしてケガをしているので診察して欲しいという連絡がありました。

現場に行き、オーナーさんにお話しを伺うと、
月齢が近い山羊さん同士を同じケージに入れたところ、けんかをして眼をケガしてしまった
のではないかということでした。

診察してみると、左目の下眼瞼(まぶたの下側)が縦に切れて、めくれ上がっている状態でした。
幸い出血は止まって、眼には今のところ角膜などに傷はありませんでした。

下眼瞼が切れているヤギ

次に飼育環境、一緒にした山羊さんを観察してみました。
ケガをしてしまった山羊さんは無角で、もう一方の山羊さんは角がありました。
確かに、けんかや遊んでいるうちにケガをした可能性もありますが、
飼育環境がワイヤーのケージのため、ワイヤーの端などでケガをした可能性も考えられました。

 

眼のふちの怪我に対する2つの治療法

治療法として、下記の二つの方法をお話しさせていただきました。
①外科治療
麻酔をかけて傷を皮内縫合法という方法で縫う

②内科治療
抗生剤のお注射、内服で傷の感染を防ぐ。
点眼によって眼の乾燥を防ぐ。

オーナーさんと相談した結果、
この山羊さんは性別が雄でも雌でもない間性で、今後、出荷を考えているということで、
内科治療を選択され、出荷までの間、点眼で様子を見ながらケアしていくということになりました。

(間性については後日あらためて記事にしたいと思います)

内科治療を受けるヤギ

注意点として傷自体は治っても、
瞬きが以前のようにできない場合、眼の乾燥が起こります。
眼が乾燥するということは、眼の表面の角膜に傷がつきやすくなったり、感染の可能性が増加します。
そのため、傷が回復した後も、経過を見ながら、今後も点眼が必要になる可能性をお話ししました。

また、ワイヤーケージは思わぬところで足をはさんだり、今回のようなケガを引き起こすことがあるので、
むき出しになったワイヤーを直したり、隙間を点検して、今後、ケガが起こらないようにお伝えしました。

 

院長追記 : 動物だけを診るのではなく、畜産コストや飼い主さんの目的・目標や気持ちを汲み取ることも大切

今回のように畜産業として飼育している場合、治す事は出来ても、最低限の処置に留まる事があります。

アン先生のように、獣医は動物だけでなく飼い主さんの目的、目標をきちんと受け取って治療方針を決める事が大切です。

間性のため今後繁殖させる事が出来ないという事、傷の状態は全身状態に大きな問題は起こさない事、畜産業なので治療コストを抑えた方がいい事、飼い主さんの気持ち。動物との接し方や飼育している目的は、飼い主さんごとに様々です。

総合的に最善の方法を選択して、さらに再発予防をします。

獣医師は獣医学的な知識や技術が必要なのはもちろんですが、人と接して話を聞く力、飼い主さんのことを理解する力がそれにも増して大切なんです。

山羊の診療Diary 症例18 妊娠鑑定

*山羊の診療Diary  症例18 妊娠鑑定依頼

前回の「山羊の人工授精チャレンジ  現場での妊娠鑑定」の記事でご紹介した、妊娠鑑定の依頼が来ました!!

今回の依頼は4頭。

早速、直腸からエコーを使用して妊娠鑑定をしました。

エコーによる妊娠鑑定

妊娠している山羊さんのエコーはオーナーさんも一緒に確認していただきました。

オーナーと一緒にヤギ妊娠鑑定

心臓の動きを確認するとやっぱりうれしいですね。

今回は、4頭中2頭の山羊さんが妊娠していました。

妊娠していない1頭は出荷されることが決まり、
もう1頭は再度、雄山羊と1か月一緒にしてみることになりました。

今回の妊娠鑑定依頼は畜産として山羊を飼育されている方からの依頼でした。
このように畜産として山羊を飼育している場合、出荷の判断材料になったり、
空胎(妊娠していないこと)の山羊を早めに見つけることによって、
妊娠の機会を時間を空けずに作ることができます。

