代表的な疾患と便性状

食事性下痢(成牛)

 濃厚飼料の過剰、不適切な栄養バランスにより、消化不良を起こした場合、消化管内の浸透圧の上昇、消化管内の細菌叢の変化などが起こります。

便色が淡くなるのは通過速度が速くなるときで、分解が間に合わない速度で通過している状態です。この時は便中にビリルビンが残存しているために、便が排泄された後、ビリルビンが酸化して淡褐色から暗緑色に変化します。また便中に未消化物が含まれるため、便臭が強くなります。

初期は浸透圧性の下痢となりますが、病状が進むと細菌叢の変化や感染等を併発しやすくなり複合要因に移行します。

細菌性下痢

毒素性大腸菌による下痢は分泌亢進を主とする下痢です。毒素および炎症の刺激のため、分泌と運動亢進が同時に起こるり急性の水様性便がでます。
動物病理学各論p210、

サルモネラ菌よる下痢は大腸菌と同じく分泌主体の下痢を呈します。盲腸、結腸炎を起こし、感染程度によっては出血を伴います。動物病理学各論216
悪臭、泥状〜水様で粘液、血液、偽膜を混ずることがあり、1〜2週間持続する。牛の臨床332

ヨーネ病は小腸に広範な肉芽腫性病変を作り腸粘膜が肥厚するため粘膜機能が障害され、動物病理学各論221
黄褐色、泥状〜水様、血液の混入はなく腐敗臭はありません。薬剤に反応し難く慢性下痢となります。
感染性が強く根治不可能なため法定伝染病に指定されています。
牛の臨床313

ウイルス性下痢

牛ロタウイルスは十二指腸から空腸、牛コロナウイルスは小腸の全部位の吸収上皮細胞に病変を形成し、分泌亢進性下痢を起こします。動物病理学211-212
水様で黄色、乳白色、淡黄緑色の便を排泄します。牛の臨床p307
水の排泄が重度の時は米とぎ汁のような白色透明の便を排泄します。

大腸からの粘液が多量に含まれる場合は濃さが均一でないように見えるため「卵スープ状」と表現されます。
BVD-MD 滲出性腸炎(線維素性腸炎)、広範な腸粘膜潰瘍のため滲出性下痢を示し偽膜排泄
動物病理学各論209-216

寄生虫性下痢

動物病理学各論209-216 動物病理学各論226-

コクシジウム感染による下痢の便性状は、初期は暗赤色泥状、中期は出血の増加により赤色、後期は血漿と血液を多く含む黄赤色となります。
コクシジウムは小腸、大腸、直腸の腸粘膜に寄生し病変を形成します。病巣が拡大するにしたがって便性状は変化します。
直腸付近の炎症は排便行動を促進するため頻回排便(しぶり)を起こします。

クリプトスポリジウムは小腸の微絨毛内に寄生します。
動物病理学各論p227
小腸絨毛に障害を与えるため、分泌亢進および吸収不良性の下痢です。便性状は黄白色の水溶便であることが多いです。
有効性の高い治療薬はありませんので、自己回復するまで脱水を防ぐ治療を続け体力を維持します。

線虫症は腸炎が起これば下痢になります。腸管の炎症による下痢です。
条虫症は反芻獣ではベネデン条虫、拡張条虫が知られており、吸着部位に上皮の剥離や潰瘍、炎症が起こるため下痢、血便の原因となります。条虫症は発生が散発的であり、かつ診断には能動的な検査が必要となるため、発見が遅れやすい印象です。条虫用の薬以外は無効な為、通常の治療に反応しない場合は早期に糞便検査にて除外してください。

その他の下痢

カビ中毒
 カビ毒(マイコトキシン)による下痢で、突発性の悪臭のある不消化下痢を排泄し、食欲減退を伴います。牛の臨床p341

母乳性下痢(子牛の消化不良性)
母牛の飼料不足、飼料変更によるルーメン環境の悪化などにより乳汁中に脂肪が増えると、脂肪不消化性下痢が起こります。
酸臭のある脂肪便で白色〜黄色です。重症なほど黄色味が抜けます。脂肪便は脂肪を多く含むため、艶があり水に浮きます。
牛の臨床p285
黒毛和種子牛の母乳性 白痢に関する研究,岡田,1999
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjvc1990/22/2/22_2_51/_pdf

一胃絨毛の形成不全(4-5か月令の慢性下痢)
哺育期の穀物摂取不足により第一胃絨毛の形成不全が起こると、VFA吸収効率の低下により慢性下痢になります。褐色泥状便を排泄します。

抗生物質による菌交代症
腸内細菌の減少や死滅により胆汁の代謝が阻害された結果、緑色下痢を排泄します。

胆汁分泌不全による下痢
胆管炎や胆石等で胆管閉塞が起こると、胆汁の排泄が阻害され、絵の具のように真っ白な下痢が排泄されます。

環境性下痢
寒さで下痢をするということが俗説的にはよく言われていますが、寒冷刺激と下痢の直接的な関連を示唆する論文等は見つけられませんでした。

湿潤環境、寒冷ストレス、群ストレスは免疫低下を起こすことで、各種病原体に感染しやすくなる可能性があります。

ストレスによる交感神経の興奮は消化管機能を低下させます。消化管運動、分泌を低下させ、水分吸収を亢進させます。
長期間のストレスによる免疫低下は感染を起こしやすくします。ストレスによる消化機能低下は消化不良を誘発したり、腸内細菌叢に悪影響を与えたりした結果、下痢を引き起こす要因になるのではないかと考えています。
またストレスにより第四胃潰瘍が起こると、炎症や疼痛により継発的に下痢が起こっている可能性があります。

寒冷ストレスについて
https://www.nosaido.or.jp/livestock/%E5%AF%92%E5%86%B7%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%B9/

胃潰瘍
上部消化管(胃と十二指腸)からの出血では、赤血球が消化され黒色となり、黒色タール便が排泄されます。胃潰瘍や壊死性腸炎などで重度の出血があるときに円筒状の黒色血餅が排泄されます。

まとめ

便性状と色についてさまざま例を挙げましたが、結局のところ便から推測できるのは、病巣の位置と重症度であって病名ではありません。
便性状はさまざまな調節機構が働いた結果ですので、便と病気を直接関連づけて早合点し、他の症状を見落とすことがないよう気をつけてくださいね。

Leave a Reply

Your email address will not be published.