*山羊の診療Diary症例22 パンの耳給餌による鼓腸症及びルーメンアシドーシス
今回の症例は・・・
オーナーさんから
「食パンの耳をたくさんもらって山羊さんにあげたら、
喜んだので食べさせたらお腹がどんどん膨らんで
元気がなくなってしまった」という連絡がありました。
診察に伺って見ると、
山羊のゆかちゃんが元気なく、お水を飲んでいました。
お腹も膨らんで大きくなっています。
聴打診という方法でお腹の聴診をしました。
ガスが貯まっていると、金属をたたいたときの音「キーン、キーン」
という音が聞こえます。
また、お腹を揺らして水分の貯まり具合を確認しました。
ゆかちゃんのお腹は、金属音はなかったものの、お腹を揺らすと
ちゃぽーんちゃぽーんとたくさんの水分がたまっている状態でした。
うんちを見てみると下痢をしていました。
また全身状態は脱水を引き起こしていました。
この時点で、
パンがお腹の中で異常発酵を起こし、鼓腸症になっていること、
下痢をしていますがうんちが出ていることから今のところ捻転や閉塞は
していないと考えられました。
そして、ルーメンアシドーシスを併発していることが。考えられました。
鼓腸症及びルーメンアシドーシスの治療方法
①鼓腸症を改善する治療
口からホースを入れて胃の内容物やガスを排出しました。
はじめにガスが出てきてその後、どろどろの未消化物を含んだ液体が大量に出てきました。
オーナーさんに優しくお腹を円を描くようにマッサージしてもらいながら行いました。
最後に、胃腸のお薬をホースから投与しました。
今回は胃腸のお薬を使用しましたが、ガス貯留の方が顕著の場合は食用油を投薬する場合もあります。
<注意>
口にホースを入れたときは必ず、気管に入っていないか確認することが必要です。
ホースに息を吹き込み、空気が戻ってこないこと、またホースからのにおいを確認します。
空気が戻ってきたら、肺に入っている可能性があります。
臭いは胃に入っていると胃液の臭いが確認できます。
気管にはいったまま投薬をすると誤飲を引き起こし、誤嚥性肺炎から亡くなってしまうこともあるので
細心の注意が必要です。
*鼓腸症とは?
羊さんは4つの胃を持つ反芻動物です。
山羊さんは私たちが消化できない繊維からエネルギーを作り出せる体の仕組みを持っています。
どのように、繊維からエネルギーを作るかというと、
第1胃内には微生物がいて繊維を分解して、エネルギーを作り出しています。
このように、第1胃は微生物が繊維を分解する発酵タンクのようになっています。
鼓腸症とは第1胃に急に発酵しやすいごはんがはいるとガスが急激に産生され、
お腹がガスでぱんぱんに膨らむ病気です。
②ルーメンアシドーシスの治療
脱水補正のため静脈からの点滴と胃炎からの感染を防ぐために抗生物質の注射を行いました。
脱水を改善することがとても重要な治療法になります。
*ルーメンアシドーシス(第1胃過酸症)とは?
正常な第1胃(ルーメン)内は中性からやや酸性に保たれています。
今回のように、炭水化物をたくさん含む消化の良いもの
(身近なものだと・・・パン、大根、じゃがいも、りんご、ぶどう、とうもろこし)
を急に大量に食べると、第一胃内の発酵が急激に進みます。
すると、乳酸が多く作られたり、酸の吸収が追い付かなくなり、胃の中の酸性化が進みすぎてしまいます。
このように過度に第1胃内が酸性化され障害が出てきた状態をルーメンアシドーシスといいます。
ルーメンアシドーシスになると全身の水分が第1胃内に集まってしまい脱水症状となり生きていくことができなくなってしまします。
死因の多くは脱水によるものなので脱水の補正の治療はとても大切になります。
脱水の補正治療によって、無事に回復
最後にオーナーさんに半日間の絶食・絶水をお願いしました。
治療後はぱんぱんだったお腹に少し余裕が生まれました。
お昼間の診療でしたがその後、夜にもう一度再診。
お腹の膨らみは落ち着いていたので、静脈からの点滴を行い
ルーメンアシドーシスの改善に努めました。
引き続き明日の朝まで絶食・絶水を指示しました。
その後オーナーさんに経過観察をしていただき、
次の日から元気が回復し2日後には下痢も治り食欲も戻ったとのことでした。
山羊の正しい飼養管理をお伝えしていくことの大切さ
山羊さんは草食動物ですが、人間のごはんをあげると喜んで食べるこもいます。
しかし、今回のケースのように消化ができず、命の危険を引き起こす病気、
鼓腸症やルーメンアシドーシスを引きおこしてしまうことがあります。
オーナーさんも、今回、山羊さんを喜ばせようとしたのに
逆に苦しめてしまったこととても悲しんでいました。
