Category Archives: ヤギの診療記録と飼育方法

山羊の診療Diary 症例10 尿道の異所開口

山羊の診療Diary  症例10 尿道の異所開口

今回の症例は・・・

はっきりとした診断と治療ができなかった症例です。

この症例に出会ったのは、
牛の往診時に牛舎の隣にいた山羊さんを見たときです。
その山羊さんのお腹に何か見慣れない塊があったのに気が付きました。
オーナーさんにお話を伺うと、
しばらく前からお腹のところにこの塊はあるとのこと。
食欲・元気はあり、おしっこもでているということでした。

写真はこちらです。

ヤギの尿道異所開口

陰茎の横の皮膚が大きく膨らんでいました。
この時点ではこの塊が何かわからないので一つずつ検討していくことにしました。

はじめに、包皮の入り口のところが炎症を起こしており化膿していたため洗浄をしました。

ヤギの包皮洗浄

次に、膨らんでいるところが包皮なのか、皮膚なのかを確認するために
カテーテルを包皮の先端に挿入して生食を注入しました。
そして、包皮の外周を確認しましたが、水疱と包皮腔は繋がっていないようでした。

カテーテルを包皮の先端に挿入して生食を注入

最後に塊の中のものが、液体のようだったので、針を刺して溜まっていたものを採取し確認しました。
その結果、中身は尿であることがわかりました。

尿が溜まっていた

 

ヤギの包皮の一部が炎症を起こして癒着していると予測したが…

この時点で、図3の状態を予測しました。

図3

包皮の一部が炎症を起こして癒着していると予測

・包皮の一部が炎症を起こして癒着していると予測。
・陰茎の先から出た尿が袋状の部分(A) に溜まっていると考えた。
・カテーテルを通すことを試みましたが通らず。
・針を刺して一度尿を抜いた後、どれくらいで溜まるのか経過を見ようと思った。
→すぐに溜まって元に戻った。

 

予測に反したため再度検討。尿道の異所開口として経過観察

予測とは違う結果になったため、再度検討をおこないました。
そこで、尿が溜まったAの袋を圧迫して、尿が排出される場所を確認してみることにしました。
すると、陰茎の先から尿が出てきました。
この結果、陰茎の一部に穴が開いていてそれがAの部分に貯留していることが示唆されました。

現時点で尿道の異所開口として経過を見ています。

治療法としては、この尿道の穴を塞ぐ外科手術が検討できますが、
場所が常に尿で濡れてしまうこと、床の糞尿での汚染も考えられ、
外科手術後の経過が難しいことが予測されました。
オーナーさんと相談の上、排尿はできていることから経過観察することになりました。

このような症例が他にないのか、論文など検索してみたいと思います。

山羊の診療note4 山羊のうんちはなぜ丸い?

山羊のうんちはなぜ丸い?

山羊さんのうんちを見たことありますか?

山羊さんのうんちはまるいころころしたうんちです。

山羊の丸いうんち・糞

どうして山羊さんのうんちはころころまるいのでしょう?

「山羊さんは草を食べる草食動物」

これがこの謎を解く大きなヒントなのです!

 

①消化の仕組みがうんちをころころにする。

山羊さんのごはんの草は消化しにくいので、反すうをして4つの胃を経て消化をします。
(反すう・・・一度飲み込んだ食べ物をもう一度口の中に戻してもう一度噛むこと)

この反すうをして4つの胃で消化されている間に水分がたくさん吸収されて、うんちになる頃には
水分が少ない状態になります。この状態で腸の中を動いている間に小さな固まりになります。

また、草食動物は肉食動物に比べて長い腸を持っています。
小さな固まりになったうんちは長い腸を移動しながらころころと丸くなっていきます。
丸くなるのは腸がうんちを送り出すための蠕動運動が関わっています。

 

②ころころうんちは逃げるときにぴったり。

山羊さんは草食動物なので、おおかみやライオンなどの肉食動物にいつでも襲われる危険性があります。
山羊さんにとって逃げるのが最大の防御なのです。
そのため、山羊さんは歩きながらうんちをします。
ころころうんちは歩きながらするのにとっても便利。
もし、ふんばってしないとねっとりとした大きいうんちでは困るのです。

しかし、動物園で暮らしている山羊さんは襲われる心配がないので
立ち止まってうんちをする山羊さんもいるそうです!

