山羊の診療Diary症例33 難産(若齢出産&頭部先行)

山羊の診療Diary症例33 難産(若齢出産&頭部先行)

今回のお話は、

「山羊の診療note10 ヤギの島野草セット」でご紹介したゆりるちゃんの分娩のお話です。

ゆりるちゃんの妊娠がわかったのは、初診時の診察でした。

その時は下痢の治療で伺いました。

全身状態を診るのに妊娠鑑定をしたところ、妊娠がわかりました。

まさか妊娠しているとは飼い主さんも思っていなかったのです。

なぜならゆりるちゃんの月齢を聞くとまだ妊娠するにはずいぶん早かったのです。
しかし、譲っていただいたお家の方に確認してもらったところ、雄山羊さんとずっと一緒にいたという事でした。

ヤギさんがいつから赤ちゃんを作ることができるのか?
ということですが、

性成熟は5~6か月ごろと言われています。

しかし、実際は個体差もあり3か月ではじめての発情がくるヤギさんもいます。
その為、正書では3か月過ぎたら、雄と雌を別々に飼育することをお勧めしています。
実際、3か月過ぎの男の子と女の子の子ヤギさんを一緒に飼育していたら妊娠してしまったというお話を
別の飼い主さんから伺っています。その妊娠発覚以降そこでは3か月で必ず、雄雌を分けて飼育しているそうです。

元の飼い主さんに聞いたゆりるちゃんのお誕生日とお腹の赤ちゃんの大きさの様子が、
一致せず、いつ妊娠したかは正確にはわかりませんでした。

しかしまだ、成長過程で妊娠してしまったことには間違いがありませんでした。
お父さんだと思われるヤギさんも体が大きく、難産が予想されました。

どうして、若齢での妊娠が危険かというと、
まだ体が出来上がっていないので、骨盤の広さを赤ちゃんが通れない可能性があります。
お父さんヤギの体格が大きいときはなおさらです。

ゆりるちゃんは分娩前に下痢と食欲不振が続いていたため体力がかなり消耗していました。

出産に挑むにはギリギリの状態だったのです。

分娩予定日も不明だったため、治療に通いながら分娩を待ちました。

飼い主さんの懸命の看護もあり、ようやく食欲が戻ったのですが、すぐに陣痛がはじまることとなりました。

飼い主さんから、陣痛がはじまっているというご連絡があり、現場に向かいました。

治療経過と体格を考えると通常の自然分娩で生まれない可能性も十分あるので、帝王切開の準備をしてゆりるちゃんの元へと向かいました。

到着すると、
ゆりるちゃんの陰部からは子ヤギさんの鼻先が見えていました。
これは「頭部先行」という難産の胎位となります。
ヤギでは頭から出てきてしまうと、足が引っかかり出ることができません。

はじめに通常通り頭を押して引っ込めて、
両前足を確保しました。

その次に、頭を足の間におき、後頭部に手を添えてひいて赤ちゃんを出そうと考えました。普通ならこれで赤ちゃんを無事に産ませることができます。

以前ご紹介した、
「山羊の診療Diary症例2 難産 頭からでてきた場合」
に胎位を直して生まれる映像がありますのでご参考にしてください。
https://vet-present.com/goat/268/

しかし!
今回はこれではまだ赤ちゃんを出してあげることができませんでした。
なぜなら、ゆりるちゃんの骨盤腔はとても狭くて、両足と頭が同時には通らなかったのです。

とにかく、頭と前足を骨盤腔に通さなければいけません。

そこで、まず前あしそれぞれひもをかけて一旦引っ込めます。そして、頭を参道に入れ、後頭部にひもをかけます。実際は結び目は口の中にはいっています。

産道の狭い部分を、先に頭だけ通り抜けてもらいます。その後、首の隙間から前足のひもをひっぱり両足を出しました。

ここまでで、なんとか骨盤腔から出すことができたので、あとは外陰部を通れれば無事に誕生です。

ここからの様子はこちらの映像になります。

無事に生まれることができました!!

