産業動物獣医師の仕事内容とキャリアについて
一般の方向けに、
産業動物獣医師ってどんな仕事があるのか?というお話です。
約18分の対談です。お時間ある時にどうぞ。
産業動物獣医師の仕事内容とキャリアについて
一般の方向けに、
産業動物獣医師ってどんな仕事があるのか?というお話です。
約18分の対談です。お時間ある時にどうぞ。
今回は、今年の夏に試してみた、発情同期化のお話です。
今まで、人工授精チャレンジでは、ホルモン剤の注射のみで定時人工授精ができないか試していました。しかし、発情は明瞭にわかるものの妊娠に結びつかず、ホルモンの調整などまだしばらく実用化するのに時間がかかりそうでした。
そこでまずはすでに確立されている「膣内クリーム法」での同期化を現場で活用できるかやってみることにしました。
ヒツジの発情同期化の方法の論文を参考にして行いました。
参考文献はこちらです。
「めん羊の発情誘起 ~膣内クリーム法」河野 博英 著
膣内クリーム法とは、現在牛の繁殖治療で行われているCIDERと原理は一緒です。
CIDERはシリコン製器具の中に黄体ホルモンが含まれています。
黄体ホルモンを膣の中に一定期間挿入しておくと、人工黄体として機能します。
これを除去すると、いくつかのホルモンが作用して、卵胞が発育して発情がおきます。
海外では、ヤギ用のCIDERが販売されていますが、日本では入手することができません。
膣内クリーム法は手作りでこのCIDERを作るような感じです。
クリームの中に黄体ホルモンを練りこみ、このクリームとスポンジを膣内に入れて、一定期間挿入した後にスポンジを抜きます。
今回は、使った器具の紹介をします。
1.アプリケーター
クリームとスポンジを膣に挿入する道具です。
注射のシリンジを使用しました。
2.スポンジ
クリームを膣内にとどめておくものです。
食器用のスポンジの固い部分をはがして使用しました。
スポンジの真ん中にモノフィラメントの糸を巻き付けて、膣から引き抜けるようにしました。
ヤギさんの大きさに合わせていろいろ作ってみました!
3.膣内クリーム
抗菌剤入りのクリームに。黄体ホルモンをすり潰し練りこみました。
完成してクリームを前に入れるだけのものはこちらです。
次回は、実際にヤギさんたちに使用してみたお話と結果についてです!!
産業動物獣医師は、どんな仕事をしているのか。
獣医師になりたい人が知っていなければならない
獣医と言っても、「ヒト」を見ないとダメなんです。
人の気持ちをわかる事が大切なんですよ。
動物の知識や技術は道具です。
どれだけひとを喜ばせることができるのか、どれだけひとを幸せにできるのか。
愛情の半分は動物に。半分は人間にも。
今回もwebマーケティングスペシャリストの中田さんとの対談です。
ついつい28分も喋ってしまいました。
web業界と獣医師には意外な共通点がありました。
お時間のある時にどうぞ。
これから、時々どうぶつの本や絵本をご紹介したいと思います。
やっぱり、はじめはやぎさんの絵本。
今回ご紹介する本は「やぎのグッドウィン」です。
どんなお話かというと・・・
のうふのマックダッフさんに可愛がられているやぎのグッドウィン。
グッドウィンには秘密があって、
ごみばこのものをくちゃくちゃかむのが大好きなのです。
これが思わぬ騒動を引き起こす・・・というお話です。
獣医としては、
「ごみをくちゃくちゃするのが大好きなやぎ」なんてとてもおそろしい!!
のどやお腹につまらせる・・・とか
中毒になってしまうのではないかなどなどこわーい想像がふくらむところですが、
もちろんそんなことはこの絵本の中では起こりません。
(実際はヤギさんのごみ箱や餌箱のいたずらには気を付けてくださいね!!)
やぎのグッドウィンは物語の始めから終わりまで、
素直に自分の気持ちで動いて、ごきげんに暮らしています。
興味がある、やってみたい、こんなの嫌だ!