病気の治療はもちろんですが、
やはり、山羊と一緒に暮らすみなさんに山羊さんのことをよく知っていただいて、
山羊さんの正しい飼養管理をお伝えしていく大切さを感じました。
普段の診療の時ももちろんですが、今年は基本的な山羊さんのお話を
ていねいにみなさんにお伝えしていきたいと思っています。
☆☆書籍のご案内☆☆
書籍「ヤギの診療」
著 寺島杏奈
出版 日本橋出版
2022.7.31発刊
鼓腸症についてだけでなく、ヤギの飼い方、消化の仕組み、診断の方法、他のよくある病気についても体系的に解説しています。
☆☆☆☆
教えてください。
はじめまして。
この春からヤギを迎え、現在6ヶ月になるシバヤギのメスを、家族として育てている者です。除草剤や農薬を使わない畑をしています。
お尋ねしたいのは、お腹の具合と食べ物のことです。
今ちょうどお芋の季節で、芋をよく食べるので、私も少しあげていたのですが、私がみていない時にどうやら母がどんどんあげてしまったようで、フンがつながっている状態が2日くらい続きました。
こちらのブログを拝見して、控えるよう母にもお願いしたのですが、大丈夫でしょうか。
反芻はしており、枇杷の葉など、硬い葉っぱや干し草を食べさせて、どうにか体調を戻そうと試行錯誤しています。
今日のフンは、少しまだベタつくものの、形の良い黒い粒々を排泄できています。
乾燥させた芋なら大丈夫という人もいて、配合飼料などはあげていませんので、補助的に乾燥物を上げる程度なら問題ないでしょうか。
また、岩塩でなくとも、お味噌でいいと言われましたが、岩塩おいた方がいいでしょうか。
ヤギは強いからテキトーに飼っていて大丈夫、という話で、ならばと里親募集に挙手したのですが、ブログなど見ていると、つい数日前まで元気いっぱいだったのに、原因不明で急死しました、という文言を割と目にするので、もしかしたら、ガスが原因かなと思い、心配になって、こちらへ書き込みさせていただきました。
市内にヤギに詳しい獣医が見つからず、農業関係に詳しい知人に、誰か詳しい人がいたら教えて欲しいと頼んでいますが、なかなか頼れる医師に出会いません。
お忙しい中恐縮ですが、どうかご助言いただきたく、どうぞよろしくお願いいたします。
なかしま
なかしまさま
ご質問ありがとうございます。
勤務医のAnneが回答させていただきます。
なかしまさまがお気づきのように、
ヤギの便は、通常つぶつぶ、コロコロの独立した便が正常な便です。
そのため、便がくっついてしまったときはお腹を壊しているサインです。
つぶつぶがくっついて確認できない時や水状になると重症です。
ヤギさんがお腹を壊す原因は大きく分けると3つあります。
1.感染性の下痢(細菌・ウィルス・寄生虫など)
2.環境性の下痢
3.食事性の下痢
今回はおいもお話ですので、3の食事性の下痢についてお話します。
おいもやかぼちゃなどは炭水化物を多く含む野菜で、
ヤギさんの胃の中(第1胃)で消化される際、発酵しやすい食べ物です。
便の具合を見ながら、適量あげる分には問題ありませんが、
適正量を越えると消化が上手くいかず、下痢を起こすことや、
さらに量が多いとガスが発生して鼓腸症や胃の中の環境が酸性状態になり、
全身に影響が出るルーメンアシドーシスという病気になることがあります。
ヤギさんはおいもを好きなこが多く、おいしそうに食べる姿はとてもかわいいですよね。
しかし、食べすぎて下痢や、鼓脹症、ルーメンアシドーシスになると、とても苦しい思いを
ヤギさんもそれを見守る家族もします。
ぜひ1度、便の様子をみながら、
なかしま様のヤギさんが食べれる適切なおいもの量をご家族みんなで確認してみてください。
1日量がわかれば、その範囲でヤギさんもご家族の皆さまも楽しむことができるのではと思います。
岩塩を置いておくと、ヤギさんが自由に必要な量だけミネラルが取れるのでお勧めです。
お水も必ず自由に飲めるようにしてあげてくださいね。
申し訳ありませんが、お味噌を日常的にあげるという経験がありません。
お味噌を使うのは、分娩後の母ヤギさんにミネラル、栄養補給のためお味噌汁であげています。
Anne先生
お返事遅くなってしまい申し訳ございません。
とてもご丁寧にお返事くださってありがとうございます。
心から感謝申し上げます。
お芋を控えて、現在、黒くて形の良い、コロコロ大納言のようなピカピカウンチになり、非常に元気でおります。
本当にありがとうございます。
炭水化物がガス発生の原因になってしまうのですね。
第一胃の微生物の力、感動しました。
食べれるだけ食べ込んで、ヤギの貯蔵庫かと思っておりましたが、まさか胃の中で!