飼い主さんのご家族のみなさんや、ご近所のみなさんに見守られて、
赤ちゃんヤギさんが生まれた時は喜びの声が上がりました。

 

この動画中で起こっていることを解説すると、

骨盤腔は通っていたものの
頭が外陰部ギリギリ通るか通らないかだったので
外陰部を手で広げました。

生まれた後に、まだおなかに赤ちゃんがいないか確認しました。
今回はいませんでした。

また、呼吸が弱かったので、
水につけてシャワーの皮膚からの刺激で呼吸を誘発するとともに、
前足を開いたり閉じたりして、肺が広がるのを補助しました。

自分でしっかりと呼吸するのが確認できたので、赤ちゃんヤギさんはタオルにくるんで少し休憩した後、お母さんのゆりるちゃんのケアをして初乳を飲ませました。

今回の症例は、
まだ体が成長途中のお母さんヤギさんで骨盤腔が狭いためとても難しい症例になりました。
今回、とても幸運なことにお母さんヤギさんも子ヤギさんも無事でしたが、、
若齢での妊娠・分娩はとても危険で、ヤギさんの体に大きな負担をかけてしまいます。
また、お母さんも子ヤギさんも助からないという悲しい結果になることもあります。
獣医師として、診療やこのような難産介助も大切ですが、このようなことが未然に防げるように
ヤギさんの性成熟などの体のことをみなさんによく知ってもらったり、日頃のごはんや暮らし方などの飼養管理についてお話していくことの大切さを改めて感じました。

大変なお産になりましたが、
はじめてお家にきたヤギさんがすでに妊娠していて分娩という事態にも関わらず、飼い主さんやご家族のみなさんの懸命のサポートによって、
お母さんヤギのゆりるちゃんが、体調を壊しながらも最後まで分娩をよく頑張ってくれました。

そして、私もこの分娩に立ち会えて、生まれた子ヤギちゃんの生命力の強さに心が震えました。

後日、赤ちゃんヤギさんのお名前はリンクに決めましたとご連絡をいただきました。
「ヒトやモノや出来事を結びつけるもの、絆」という意味が英語ではありますよね。
誕生のときにすでにおおきな感動をみんなにくれたリンクくん。
リンクくんがこれからもいろいろな人や出来事を結びつけてくれますように。

ゆりるちゃんとりんくくんにはこちらで会うことができます!
宿のホームページはこちらです。

2 thoughts on “山羊の診療Diary症例33 難産(若齢出産&頭部先行)

  1. mana

    ユリルのお産では、大変お世話になりました。
    リンクの頭にこんな風に紐がかけられていたことにびっくりです。私も一度ユリルの産道に手をいれたので、ほんとうに狭い産道と骨盤だと思いましたが、あの中できちんと引っ張れるよう胎位調整をすることと紐をかける技術、すごいですね。寺島先生が後半何度もあきらめずに手を入れて調整してくれていた姿がすごく印象的で胸が熱くなります。あの時お起こっていたこと、このような流れになっていたこと、ブログで知れてうれしいです。今回、帝王切開の準備もしていただいていましたが、介助の途中で手術に切り替えるかだいぶ迷われていたのでしょうか?
    本当に2匹が生きて、無事お産を乗り越えられたことは、先生方お二人のの粘り強い介助と皆の気持ちあっての奇跡ですね。2匹の命、大事に育てます。
    また、ゆっくりお産についてお話しできる機会があれば私もうれしいです。

    先日は、リンクとユリルに温かいプレゼントをありがとうございました。いつも見守っていただき、感謝しています、これからもどうぞよろしくお願いします。

    Reply
  2. Uchida

    コメントありがとうございます。
    なかなか時間かかりましたが、最後まで落ち着いて見守ってくださったみなさんに感謝します。

    介助の途中は、帝王切開に切り替える時間的余裕はありませんでした。
    狭いのは分かっていましたが、頭が通る大きさだと分かっていましたので、なんとか出ると思っていました。

    娩出期に入っても産道が頭も通れないほど狭い時は、初めから帝王切開になったと思います。

    胎児の死亡が確定している場合や、母体が瀕死の場合などは、どちらかのみ助けるという判断で選択せざるを得ないかもしれません。

    また一度産道に入った後に開腹すると、すでに産道が汚染されているので、帝王切開後の腹膜炎リスクが上がります。

    総合すると今回は
    ○なんとか出そう
    ○どちらも助かりそう
    ○すでに手を入れてしまった

    だったので、そのまま介助して出すつもりでした。

    その後も未熟児のお世話大変だったと思います。
    いろいろ勉強になりました。
    ありがとうございました。

    Reply

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