うんちだけでもその動物の生態やからだのしくみがわかるものですね。

山羊の診療Diary 症例 9 濃厚飼料盗食による盲腸拡張症

山羊の診療Diary 症例 9  濃厚飼料盗食による盲腸拡張症

今回の症例は14ヶ月齢の雄山羊のエイくんのお話です。
オーナーさんより、エイくんが昨日脱走して、濃厚飼料をたくさん食べてしまったという連絡がありました。
詳しくお話を伺うと、濃厚飼料を2kg食べて朝から元気がないということです。
また、朝はごはんを少ししか食べずお腹をこわしているとのことでした。

診察をしてみると・・・
熱39.5℃
心音・肺音異常なし
下痢 水様便
右側のお腹が膨らんでいる。(聴打診において右側の側けん部に金属音あり)
血糖値 55

今回の症例のポイントは、
濃厚飼料を急にたくさん食べた事と、右側のお腹が膨らんでいることです。

診察時に、聴打診といって指でお腹をはじきながら聴診すると、「キーン、キーン」
と金属をはじいた時の音(金属性反響音)が聴こえます。

 

濃厚飼料を急にたくさん食べた事と、右側のお腹が膨らんでいることから考えられた「3つの病気の可能性」

この時点で3つの病気の可能性が考えられました。

①盲腸拡張症または鼓張症(および捻転)

盲腸拡張症は盲腸が異常に拡張したり、変位または捻転して腹痛をおこす病気です。
原因の一つに、濃厚飼料をたくさん食べること、があります。
食べ過ぎてしまった濃厚飼料は第1胃で完全に発酵されず盲腸にいきます。
すると、盲腸の動きが悪くなり、食べたものが停滞してガスが発生し、盲腸が拡張します。
山羊さんはこの状態になるとお腹がとても痛くなります。

 

②第4胃右方変位

盲腸拡張症と同じように、第4胃に食滞および発酵によるガスの発生が起こると、第4胃が拡張します。
その結果、拡張した第4胃がいつもの場所から動いて右側に移動した状態を第4胃右方変位といいます。

第4胃右方変位も盲腸拡張症と同じように聴打診において金属性反響音が聴こえます。
盲腸拡張症との違いは右側の広範囲にこの音が聴こえることです。

③急性ルーメンアシドーシス

逃走して餌箱に入ってしまった時など、急に大量の配合飼料を食べてしまうことがあります。
この時第1胃内での異常発酵によって、第1胃内容が酸性に傾くことで胃内の微生物が死滅します。

同時に消化不良と死んだ微生物から出た毒素によって、発熱、1胃内容の流動化、水様下痢、敗血症、頻脈(ショック)などが起こります。

この時の診断は、主に飼い主からの聞き取りと上記の症状からです。

 

症例に戻って…盲腸拡張と予測をし、内科治療から開始

エイくんは、聴打診において右側の肋骨の後ろの上の方(側けん部)にのみ金属性反響音が聴かれました。
聴診された位置から盲腸拡張の可能性が高いですが、第4胃右方変位の可能性も捨てきれません。

また、水様性の下痢をしていることから、捻転による完全閉塞じゃないんだろうなーとは思います。

今回、捻転を起こしている可能性が少なかったのとエイくんの状態から内科治療からはじめることになりました。

 

右方変位の可能性も忘れず、盲腸拡張症と予測し内科治療を選択(院長追記)

※院長追記〉〉〉
ちょっと補足します。

右方変位は急性に死亡する病気ですから、開腹して胃のねじれを治さないといけません。牛だと放置すると1〜2日で死亡します。実はヤギでは経験ありませんが。知ってる方が居たら教えてください。

