山羊の診療Diary 症例 9 濃厚飼料盗食による盲腸拡張症

山羊の診療Diary 症例 9  濃厚飼料盗食による盲腸拡張症

今回の症例は14ヶ月齢の雄山羊のエイくんのお話です。
オーナーさんより、エイくんが昨日脱走して、濃厚飼料をたくさん食べてしまったという連絡がありました。
詳しくお話を伺うと、濃厚飼料を2kg食べて朝から元気がないということです。
また、朝はごはんを少ししか食べずお腹をこわしているとのことでした。

診察をしてみると・・・
熱39.5℃
心音・肺音異常なし
下痢 水様便
右側のお腹が膨らんでいる。(聴打診において右側の側けん部に金属音あり)
血糖値 55

今回の症例のポイントは、
濃厚飼料を急にたくさん食べた事と、右側のお腹が膨らんでいることです。

診察時に、聴打診といって指でお腹をはじきながら聴診すると、「キーン、キーン」
と金属をはじいた時の音(金属性反響音)が聴こえます。

 

濃厚飼料を急にたくさん食べた事と、右側のお腹が膨らんでいることから考えられた「3つの病気の可能性」

この時点で3つの病気の可能性が考えられました。

①盲腸拡張症または鼓張症(および捻転)

盲腸拡張症は盲腸が異常に拡張したり、変位または捻転して腹痛をおこす病気です。
原因の一つに、濃厚飼料をたくさん食べること、があります。
食べ過ぎてしまった濃厚飼料は第1胃で完全に発酵されず盲腸にいきます。
すると、盲腸の動きが悪くなり、食べたものが停滞してガスが発生し、盲腸が拡張します。
山羊さんはこの状態になるとお腹がとても痛くなります。

 

②第4胃右方変位

盲腸拡張症と同じように、第4胃に食滞および発酵によるガスの発生が起こると、第4胃が拡張します。
その結果、拡張した第4胃がいつもの場所から動いて右側に移動した状態を第4胃右方変位といいます。

第4胃右方変位も盲腸拡張症と同じように聴打診において金属性反響音が聴こえます。
盲腸拡張症との違いは右側の広範囲にこの音が聴こえることです。

③急性ルーメンアシドーシス

逃走して餌箱に入ってしまった時など、急に大量の配合飼料を食べてしまうことがあります。
この時第1胃内での異常発酵によって、第1胃内容が酸性に傾くことで胃内の微生物が死滅します。

同時に消化不良と死んだ微生物から出た毒素によって、発熱、1胃内容の流動化、水様下痢、敗血症、頻脈(ショック)などが起こります。

この時の診断は、主に飼い主からの聞き取りと上記の症状からです。

 

症例に戻って…盲腸拡張と予測をし、内科治療から開始

エイくんは、聴打診において右側の肋骨の後ろの上の方(側けん部)にのみ金属性反響音が聴かれました。
聴診された位置から盲腸拡張の可能性が高いですが、第4胃右方変位の可能性も捨てきれません。

また、水様性の下痢をしていることから、捻転による完全閉塞じゃないんだろうなーとは思います。

今回、捻転を起こしている可能性が少なかったのとエイくんの状態から内科治療からはじめることになりました。

 

右方変位の可能性も忘れず、盲腸拡張症と予測し内科治療を選択(院長追記)

※院長追記〉〉〉
ちょっと補足します。

右方変位は急性に死亡する病気ですから、開腹して胃のねじれを治さないといけません。牛だと放置すると1〜2日で死亡します。実はヤギでは経験ありませんが。知ってる方が居たら教えてください。

盲腸拡張でも手術が必要な場合もありますが、下痢で内容が排泄されているならもう少し待てます。

今回は聴診にて金属音の位置が後ろの方である事、腹部疼痛が少ない事から、ほぼ盲腸拡張だろうと予測しています。
全身症状が少なく、第1胃の状態は良くも悪くもなく、多量の水様便、というあたりから、少し前に急性ルーメンアシドーシスだったのかなと思います。

完全捻転ではなく、体力にも余裕がありそうなので、はじめは内科治療を選択します。

まず盲腸拡張を中心に治療しますが、右方変位の可能性も忘れてはいけません。

腹部疼痛が急性に進行する時は、開腹が必要になるかもしれません。またショックが起きた場合も緊急治療が必要になるかもしれないので、状態変化には十分注意していきます。
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ヤギの盲腸拡張症で行った内科治療

今回おこなった治療は…

①静脈輸液

→腸内に急激に水分が奪われるので、脱水が起こります。また、死んだ微生物から毒素が放出されるので、多量の水分で毒素の排泄を促すためです。

山羊へ静脈輸液

②胃腸のお薬の注射および経口投与

→腸を動かして、消化不良のものを早く排泄させます。腸内の毒素を吸着する薬で、毒素を減らします。また、生菌剤で腸内の発酵を早く正常に戻します。

ヤギに胃腸のお薬の注射および経口投与

③抗生物質の注射

→腸炎による2次感染の予防、菌毒素による敗血症の予防、肝炎の予防、全身状態悪化から易感染性による感染症の予防。今回は明らかに盗み食いが原因だったので、補助的な処方になります。

次の日の診察でエイくんは順調に回復が見られたので内科治療を続けて診療を終えました。

 

逃走防止や飼料の保管方法も、健康管理の一部。定期的に環境の見直しを

山羊さんはわたしたち人間と消化の仕組みが違うので、
穀類など発酵の速いものを急に食べすぎるとお腹を壊してしまうんです。

脱走による盗食では、ヤギも喜んで配合飼料を大量に食べてしまう為、高確率で胃腸疾患を発症します。

逃走防止や飼料の保管方法も、健康管理の一部です。
ぜひもう一度環境を見直してみてくださいね。

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