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おっぱい大作戦 ヤギ編

おっぱい大作戦(ヤギ編)

今回は、おっぱい大作戦のヤギ編です。

山羊の診療Diary症例29 子ヤギの下痢(コクシジウム症)でご紹介した、ヤギののどかちゃん。
生後1か月でお母さんヤギが亡くなってしまい、コクシジウムという寄生虫の下痢のため入院していました。
また、お母さんが亡くなってから、1週間、草しかあげていなかったという事で、栄養も足りず、
消化もうまくできていなかったので、人工哺乳をする必要がありました。

普段は、ヤギの人工哺乳をするのに人間用の哺乳瓶を使っています。
しかし、乳首が太いのと硬さが固いので、慣れるまでに時間がかかる子がいます。
そこで、おっぱい大作戦(ウシ編)で手作りした、乳首を再度作成し使用してみることにしました。

材料
・お掃除や炊事の時に使う手袋
・ペットボトル
・ペットボトルのふた
・ガムテープ

作り方
1.ペットボトルのふたの部分をくりぬく手袋の指の部分を切る
2.ふたにかぶせてガムテープなどで固定する
3.指の先端に穴をあけてミルクがちょうどよく出る量を調整する

早速、のどかちゃんに試してみました。

のどかちゃんのお口に手作り乳首をくわえさせて、初めは少し押してミルクを出しました。
何度かやっているうちに・・・
自分で吸うことができました!!
手作り乳首大成功。

その後、人間用とヤギ用の乳首でも哺乳しましたが、すぐに上手に使うことができました。
そして、人間の哺乳瓶よりも手作り乳首のほうが吸いやすそうでした。

人工哺乳をする態勢は、足の間に挟んで壁際で後ろに下がれないようにします。
お母さんのおっぱいを吸うときみたいに、頭の前を手で押さえてあげるのも飲みやすくなります。

一つ注意点があります。
手袋を使う場合は、しっかりふたにくっつけないと、勢いよく哺乳した際に、手袋の先が外れて飲み込んでしまう危険性があります。

実際、一度外れて慌てて口に手を突っ込んで飲み込むのを避けられましたが、かなり焦りました…。

もし飲み込んでしまったら取り出すには手術しかありません。哺乳どころではありません。十分注意してくださいね。

 

退院時に、オーナーさんに人工哺乳のやり方をお伝えし、これからしばらくがんばっていただくことになりました。

前回の牛編では、手作り乳首での哺乳は成功しませんでしたが、人間の哺乳瓶よりも飲みやすそうでヤギさんでは大成功でした。

下痢も治って無事退院したのどかちゃん。オーナーさんにミルクをもらってすくすく大きくなってね!

おっぱい大作戦 ウシ編

今回はヤギさんのお話ではなくウシさんのお話です。

先日、いつも診療で伺う農家さんから
「3か月の子牛が哺乳瓶からどうしてもミルクを飲んでくれなくて困っている」という相談を受けました。
お話をさらに伺ってみると、
・わけあって母牛をセリで3日前に手放した
・3日前までは、生まれた時からずっと母牛からおっぱいを飲んでいた
・まだ配合飼料で栄養が取れる量を食べれるようになっていない為、人工哺乳が必要
・3日前から毎朝と夕、それぞれ根気強く1時間くらい哺乳瓶に慣れさせるようにがんばったけど、
子牛さんはもう乳首もミルクも嫌がるようになってしまった
というお話でした。

とてもまじめな農家さんなので、相当な努力をされたことを感じました。
何とか良い方法がないかと、調べたところ、

「獣医師に直接聞きたい!繁殖管理のベストプラクティス」
という記事の中に人工の乳首を嫌がる子牛に哺乳させる方法として、「目隠しをする」
という方法が見つかりました。
https://farmnote.jp/contents/bestpractice7.html

この記事を参考に、4つの作戦を考えてみました。
さっそく農場へ行き農家さんと一緒にやってみることになりました。

いざ「おっぱい大作戦」決行!!