盲腸拡張でも手術が必要な場合もありますが、下痢で内容が排泄されているならもう少し待てます。

今回は聴診にて金属音の位置が後ろの方である事、腹部疼痛が少ない事から、ほぼ盲腸拡張だろうと予測しています。
全身症状が少なく、第1胃の状態は良くも悪くもなく、多量の水様便、というあたりから、少し前に急性ルーメンアシドーシスだったのかなと思います。

完全捻転ではなく、体力にも余裕がありそうなので、はじめは内科治療を選択します。

まず盲腸拡張を中心に治療しますが、右方変位の可能性も忘れてはいけません。

腹部疼痛が急性に進行する時は、開腹が必要になるかもしれません。またショックが起きた場合も緊急治療が必要になるかもしれないので、状態変化には十分注意していきます。
〉〉〉〉

 

ヤギの盲腸拡張症で行った内科治療

今回おこなった治療は…

①静脈輸液

→腸内に急激に水分が奪われるので、脱水が起こります。また、死んだ微生物から毒素が放出されるので、多量の水分で毒素の排泄を促すためです。

山羊へ静脈輸液

②胃腸のお薬の注射および経口投与

→腸を動かして、消化不良のものを早く排泄させます。腸内の毒素を吸着する薬で、毒素を減らします。また、生菌剤で腸内の発酵を早く正常に戻します。

ヤギに胃腸のお薬の注射および経口投与

③抗生物質の注射

→腸炎による2次感染の予防、菌毒素による敗血症の予防、肝炎の予防、全身状態悪化から易感染性による感染症の予防。今回は明らかに盗み食いが原因だったので、補助的な処方になります。

次の日の診察でエイくんは順調に回復が見られたので内科治療を続けて診療を終えました。

 

逃走防止や飼料の保管方法も、健康管理の一部。定期的に環境の見直しを

山羊さんはわたしたち人間と消化の仕組みが違うので、
穀類など発酵の速いものを急に食べすぎるとお腹を壊してしまうんです。

脱走による盗食では、ヤギも喜んで配合飼料を大量に食べてしまう為、高確率で胃腸疾患を発症します。

逃走防止や飼料の保管方法も、健康管理の一部です。
ぜひもう一度環境を見直してみてくださいね。

研修レポート⑤ 山羊の分娩兆候

研修レポート「山羊の分娩兆候」

今回の研修レポートは「山羊の分娩兆候」についてです。

研修期間、分娩予定日の山羊さんがいました。
分娩が近づいているサインの一つを教えていただきました。

それは、
「しっぽの横に線が見えてくる」です。

子山羊の分娩が近づいているサイン・兆候

子山羊の分娩が近づいているサイン・兆候

これはおそらく仙座靱帯が分娩が近づくと産道を広げやすくするために
緩んでくるからではないかと思います。
教科書にのっている「尾の付け根がゆるむ」も同じ兆候を示していると思います。

 

山羊の分娩兆候まとめ。「食欲が落ちる」というところから気づきやすい

*山羊の分娩兆候のまとめ

・尾の付け根がゆるむ
(しっぽの横に線が見えてくる)
・乳房が肥大化する
・陰部の腫脹や粘液が出る
・食欲が低下する
・落ち着きなく歩き回る
・腹部が大きく膨らみ下方に移動する

私が島の山羊さんたちを見ていて、分娩前に一番感じたのは
「食欲が落ちる」ということでした。

また、牛では分娩前約24時間前に体温が0.4~0.5℃低下することが知られています。
分娩予定の7日前から、空腹時の決まった時間に1日2回体温を測定することで分娩予測ができるそうです。
私はこのことが山羊にも当てはまるのか興味があり、人工授精チャレンジで受胎させることが出来たら、
体温による分娩予測をやってみたいなと考えています。

(写真 家畜改良センター茨城牧場長野支場にて撮影)

