山羊の診療Diary症例32 難産(側位側胎向)

山羊の診療Diary症例32 難産(側位側胎向)

前回、ヤギの正常な分娩についてお話しました。
今回は、お産に介助が必要だった難産の症例をご紹介します。

飼い主さんより、
「朝から陣痛がはじまっているが、赤ちゃんが出てこない。とても苦しそうなので来てほしい」との連絡が夕方に来ました。

ご連絡いただいた農家さんのところに急いで向かいました。
到着すると、母ヤギさんが「うーうー」と苦しそうにうめいていました。
陰部からは何も出ていませんでした。

すぐに手袋をして、陰部を消毒し手を入れて、内診をおこない
赤ちゃんヤギさんの向きがどうなっているか確認しました。

通常なら、前足または後ろ足が触れます。

前足が2本触れた場合は次に頭が触れます。

いわゆる逆子で。後ろ足が触れる時もあります。
逆子であせる方がいらっしゃいますが、ヤギやウシの場合は、異常ではなく、前から生まれる時よりも頭が引っかからず、するりと順調に生まれることが多いのでびっくりしないでくださいね。

注意するのは、胴体の部分で引っかかってしまうと息ができずに亡くなってしまうので、そういう事がないようよく観察して、危険な時は引っ張って介助してあげる必要があります。

前足と後ろ足の区別の仕方は肢端から2番目の関節を触って確認します。
後肢のときは飛節が触れます。前肢の時は膝関節(人間の手首の関節にあたる)が触れます。
蹄の向きだけで判断すると診断を誤るので、必ずこの関節を確認するようにしてください。
下胎向の場合(上向きで万歳している状態)前足を後足と間違えてしまう事があります。

そして、今回はどうだったかというと・・・・

なんと足も頭も触れませんでした!!
いったいどうなってたかというと・・・

こんなふうに背中が産道にきてしまって、つまっている状態でした。
名前を付けるなら側位側胎向でしょうか。

お母さん山羊は、苦しそうにうめいていて早く出してあげたいのですが、
ここは落ち着いて、どうにか赤ちゃんヤギさんが出られる胎位にもどしてあげる必要があります。

初めに、赤ちゃんを押して奥に戻しました。
産道では、狭くて向きが直せないので、何とか赤ちゃんの向きを変えるスペースを探します。

奥の少し広いスペースに押したところで片足が触れました。
足をたどっていくと頭が確認できました。
なかなか、向きが直らなかったのですが頭をさらに押して、自分の片手で前足2本を確保し、
もう片方の手で、頭の上に手を添えて、
やっと引っ張り出すことができました。

生きてる!!

呼吸を確認して、まだ赤ちゃんがいないかすぐに確認しました。
するともうひとり子ヤギさんがいました。この子もそのまま介助して無事生まれました。

その時の映像はこちらです。

陣痛開始から長い時間がかかっていたことと、体の向きが異常だったので、心配しましたが無事生まれて、
私もほっとして飼い主さんと一緒に喜びました。

お母さんヤギもすぐに赤ちゃんヤギたちをぺろぺろ舐めてお世話をしてくれました。

分娩介助はとても緊張する仕事ですが、
元気に生まれた時は本当にうれしく幸せな気持ちになります。

今回の症例のように、前あしも後ろあしも触れない場合があります。
胎児の体位が正常かどうかは目で見ることができず、手の感覚での作業になるので少し難しいです。
しかしどんな時でも、お落ち着いて、ヤギの体の構造を頭の中で思い浮かべて、まずは体がどんな向きになっているのかを確認することが大切です。現状を把握したあと、解決に向けて、体位を正常に戻すことをひとつづつ試していきます。

院長先生によく言われているのは、
「同じことをずっとしない。一つだめだったら次の手を考えること」

私も焦ると「あれ?あれ?」と同じことを繰り返しそうになります。
今回もなかなか頭がまっすぐにならず正直とても焦りましたが、いろんな角度から押したり引いたり試行錯誤し、2頭とも無事に生まれました。

赤ちゃんヤギさんたちの元気な様子をみてほっとしたときに、分娩だけでなく病気の治療でもこれは大切なことだと心から感じました。

2 thoughts on “山羊の診療Diary症例32 難産(側位側胎向)

  1. mana

    ヤギのぬいぐるみがお揃いで、うれしくなってしまいました^^
    出産のことは自分にとってとても興味があるので、こういう症例もあるのだと大変興味深く読みました。ユリルの出産のときも本当に大変な介助でしたね、ありがとうございました。あのときのこと思い出しました。難産の分娩介助は緊張するけど、無事生まれた時の喜びはひとしおでやりがいがありますよね。大変なお仕事とおもいますが、これからも応援してます☆

    Reply
    1. Anne Post author

      manaさま
      コメントありがとうございます。このヤギのぬいぐるみ、紅型の布が使われていて沖縄らしくてかわいいですよね!
      そして、この難産の症例に興味をもっていただいてありがとうございます。次の症例はmanaさんのゆりるちゃんのお産のお話の予定です。とても難しいお産でしたが、manaさんのご協力もあり無事に生まれてとても心に残るお産になりました。お産のことmanaさんはいろいろご存じだと思うので、機会があるときにお話を伺えたらうれしいです。今後ともよろしくお願いします!

      Reply

Leave a Reply to Anne Cancel reply

Your email address will not be published.