Monthly Archives: August 2021

山羊の診療note14 ヤギの角 ~除角について~

ヤギの角ってどんな構造かご存じですか?
ウシ科であるヤギの角は角芯と呼ばれる骨の突起を角鞘という鞘が覆っています。
角芯は頭蓋骨の一部の角突起で角鞘はケラチンというタンパク質でできています。
つまり・・・
ヤギの角は骨にカバーが付いているような構造になっています。
そして、角は一生の間、生え変わることなく伸び続けます。

ヤギのくにちゃんの立派な角!

除角の方法は、デホーナーを用いる方法とのこぎりを用いる方法があります。
しかし、どちらの方法も除角は強い痛みを伴います。
また、出血や化膿、破傷風、脳に障害を与えることやショック死などを起こす場合があります。
痛みを軽減し何かあった際は適切な処置ができるよう、獣医師の処置をお勧めします。

・デホーナーを使用する方法
生後7~10日で実施します。子ヤギを保定し、局所麻酔後、熱したデホーナーを角芽部に強く押し当て焼き切ります。
その後、電気ごてで除角部の周りを焼き皮膚をはがします。除角部に抗生物質の軟膏を塗布し、抗生物質、破傷風血清を注射します。
この方法は頭蓋骨にデホーナーをあてるので、加熱しすぎると脳に障害を与え、
ショック死することがあるので子ヤギの様子を観察しながら注意深く行う必要があります。

・のこぎりを使用する方法
角がすでに伸びているヤギの除角をする際は、のこぎりによる切断になります。
しかし、この方法はヤギの角の構造からもわかる通り、骨を切るという事になります。
出血や痛みを伴うので、鎮静や局所麻酔を行い、のこぎりで切断後、電気ごてで止血を行います。
その後、抗生物質、破傷風血清の注射を行います。

☆☆書籍のご案内☆☆

書籍「ヤギの診療」 
著 寺島杏奈
出版 日本橋出版
2022.7.31発刊

鼓腸症についてだけでなく、ヤギの飼い方、消化の仕組み、診断の方法、他のよくある病気についても体系的に解説しています。

☆☆☆☆

ヤギの分娩について

ヤギの分娩について、知っておかなければいけない事。

https://anchor.fm/vetinc./episodes/ep-e15b910

以前ご質問いただいた内容を改めて。音声にてまとめてみたいと思います。

今回も中田さんとの対談です。

山羊の診療note 13 破傷風

みなさん、破傷風という病気はご存じですか?
人の破傷風はワクチンのおかげで今ではだいぶ少ない病気になりました。
地域性があるので、この病気をみないところもありますが、
今も存在する病気です。
私の住んでいる島は、破傷風常在地域です。
普段は牛の診療を主に行っていますが、牛では破傷風は年に何度か診療します。

ヤギも破傷風にかかる動物です。
その為、ヤギの診療でもいつも頭の片隅にこの病気はあります。
ヤギの去勢手術などの際は破傷風の血清を注射してから行っています。

そして、人もかかる病気で、少なくなったとはいえ、治療が困難な病気なので
私自身も破傷風トキソイドの注射(ワクチン)を接種して診療にあたっています。
人の破傷風についてはこちらを参照してください。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/466-tetanis-info.html

*破傷風ってどんな病気?
破傷風菌が傷口から体に入ることによって感染します。
破傷風菌は土の中など環境中にいる菌で、そして空気のないところで増えます(嫌気性菌)
土のついた傷口のなかの酸素のないところで増えて毒素を作ります。

破傷風菌の作る毒素は、「神経のはたらきを抑制する神経」に作用します。
すると筋肉がずっと収縮し続けて、筋肉のけいれんをひきおこします。

(基礎知識)
・筋肉の収縮・・・神経からの伝達でおこなわれます
・けいれん・・・自分の意思とは無関係に起こる筋肉の収縮のこと

咬筋、舌筋、嚥下筋に影響があると→開口困難、咀嚼困難および嚥下困難 (口が開かない、飲み込めない)
眼筋および鼻筋に影響があると→瞬膜突出、鼻翼開帳

*飼い主さんが気が付く症状

元気がない。ふらふらしている。歩き方がおかしい。
食欲がない。口が開かない。涎が出る。痙攣する。

このような症状が出る前に、手術や除角、外傷などがあった
またはお産後(母ヤギの胎盤停滞)、赤ちゃんヤギ(おへそからの感染)などが疑われます。
(潜伏期間は通常2~5日、1~2週間の時もある)
しかし、釘などを踏んだりなどの、飼い主さんが気が付かない小さな傷でも感染する場合があるので、
実際は発症した時どこ傷から感染したかわからないことも多いです。

*実際の診療
私がこれまで経験した牛のお話をします。

実際の現場では、歩き方が破傷風特有のものであったりする場合はすぐにわかりますが、
たいていの場合、他の病気を除外しながら破傷風の症状がないか診察することになります。
特に、「口が開かない」は破傷風を疑うポイントになります。
飼い主さんからは、なんとなく元気がない、様子がいつもとなんとなく違う、
えさを食べないというお話を伺うことが多いです。

*治療
残念ながら治癒率は低い病気になります。
抗生物質の連続投与や対処療法を行って経過をみます。

最後に大切なこと
この病気は人獣共通感染症であり、見つけた時は県知事に届出し、適切に処分しなければなりません。疑わしい時は、獣医師及び家畜保健衛生所に連絡してくださいね。

さらに詳しく知りたい方は・・・
http://nichiju.lin.gr.jp/tksn/deer/deer21.html

余談
私は小学生の頃に「震える舌」という小さい女の子が破傷風にかかってしまう映画を見て、破傷風を知りました。その映画が小さい頃の私にはとても恐ろしく、映画を見た後、しばらくけがをすることがとてもこわかったのを今でも覚えています。