研修レポート④ シバ山羊ジーンバンク

研修レポート「シバ山羊ジーンバンクについて」

今回の研修レポートは、「シバ山羊ジーンバンクについて」です。

シバ山羊

家畜改良センター茨城牧場長野支場では動物遺伝資源ジーンバンクのサブバンクとして、
シバ山羊を飼育していました。

 

ジーンバンクとは

*ジーンバンクとは
動植物の新しい品種や新しい食料の開発を行う場合、その基礎となる生物が必要となります。
そこで、その基礎資源である生物遺伝資源の収集、特性調査、保存、配布等を実施する業務の総称をジーンバンクといいます。

 

シバ山羊の特徴

*シバ山羊の特徴

・長崎県西海岸および五島列島原産の日本在来種
・被毛は白色がほとんど
・雄も雌も有角
・体重は30~40kgとザーネンと比べると小型
・周年繁殖
・腰麻痺抵抗性
・性格は神経質

シバ山羊2頭

 

シバ山羊についての感想

*感想
シバ山羊さんは小柄でとても可愛いかったです。
メルヘンに出てくる動物のようでした。
これまでは、実験動物として貢献し、小柄なため伴侶動物としても現在は活躍しているそうです。
ただ、もともとの性格が神経質というもあり、ザーネンに比べるとクールな性格に私は感じました。

(写真 家畜改良センター茨城牧場長野支場にて撮影)

研修レポート③ 山羊の気持ち。なぜ気温が低くても、子山羊は低体温にならないのか

研修レポート「子山羊の低体温」について

今回の研修レポートは、「子山羊の低体温」について長野支場で感じて考えてみたことです。

生まれて3日の子山羊さん
広い山羊舎にひとりぼっち。

広い山羊舎にひとりぼっちの子山羊。低体温にならないのか

ここでは、生まれた日齢が近いグループで山羊舎のお部屋にいます。
たまたまこの子山羊さんは出産のピークの終わりに生まれたので、
近い出生の子山羊がいませんでした。
そのため、はじめの3日間、初乳の給与が終わるまで広いお部屋にひとりぼっちでした。
でも元気いっぱい。

 

なぜ気温が低くても、子山羊は低体温にならないのか?

「気温-5℃のなか、広いお部屋に保温ランプ一つで寒くないの?
低体温にならないの?」

頭に「なぜ・どうしての」大きな?マークが生まれました。

私の住む島では、寒い冬でも気温が16℃位までしか下がりません。
しかし、子山羊の「低体温と低血糖」の症例にこの冬、何度も出会いました。

1日目の研修の報告時に院長先生にこの疑問を尋ねると
ヒントを一つくれました。

「そこに行ってヤギになってみるといいと思うよ」

そこで研修2日目に・・・

ヤギの気持ちになってみる私

山羊の気持ちになってみる。

なるほど、なるほど・・・

 

子山羊の気持ちになってみると、子山羊の低体温を改善するヒントがたくさん

空気は冷たいけど風は感じないな。
冬の島は北風がビュービュー吹いている。
風にあたるって寒いんだな。
体温が奪われる感じがするんだ。
下に敷いてある草があったかい。
この草が乾いているからいいんだな。
濡れていたら気持ち悪いよね。
もしコンクリートそのままだったら冷たそう。
ランプは小さいけど思ったよりあったかい。
ランプの下で丸くなったらなんだか眠くなってきたぞ。

しばらく子山羊さんと一緒に感じてみる。
そして、
感じたことがどんどん広がる。

ミルクの時間。

初乳をしっかり3日間1日3回飲んでいる。
これも免疫力をしっかりつけて元気でいる秘訣かな。

このミルクを出している母山羊はどんな状態だろう?
分娩前の山羊たちも搾乳している山羊たちも
みんな体がしっかりしている。
お話を聞くと、分娩前から飼料を増やしたり運動をさせているとのこと。

島に帰って、子山羊の低体温を解決するヒントがたくさん私の中に生まれました。

 