1.目隠し作戦
前述記事を参考に目隠しをしてみたらどうか。

やり方
・黒いマスクに最近吸っている未経産牛のにおいをこすりつける
・子牛をつなぐ
・マスクをかぶせて哺乳する

結果
目隠ししないより子牛が落ち着いている様子。
しかし、残念ながらこれだけでは飲んでくれませんでした。

2.乳首を変えてみる作戦

哺乳瓶の乳首は実際のお母さんの乳首より堅そう
→乳首をよりお母さんの乳首の感触に近づけたらどうか

やり方
・ドレッシングボトルに手袋をかぶせて柔らかい乳首を作る
・子牛に飲ませてみる

結果
お口には市販の哺乳瓶の乳首より入れやすいものの吸ってくれませんでした

3.ドレッシングボトルとホース作戦

やり方
・乳首がどうしてもだめならドレッシングボトルで口から飲ませる

 

結果
時間はかかりますが、少しづつ飲めました。

4.胃チューブでミルクを飲ませる作戦(緊急 最大1週間くらいまで)
チューブを入れられれば、簡単にミルクを胃に入れることはできますが、
チューブを頻回に入れることにより、食道が傷ついてしまうことや、
正常の哺乳の反射などがおこらないデメリットを考えて、こちらの作戦は緊急時のみとしました

やり方
・胃チューブでミルクを強制的にあげる

残念ながら、今回の子牛さんはどうしても乳首から吸うというのを頑なに嫌がっており、
目隠ししても、乳首を使って哺乳瓶であげることが難しいという結果になりました。
どうにか、ドレッシングボトルであげられそうなので、
農家さんのお母さまと息子さんで朝・夕、分担して頑張ることになりました。
それと同時並行で、配合飼料の量を少しづつ増やしていただき、栄養をこちらからもとれるようにしてもらうことになりました。
根気強く、牛のことをいつも一生懸命考えているお二人なので乗り切れると思います。
幸い、ここまで順調に育ってきた子牛さんなので体がしっかりしています。
無事、離乳できるまで、私たちもできるサポートはしながら見守っていきたいと思っています。

今回のことで、記事にもあった通り、和牛の子牛さんはとても頑固で、3か月からの人工哺乳はとても難しいことがわかりました。
しかし、母牛さんが突然亡くなってしまったり、様々な理由でどうしても人工哺乳が必要な場合があります。
今回の経験を今後に活かしていきたいと思いました。

子ヤギが生まれました(島山羊×ボア)

子ヤギが生まれました(島山羊×ボア)

ゆうきさんの牧場にいる島山羊のがんこちゃんが出産しました。
がんこちゃんは、今回が初めての出産でした。
お父さんは、昨年の削蹄講習会の時に、削蹄に協力してくれた、お隣の島からやってきた、ボア種のくになかくんです。

子ヤギさんは男の子でした。名前はくりりんに決定。
大きくなったら、種付けのお父さん山羊さんとしての活躍を期待しています。

山羊の診療Diary症例29 子ヤギの下痢(コクシジウム症)

山羊の診療Diary症例29 子ヤギの下痢(コクシジウム症)

今回の症例は・・・
「生後1か月の子ヤギが下痢をしていて元気がない」という連絡が来ました。

子ヤギさんは、1カ月齢の女の子でのどかちゃん。
先週にお母さん山羊さんが突然死してしまい、その後、下痢をしているそうです。
お母さん山羊さんが生きているときは、おっぱいを吸っていたそうですが、亡くなってからは草を食べていて人工哺乳はしていなかったという事でした。

早速、のどかちゃんを診察すると、立ってはいましたが、足がふらつき、目が落ちくぼみ脱水していました。
おしりは下痢で汚れ、のどかちゃんのいた周りには、匂いの強いタール状の水様便がいくつも落ちていました。

草は食べていたという事ですが、おなかが膨らんでいるのに痩せている状態でした。
熱はなく、聴診では異常が見られませんでした。

脱水していて、診療中も何度かタール状の下痢をして元気がなかった為、山羊舎で点滴を行った後、入院することになりました。

まどかちゃんが初めにしていた便はこちらです。

タール状でお魚が腐ったような生臭いにおいの便でした。
糞便検査では、コクシジウムが検出されました。
生臭かったのは、便に血が混ざっていた可能性があります。

〜〜〜〜

*コクシジウム症とは・・・
コクシジウムという原虫が腸管に寄生して下痢を引き起こす病気です。
コクシジウムが増えるときに腸の粘膜上皮細胞に傷害を与えるので、下痢や血便などの症状を引き起こします。
大人のヤギさんでは感染しても症状が出ることは少ないですが、子ヤギさんが感染すると下痢とそれに伴い脱水が起こり亡くなってしまうこともあります。

