Category Archives: ヤギの診療記録と飼育方法

山羊の診療Diary 症例7「出産後20日の下痢」

*山羊の診療Diary 症例7 「出産後20日の下痢」

お母さん山羊のあめちゃんが朝、下痢をしているのに気がつきました。

ヤギの固まった下痢
山羊さんの便はコロコロ丸いのが健康なので、このように粒がなくなり固まっているのは
下痢をしていることになります。

さっそく、あめちゃんの診察スタート。
はじめに、ごはんをあげて様子を見てみました。草を口にはするものの食欲は前日より落ちていて、元気もいつもよりありません。
次に聴診をしてお熱を測ってみました。聴診で心臓や肺の音には問題はなく、熱は40.5℃と高めでした。腹部の触診と聴診ではガスがたまっている様子も見られません。おしっこは確認できました。

 

ヤギが下痢を起こす主な原因

ではいったいあめちゃんの下痢の原因はなんでしょうか?
通常、下痢を起こす原因として以下の原因が考えられます。

食餌性 中毒や過食、変質飼料など
感染性 ウィルス・細菌・寄生虫など
環境性 寒さやストレス(神経性)など

今回、問診から食餌性の下痢の可能性は低いと思われました。

次に感染性の下痢について考えてみます。
ウイルスや細菌感染は子山羊さんも大人の山羊さんも可能性があります。一方、コクシジウムなどの寄生虫は通常大人の山羊さんでは寄生していても問題にならないことがほとんどです。しかし免疫が低下したような時は注意が必要です。あめちゃんは産後でいつもより体に負担がかかり免疫力が落ちている状態です。そのため、寄生虫の下痢も可能性も考えられました。

最後の環境性ですが、何日か雨が降り続いている毎日だったのであめちゃんにとってストレスがかかっていたことも考えられました。

 

産後間もない時期は、免疫力が落ち感染しやすい状態。産後特有の病気も

そして今回の症例では「産後間もない」ということは非常に大切なキーワードになります。
先ほどもお話ししましたが、免疫力が下がっている状態なので感染がいつもより簡単に起こる状態です。また、産後特有の病気がいくつかあります。代表的なものに以下の病気があります。

①産褥熱
分娩時に産道の傷から細菌感染が起こりお熱が出ます。出産後、1~7日の間に起こることが多く、
発熱すると食欲がなくなったりおっぱいの出る量が減ります。免疫が下がるのでいろいろな病気にかかりやすい状態になります。

②ケトーシス
いろいろな原因がありますが(妊娠末期に栄養が追い付かない・ホルモンの失調・肝臓の機能の低下など)からだの中にケトン体というものがたまってしまう一種の中毒でです。ケトーシスになると食欲を落としてしまいますので様々な病気を誘引することになります。

③栄養不足
おっぱいを出すためにいつもより栄養が必要ですが、栄養が足りない場合も免疫を落として感染に弱い状態になります。

 

症状はひとつでも、原因は様々で動物の状態もさまざま。(院長追記)

※院長追記〈〈〈〈
今回の症状は「下痢」です。
上記のように、症状はひとつでも、原因は様々で動物の状態も様々なんです。ですから、

①あらゆる原因の中から可能性の高いものを推定し、それらに対する対策を取ります。あくまで推定なので、いろいろな可能性をカバーできるように考えます。どうしても原因を区別しないといけない場合は検査をします。

②動物の状態を観察して、体を元気にする対策を取ります。大雑把に言うと体の弱り具合をみるんです。緊急性が高いほど、この治療が大切になってきます。
〉〉〉〉

 

今回の山羊の下痢ケースでの治療内容

以上のことをふまえて・・・あめちゃんの治療を行いました。

・ごはんの改善(あめちゃんが好きなもの・食べられるものを探して食欲を増進させる・栄養不足を解消する)
※体を元気にする治療、ケトーシスの予防

・整腸剤をごはんと一緒にあげる。
※食餌性下痢の治療

・抗生物質・駆虫剤の投与
※細菌性と寄生虫性下痢の治療、産褥熱の治療

・脱水、食欲のないときは輸液を検討
※体を元気にする治療

・床の掃除
※環境性下痢の治療

幸いなことにあめちゃんは2日後には熱も下がり、食欲、元気もいつも通りになりました。
便も形になってきたので経過を見ることになりました。

このように大人の山羊さんの下痢でも、産後はいつもと体の状態が違うので、考えられる病気が増えてきます。

ただの下痢と思わずに出産後の経過も考慮して見てあげることが大切だと感じました。

山羊の症例Diary 症例6「顔面浮腫」(ふしゅ・むくみ)

山羊の症例Diary 症例6「顔面浮腫」(ふしゅ・むくみ)

朝、山羊小屋でごはんをあげている時、はなちゃんの顔がいつもと違うように感じました。
顔に触ってみると、顔が腫れてほっぺたがつかめる状態になっています。

ヤギの顔面浮腫、むくみ

 

そして、食いしんぼうのはなちゃんなのにごはんも食べません。
しかも足下には吐いたようなものが落ちていました。

ヤギが吐いたもの

はなちゃんが吐くのはよくあることなのでしょうか?