もういくの?と子山羊さん

・・・・・
そして、

子山羊さんの部屋をそっと出る

ありがとうを言おうとふりかえる

寂しそうな子山羊

「もう行くの?」と子山羊さん。

ああ、そうか
ごめんね
最後にひとつ
あなたのきもちをわすれてた
わたしのきもちもわすれてた

ひとりでも
だいじょうぶ
ひとりでも
いきられる

でもやっぱり
寄り添いたい
くっつきたい

自分以外に
もとめるあたたかさ

こんなあなたの気持ちをわすれてた
そんなわたしの気持ちも気づかせた

・・・・・

最後の初乳を飲み終えて
子山羊さんは
おとなりのお部屋に移動した
すぐにみんなとくっついて
すやすやと眠ってた

(写真は全て家畜改良センター茨城牧場長野支場にて撮影)

研修レポート② 山羊のお灸治療。繁殖治療や消化器疾患に効果あり

山羊のお灸治療レポート。お灸は繁殖治療や消化器疾患に効果あり

今回のレポートは山羊さんのお灸の話です。
お灸は牛や山羊など動物たちにも治療の一環として行われています。
繁殖治療(不妊、ホルモンバランスの調整)や消化器の病気などの時に
効果があることが知られています。
長野支場では、主に繁殖治療のひとつとしてお灸をすることが多いとのことでした。

実習のときに、産後10日で陰部から出血がみられるお母さん山羊がいました。
食欲、元気もありお熱はありません。分娩後胎盤(後産)の排出も確認できているそうです。
しかし、まだ産後10日と日が浅く、後産が完全に排出されていない可能性や
子宮がまだ完全に回復していないことが考えられました。
そこで治療の一つとしてお灸を行うことになりました。

ヤギお灸をする場所と、方法について

*お灸をする場所 (全部で7か所)

①最後肋骨をたどった背骨の付け根
②左右の腰角の間
③腰角と②の間 2か所
④しっぽの付け根
⑤等間隔で②と④の間に2か所

*方法

①山羊を柵などに沿わせてつなぐ
②お灸をするところに’味噌’をおく
(味噌の厚さがうすいとやけどの原因になるので注意)
③親指くらいのもぐさを置いて火をつける
(火の管理に注意!必ずそばにいること)
④もぐさが燃え尽きてもまだ中は温かくて効果があるのでしばらく待つ
⑤味噌と燃えたもぐさを取る

*感想
お灸の間、山羊さんはおとなしくしていました。ぽかぽか温かくて気持ちが良いのかな・・・

お灸中の山羊さん。

どんな気持ちですかー?


私自身もお灸を自分にしてみたいなと思いながら山羊さんを見ていました。
そして・・・
今後、治療では人工授精のときのホルモンバランスの調整や繁殖治療で
お灸を取り入れていきたいと思いました!!

(写真はすべて家畜改良センター茨城牧場長野支場にて撮影)

研修レポート① 子山羊の人工哺乳

子山羊の人工哺乳・飼育管理についてレポート

今回は子山羊の人工哺乳についてレポートします。

おかえりー!!と牧場のみなさんに迎えていただき、またここに戻ってこれたうれしさで胸がいっぱいになりました。

はじめて私が「家畜改良センター茨城牧場長野支場」(以下長野支場)に伺ったのは
去年の11月でした。飼養管理や削蹄、人工授精を学ぶために個別研修で伺いました。
そのとき学んだことは今の診療のベースになっています。

そして、今回の私の目的は子山羊の飼養管理について学ぶことでした。
1月に生まれた子山羊たちとの悲しいお別れがあり、
何か改善できることがあるのかもしれないと思ったのがきっかけでした。
人工哺乳の仕方や環境、母山羊たちの状態などなど、今後のヒントになることを
見つけて帰りたい!!と意気込んで長野に戻ってきたのでした。

早速、子山羊さんたちのもとへ向かうと・・・
みるくちょうだいー!!