治療は、抗コクシジウム剤を注射や飲み薬で投与します。

コクシジウム症の症状は、感染の量に比例するといわれていますので、コクシジウムがお口に入る量が多いほど、症状がより悪化します。

その為予防は、お掃除をしてヤギさんのお口に入るコクシジウムの数を減らすことです。コクシジウムは環境や薬剤に対して抵抗性が強いため完全に除去することは難しいですが、ヤギ舎のお掃除よって、コクシジウムの数を減らすことはできます。

〜〜〜〜

のどかちゃんにも、抗コクシジウム剤を注射と飲み薬で投与しました。

さらにのどかちゃんの場合、下痢の原因としてごはんの問題もありました。
まだ、おっぱいを飲む時期なのに、母ヤギさんが亡くなってしまって、1週間くらい飲めていない状態です。
草だけでは栄養が足りず、また消化も上手にできていないことが考えられました。

そこで、点滴の後少しお休みをはさんで人工哺乳をしました。
今まで、お母さんのおっぱいしか飲んでいなかったために、哺乳瓶で飲む練習が必要でした。
(このことについては、後日、「おっぱい大作戦ヤギ編」でお伝えしようと思っています)
練習の後、無事に哺乳瓶に慣れることができました。

ミルクの量の目安は、1か月齢では、体重の20%なので(家畜改良センター 飼養管理マニュアルより)
3kg弱ののどかちゃんは600ml必要です。
200mlを1日3回に分けて哺乳しました。

コクシジウムの治療と人工哺乳によって、便はこのように改善していきました。

2日目

3日目

おっぱいも上手に飲めるようになり、便もコロコロうんちに戻ったので無事退院することができました。
オーナーさんにあと1か月は人工哺乳をがんばっていただくことになります。

 

おっぱいを飲むのどかちゃんはとてもかわいくて、
元気になって退院して本当に良かったのですが、
帰った後の入院室をみてさみしい気持ちになったのでした。
診療の合間に顔を見に行こうと思っています。

のどかちゃん、お家のヤギさんたちと仲良く元気にね!

☆☆書籍のご案内☆☆

書籍「ヤギの診療」 
著 寺島杏奈
出版 日本橋出版
2022.7.31発刊

下痢についてだけでなく、ヤギの飼い方、消化の仕組み、診断の方法、他のよくある病気についても体系的に解説しています。

☆☆☆☆

山羊の人工授精チャレンジ MMNS第1クール まとめ (2019年2月~2020年3月まで)

山羊の人工授精チャレンジ MMNS第1クール まとめ (2019年2月~2020年3月まで)

しばらく間があいてしまいました、「山羊の人工授精チャレンジ」
今回は2020年3月までのまとめをご報告します。

前回の人工授精チャレンジの記事「山羊の人工授精チャレンジ MMNS第1クール③ ついに・・・山羊の人工授精チャレンジ MMNS第1クール③ ついに・・・
で妊娠鑑定(+)だった山羊のCちゃんは、分娩予定日(2020年2月23日)より3日早い2月20日に
男の子と女の子のふたごの赤ちゃんを無事出産しました。
長野の家畜改良センターのザーネンの雄山羊さんの種で生まれたので、
長野にちなんで、りんごちゃんとかりんくんと名付けました。
現在、ゆうきさんの牧場で元気に育っています。

そして、島の山羊農家さんにご協力いただいて、発情同期化で人工授精した山羊のろくちゃんも無事出産しました。
この山羊さんは、プログラム+定時人工授精で妊娠しました。
上記の山羊のCちゃんは自然周期での人工授精での妊娠でしたので、この山羊のろくちゃんは発情同期化と定時人工授精がはじめて成功してとてもうれしかったです。

*ヤギのろくちゃんの発情同期化と定時人工授精まとめ

10月18日 ホルモン剤①
10月20日 ホルモン剤②
10月21日 ホルモン剤③ 夕方人工授精1回目
10月22日 朝人工授精2回目
11月30日 妊娠鑑定(+)

先日、診療でろくちゃんのヤギ舎に伺ったので、ろくちゃん親子に会ってきました。


元気に大きくなってね!!