いろいろな気持ちをそのままに、もちろん、周りの目なんて気にしないで。
それとは対照的に絵本の中に出てくる人たちは
時に大切なものや価値を自分の気持ちではなく、
周りの評価や基準で決めてしまっているように感じました。
そればかりでなく、
あなたのため、あなたを大切に思っているからと
「あなた」という言葉を免罪符に、
相手を縛り付けてしまったり、
自分の欲求を叶えようとしたり・・・
その結果、大切なものを大切にするつもりがなくしてしまったり、
自分の気持ちと離れたことをやってしまったり…。
でもまたそこに気が付いて、もう一度やりなおしたり、その相手の気持ちを感じて感動するのも人間なんですね。人間はごちゃまぜで時にめんどくさい。
グッドウィンは物語を通していつも変わらず自分の思いに忠実に生き生きとした表情をしています。
ほんとうの気持ちとズレなければこんな風にいられるのかな。
たとえどんなことがおこっても。
「ただの出来事」を「騒動」にするのはいつも人間なのかもしれません。
その他にも、
やぎとの暮らしの中で、やぎってこんなことするよね!とクスッと思わず笑ってしまったり、
だれかに可愛がられていても、「それでも」という言葉に繋がる「ひとりぼっち」に思いをはせてみたり、
仲良くなる、繋がる瞬間だったり、
シンプルな線に色彩がのった絵も素敵で
読み返す度に、
その時々に心に触れる言葉やシーンが見つかり、
また、自分自身にも問いを立ててくれる
何度でも読み返したくなる絵本です。
「やぎのグッドウィン」
ドン・フリーマン さく
こみやま ゆう やく
福音館書店
ヤギはなぜ登る?をキーワードに、ヤギの食性、産業利用などについてお話します。
当ブログの立ち上げから管理をお願いしている、webデザイナー、マーケティングスペシャリストの中田さんとの対談です。
ラジオ形式でお送りします。
9分くらいのお話なので、お時間のある時にお楽しみください。
あとで調べたところ、カバは複胃だけれど反芻はしないそうです。またヤギは山岳地帯を好んで生息する種が多いそうですよ。
中田さんのチャンネルはこちら→
webセキュリティやわらか超入門 by 魔法使いのWebマーケティング【まほウェブradio】 • A podcast on Anchor https://anchor.fm/marketing-
山羊の診療Diary症例35 中手骨の骨折②
今回のお話は、前回の続きになります。
左前足の中手骨を骨折してしまったおおちゃん。
副木とテープで仮に固定をし、次の日にギブスで固定することになりました。
まずはじめに、昨日仮で固定した副木とテープを外しました。
確認すすると、やはり中手骨が折れて、ガタガタしています。
はじめに「オルテックス」というギブス用包帯を巻きます。
これは、ふわふわした綿のようなもので、
ポリエステルとレーヨンの混紡で、肌触り・吸湿性に優れていてクッションの役目をします。
また、手で簡単に切れるので使いやすく、色が青いのでギブスをとる際に目印になります。
足先まで巻いたら、次に「スコッチキャスト」を巻いてギブス固定をします。
これは水で硬化させるキャスティングテープです。
素材はガラス繊維にポリウレタン樹脂を含浸させたもので、水に浸すと固まります。
石膏ギブスのような固定ができます。
ベタベタと接着するので必ず手袋をつけて行います。
素手では触らないようにしてくださいね。
そして、袋から出すと、どんどん固まってきてしまうので時間との勝負。
しっかり巻いた後は、お水をつけるとさらに固くします。
無事にギブス固定ができました。
しっかり固まっているので、足をついて歩けるようでした。
そして、3週間後・・・
ギブスを外しました。
外して骨折部位を確認するとしっかりとくっついていました。
立たせてみると、足を少し上げていましたが、このままリハビリもかねて様子を見ることになりました。
その後、飼い主さんからご連絡があり、徐々に足も地面について元気にしているというお話でした。
さらに1か月後・・・
診療の途中でおおちゃんのおうちのそばを通りかかったので、
「おおちゃーん!」
と声をかけると・・・
こちらに元気に歩いてきてくれました。
おっ!足も地面につけるようになっているね!