ミルクを飲む子山羊

お腹を空かせた子山羊さんたちがたくさん待っていました。

今年は、私が実習に伺った時点で64頭の子山羊が元気に生まれていました。
今年の長野牧場の出産のピークは3月のはじめから中旬で、例年に比べて、
双子や3つ子が多く、また難産や助産は少なかったそうです。

出産や生まれた子山羊さんたちについては管理表があり、一目でわかるようになっていました。
飼育している山羊の数が多い場合このような管理表は便利で大切になってくると思います。

哺乳瓶ではなく、カップで子山羊にミルクを人工哺乳

ここでは、生まれてすぐ子山羊を母山羊から離して人工哺乳にしています。

ミルクのあげ方は、ほ乳瓶ではなくカップを使っていました。
子山羊の数が多いので10頭一緒に飲ませられるようになっていました。

カップでミルクを飲む子山羊

カップで飲ませるコツは・・・
「生まれてからすぐ子山羊がお母さん山羊の乳首を吸う前に、お母さん山羊から離すこと」

こうすると、子山羊たちはすぐにカップからミルクを飲みはじめるそうです。
(すでにお母さんのおっぱいを飲みはじめた場合、カップでは自分からは飲まないので
飲み方を教えてあげる必要があります。)

カップでミルクを飲む子山羊

ミルクは生後3日目までは初乳を1日3回。
この初乳はすでにお母さん山羊たちから搾乳して凍らせてあるのを解凍してあげていました。

解凍させたヤギミルク

3日目以降は、搾乳したミルクを40度に温めて1日2回。

搾乳のミルクの量が足りないときは粉末の山羊ミルクを追加していました。

子山羊さんたちは生まれた日齢ごとにグループ分けされていて、ミルクの量も管理されています。
また、ミルクを飲んでいるときは、健康チェックの時間でもあります。
飲む量や、お尻のまわりをみて下痢をしていないかなどを確認しました。

ミルクを飲んだ後は外の運動場へ。
人工哺乳で育てるととっても人に慣れるので・・・

こんな風に私が走るとみんなついてくるのでした!!

子山羊たちは昼間の間はここで遊んだり、くっついてお昼寝をしていました。遊んだり昼寝をする子山羊たち

子山羊の人工哺乳・飼育管理の感想

*感想
・ミルクの温度はとても重要。
(ミルクの温度が下がると飲まない子山羊さんがいました。温め直してあげるとしっかり飲みました)

・子山羊の数が多い場合、ほ乳瓶の人工哺乳よりもカップの哺乳の方が簡単にできる。

・人工哺乳は健康状態がよくわかる。
(ミルクを飲む量が把握でき、飲んでいる時にその子の様子を観察できる)

・人工哺乳をするとよく人に慣れる。
(その後の管理や病気になったときの治療がしやすい)

長野支場では子山羊の数が多いにも関わらず、下痢や肺炎など体調を崩している子山羊が少なかったことに私はとても驚きました。今回の実習で学んだ子山羊の人工哺乳や初乳の給与、飼養管理を今後、島に帰って活かしていきたいと思います。

<写真と映像は全て「家畜改良センター茨城牧場長野支場にて撮影>

子ヤギのオスメスを判別・見分ける方法

これがメス
メスの子ヤギ

これがオスです。
オスの子ヤギ
もっさりついてるのが陰嚢です。

☆☆書籍のご案内☆☆

書籍「ヤギの診療」 
著 寺島杏奈
出版 日本橋出版
2022.7.31発刊

雌雄の鑑別についてだけでなく、ヤギの飼い方、消化の仕組み、診断の方法、他のよくある病気についても体系的に解説しています。

☆☆☆☆

山羊の診療Diary 症例8「子山羊の下痢とアレルギー・中毒症状」

山羊の診療Diary 症例8「子山羊の下痢とアレルギー・中毒症状」

生後34日齢の雌の子山羊のひまわりちゃんが朝から元気と食欲がありません。
そしてお顔を見るとなんだか眼の周りが腫れています。ヤギの目の腫れヤギの下痢気味の便
体温を測ってみると40.1℃。うんちもいつもよりゆるく下痢気味の状態でした。
聴診や体の触診ではほかに異常が見つかりませんでした。

