山羊の診療Diary症例25 産後の膀胱炎

山羊の診療Diary症例25 産後の膀胱炎

今回の症例は・・・

飼い主さんより「お母さん山羊が元気がなく寝てばかりいておしっこが赤い。おしっこが出にくく、苦しんでいるので診てほしい。」
という連絡がありました。
早速、伺ってみると、木の下に座り込んでいるお母さん山羊とその周りを元気いっぱいに走り回っている子山羊さんが2頭いました。

そして、少し遠くに強そうなお父さん山羊もつながれていて、こちらをじっと見ていました。体調不良のお母さん山羊がなんとか立ち上がると、子山羊さんたちが飛んできて、おっぱいを頭でぐいぐい押して飲んでいる状態でした。

まずは飼い主さんにお話を伺いました。
お母さん山羊の名前はキキちゃん。2歳。

今回2回目の出産とのことです。

1か月前に双子を出産して、ここ2~3日で元気がなくなってきたとのことです。食欲はあるが、赤いおしっこをしているようだとの事でした。

キキちゃんを診察してみると・・・
全身状態はかなり痩せていました。
眼や口の中の粘膜を見ると真っ白で貧血が疑われました。聴診で頻脈をおこしているのがわかりました。
お熱は39.1℃で平熱でした。
食欲はあるということでしたが、お腹の触診によりお腹いっぱいには食べられていないことがわかりました。

この時点ではおしっこを確認できなかったので血尿なのか、もしくは子宮に感染が起き子宮からのおりものなのかわかりません。また、尿閉といっておしっこが出ないのか、それとも頻尿で残尿感がある状態なのかわかりません。

そこで、直腸からのエコー検査を行いました。すると、膀胱は通常〜やや小さく、星空様のエコーフリー像が確認できました。つまり尿閉ではなく頻尿であり、膀胱内に浮遊物を伴う液体がある事がわかりました。

その直後、
真っ赤なおしっこが出てきました。


ここで一つ注意点があります。
赤い尿がすべて血尿とは限らず、例えばある種の中毒の時などは「血色素尿」という赤いおしっこが出るときがあります。そういった類症鑑別をするため追加で尿検査や血液検査など行う場合もあります。

今回は膀胱炎と仮診断し診断的治療を始めることにしました。

飼い主さんのお話、山羊さんの状態、検査などから総合的に診断しての治療になりますので「赤い尿=膀胱炎」ではないので獣医さんにご相談くださいね。

治療と経過
1日目
・抗生物質の投与、止血剤の投与、輸液
・子山羊さんのほ乳をストップ
(おっぱいは血液から作られるので、血尿が出て貧血状態にあるキキちゃんの状態での哺乳は身体に負担になります。
そこでキキちゃんが元気になるまでは人工哺乳をお願いしました。)
・栄養状態の改善のためにキキちゃんに配合飼料をあげてもらう。

2日目
・抗生物質の投与、止血剤の投与、輸液
・輸血
(おしっこへの出血、貧血の状態に変化なく、活力も改善されなかったので輸血をおこないました。同居の雄山羊さんから採血をして、
事前に輸血適合試験”クロスマッチテスト”を行い、問題がなかったので輸血ができました)

3日目
・抗生剤の投与、止血剤の投与、輸液
昨日まではメリーちゃんの状態がかなり悪く、最悪の事態も考えての治療だったのでお電話で元気が出てきたと飼い主さんからお話が聞けて少しほっとしました。 実際診療に伺いキキちゃんに会うと、 顔色も全身状態も昨日より明らかに良さそうで私たちもうれしく思いました。

4日目
抗生剤の飲み薬を処方
おしっこの色も改善し食欲元気も出てきたとのことで内服薬を処方し経過観察となりました。

勝脱炎の原因は確定することはできませんが、今回は、産後すぐから徐々に症状が出ていたので、出産後の陰部から排出される悪露が感染源になった可能性が高いです。

悪露は母山羊さんの勝眺炎や子宮炎などの感染の元になるだけでなく、子山羊さんの下痢の原因にもなりますので、 産後2週間を過ぎても悪露の排泄が止まらない場合は受診してください。

また、陰部から垂れ下がって落ちない胎盤は、 無理矢理引っ張らないでビニールなどで保護しながら母山羊さんの状態を経過観察します。 (症例24  胎盤停滞を参考にしてください)

産後は体力を消耗しているのでいろいろな病気にかかりやすい状態になっています。

ミルクを出すのにかなりのエネルギーが必要なので、この時期は配合飼料などを上手に使って、母山羊さんの栄養状態や体力が落ちないようにしてあげてくださいね。
牛では、出産後すぐにお味噌汁を飲ませるのも効果的なようです。ヤギにも応用可能かもしれませんね。

診療後記・・・
キキちゃんのふたごの仲良し子山羊さん。 キキちゃんの治療中、お母さんと離ればなれになると、1頭はとっても甘えん坊の子山羊さんで、
キキちゃんを呼んでずっーと、 めーめーめーめ一泣いていました。
もう 1頭の子は草をもぐもぐ食べてみたり、繋がれているロープで遊んでみたり。
子山羊さんも性格はそれぞれですね。
小さな子どもの頃、 みなさんはどちらのタイプでしたか??
ちなみにわたしは めーめータイプでした・・・強くなったのかな。
何はともあれ、キキちゃんが元気になってまたみんなでくっついて暮らせますように。

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