さて、神経系や内分泌系など恒常性維持機構の基本的な仕組みを理解したら、やっと臨床症状が理解できます。
何もかも解明されているわけではありませんが、症状には必ず原因があるのです。
本項では、診断や原因究明の手がかりとして利用できる仕組みについて解説します。観察可能な症状から、それに影響を与えている調節機構を理解していきましょう。
仕組みを考えて症状を見る習慣がないと、「子牛が元気ないんだけど、なんでかな?」→「きっとこれは流行りのRSウイルスに違いない!」とか、「妊娠しないのはなんでかな?」→「きっとこれは消毒が足りないからだ!」などといきなり検討違いの診断を下して迷走することになります。それがたまたま合っていることもあるのですが、その思考パターンを改善しないと、上手に飼育することも、適切な診断をすることもできません。直感は自分が知っている範囲でしか役に立たないのです。
丸暗記出来るシンプルな対処法を覚えることも大切ですが、それらは生理学的な裏付けがまるまる省略されているということを意識するようにしてくだい。
例えば「熱が出た→水で冷やす」ということを暗記していると、熱を下げるべきではない時に水をかけてしまうことがあります。もし暗記していたのが「元気がない→水で冷やす」になっている場合はさらに深刻な間違いをするかもしれません。
ですから適切な対処をするためには、病名や対処法を先に決めてはいけません。必ずその前に症状から生理学機構を踏まえて、原因を推定してください。言い換えると、根拠を持った仮説を立てる必要があるということです。
熱が出たのはなぜなのか、元気がないのはなぜなのかという「原因の推定」または「根拠を持った仮説を立てる」をしてから、「診断と対処をする」という順番が大切です。
次は具体例を解説していきます。