 

ヤギやウシなどの反芻動物は、人間のように吐いたりしない

実は山羊さんや牛さんなどの反芻動物はわたしたち人間や犬や猫ののようには吐きません。
それは、消化のしくみが大きく違うからです。
ごはんとして食べた草は口でもぐもぐ噛んだ後、胃に送られて、再び口の中に戻してもぐもぐ噛みなおすというのを繰り返して消化していきます。
わたしたち人の感覚でいうと吐いたのを飲み込む!!を繰り返しているような状態です。
そう考えると気持ち悪いですが・・・。

まれに口の中の痛みや胃に寄生虫が寄生したときまた胃腸炎の後に未消化のものを口から吐き戻して外に出すことがあります。

 

反芻動物が「外に吐く」という症状は、ほとんどの場合「飲み込めない」という意味。原因の一位は、食道梗塞(院長追記)

※院長追記〈〈〈〈
アン先生の言うように、反芻動物は基本的に吐いたり飲んだりしています。
犬やヒトなんかの単胃動物は、胃腸に不快感があると嘔吐しますが、反芻動物は日常的に吐いてるんです。

だから反芻動物が「外に吐く」という症状は、
ほとんどの場合「飲み込めない」という意味になります。
飲み込めない原因の一位は、食道梗塞です。
草の塊や、胡瓜、大根みたいのを丸呑みしてしまって詰まることを言います。

「よだれが出る」という症状もこれに似ています。
よだれも、常に分泌されています。
でもいつもは飲み込んでいるから、外には流れ出てこないんです。
よだれが外に流れ出てくる場合、

  • 口の中に傷がありうまく舌が使えない。
  • 痛くて口を動かしたくない。
  • 舌に紐みたいのが絡まっている。
  • 口の麻痺を起こす病気。
  • 歯が痛い。
    などが考えられます。
    〉〉〉〉

 

ロープが絡まり、「顔面浮腫」(ふしゅ・むくみ)に

というわけで、はなちゃんの吐いたようなものを見たとき、お口の中に何か問題があるのかな?と頭に浮かびました。でもなぜ顔が腫れているのか?

そこではなちゃんをよく観察してみると・・・

なんとロープがからまって首が絞まっている状態になっていました。

ヤギのロープ事故

どうして首がしまってはなちゃんの顔が腫れてしまったのでしょう?

首には、全身を流れて心臓に帰ってくる「頸静脈」というホースの太さくらいある大きな血管と、心臓から全身に血液を送る出す「頸動脈」という血管があります。
顔が腫れていたのは首にある大きな「頸静脈」という血管が圧迫されて顔に血管から漏れ出した水分がたまり、むくんでいたからでした。むくんでいる部分はロープで圧迫されているところから上の首のところから顔全体に及んでいました。

急いでロープを解いてあげると何事もなかったようにごはんを食べはじめました。
それでも顔のむくみはすぐには戻りませんでしたが、その日の夕方には回復しました。

 

ロープが山羊の首や体に巻き付いて起こる事故は多い。ロープ事故の予防策

はなちゃんはロープで直接首のところを縛っていたので、今回のようなことが起きてしまいました。実はロープが山羊さんの首や体に巻き付いて起こる事故も多いです。

事故を防ぐためにできることは、
①杭や首輪を結ぶところにはヨリ戻しのついたナス環を付ける
②ロープで直接首を縛らず犬の首輪をつけてあげる
などがあります。
さっそくはなちゃんも首輪とロープを取り替えました。

ひとつの症状にとらわれず、「全体をみること」「先入観をもたないこと」の大切さ

わたしは今回の症例で
「全体をみること」と「先入観をもたないこと」の大切さを学びました。
ひとつの症状にとらわれないで体全体、環境や群れの様子・・・など俯瞰すること。(広い視野で物事を見ること)
また、ひとつの症状や状態から先入観をもって決めつけないこと。
この二つを忘れてしまうと、意外と簡単なこと、でも重大なことを見逃してしまうことに気が付かせてくれた症例になりました。

