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5.哺乳(牛飼いの基本作業)

繁殖和牛も乳牛も、農場には必ず産ませた子牛がいます。乳牛も子牛を産ませなければ乳を出せないからです。

繁殖和牛の場合は自然哺乳(親に哺乳してもらう)の場合と人工哺乳(人が粉ミルクを与える)の場合があります。乳牛は乳が製品になりますから、人工哺乳することになります。

(1)自然哺乳

自然哺乳の場合は、子牛は飲みたい時に飲む事になります。朝一番に母牛が立ち上がってすぐ、おなかをすかせた子牛は乳首に吸い付きます。

実際に飲んだ量を把握するには飲む前と後で体重を比較すると測れますが、普段の管理では普通そこまで行いません。ちゃんと飲めているかは観察により推定する事になり、飲む勢いと、おなかの張り具合で判断します。また飲んでいる時間の長さがとても長い時は、母乳が不足している可能性があります。

(2)人工哺乳

人工哺乳の場合は、1日2〜3回給与します。体格に応じて1回に2〜3リットル(黒毛和種の場合)給与します。

哺乳中は元気さや食欲と共に、その他の異常が見られないか観察します。

哺乳瓶を洗浄、消毒し、38℃の温湯に粉ミルクを溶かし給与します。頭数が多い場合は時間がかかるため、給与時に冷めてしまわないよう注意が必要です。

哺乳瓶が汚れていたり、濃度や温度が不定であったりすると下痢の原因となります。また哺乳に時間がかかるからと哺乳瓶の孔を拡げ過ぎると下痢の原因となります。

牛飼いの基本作業1〜4

この章では肉用牛(主に繁殖和牛)の経営について、作業の面から全貌を解説していきます。

https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/cms/a17600/ninaite/nougai/apd1_1_2008021027111046.pdf

1.飼料給与

牛は草を食べる動物です。繁殖和牛は1日に乾草なら7kg程度、生草なら20kg程度食べます。乳牛は乾草なら15kg程度、生草なら50kg程度食べます。

https://www.j-milk.jp/findnew/chapter1/0102.html

給餌は1日2回が基本です。良い畜産物をたくさん作ってもらうために牛に効率よく栄養をとってもらわなければなりません。おなかいっぱい食べてほしいのですが、牛が食べにくいエサだったり、食べるのが面倒な環境であったりするとなかなかたくさん食べられません。

ですから飼槽や水槽を工夫したり、ひと口で食べられる量を増やすために細かく刻んだり、エサを掃き寄せて食欲を刺激したりと、ひと口でも多く食べてもらえるように給餌します。

乾草に加えて、とうもろこしや大豆などの濃厚飼料も給与します。濃厚飼料は、草だけでは栄養が足りないことがあるためや、妊娠や泌乳時期に応じて栄養の量を調整しやすくするために給与します。

草を粗飼料と言い、主に穀物を濃厚飼料と言います。これらを別々に与える飼い方を分離給与、初めから混ぜて与える飼い方を混合給与(TMR給与)と言います。

2.除糞作業

繁殖和牛は1日約18kgの糞と7kgの尿をします。

乳牛は1日約46kgの糞と14kgの尿をします。

https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/tikusanka/0433-ryuuijikou.html

繋ぎ飼い(タイストール)の場合は牛床に落ちた糞尿をレーキやスコップで集めて、堆肥置き場に運びます。放し飼いでベッドがある飼い方(フリーストール)では床に落ちた糞尿をトラクター等で集めたり運んだりします。また快適なベッドにするためにベッドの掃除や敷料交換などをします。放牧飼養の場合は除糞作業はあまりしませんが、踏圧で牧草地の草が枯れないように放牧する頭数や期間を調整する(放牧強度の調整)ために、牛の移動作業があります。

3.発情発見

繁殖和牛経営では子牛を産ませて売るのが目的です。

牛は21日に1回、妊娠可能な時があり、この時起こる行動を発情と言います。

子牛を妊娠してもらうために、この発情行動を観察して、交配可能なタイミングを見逃さないようにしなければなりません。

発情期、牛は15分に1回くらいの間隔で同居牛に乗る、乗られる、陰部の腫れや充血、粘液漏出、咆哮などの行動を示します。

一般的に、牛は性欲より食欲が強いので、給餌の時間は発情行動が見つけづらくなります。ですから給餌と除糞の時間だけでなく、なるべく牛が落ち着いている時間に発情発見を行う方が、発見率が上がります。

4.搾乳(乳牛の場合)

乳牛の場合は搾乳作業があります。

ミルカー(搾乳する機械)、バルククーラー(ミルクを一時保存する容器)を洗浄し、搾乳し、終わったらまた洗浄消毒します。

搾乳時は衛生的に、乳頭を傷つけないように、泌乳タイミングをずらさないように、テンポよく行う必要があり、ある程度の熟練が必要です。

集乳車の到着を待ち、バルク乳を集荷してもらいます。

牛飼い1年目の教科書

しばらくヤギの記事をおやすみしていました。

これから、畜産を始めるにはどんな事を知っておけばいいのか。また基本的な牛の飼い方で、新人獣医師が知っていなければならない事を、実際の現場に即した形でまとめて行きたいと思います。

畜産農家は一事業体です。動物を飼い、増やし、畜産物を生産します。そこには動物の知識に留まらず、幅広い知識が必要なのです。

この執筆が終わる頃には、畜産の一事業体の全体像を描き出す事ができるでしょう。

そして牛飼いになりたいなぁ。と畜産業に興味を持った方や、牛の獣医として農家を支えるんだ!と産業動物獣医として歩き出した方が大きな成果を上げ、希望を達成する助けになる事を期待して取り組んで行きます。