4月からの取り組みは、「MMNS第2クール」として、これからも発信していきたいと思っています。

山羊の診療note10 山羊の島野草セット

山羊の診療note10 ヤギの島野草セット

ここ最近、分娩前のゆりるちゃんがが下痢と食欲不振で治療を続けていました。

基本の治療を行ったもののなかなか改善されず、食欲が日に日に落ちてきて飼い主さんもとても心配されていました。

どうにかゆりるちゃんにごはんを食べてもらおうと、私たちの住む島に生えている野草でヤギさんが好きなものを集めて診療の時に持っていきました。

ヤギの島野草セットです。

今回用意した島野草は

がじゅまる

バナナの葉っぱ

センダングサ

センネンボク

オオバギ

ハイビスカス

食欲がない動物にごはんを食べてもらいたいときは、与え方に小さなコツがあります。

食べやすいように小さく切ってあげて、手でお口の前までそっと差し出してあげると、
ただ目の前のお皿に置いておくだけより食べてくれることがあります。

手の平に乗せる、手でお口の前に持って行ってあげる・・・
手であげるのがポイントです。

この手であげるごはんの上げ方は、犬と猫の病院で働いているときに先輩の女性の獣医さんから教えていただきました。
そして、特に飼い主さんにお願いすると動物も安心して食べるようです。
(犬や猫のごはんの場合はさらに温めて匂いをたててあげると良いです)

ある時、入院したヤギさんに思い出してやってみたら、特にガジュマルの新芽の小さい葉っぱを手であげると1枚づつ食べていました。。
やはり元気がないときは大きい葉っぱは食べにくいようでした。
またある時は、1枚食べ始めるとそこから食欲が出てくるヤギさんもいました。

この経験から犬猫だけでなくヤギさんにも効果がありそうなので、食欲のない場合、診療中に私がやってみて飼い主さんにお願いしています。

ヤギさんによってそれぞれ好みの葉っぱが違ったり、昨日までは好きだったのにの急に違うものが食べたいヤギさんもいるので、食欲がないときには何種類かの草を試してみると良いと思います。

今回もゆりるちゃんに一つずつお口の前に持っていってあげてみました。

どの葉っぱが好きかな?

人気の小さなガジュマルの葉っぱはどうですか?

「食べたくない」

センダングサのお花はどうですか?葉っぱもおいしいけど
病気の時はお花ばっかり食べる子がいましたよ。

「食べたくない」

せんねんぼくはどうですか?
しゃきしゃきのはごたえですよー。

「はじめて食べるからちょっとだけ。
でもそんなにいらない。

少しだけたべてみる。

ハイビスカスは全然食べたくない。」

では、最後にオオバギは?

葉っぱが大きいから小さくすると、少しずつ食べはじめました。
なぜか、葉っぱよりも茎が好きな様子。

点滴の治療が終わると、少し気分がよくなったようで、茎と今度は乾草を少し食べてくれました。

わたしが帰った後、近所の方がお芋のつると葉っぱをもってきてくれて、
ゆりるちゃんは少し食べはじめたとのうれしい知らせが届きました。

基本の下痢の治療、輸血・輸液の治療の効果、そして好きな草もみつかり食欲が戻って本当に良かった。

ゆりるちゃんは今回、茎を好んで食べてくれました。

この後、ゆりるちゃんは出産に挑むことになりますが、このお話はまた改めて。次回はヤギの栄養の話をします。

〉〉ゆりるちゃんは島の民宿のヤギさんです。

あがりの宿さんさーら公式ホームページ

 

山羊の診療Diary症例28 難産 (頭位屈曲位)

山羊の診療Diary28 難産 (頭位屈曲位)

今回の症例は…
ゆうきさんから、山羊のメリーちゃんが
「はじめの子山羊が生まれた後、風船のようなものが出てから2時間経っても状態が変わらず
2頭目がいるかもしれないがでてこない」という連絡が来ました。
第1子目は順調に生まれたとのことです。
すぐに、牧場に向かいました。
到着後、まずメリーちゃんの様子を確認しました。