山羊の診療Diary 症例4「子山羊の跛行」

山羊の診療Diary 症例4「子山羊の跛行」

生後10日齢の女の子、はじめちゃんがあしを引きずっているという連絡がありました。
いつもよりミルクを飲む量が減っています。
最初にお熱を計って、全身状態の確認をします。体温は41.5℃でした。
山羊さんの平熱は39.5℃位なのでお熱があるようです。
次にはじめちゃんに歩いてもらいました。

やはり歩き方がいつもと様子が違います。
足を一本一本触って痛いところや骨折がないか確認します。
股関節が外れていないかも忘れずに確認。
骨折があるときは触ったときに非常に痛がります。
はじめちゃんの場合、
腰を伸ばしたときに痛そうな感じがみられました。
お熱があるので全身の感染症の可能性も考慮して抗生物質と痛み止めを注射しました。
次の日からはお薬を飲んでもらうことに。
足のびっこはまだ残るものの次の日には、食欲・元気が回復していました。

 

子山羊が足を引きずる原因

子山羊さんが足を引きずる原因として以下のようなものがあります。

原因)
①打撲やねんざ
②股関節脱臼
③骨折
④細菌感染による化膿性関節炎
⑤全身的な感染症・栄養障害

打撲やねんざの場合、安静にして消炎剤の塗布で数日で回復することが多いです。
股関節脱臼の場合は股関節をもとの位置に戻すことが必要なので
獣医さんに連絡してください。
骨折は固定できるところは副木などで固定します。骨の位置が大きく
ずれていなければ1か月くらいで骨はくっつき回復します。

 

子山羊はからだが軽く、骨折することが多いので注意が必要

若い山羊さんはからだが軽くて飛び跳ねた際に骨折することがよくあるので
注意が必要です。
また関節や全身の感染症で痛みが出る場合もあるので、痛そうにしている部分だけでを
観察するのでなく食欲や元気、お熱はないかなどからだ全体を観察してあげることが重要です。

山羊の診療note3 「子山羊の人工哺乳」

ヤギの人工哺乳が必要なときと、良いところ

ミルク待ちの子山羊

ミルク待ちの子山羊。ひとが大好きになります。

お母さんのおっぱいを飲むのがやはり一番ですが、人工哺乳が必要な時があります。

たとえば・・・

  • お母さん山羊が亡くなってしまったとき
  • お母さん山羊が育児放棄してしまったとき
  • 母乳によって伝染する病気を防ぎたいとき
  • 双子以上の赤ちゃんが生まれて乳の量が足りないとき
  • 山羊の乳を利用したいとき

などです。

 

人工哺乳の良いところもあります

  • 子山羊がひとによく慣れ、大きくなっても扱いやすい。
  • 飲む量がわかるので健康管理に役立つ

などです。

 

母山羊のおっぱいと人工哺乳を併用。乳の飲ませ方

お母さんのおっぱいと人工哺乳を併用することも出来ます。

 

<飲ませ方>

生まれてから数日以内に人工乳とほ乳瓶の乳首に慣れさせる必要があります。

1.      舌先にミルクをほ乳瓶から垂らし味を覚えてもらう

2.      ほ乳瓶をくわえさせる

人間用のほ乳瓶の乳首は子山羊にとって少し短いのではじめはうまく飲めない子山羊もいます。そういうときは指を乳首に添わせたり、口周りをそっと抑えてあげてみてください。(山羊用の哺乳乳首もあります)

最初、慣れないうちはむせてしまうこともありますが慣れれば上手に飲めるようになります。

 

<ミルクの温度>

40度くらい

 

<ほ乳量/1日>

生後~3週間 体重の25%  *体重1kg あたり 250ml

生後4週   体重の20%  *体重1kg あたり 200ml

 

注意

・未熟児や体力のない子山羊、体調の悪いときは1回の量は減らして回数を増やすこと。

・代用乳(ヒトの粉ミルクなどを使用した場合)は軟便になりやすい。

 

<ほ乳回数>

生後3日間 1日3

生後4日目~ 1日2回

山羊の診療note2 「山羊の体温」

ヤギの体温 ~山羊さんの平熱は何度?~

山羊さんに触ったり子山羊さんを抱っこすると、
あったか~く感じませんか?

わたしたち人間の平熱は36.6℃くらいですが、
山羊さんたちの平熱はいったい何度でしょう?

