循環系の最も基本的な機能は、末梢組織に血流を供給することです。そのためには、心拍出量と臓器への血流配分を調節することが必要です。
循環調節とは、血圧、心拍出量、血管抵抗を調節する機構です。これらは相互に影響し合い、また調節をし合っています。例えば心拍出量が増えれば動脈血圧が上がります。血圧を平衡状態に戻すために血管抵抗を下げ、続いて静脈が弛緩して血液貯留量を上げることで心臓へ戻る血液量を減らし、血圧を保とうとします。血管抵抗が増えて血圧が上がる場合も同様です。また逆に静脈の弛緩が先に起こり血圧が下がった場合は、血管抵抗を上げたり心拍数を上げたりして血圧を保とうとします。
こうして心臓の運動、流れやすさ、貯留量は、相互に影響し合い、組織でのガス交換と物質交換が円滑にできる血流を確保できるよう適切に保たれています。
心臓が時間あたり多量の血液を送り出せば、動脈血圧は上昇します。それを適切に戻すために、生体の反応として血管抵抗を下げます。血圧が先に上がれば、続いて静脈環流が増加して心拍出量が上がります。
循環の調節は平常時に一定の値を保つようされていますが、運動時や低酸素時などの特殊な状態のときは脳や心臓などの重要な器官への血流を確保しつつその他の各臓器にも血流を供給するように調節されます。標準生理学p568
これら一連の循環調節は自律神経性、ホルモン性、局所性にさまざまな調節機構があります。
血管と心臓の調節
中枢性調節、外来性調節
生体は血圧が上がれば、下げようとします。心拍数が上がれば、下げようとします。逆もまた同様に行われます。血圧、心拍数、心拍出量について、適切な値を維持しようと常に調節を行い、各組織に適切な血流を維持しようとしています。
安静状態で適切だった心拍や血圧は、ある時危険が訪れると、逃走や闘争に適した値に調節されなければならなくなります。そういう時は中枢から心臓や血管に指令を出して、適切な状態に変更するよう指示が出ます。循環器内で調節されるのではなく、循環系外からの調節という意味で外来調節、それぞれの臓器ではなく指令塔からの調節という意味で中枢性の調節と表現されます。
局所性調節
生体全体として、循環器をどのような状態に保つのが適切かを判断して設定するのは中枢です。ただし、各組織で起こっていることを感知して、組織でそのまま対処する仕組みもあります。それらを局所性調節といいます。
中枢が血圧を上げなければならないと判断して血管収縮と心拍数増加指示を出したら、増加した血圧と血流に対して局所で自己判断し、増えた仕事をこなすように働くようになります。
どの臓器にどれだけ血液を配分するのかは、臓器ごとの血管抵抗を増減することで調節することができます。例えば逃走時に筋血流を増やすなど中枢性に調節されることもあれば、筋運動や組織代謝に伴い発生する物質(乳酸やCO2など)に反応して局所性に調節されることもあります。
具体的な調節機構を、一応確認しておきましょう。
血圧調節のための血管の調節
①生体は細動脈の太さを調節します。 細動脈の平滑筋を使って細くすると血管抵抗が増加するため同じ心拍出量でも血圧が上昇することになり、太くすると血圧が低下します。
②生体は静脈の太さを調節します。静脈系を収縮させると、静脈系に貯留させてある血液を心臓にたくさん戻すことになります。すると循環血液量が増え、血圧が上がります。
③生体はバソプレッシンというホルモンを介して、腎での尿生産を減らします。その結果体水分の節約となり循環血液量が維持されます。
④局所では細動脈の収縮、細静脈の軽い収縮が起こり、その差により毛細血管圧が下がります。すると毛細血管内に組織から水分移動が起こり、循環血液量が増加します。
血圧調節のための心臓の調節
①交感神経は洞房結節のパルスを増加させ心拍数を増やし、また収縮力も増やします。副交感神経は逆です。
②心臓は変動する血圧に対し、1回拍出量を一定にし、心臓への流入量と拍出量が等しい状態に心臓自身が自動的に調節する仕組みがあります。
これは心筋の張力によって筋力が変化するためです。簡単に言うと、生理的範囲では心筋が伸びるほど収縮力が増えるからです。これをスターリングの心臓の法則または内因性機構といいます。標準生理学p519
血管抵抗の増加により血圧が上がると、一時的に心拍出量が減りますが、それに伴い心臓内に貯留する血液が多くなると、自動的に収縮力が増すためすぐに回復します。
また静脈圧の上昇で心臓への流入が増えると、同様にしばらくは心筋が伸展し収縮力が増加し拍出量が増えます。いずれ流入量と拍出量が等しい平衡状態まで回復します。
③遅れて働く代償機構として、心臓に長期的な圧負荷がかかると、心筋が太くなり心拍出量が増加する。
心拍出量の調節
心拍出量を生理的に調節する機構は次のようなものです。
(1)心臓の心拍数と収縮性の調節
①神経性調節として、心臓交感神経は心拍数増加、収縮性増加。心臓迷走神経は心拍数低下、収縮性低下。
②液性調節として、副腎髄質からのノルアドレナリンとアドレナリンは心拍数増加、収縮性増加。無機イオンとして、カルシウムイオンは心拍数増加、収縮性増加。カリウムイオンは心拍数低下、収縮性低下。
(2)平均体循環圧を変えて静脈還流量を調節する
③神経性調節で静脈圧を高めると静脈還流量と心拍出量が増える。逆の調節も可能。
④液性調節のノルアドレナリンとアドレナリンも③と同様。
⑤血液量が増えると体循環圧が増加して静脈還流量が増える。出血の場合は逆の反応となる。
⑥局所調節として、運動により筋肉が筋静脈を圧迫すると、静脈弁の作用により静脈還流量が増える。
標準生理学p527