良かった、良かった。
これで広い放牧場で元気に遊べるね。
山羊の診療Diary症例35 中手骨の骨折①
今回のお話は、・・・
「前足を上にあげてびっこひいているので診療してほしい。」
というご連絡が来ました。
早速、ヤギさんたちがいる放牧場に行ってみると、
1頭だけゆっくり前肢をあげて最後にそばに来たヤギさんがいました。
近くに来てくれたおおちゃん。左の前足を上にあげています。
飼い主さんにお話を伺うと
女の子のヤギのおおちゃんは、今朝、放牧場のフェンスにに足が挟まっていたそうです。
すぐに、おおちゃんの足を外して助けてあげたそうですが、その時から左の足をあげて歩いているという事でした。
食欲はあり、声をかけるといつも通り来るという事でした。
この放牧場は、草原の中に、大きなガジュマルの木があり、琉球石灰岩で作った岩山もあります。
岩山はヤギさんたちの遊び場になっていて、
大きなガジュマルは木陰を作り、みんなの休憩所になっていました。
近くをよく診療で通りかかるので、いつもヤギさんたちが気持ちよさそうに暮らしているなと思ってみていました。
ヤギさんたちが岩山に昇っています。
おおちゃんを飼い主さんにおさえてもらって、左前足を触診してみると
触った瞬間「折れている!」ということがはっきりわかりました。
肢をよく見ても傷もななく骨も飛び出したりという事はありませんでした
場所は、中手骨で触ると折れた骨がこすれるざらざらする感触が伝わってきます。
開放性の骨折ではなかったので、ギブスで固定して治療することになりました。
しかし、この時、診療車にギブスなどが載ってなかったので、
今日は応急処置の固定をすることになりました。
はじめに足をまげて固定してみました。
これは、犬の前肢の骨折のときの包帯法「ベルポースリング法」という方法です。
牛の上腕骨折の治療で使用している例もあり、ヤギの治療でも有用なのではと考えたからです。
これなら、足を地面につくことがなく、骨折した部分に負重がかからずにすみます。
しかし、固定はうまくできたものの今回は中手骨の骨折だった為、関節を曲げたままにしておくよりも伸ばして固定したほうが良いのではと考え直し、全部外してやり直すことにしました。
足を伸ばして、段ボールで副木を作って布テープで固定しました。
この布テープは、ホームセンターで売っているものですが診療でよく使います。
水や汚れに強くて、しっかりくっつくのにはがすときはきれいに剥がれます。
(牛の臍ヘルニアのときおなかに巻いたり、関節炎の時にも足に巻いてりして使っています)
副木とテープで固定が終わると、足先を下について立っていました。
あまり今は、この足に負重をかけて欲しくないのですが、
治療が終わると、岩山のみんなのところに一生懸命登っていきました。
感染がおこらないように抗生物質のお注射を打って、明日ギブスを巻きなおすことになりました。
次回は、ギブスでの固定のお話です。
つづく。
今回のお話は・・・
まいぱり熱帯果樹園のヤギのペーターくんがお引越しすることになりました。
私たちは先春、まいぱり熱帯果樹園のヤギのはなこちゃんが3つ子を出産し、クララ・ハイジ・ペーターと名付けられ、ヤギ担当の方が一生懸命育てていたのを見てきました。健康チェック、駆虫なども済ませてお引越し前の準備は万全でした。
そしてお引越し先のご家族の方から、
初めてヤギと暮らすので相談したいという依頼が来ました。
お伺いしてみると・・・
まだ、お引越ししてから1週間、
すっかり子供たちと仲良しになっているペーターくんが待っていました。
到着するなり、子供たちがペーターくんのことをいっぱい教えてくれます。
一緒にお散歩してるんだよ。
走るととっても早いんだよ。
でも、好きな草があると歩いてくれないの。
あの木の葉っぱ全部食べちゃった。
ヤギには胃がいっぱいあるの?
トマトは食べたらだめですか?
と元気にお話してくれます。
はじめに、お話を聞いて、ひとつずつ質問に答えました。
そして、ペーターくんが元気でいられるように、
健康チェックを一緒にしました。
まずはお熱の測り方。
おしりから優しく体温計をいれてあげてね。
お母さまから
体温計は人間用ので大丈夫ですか?
