山羊の診療Diary症例34 熱中症&呼吸困難(鼻腔拡大手術)②
今回は前回のお話の続きです。
たつくんは前回の処置、「糸で鼻を持ち上げた状態」で過ごしていました。
5日後、飼い主さんにご連絡すると、
食欲も以前のように戻り、とても元気という事でした。
処置の前に、聞こえていた呼吸をするときのいびきのような音も聞こえなくなったそうです。
また、飼い主さんも早速、避暑用に日中木陰で過ごせるようにヤギ舎の外に、
たつくんの他、雄山羊さんたちが快適に過ごせる場所を作ったという事でした。
お話しから、たつくんの経過が良好なので、いよいよ仮止めの糸を外し、
手術に踏み切ることになりました。
まず、鎮静をかけて横になってもらいました。
前回の処置で糸で鼻の上の皮膚を持ち上げています。
このようにしっかりと鼻の穴が開いています。
この釣りあげている糸をはじめに抜糸しました。
そして、今日の処置をする部分に、痛みが少ないように部分麻酔をしました。
今日はこのように皮膚を三角に切開しそこを縫い縮めて鼻の上の皮膚を持ち上げる予定です。
皮膚を切開すると、出血が見られたので止血を行いながら皮膚の切開を行いました。
三角に切開できた後は、縫合します。
無事、縫合が終わり、鎮静を覚ましました。
鎮静が覚めたのを確認して今日はこれでおしまいです。
そして、10日後の抜糸の様子です。
傷はきれいに閉じていました。
鼻の穴の開き具合は、糸で釣っていた時のほうが大きく開いていましたが、
飼い主さんのお話では、今のところ呼吸ができているようだったので、ひとまず様子を見ることになりました。
もし、また息苦しい症状やいびきのような音が出る場合は、もう少し広げるための再手術が必要というお話をしました。
抜糸から10日後のたつくんです。
今回の症例の後、他のヤギ舎でボア種の雄山羊さんの顔をよく見ると、
顔の構造上、ザーネン種よりも鼻孔が狭いように思いました。
たつくんのように、いびきのような音がでて息苦しいくらい鼻孔が狭いときは、暑い時期に熱中症のリスクが上がります。
また、通常の時でも、運動時に呼吸が苦しくなり疲れやすかったり、交尾などが上手くできない可能性もあります。
今後、ボア種の雄山羊さんの様子をよく観察してみようと思っています。
なにはともあれ手術後、すっきりしたたつくんの顔をみてほっとしました。
雄山羊のリーダーとしてこれからもこのヤギ舎で活躍してくださいね!
いつも大変勉強になり、感謝しながら読ませて頂いております。
鼻の穴が系統上塞がり気味なために、こんな症状を起こすこともあるのですね・・!
①「仮縫い」の時に使われたのはナイロンとか絹糸ですか、ワイヤーですか?
②この「仮縫い」のままですと、どのような不都合が生じますか(ど素人質問で申し訳ありません・・)
③写真から窺うに、電気ごてで止血していますか?
④局所麻酔もすれば、キシラジンでも完全に不動化されますか?
もし宜しければご教示ください。宜しくお願い致します。
三谷先生
コメントありがとうございます。
私も初めて会った症例で驚きました。犬の気管虚脱と同じような音と症状でした。
①仮縫いはナイロンです。
応急処置では縫わずに装具等で鼻腔を拡張できないかと試してみましたが、くしゃみで外れてしまいます。
すぐ諦めて、軽鎮静して皮膚を縫縮する事にしました。
②仮縫いのままですと、しばらくすると糸の穴から感染が起こる可能性があります。また引っ張っている為血行障害で皮膚が切れて外れてしまうかもしれませんね。
③電気ごてで止血しています。
④今回は不動化できました。
強い疼痛を伴う処置の時はキシラジンのみだとやはり動きます。
牛でもヤギでも皮膚の小外科であれば大抵キシラジンのみで可能ですが、
今回は体格も大きく、周囲にロープを縛る場所もなく、もし動かれると危険だったので局所麻酔を併用しました。
おそらくあまり出会わない症例ですが、万一の時はお役に立てると嬉しいです!
内田
内田先生
お世話になります、ご回答をどうも有難うございました。
①② そうですか・・1か月位置いといたらクセがつくかなーと思ったのですが、
そう甘くはないのですね。
③ これはすごく良いですね!!高価な器具でなくても、十二分に役立ちますね、
私もマネさせて頂きます!!
④ 観血去勢の時、睾丸の基部に局麻をして完全な不動化を試みたことがあったのですが、
それでも動いたので、リドカインは思ったほど効かないものと思いこんでおりました。
次の機会には局麻を試してみます。
どうも有難うございました。これからもどうぞ宜しくお願い申し上げます。