山羊の体温

答えは・・・
平熱 39.5℃(38.5~40.5℃)
微熱 41.0℃~41.5℃
高熱 42℃以上
なんと平熱が39.5℃もあるのです!
私たちだったらくらくらしてしまいますね。
だから山羊さんをなでるとあったかく感じるのです。

 

お家にひとつ。山羊さんのための体温計を

そして、わたしたちは風邪を引いたかな?というとき熱を測りますよね。
山羊さんたちも熱を測ることで体の調子を見ることが出来ます。

感染症などにかかると山羊さんたちもも熱が出ます。
また子山羊さんは体温が低くなり体調を壊すことがあります。
お家にひとつ山羊さんのための体温計があると日頃の健康管理にとても役立つと思います。

 

*山羊の熱の測り方*

お尻の穴に優しく体温計を入れます。
体温計の先が、うんちの真ん中にささると、低めに表示されます。
深さは人差し指の第2関節くらいの深さまで入れてくださいね。

山羊の体温計

 

 

山羊の診療note1 「お産の後に確認すること」

*山羊の診療note1 お産の後に確認すること。胎盤(後産)が出たことの確認

出産が終わると、可愛い子山羊さんたちに目を奪われがちですが、がんばったお母さん山羊さんのことも気にかけてあげてくださいね。
出産後、まず気にかけてほしいことは、胎盤(後産)が出たことの確認です。
胎盤(後産)は通常、分娩後1~6時間ででてきます。

お母さん山羊のあめちゃんは出産後すぐに胎盤(後産)が出ました。

出産後の山羊

 

 

一方、ゆきちゃんは半日ぐらい胎盤(後産)が陰部にぶら下がったままになっていました。そして、次の日になって出てきました。小屋に落ちていた胎盤(後産)

胎盤、後産

 

胎盤(後産)が子宮の中に残ったままだと炎症や体調不良の原因になることも

このように山羊さんによって胎盤(後産)が出てくる時間は違いますが、子宮の中に残ったままだと炎症や体調不良の原因になることがあります。

分娩後12時間経っても胎盤が出ないときは、毎日2回検温してください。体温が山羊さんの平熱の39.5℃以上の時、食欲が低下したときはすぐに獣医さんを呼んでください。また、7日以上胎盤が出ないときも処置が必要な場合がありますので獣医さんに相談してみてくださいね。

 

胎盤が出ない「胎盤停滞」と診断された場合

胎盤が出ない「胎盤停滞」と診断された場合は、山羊さんの状態によって、以下の治療から状態に合わせた治療を獣医さんが選んで進んでいきます。

①胎盤が自然に排出されるまで待ち抗生物質を子宮の中に入れる

②外に出ている胎盤を軽く引き体の中の胎盤がはがれるのを促す。

③胎盤が排出されるようなお薬を注射する

最後になりますが、落ちている胎盤はすぐに片付けるようにしましょう。そこで細菌が増え、お母さん山羊の乳房炎や子山羊さんの下痢の原因になる場合があるので注意してくださいね。

山羊の診療Diary 症例3「子山羊の低体温・低血糖」

*山羊の診療Diary症例3 子山羊の低体温・低血糖

 

生まれて3日齢の子山羊の男の子、ひまわりくんが小屋で倒れていると連絡がありました。

沖縄でも1月と2月は風が吹くと寒い一日になります。

山羊小屋に到着してひまわりくんの熱を測ると37.4℃しかなくぐったり倒れていました。

 

ヤギ低体温の主な症状と判断方法

 低体温の主な症状は

・口の中が冷たい

・蹄の間を強くつまんでも感覚がない

・ぐったりしている

 などがあります

 

体温計がないときは口の中に指を入れてみてください。冷たく感じれば、体温は37以下の可能性が高いので危険な状態であると判断することができます。

 ここですぐに温めてあげたいのですが、低体温の時は低血糖を伴っていることが多く先に体の糖分を補ってあげないと体に残っている糖分を温めることで使い切ってしまい昏睡状態におちいる可能性があります。

 

そのため、注射でお腹の中、そして点滴で血管の中にブドウ糖を体の中に入れてあげてまず低血糖の状態を改善する必要があります。

 その後、バケツに42℃くらいのお風呂を作り、ビニールにひまわりちゃんをいれてお風呂で温めます。直接お湯に入れると体が濡れてしまい湯冷めをしてしまうのでビニールに入れます。

 

 あったかーい。

低体温時、ヤギをお風呂で温める

 