今後注意管理していこうと思います。
ウンチの状態が良くない時、左のお腹をまあるく撫でて、マッサージしていましたが、(たとえば人間のお腹は、腸の流れに従いのの字に撫でると良いと言いますが、)ヤギさんのお腹も何か、右周り左周り、流れのポイントがありますでしょうか。
もしあれば、教えていただけると幸せです。(急ぎません、、)
ウイルス性、環境性の下痢も、気になります。
微生物のバランスが崩れることによるものでしょうか。
現在一頭飼いにて、非常に寂しがり屋で大声で鳴くので、夜間のみ、私の見える部屋〜ベランダ開放にて、朝から夜までは、家の周りか畑でのびのびしています。
ワクチン、なにも接種しておりませんが(譲ってくださった方は、基本、接種は必要ないとの話)何か接種した方が良いのでしょうか。
近くには犬猫専門の動物病院しかありませんが。。
山の、毎日行く畑は多分大丈夫なのですが、月一くらいで行く山の上の方の畑は、マダニがいないとも限らず、市販の犬猫用を使うか、なにか犬猫用で対応できる薬があるのか、迷っています。
—
いただいたアドバイスに従い、来週には岩塩が届く予定です。
お味噌は、お産後に与えるのですね。
味噌パワーにも感動しました。
—
私たちが畑で芋掘りをしていたら、とうとう、自ら土を掘りはじめ、なんと一番大きなお芋を掘り当て、ヤギジャンプし、食べ始めてしまったのですよ。
本当にお芋さんが好きなんだと、感心してしまいました。
今後、山ではどんぐりが落ちるはずで、食べ過ぎ注意で見守りたいと思います。
長々すみません。
有り難く、嬉しくて、、
本当にありがとうございました。
#にょろファーム
中島ナカシマみゆき/長崎県
なかしまさま
ご連絡ありがとうございました。
なかしまさまのやぎさんが元気になったとのことで、
うれしく拝読させていただきました。
なかしまさま、ご家族のみなさまもほっとされたことと思います。
また、おいもを掘り出したとのエピソードに
とても驚きました!!
ドングリは、野生動物の重要な餌になりますが、
ウシでは大量に食べると中毒を起こすことがありますので、
なかしまさまのおっしゃる通り、
どんな食べ物も食べすぎ注意で見守ってあげてくださいね。
お腹のマーサージについてですが、
お腹を優しくマッサージしてあげるのは、ガスの排出を促す助けになるのではと考えます。
個人的には「手あて」という言葉があるように、
信頼できる家族の方との触れ合いもとても大切なのではと思います。
食欲がない時、ただ草を目の前に置くよりも、
手差しで葉っぱを口元に持っていってあげると食べ始めることがあります。
その他の方法は、ガスが溜まっているときは
歩けるようであれば、引き運動(お散歩)をします。
歩くことで胃腸を動かします。
緊急の時は、ホースを入れる方法があります。
10月30日に愛知ヤギ農場さんの主催の勉強会で、
消化の仕組みや、胃腸の病気についてお話します。
ヤギさんのご家族の方ができる手当もお話する予定です。
ご興味がありましたら、ぜひご参加ください。
なかしまさまのやぎさんの健康をお祈りしています。
Anne先生へ
本当にありがとうございます。
手当て、心がけたいと思います。
撫でると、本日になんという幸せな顔!と思うような表情をするので、こちらも癒されています。ヤギにとっても良いこととわかって嬉しいです。
感謝申し上げます。
また、勉強会の件もご案内いただき、非常にありがたく、是非とも参加させて頂こうと思います。
そう、最初、犬猫と同じ普通の動物病院でいいと思っていて、、、もらい受ける当日に牛と同じ反芻動物と告げられ、びっくり。
インターネット情報は僅かですし、インスタなど全国ネットワークも活用していますが、案外、手探りの方が多くて。
オンライン助かります。
引き続きどうぞよろしくお願い致します。
#にょろファーム
中島みゆき
本日に、→ 本当に、です。
ああもう、申し訳ないです!