疾病の代償としての循環調節

これまで書いたように、生体はさまざまな調節機構を駆使して体を元気でいられるよう保とうとします。

そこでもし循環器のある部分に障害が起こると、その障害をカバーするように反応します。

その時現れる反応が、いわゆる「症状」です。症状はさまざまな調節機構と代償機構の結果なのです。

この後は、さまざまな障害に対する生体の反応を書いて行きましょう。

心不全に対する生体の反応

うっ血性心不全
うっ血性心不全は、心不全による心臓ポンプ作用の障害と、静脈系のうっ血が加わった病状のことです。
これまで説明した機構を用いて理解しましょう。

①心筋梗塞などがきっかけで心臓ポンプ作用が低下する。
②速い代償として、心臓に流入する血液が増え、心筋が拡張することで心拍出量を回復させる。循環反射により交感神経の緊張の高まり心拍数と心筋の収縮性が増加する。また静脈系の緊張が高まり心臓に多く戻すことで貯留してある血液を体循環に動員する。
③遅い代償機構として、心筋細胞が太くなり、結果として心臓の壁が厚くなる。同時に心臓の収縮を促す物質が生産され、心臓の拍出力が増す。腎臓によるNa+と水の再吸収が制限され、血液量が増加する。
④代償機構により一時的に循環が確保されても、心臓のポンプ機能が回復しない場合は、心不全が長引き心臓の収縮性が低下し始め、ますます代償機構に依存するようになる。
そうなると、心拍出量の低下から循環血液量の増加が起こり、さらに心拍出量が低下するという悪循環に陥ります。標準生理学p531

だから症状は、心拍数が高く、静脈が怒張、四肢や胸垂の浮腫などが起こります。

ショックについて

ショックの初期には、これまで見てきたさまざまな代償機構が総合的に働き体を維持しようとしますので、代償機構の理解と整理のためにショックについて成書をもとに解説します。

ショックとは、急性に起こる全身の血液循環が障害されている状態で、特に末梢循環が障害されている状態の事です。重要な臓器組織の微小循環が著しく障害される結果、多臓器不全につながります。
代表的な症状は、血圧の低下、微弱で頻数な頻脈、皮膚の蒼白、意識状態の変化(興奮または低下)、尿量減少などです。

原因はいずれも心拍出量を急性に減少させるものです。つまり、①心臓の収縮性が低下する場合(心筋梗塞による心拍出量の低下)②静脈還流が減少する場合(出血による血液量の減少、細静脈の緊張低下(毒素、アナフィラキシー、交感神経活動の低下))などがあります。
ショックの原因は様々ですが、病状には多くの場合共通のものがあります。病態が軽い場合は循環調節メカニズムの大小作用によって心拍出量、血圧などは正常範囲に戻ることができますが、代償能力の限界を超える重症の場合は悪循環に陥り回復不可能になることがあります。
標準生理学p589-590

ショックに対する生体の反応

ショック初期の代償作用
心拍出量の減少とともに血圧が下がると、動脈圧受容器が検知した情報をもとに交感神経の活動が高まり、心拍数が増え、末梢血管が収縮します。血管収縮は特に皮膚と筋肉で強く起こり、皮膚が蒼白になります。
血管収縮は腎血管についても起こり、腎血流の低下は内分泌調節機構を介して血管収縮による血圧上昇を起こし、腎臓からの水の排泄量を減少させることによる体液量の上昇を起こします。その結果心拍数を上昇させるように働きます。
出血性ショックと細菌性ショックでは心臓機能で代償しようとするため、初期には心拍出量は増加します。
出血性ショックでは血液量を回復させるために尿量の減少を起こし、毛細血管圧の低下が組織間質から血管内への体液の移動を起こします。
また、のどが渇く反応も同時に起こり、血液量を増やそうとします。

進行性ショックの悪循環
①心臓機能の低下
血圧の低下が代償範囲を超えると冠血量が低下して、心臓が動けなくなり、乳酸などの代謝産物が蓄積し、ますます心臓機能が低下します。
②血管緊張の低下
血圧低下の初期には血管収縮により血圧を上げようとするが、長期間この状態が続くと血管の収縮が維持できなくなります。
③微小循環の異常
血圧の低下が重度で微小循環が維持できなくなると、次のように悪循環に陥ります。
まず組織がうっ血状態になり組織の低酸素が起こると、血管組織の損傷が起こり、これにより血液凝固と血漿の漏出が起こると、さらに組織の低酸素と損傷の拡大が起こります。標準生理学p590

高血圧症に対する生体の反応

高血圧の原因は様々であっても循環系に見られる変化には共通のものが多いです。
高血圧が続くと、心筋の代償性変化として心臓の肥大が特に左心室で起こります。心臓の肥大と冠循環の障害は心不全を招きます。全身的に血圧が上がり血管抵抗が上がりますが、特に腎臓への影響が大きく、腎血流が不足します。腎血流の減少は血圧を上げる調節機構(レニンアンジオテンシン系)を働かせるため悪循環となります。標準生理学p588
また高血圧が長く続くと、腎臓や脳の細動脈に圧がかかり血管内の炎症を起こしたり治ったりを繰り返すため、血管の内側が狭くなります。その結果腎臓硬化症や脳卒中などの問題を起こしやすくなります。

浮腫

組織間室に過剰の水分が貯留した状態を浮腫といいます。組織液量は毛細血管の濾過と再吸収のバランスで定まりますので、ろ過の増大、再吸収の減少、リンパ流の障害が起こると浮腫が発生します。
この仕組みにより、浮腫の発生は①毛細血管壁の障害②平均毛細管圧の上昇③血漿膠質浸透圧の低下④リンパ管の通過障害、によって起こります。
このうち②の毛細血管圧の上昇は静脈圧の上昇に起因することが多いです。右心不全では体循環領域に、左心不全では肺に浮腫が起こります。肝硬変の場合は肝臓の血管抵抗が高まるので門脈血圧が上昇し、消化器系の毛細血管圧が高くなって腹水を生じます。
標準生理学p554

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