また、妊娠している山羊さんの場合も、体長から出産予定日を推測することができます。
これは、分娩事故の予防につながります。

これからも、症例を積み重ねて、
より精度の高い妊娠鑑定ができるように工夫していきたいと思いました。

山羊の勉強会 ~山羊の病気と繁殖について~

地域の山羊流通生産組合さんより
山羊の勉強会の講師依頼がありました。

テーマは
「山羊の病気と繁殖について」

第1部では私が

この半年間、このブログでご紹介してきた症例をもとに
山羊の病気についてお話させていただきました。

第2部では院長が
山羊の繁殖についての基本や妊娠鑑定について
お話しさせていただきました。

講演の後には、山羊農家さん達から質問をたくさんいただき、
交流を持つことができました。

獣医師だけでは病気を見つけたり治すことはできません。
予防も含めて、山羊さんのオーナーさん達と一緒に
地域の山羊さんたちを大切にしていけたらと感じました。

木箱の診療セット

今日は、夕方に牛舎に行くととてもうれしいことがありました。

なんと、手作りのお薬など診療の道具を入れる箱をゆうきさんが作ってくれていました。

私は、診療車に乗せる診療セットを入れる箱について、しばらく悩んでいました。

プラスチックのバスケットをいくつか試したり、
100円ショップやホームセンターに行っては、ちょうどよいものがないか探していました。
なかなか、実用的でなおかつ好みのものが見つからず・・・。
緊急時に対応できて、なおかつ自分が心地よく使えるものがあったらいいなと思う日々。

私が探していた箱は、

・あまり箱が深いとお薬が取りにくいから深すぎないもの。
・薬を上から見ると何の薬かわからなくて、探すのに時間がかかるから一目で見えるようなもの。
・車まで薬を取りにいかなくて済むように持ち運びができるもの。
・病院の共用の車は診療の他にセリや荷物の運搬などいろいろな用途にも使用するので、
使う用途、使う人それぞれにアレンジができるように動かせるもの。
・衛生的に牛舎の下に置かずに掛けられるもの。
・個人的に木の素材が好き

しかし、こんな箱はどこにも見つかりませんでした。

すると、
DIYの得意なゆうきさんが、
木箱の診療セットを作ってくれることになったのです。

もともと、
ゆうきさんの人工授精の時に使用している車は、工夫がいっぱいで
見せていただいたときに、
素晴らしいな、私もこんな風にしたいなと思っていました。

物の場所がきちんと決まっていて、
それぞれ手作りでサイズがぴったりに収まるようになっています。

そして、車を見せてもらったときに、聞いたおはなしが
とても心に残っています。

ゆうきさんのお父さんは電気屋さんで、
その工具箱がいつもきちんと整えられているのを見てきたそうです。
自分が仕事に使う道具を整えておくこと、手入れしておくこと。
それは、きっと
お客様に対する誠意でもあり、自分の仕事に対する誇りでもあると思いました。

山羊さん達の草をいつも電気屋さんの車で運んでくれるお父さん。
その道具箱はお父さんの車の助手席にそっと置かれています。

・・・

私も作っていただいた木箱に
さっそくお薬や診療に使う道具を入れてみました。

お薬が一目瞭然。
緊急の時も、すぐにお薬を見つけることができます。
注射器や針もちょうどよく収まりました。

木箱の横には、ゆうきさんオリジナルの
可愛い山羊さんや牛さんの絵があります。


木を焼いて素敵な色合い。
そして、
肩に下げられたり手持ちにもできます。

診療車に置いても、ぴったりでした。

実用的で素敵な箱を作っていただいて感謝感激。
ありがとうございました。

新たな相棒の木箱。
木箱を使い込んで良い風合いになる頃には、
山羊の診療も私もこの地域になじんでいますように。

山羊の人工授精チャレンジ 現場での妊娠鑑定

山羊の人工授精チャレンジ 現場での妊娠鑑定

牛の直腸検査に使用するエコーで山羊の妊娠鑑定を試みていましたが…

今まで、私たちは現場で、
牛の直腸検査に使用するエコーで妊娠鑑定を試みていました。

(妊娠鑑定の方法について、詳しくはこちらの記事をどうぞ。)
山羊の人工授精チャレンジ 妊娠鑑定方法

エコーのプローブを乳房の付け根にあてて、羊水に浮かぶ赤ちゃん山羊を探す方法です。
赤ちゃんの心臓が動くのを確認できたら、妊娠と診断していました。

エコー検査

胎児を探すこと、とくに心臓の動きを確認することが難しい

長野の家畜改良センターで勉強させていただいたときは、この方法で妊娠鑑定が容易にできました。
しかし、私たちが使用しているエコーではなかなか乳房横のアプローチでは、
胎児を探すこと、特に心臓の動きを確認することが難しい状況でした。
おそらくプローブが小さいことやエコーの機械の精度などがが関係していると思われます。