というご質問があり、
「測るのは人間用ので大丈夫です。
ペーターくん用に一つあると良いと思います」とお答えしました。
次は心臓の音を聞いてみてもらいました。
ヤギさんがどんな風だったら具合が悪いのかのお話をしました。
この後、ペーターくんとお散歩しながら、
ペーターくんのおうちを見せてもらいました。
そこには・・・
立派な表札が!!
これは、まいぱりのヤギの担当の方がお別れの時にプレゼントしてくれたそうです。
そしてペーターくんのお家はこちら。
屋根が上から開くようになっていて、掃除や換気がしやすいつくりになっていました。
床が高床でないので雨の時のことを伺うと、
雨の日はガレージに行くという事でした。
この後、
ペーターくんが何を食べているのか伺いました。
ヤギ用飼料、オーツヘイ、野草というお話でした。
ごはんはバランスよくあげられていて、体格も問題ないとお話ししました。
アドバイスとして草を2種類以上あげていただくことにしました。
そして、お庭にある、草木の中でヤギさんの好きな草木を子供たちと一緒に探しました。
はじめてヤギと暮らすという事でしたが、こちらのお父様は先日、まいぱり熱帯果樹園で開催した勉強会にも参加されていました。
またお子さんたちも、すっかりヤギが大好きになり、勉強会の資料を読んだり、インターネットでいろいろ調べてくれたりしていたので、すでにヤギについてとっても詳しくなっています。ですから大きな問題もなく、改善点はありませんでした。
病院ではこのような、飼養相談の依頼も受けています。なぜなら、病気にならないことが一番だと思うからです。
そのためにまずヤギがどんな動物か知ることからです!
ご家族でお休みの日にペーターくんとお散歩するのが楽しみだそうです。
そして、女の子のヤギさんを迎えて、いずれは赤ちゃんに会いたいとお話されていました。
ペーターくん。ご家族様。元気に楽しく暮らしてくださいね!!
山羊の診療Diary症例34 熱中症&呼吸困難(鼻腔拡大手術)②
今回は前回のお話の続きです。
たつくんは前回の処置、「糸で鼻を持ち上げた状態」で過ごしていました。
5日後、飼い主さんにご連絡すると、
食欲も以前のように戻り、とても元気という事でした。
処置の前に、聞こえていた呼吸をするときのいびきのような音も聞こえなくなったそうです。
また、飼い主さんも早速、避暑用に日中木陰で過ごせるようにヤギ舎の外に、
たつくんの他、雄山羊さんたちが快適に過ごせる場所を作ったという事でした。
お話しから、たつくんの経過が良好なので、いよいよ仮止めの糸を外し、
手術に踏み切ることになりました。
まず、鎮静をかけて横になってもらいました。
前回の処置で糸で鼻の上の皮膚を持ち上げています。
このようにしっかりと鼻の穴が開いています。
この釣りあげている糸をはじめに抜糸しました。
そして、今日の処置をする部分に、痛みが少ないように部分麻酔をしました。
今日はこのように皮膚を三角に切開しそこを縫い縮めて鼻の上の皮膚を持ち上げる予定です。
皮膚を切開すると、出血が見られたので止血を行いながら皮膚の切開を行いました。
三角に切開できた後は、縫合します。
無事、縫合が終わり、鎮静を覚ましました。
鎮静が覚めたのを確認して今日はこれでおしまいです。
そして、10日後の抜糸の様子です。
傷はきれいに閉じていました。
鼻の穴の開き具合は、糸で釣っていた時のほうが大きく開いていましたが、
飼い主さんのお話では、今のところ呼吸ができているようだったので、ひとまず様子を見ることになりました。
もし、また息苦しい症状やいびきのような音が出る場合は、もう少し広げるための再手術が必要というお話をしました。
抜糸から10日後のたつくんです。
今回の症例の後、他のヤギ舎でボア種の雄山羊さんの顔をよく見ると、
顔の構造上、ザーネン種よりも鼻孔が狭いように思いました。
たつくんのように、いびきのような音がでて息苦しいくらい鼻孔が狭いときは、暑い時期に熱中症のリスクが上がります。
また、通常の時でも、運動時に呼吸が苦しくなり疲れやすかったり、交尾などが上手くできない可能性もあります。
今後、ボア種の雄山羊さんの様子をよく観察してみようと思っています。
なにはともあれ手術後、すっきりしたたつくんの顔をみてほっとしました。
雄山羊のリーダーとしてこれからもこのヤギ舎で活躍してくださいね!
