決める痛みと、生まれる希望。臨床獣医の仕事で大切かつ難しい「相手の気持ちを汲む」ということ

 

臨床獣医師として、常に直面する共通テーマ

前回の山羊腰麻痺疑いの記事、山羊の診療Diary  症例16 腰麻痺疑い ~治療をしないという選択~ について、院長の私からも書きたいと思います。

アン先生のまとめが素晴らしいので、読んでない方はぜひどうぞ。

臨床獣医師として常に直面する、共通のテーマなので、僕も書かせてもらいたいと思います。

アン先生の言うように、獣医師は「飼い主の選択に寄り添う」事をしています。そして、「動物との関係は人それぞれ」なんです。

  • 伴侶としてともに生きる人、盲導犬などと助け合って生きる人
  • 動物は好きではないけど、家族の動物をお世話している人
  • 家畜として飼い、動物をお世話する事で、生活資金を得る人
  • 家畜から生活資金を得る一方、飼育自体が生き甲斐であり、ライフワークである人

それぞれの人に事情があり、動物や、その関係に問題が起こることがあります。

 

VETの獣医療サービスが目指すところは、「きぼうをつくる」ということ。治療はひとつの手段に過ぎない

私たちの獣医療サービスが目指すところは、

「きぼうをつくる」です。

飼い主さんが希望を持つには、これからどうするか、自ら選択する事が必要なんだと思います。

そのためにまず目の前にある問題に対処し、飼い主さんが選択できる様な情報を提供します。

治すのはひとつの手段に過ぎないのです。

例えば今回の腰麻痺のヤギのように、交配する目的で飼っている動物が立てない時。

死にはしないけど、立って交配出来る確率は50パーセントか、もう少し低いかも。反面、治療開始したら約2ヶ月は出荷できないので飼育労働費と経費がかかる。

飼い主はもちろん治って欲しいんです。一生懸命お世話してきたんですから。

でもね、このオスヤギが交配できないなら、この飼い主さんにとっては一緒に居る理由がないのです。

諦めるのは心痛が伴います。一方で治療するのは損失も、不安も伴います。

どうしていいか決められないので、獣医が呼ばれているんですね。

 

獣医師には、「飼い主の選択に寄り添う」という役割もある

獣医は治療するだけじゃなく、あるいは科学者のように研究成果をあげたり、真理を追求するだけじゃないんです。

獣医はこの飼い主さんがヤギに求める関係性を汲んで、気持ちを汲んで、動物の状態を診断して、それから手段を提示します。経験や知識、技術を総動員してわかる事を整理して、先行きを示します。

そして飼い主さんの言葉にならない想いを生かす、本当の気持ちを生かす選択をしてもらうのです。

そういう事が「飼い主の選択に寄り添う」なんです。

選ぶ時には痛みが伴っても、次への希望を持てる結論を出せること。これからも悔いなく頑張れること。

それが臨床で行う獣医療のゴールなんです。

ある現実が、その人にとって苦しすぎて、どうしても選択できない時もあるでしょう。そういう時は、その人がそれを受け入れるまで、全力で治療し続けます。飼い主が諦めないなら、一緒に諦めず頑張ります。

でも、本当は諦めた方が楽なのがわかってても言い出せない…。みたいな場合もあるので、そういう時は別の方向性を提示してみます。それでも飼い主が決められないなら、決めないまま一緒に結果を見てあげます。

そういう事も「飼い主の選択に寄り添う」なんです。

決めないという選択でさえ、納得して次に進むためにはとにかく自分で選ぶ事が大切だと思うからです。

 

臨床獣医の仕事で大切・難しいことは、「相手の気持ちを汲む」こと

「治る病気」を治すのなんか、簡単なんですよ。そんなのは、真面目に勉強してたくさん症例にあたって、ちゃんと治療してたらできるんです。

臨床獣医の仕事でもっと大切で難しいのは、むしろ相手の気持ちを汲む事です。いろんな人が命に向き合う時の苦悩なんかを一旦預かって整理して、その人がそれを受け入れられるような、前向きになれるような形で返してあげる事です。

そうして、その人が悲しんだり苦しんだりした後にも、また頑張ろうって思ってもらえることが、治す事よりずっと大切な成果なんです。

ね、共に臨床で頑張ってる獣医の先生方。

そう思いませんか?

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