確実に妊娠しているか、していないかがわからないと妊娠鑑定をする意味がなくなってしまいます。
超音波診断法の中でも経膣プローブを用いて膣の中に挿入する方法は、高い精度で妊娠を診断することができますが、
経膣プローブはとても高価なので、購入しなくてもできる方法をまずは検討してみました。

 

経膣プローブを購入せずにできる妊娠鑑定の方法「超音波ドップラー法」を試してみたものの…?

現場での妊娠鑑定の精度を上げるために、
はじめに試して見たのは・・・

「超音波ドップラー法」です。
この方法はお腹の中の赤ちゃんの心音または血流音を確認して妊娠を判定します。。
人工授精後、60日以降で診断が可能です。
人間の赤ちゃんの心音を自宅で聞ける、ドップラーを購入しました。

ひとまず、自分の胸にあてて心音を聞いてみると・・・

どきどきどきどき・・・・

はっきり聞こえる!!
これは期待できるかもとわくわくしながら、
さっそく確実に妊娠している山羊さんにドップラーをあてて見ました。

山羊に超音波ドップラー法を試す様子

しかし・・・残念ながら全然聞こえず・・・。

 

現場での妊娠鑑定の決定版「ヤギの直腸にプローブを入れる方法(改)」

そこで、院長発案、牛の妊娠鑑定と同じように直腸にプローブを入れる方法を
試してみることになりました。

この方法の問題点は、

・山羊さんは牛のようにおしりから手が入らない。

・プローブだけでは中に入っていかないということです。

この問題を解決するために、プローブにアタッチメントをつけました。

痛くないように、ゼリーをつけておしりから優しく挿入すると・・・
羊水に浮かぶ胎児が確認でき、心臓の動きも見ることができました。

現場での妊娠鑑定の決定版!!

この方法なら、精度が高く、
山羊さんのオーナーさん達からの妊娠鑑定の依頼を受けることができるようになりました。

 

妊娠鑑定を行うことの2つのメリット

妊娠鑑定をすることにはメリットがあります。

妊娠していないヤギを発見し、妊娠へ導くことで生産性をあげる

1つ目は
妊娠していない山羊さんを見つけることができ、再度種付けや雄山羊さんと一緒にすることで
妊娠に導くことができるということです。

畜産として、山羊さんを飼養している人たちには、子山羊が生まれないというのは死活問題になります。
妊娠鑑定によって、長い間、妊娠していない山羊さんがそのままでいることがなくなる、
すなわち生産性をあげることができるのです。

分娩時期を知ることで、母ヤギの栄養状態を整え分娩事故を防止できる

2つ目は
いつ妊娠したかわからない場合、エコーで胎児の体長を測ることで、おおよそのの月齢がわかります。
まだまだ、人工授精が山羊さんで行われていることが少なく、
雄山羊さんと一緒にして、妊娠するのを待っている方が多いです。
そのため、いつ種がついたかわからない、ということは分娩がいつなのかわからないのです。
分娩時期がわかれば、分娩前に母山羊さんの栄養状態を整えたり、分娩事故の予防にもなります。

参考までに…

ザーネン種の妊娠日齢と体長の関係は以下の通りです。

妊娠日齢
12日   0.2cm
18日   0.6cm
25日   1.0cm
35日   2.0cm
42日   3.0cm *超音波での妊娠鑑定の時期
56日   5.0cm
63日   9.0cm
84日   16.0cm *ここから急速に成長
140日  50.0cm
150日  出産

今後、直腸からの妊娠鑑定の精度を高める工夫や私の住む島の山羊さん達のデーターを妊娠鑑定時に集めていきたいと思っています。

 

実際に妊娠鑑定の依頼を受けた際の記事はこちらです。
山羊の診療Diary 症例18 妊娠鑑定