はじめに、乳房の付け根を持ち上げて、子山羊がもう1頭お腹にいるか確認しました。
お腹に子山羊が入っていることが確認出来ました。
(詳しくは妊娠鑑定を参照にしてください)
引き続き、陰部の汚れをお水で洗い流し、直腸検査用の手袋をはめて陰部から内診を行いました。手を入れてはじめに子山羊さんの「あし」が触れました。この時にこの「あし」が前肢なのか後肢なのかを確認します。確認の仕方は関節を触って確認します。
後肢のときは飛節が触れます。

注意
蹄の向きだけで判断すると診断を誤るので、必ず関節を確認するようにしてください。

下胎向の場合(上向きで万歳している状態)前足を後足と間違えてしまう事があります。

メリーちゃんの場合、触診で前肢であることが確認出来ました。しかし、頭が、頚が曲がって横向きになっていることがわかりました。この体位を「頭位屈曲位」といいます。

頭位屈曲位とは・・・
頚が曲がって横を向いて、前肢だけが出てきている状態をいいます。
通常だと、子山羊さんは前肢と前肢の間に頭が挟まれて、前肢と連動して頭も出てきます。
しかし、前肢だけでてきてしまい頭が横向きになっていると、頭が引っかかって生まれることができない状態になります。
そのため、頭を前肢の間に戻す必要があります。

内診で、頭位屈曲位であることがわかったので、子山羊さんの頭の位置を戻すために分娩介助の準備をしました。
消毒液に頭や肢を引っ張るロープを浸しました。牛ですと産科チェーンを使いますが、山羊では洗濯用のロープを使用しています。

そして、準備が出来たので、分娩介助をはじめました。
前肢2本はすでに陰部から出ていますが、このままでは一番狭いところに。横に曲がった頭があるため頭の向きを直すことが出来ません。
一度、前肢と頭を奥へ戻す必要があります。
奥のスペースのあるところに、肢と頭を押し戻したら、そこで頭の位置を直します。
頭を前肢と前肢の間にのせます。ここまできたら、頭の上に手を添えながら両前肢をお母さん山羊のいきみに合わせてゆっくりひきます。(産道が狭くて頭の上に手を添えられないときは、頭の位置を整復できた時点で頭の後ろから口にロープをかけます)

この症例では、子山羊さんの頭がなかなか前肢の間に戻せず苦労しました。
なんとか、位置を正常に戻せ、両前肢を頭の上に手を添えながらひいて、
無事に生まれました。

1頭目の子山羊さんは男の子で2頭目の子山羊さんは女の子でした。
お母さん山羊さんが疲れていてので、初乳を絞って、元気な男の子にはほ乳瓶で、
後から生まれた女の子ははじめに人工呼吸をおこない、吸う力が弱く飲まなかったので経鼻チューブで初乳をあげました。


また、頚が生まれた後も、曲がっていてうまく立てなかったので、ゆうきさんが
頚にサポーターを巻いたところ次の日には自分で経って、おっぱいも飲めていたとのことでした。

難産は、時間との勝負でとても緊張する診療です。
山羊は安産が多いといわれていますが、このように難産のケースがあります。
お産が通常どうり進まない場合はすぐに獣医さんに連絡してくださいね。
(あらためて正常なお産について記事にしたいと思います)
無事に生まれた2頭の子山羊ちゃんをみて、
ほっとするとともにとても幸せな気持ちになりました。
ふたりとも元気におおきくなってね!!

山羊の診療Diary症例27 乳頭損傷②

山羊の診療Diary症例27 乳頭損傷②

今回の症例は…
飼い主さんから「子山羊の鼻におっぱいを飲んだ後、血がついている。母山羊のおっぱいに傷があるかもしれないからみて欲しい」と連絡がありました。
山羊舎に伺うと、子山羊さんが元気におっぱいを飲んでいました。
そして、おっぱいを飲み終わった子山羊さんの顔を見ると・・・

