山羊の診療Diary 症例10 尿道の異所開口
今回の症例は・・・
はっきりとした診断と治療ができなかった症例です。
この症例に出会ったのは、
牛の往診時に牛舎の隣にいた山羊さんを見たときです。
その山羊さんのお腹に何か見慣れない塊があったのに気が付きました。
オーナーさんにお話を伺うと、
しばらく前からお腹のところにこの塊はあるとのこと。
食欲・元気はあり、おしっこもでているということでした。
写真はこちらです。
陰茎の横の皮膚が大きく膨らんでいました。
この時点ではこの塊が何かわからないので一つずつ検討していくことにしました。
はじめに、包皮の入り口のところが炎症を起こしており化膿していたため洗浄をしました。
次に、膨らんでいるところが包皮なのか、皮膚なのかを確認するために
カテーテルを包皮の先端に挿入して生食を注入しました。
そして、包皮の外周を確認しましたが、水疱と包皮腔は繋がっていないようでした。
最後に塊の中のものが、液体のようだったので、針を刺して溜まっていたものを採取し確認しました。
その結果、中身は尿であることがわかりました。
ヤギの包皮の一部が炎症を起こして癒着していると予測したが…
この時点で、図3の状態を予測しました。
図3
・包皮の一部が炎症を起こして癒着していると予測。
・陰茎の先から出た尿が袋状の部分(A) に溜まっていると考えた。
・カテーテルを通すことを試みましたが通らず。
・針を刺して一度尿を抜いた後、どれくらいで溜まるのか経過を見ようと思った。
→すぐに溜まって元に戻った。
予測に反したため再度検討。尿道の異所開口として経過観察
予測とは違う結果になったため、再度検討をおこないました。
そこで、尿が溜まったAの袋を圧迫して、尿が排出される場所を確認してみることにしました。
すると、陰茎の先から尿が出てきました。
この結果、陰茎の一部に穴が開いていてそれがAの部分に貯留していることが示唆されました。
現時点で尿道の異所開口として経過を見ています。
治療法としては、この尿道の穴を塞ぐ外科手術が検討できますが、
場所が常に尿で濡れてしまうこと、床の糞尿での汚染も考えられ、
外科手術後の経過が難しいことが予測されました。
オーナーさんと相談の上、排尿はできていることから経過観察することになりました。
このような症例が他にないのか、論文など検索してみたいと思います。