今回の主な症状は2つあります。下痢と眼の周りの腫れです。

前回の症例(山羊の診療Diary 症例7「出産後20日の下痢」)と同様、今回は症状は2つですが原因がはっきりとわからないので
いろいろな可能性を考えてひとつずつ対策を取り体の回復のお手伝いをしていきます。

 

ヤギの下痢の原因をおさらい。色々な可能性を考え、ひとつずつ対策をとる

下痢の原因は前回の症例7でお話ししましたが・・・
もう一度おさらいしましょう!

食餌性 中毒や過食、変質飼料など
感染性 ウィルス・細菌・寄生虫など
環境性 寒さやストレス(神経性)など

はじめに感染性の下痢に対処するために抗生物質とコクシジウムの駆除を行いました。コクシジウムの症状は、感染直後でなくしばらく経ってから現れます。
コクシジウムが感染してから便の中にでてくるまでの期間をプリパテントピリオドといいます。

コクシジウムは、種類によって異なりますが一般に牛では2週齢以上の子牛で下痢を引き起こす病気です。
山羊も同様に考えるとひまわりちゃんは生後34日なのでコクシジウムの感染による下痢の可能性があります。

今回、検便では寄生虫は検出されませんでした。
しかし寄生虫に感染していても検出されないときもあるので、山羊さんの状態や月齢、感染の可能性を考えて必要と判断した場合は治療を行います。

次に食餌性の原因(アレルギーと中毒の可能性)を考えました。

今回、目の周りの腫れという症状が出ています。これはアレルギーや中毒を起こした時の代表的な症状の一つです。ステロイド剤・抗ヒスタミン剤の注射を行いました。

また、子山羊さんが長期間食べないと低血糖や低体温になる可能性がありますので、ブドウ糖添加の点滴を行いました。
これは、さらなる病気の悪化を防ぐ事と共に、自分の力で治っていくことのお手伝いの意味があります。

治療経過は・・・

注射をしてから1時間後、目の上の腫れが徐々に引いてきました。

ヤギの目の腫れが治ってきた

夕方の時点で血糖値を測定したところ少し低めだったのでブドウ糖を腹腔内に投与しました。

しばらくすると食欲が戻ってきて少しずつ乾草を食べはじめミルクも夜には飲むようになりました。次の日の朝にはいつも通りの元気なひまわりちゃんに戻りました。

 

アレルギーや中毒の可能性も。おうちでできる応急処置(獣医に連絡を)

今回はっきりした原因はわかりませんでしたが、
ステロイド剤、抗ヒスタミン剤の投与で改善が見られたことから、何かに対するアレルギーや中毒の可能性が示唆されました。

子山羊さんたちは生後10~15日齢くらいになるとお母さん山羊さんのまねをして葉っぱを舐めたりくわえたりしはじめます。

ひまわりちゃんも最近はミルクだけでなく草を食べはじめていました。
ひまわりちゃんのおうちのごはんは野草を中心としているのでもしかすると体に合わないものが入っていたのかもしれません。

山羊さんたちにとって毒になる草を食べると草によって症状は異なりますが、主な中毒症状として
貧血、便秘、下痢、神経症状や出血(血便、血尿)などが見られます。

おうちでできる応急処置として

  • ミルクをあげてみる(消化管の表面に粘膜面をつくり毒物の吸収を妨げたり、酸やアルカリを中和する。)
  • お湯やスポーツ飲料を飲ませる(消化器の洗浄効果)
  • 木炭末などの吸着剤を与える。
    などがありますが、症状に気がついた時点で食欲や元気もない場合も多いです。

お薬を自分で投与するのが困難であったり、症状が急に悪化する可能性もあるので、中毒の症状が見られたときは獣医さんに連絡することをお勧めします。