お口が血で真っ赤に!!
これは大変です。すぐに子山羊さんを捕まえて、離れたところに縛って診療の間、待っていてもらうことにしました。
そして、母山羊さんを繋いで診療をはじめました。
飼い主さんにお話を伺うと、
この母山羊さんはセリで導入して、年齢や産歴は不明とのことでした。セリの時におそらく妊娠しているだろうと元の飼い主の方に言われたそうです。
そして、2ヶ月前に一度、飼い主さんから「おっぱいが異常に大きくなって心配」と連絡をいただき診療に伺いました。その時は、確かにおっぱいは大きくなっていましたが乳房や
乳頭に異常がなく「出産前でおっぱいが大きくなっている」というお話をしました。そして、その次の日、出産して1頭の子山羊さんが生まれたとのことでした。
母山羊さんを繋いで診察してみると・・・

全身状態は良好、体温は39.2度、肺音、心音も異常はありませんでした。
そして、乳房を見てみると右側の乳房はしぼんでいましたが、左側の乳房は張っていました。
その左側の乳頭の上の皮膚に直径2cmくらいの円形の傷がありました。

今回のこの症例も乳頭損傷と診断し治療をしました。
(乳頭損傷に関しては山羊の診療Diary症例26を参照にしてください)

治療は、症例26よりも傷口が大きいので場合によっては外科処置(傷をデブリードマンをして縫合する)
も考えられましたが、まずはヨード剤でで消毒して、抗生物質の注射を行いました。


そして、子山羊さんがおっぱいを吸って傷が悪化してしまわないように、
子山羊さんを離して飼育して頂くことにしました。
子山羊さんは、もう離乳しても大丈夫な体つき、そして飼料も草も食べているようでしたが、
場合によっては、人工哺乳をお願いしました。

その後、3日間治療を続け、傷がかさぶたになり治ってきたので、消毒を続けてもらい経過を観察することになりました。

前回に引き続き今回も乳頭損傷の症例でしたが、
どちらの山羊さんもおっぱいが大きく下に垂れ下がっていました。
このような山羊さんの場合、出産前のおっぱいが大きくなってくる頃から
自分で踏んでしまったり、または他の山羊さんに踏まれないように、
山羊舎の環境を整えてあげること(狭すぎないか、頭数が多すぎないか、乳房を傷つけるような鉄線がないか等)や
場合によってはブラジャーを作って擦れて傷がつかないようにすることが予防につながると思います。

第21回日本山羊研究会で発表しました!

2020年3月25日(水)に開催されました第21回日本山羊研究会で発表をしました。

本来は京都大学での開催でしたが、コロナウィルスの影響で「ZOOM」というシステムを使用したWEBでの開催となりました。

私たちの病院からは2題発表しました。

・小動物病院と一緒にできる山羊の診療
~日本における山羊の診療体制の確立をめざして~

山羊がいつでもどこでも安心して診療が受けられるようになるには、大動物病院だけでなく小動物病医院での受け入れが必要ではないかと考えています。そのために、診療手技やお薬、薬の薬用量、症例などを発表して山羊の診療体制の確立の一助になればという想いから発表しました。

・山羊のルーメンアシドーシスの事例報告
~沖縄県宮古島において1年間に診療した山羊の病気~

山羊のルーメンアシドーシスを3例の症例発表です。原因として飼い主さんの飼養管理の失宜により容易に発生する病気です。早期発見と牛の治療を準用した治療で回復したので治療法をご紹介しました。

山羊の研究者のみなさんや獣医さん、社会学の研究者の方のお話など「山羊」をキーワードに
様々な分野のお話が聞けて、とても楽しく勉強させていただきました。また、私たちの発表にも、いろいろなご意見やご質問をいただきありがとうございました。
今後の診療に役立てていきたいと思っています。
発表に関することでご質問がございましたら、ブログのコメント欄からお気軽にご連絡ください。

山羊の診療Diary症例26 乳頭損傷

山羊の診療Diary症例26 乳頭損傷

今回の症例は・・・

飼い主さんから「前回の出産の時、ひどい乳房炎になった山羊が朝からおっぱいを蹴って
痛そうにしている」という連絡がありました。

早速、診療に伺うと4月はじめに出産予定のボーボちゃんが、おっぱいを蹴り蹴りしながら山羊舎の中でたたずんでいました。

飼い主さんにお話を伺うと、前回の出産の時に乳房炎になったのでまだ産前だが心配になって連絡をいただいたとのことでした。
食欲と元気は変わらないとのことです。
ボーボちゃんを外に出していただき繋いで診療をはじめました。