お風呂では、体温計で体温を測りながら温めること

ここで大事なことがもう一つ。体温計で体温を測りながら温めましょう。体温が37℃になったらお風呂で温めるのは終わりです。

子山羊の平熱は39.5℃くらいですが37℃以上温めてしまうとその後急激に体温が上がってしまうからです。

 温まった後は、ミルクをあげます。自分で飲めないときは胃にチューブをいれて哺乳する場合もあります。

 

最後にはひまわりくんはミルクを自分で飲めるまで回復しました。

自力でミルクを飲む子山羊

 

低体温・低血糖は子山羊さんが亡くなってしまう原因としてとても多いので、寒い日は特に気をつけてあげてくださいね。

 

山羊の診療Diary 症例2「難産」(頭から出てきた場合)

*山羊の診療Diary症例2「難産」(頭から出てきた場合)

 

山羊のゆきちゃん(3歳の女の子)が出産しました。

 

わたしたち人間の赤ちゃんは頭から生まれてきます。

さてさて、山羊の赤ちゃんは頭から生まれてくるのかな?それともあしから生まれてくるのかな?

 

正解は 「前足から生まれる」です

 

山羊の正常な分娩でははじめに2本の前足が見えその間に鼻先が見えてきます。しかし、今回ゆきちゃんの赤ちゃんは頭から先に出てきてしまいました。頭から先に出てしまうとさあ大変。前足が引っかかり上手く生まれてくることができないのです。この場合、出産にお手伝いが必要になります。

 

出産シーンはこちら。

頭でふさがって前足を探せないときは、いったん手で頭を押し戻し前足2本を探り出す

今回、すぐに前足が見つかり引き出すことが出来ましたが、頭でふさがって前足を探せないときは、いったん手で頭を押し戻して前足2本を探り出しましょう。そして、頭が足の間に入るように位置を修正してから前足をつかんで、お母さん山羊の陣痛に合わせて引っ張ります。

そして、子山羊が生まれたらすぐに羊膜を破り、鼻や口のまわりを拭い呼吸を確認します。羊水を飲んでしまい呼吸が確認できない場合は体を逆さまにして軽く振り、鼻や口にたまっている羊水を吐きださせましょう。呼吸が確認できたら一安心。お母さんに赤ちゃんを渡すと体を舐めてお世話をはじめます。

この後ゆきちゃんは2頭の赤ちゃんを無事出産しました。

無事に出産した山羊

ゆきちゃんおつかれさまでした。

山羊の診療Diary 症例1「子宮脱」

山羊の診療Diary 症例1「子宮脱」

今回のお話はオーナーさんからの電話
「出産後いつもと違う肉の塊みたいなのがぶら下がっている」
からはじまりました。

出産後、お母さんがお腹の中で栄養を赤ちゃんにあげるために必要だった胎盤(後産)が出てきますが、赤ちゃんが入っていた子宮がひっくり返って出てきてしまうことがあります。これを「子宮脱」といいます。

子宮脱は緊急を要するのですぐに獣医さんに連絡をしましょう。早ければ早いほど治る可能性が高くなります。

 

ヤギが出産後、子宮脱になったら。オーナーにお願いしたい緊急処置

獣医さんが来るまでにオーナーさんにお願いしたいことは

  1.  山羊を立たせておく
  2. きれいなぬるま湯で汚れを洗い流す
  3.  お砂糖をかけておく
  4. ビニールをかぶせる

です。

 

お砂糖をかけておくと出てきた子宮のむくみが軽減され、戻しやすくなります。

今回はオーナーさんからすぐに連絡があり、洗浄・お砂糖をかけておいてくれたので子宮を戻すことが可能な状態でした。

山羊の子宮脱

 

ヤギ子宮脱に対する獣医師の処置

ここからのわたしたち獣医師の処置は、

刺激の少ない消毒液で洗い、手でゆっくりとお腹の中に戻していきます。途中、痛みで力みますがゆっくりゆっくり戻します。全部の子宮が整復できた後は、再度出てきてしまわないように陰部を縫合します。最後に感染予防のために抗生物質を処方します。

この山羊さんは1週間後、無事抜糸を終え元気に赤ちゃんの子育てを頑張っていました。

 

子宮脱の原因と予防策

子宮脱の原因として太りすぎや運動不足、加齢による赤ちゃんの通り道付近の筋力の衰えなどがあり、これに難産などで強い力が加わることがあげられます。

 

妊娠中に太らせすぎないこと、適度な運動をさせてあげることが予防になります。また一度、子宮脱を起こすと次の出産時にも繰り返すことが多いので、子宮脱を起こしたことのある山羊の出産は特に気をつけてあげてくださいね。