お熱を測ると39.8℃で微熱がありました。全身状態は良く、健診での心音・肺音は異常ありませんでした。腹部触診と聴打診でも問題はありませんでした。そして、乳房の状態を診てみました。

はじめに乳房炎に感染していないか確認するために乳房の状態を確認しました。
出産後のおっぱいをあげていない時期でも、乳房炎にかかることはあります。
ボーボちゃんの場合もまだ出産前ですが、乳房炎に以前感染したことがあることから、
乳房炎の細菌がおっぱいの中に残っていた場合、産前やストレスがかかったときに乳房炎が再発する可能性がありました。また、まだ一度も赤ちゃんを産んでいない場合でも乳頭から細菌感染が起これば、乳房炎を発症する場合があります。
ボーボちゃんのおっぱいは、左右の乳房ともに熱感や硬結などの乳房炎の症状はありませんでした。次に乳頭を診てみました。

右側の乳頭は異常がありませんでしたが、左側の乳頭に傷があり、硬くなっていました。
触るととても痛がっていました。ボーボちゃんのおっぱいは大きく下に垂れている形のため、おそらく自分で乳頭を踏んでしまった可能性が考えられました。
以上のことから、乳頭損傷と診断して治療をはじめました。

はじめに傷口をヨード剤で消毒した後に抗生剤と炎症を抑えるお薬の注射をしました。
また、飼い主さんに様子を見ていただいて、乳頭が体のどこかにこすれている場合は、
乳房をおおって傷が保護できるようなブラジャーをつけてもらうように飼い主さんにお願いしました。

飼い主さん次の日ご連絡があり、だいぶ痛みが治まっているということでした。
抗生物質のお薬を処方して経過観察となりました。

*乳頭損傷について
乳頭損傷は乳牛で良く起こる病気です。しかし、山羊さんでも今回のように乳頭を自分で踏んでしまって起こることがありますし、乳用山羊さんではさらに起こりやすい可能性があるので乳牛の乳頭損傷を参考にして、山羊さん用にまとめておきます。

<乳頭損傷とは>
物理的、あるいは科学的な原因により起こる乳頭の障害をいいます。

<原因>
①物理的な損傷
・放牧地の有棘鉄線やワイヤーフェンスで傷つけてしまう
・密飼いや飼育する部屋が狭くて、自分でまたは他の山羊の乳頭を踏んでしまう
・寒冷感作により乳頭の先が傷ついてしまう
・搾乳機でおっぱいを絞りすぎてしまう
②化学的な損傷
・搾乳時の乳頭の消毒の時に消毒剤で皮膚が荒れてしまう

<症状>
皮膚が荒れているだけでも痛みがあります。痛みがあると気になり自分で蹴ってしまいさらに悪化することがあります。

また、傷の深さや場所によってはおっぱいを出すことに障害がでます。たとえば、乳頭の先端の傷では炎症から組織が厚くなり管が狭くなることで、おっぱいが出にくくなったり、乳頭管より上で乳頭が切断された場合はおっぱいが漏れてしまいます。こうした場合、搾乳や哺乳することが難しくなってしまいます。

<飼い主さんにできること>
・山羊舎にゆとりを持たせて自分で踏まないようにする
・1つのお部屋で適切な数の山羊を飼育する(他の山羊の乳頭を踏まない)
・削蹄をして蹄で傷つけないようにする
・乳頭の消毒剤は適切な濃度で使用する
・搾乳機のメンテナンスを行い、整備不良での絞り過ぎを防ぐ
・おっぱいが大きくて擦れてしまう場合は、ブラジャーを作って着せてあげる。
牛さんには牛用ブラジャーというのがあります。
私も山羊用を作ってみたいです!

<獣医さんの治療>
・傷の洗浄・消毒
・軟膏の塗布
(乳頭を保護するため、ただし殺菌作用のあるものでないと感染を広げる場合があるので注意)
・抗生剤の投与
・外科処置(乳頭管拡張、切開、縫合など)