山羊の診療Diary症例34 熱中症&呼吸困難(鼻腔拡大手術)①
今回のお話は・・・
「雄ヤギが餌を食べなくて元気がないから診療してほしい」
という連絡を飼い主さんからいただきました。
早速、伺ってみると、大きな雄ヤギのたつくんがヤギ舎の中に雌ヤギさんと一緒に居ました。
飼い主さんにお話を伺うと、
たつくんはここ最近、以前より食欲がなく、特にここ数日餌をたくさん残すようになった。
一緒にいる雌ヤギさんに餌をほとんど食べられてしまっている。」
というお話でした。
たつくんの様子を見ると、ヤギ舎の中で普通に歩いてはいますが、
時折、鼻からいびきのような音を鳴らしていて、少し呼吸が苦しそうに見えました。
そのことを飼い主さんに尋ねると、
「このこは小さいときから、鼻をこんな風に鳴らしていて、他の場所にいる兄弟もこんな感じだよ。ボアの系統が入っていて顔の形が違うからかな?」と教えてくれました。
確かに、ザーネン種より鼻のところがいわゆる鷲鼻(鼻筋が途中から隆起し、鼻筋が湾曲した鼻の形)のようになっています。
また、この日は数日間、夏の暑さが続いていました。
ヤギ舎の中も蒸し暑い状態でしたが、一緒にいる雌やぎさんや、隣のお部屋のヤギさんたち3頭は呼吸は荒くなく元気にごはんを食べていました。
まずはロープで縛って診療をはじめました。
この時、たつくんは大きな体で捕まえられるのは嫌だーとヤギ舎の中を
ぐるぐる逃げ回っていました。
100kgくらいある雄山羊さんをいつもより元気がないからといっても捕まえるのに一苦労。
ようやく縛って、診察をはじめると、呼吸が先ほどよりもだいぶ苦しそうになっていました。
熱を測ると41.0度まで上がっており、ひとまず熱中症の可能性があったので、
飼い主さんに濡れたタオルとお水、扇風機を用意してもらいました。
はじめに首周りを濡れたタオルで冷やしながら、静脈輸液のための留置をとろうとすると、
さらに暴れてしまい、呼吸の状態が悪化しそうなので、皮下補液に切り替え、
安全に保定をしながら診療を続けるのが困難と判断して、院長にも助けを求めました。
皮下補液をしながら、飼い主さんには扇風機を設置してもらい、
その間に、便の異常はないこと、おしっこは出ていること、
聴診で心音・肺音の確認、聴打診で腹部に異常がないことなどを確認しました。
冷やしすぎないように体温を測りながら、皮下補液を続けていました。
体は少しづつ冷えてきましたが、相変わらず呼吸の苦しさは改善されませんでした。
そこに、院長が到着して、たつくんの顔をみるなり
「鼻の穴がふさがっているよ」と。
よくよく正面からたつくんの顔を見ると、
息を鼻から吸うごとに、鼻の穴の上の皮膚がふたのように鼻をふさいでいる状態になっていました。
たつくんの顔は、鷲鼻の鼻の形でさらに最後の鼻の上の皮膚が垂れ下がっていて
普通にしてても、鼻の穴が線の細さで、他のヤギさんたちの様に鼻の穴が開いていませんでした。
逃げ回ってさらに苦しくなったことで、
吸うたびに鼻がピタッと穴をふたのように閉じるのが顕著になっていたのでした。
ここまでの症状やたつくんの診療で考えられることは、
もともと鼻腔が狭かったところに、暑さが重なり、呼吸で熱を下げることがほかのヤギさんより難しく、熱中症や食欲不振などの症状で元気がなかったことが考えられました。
その他の原因があるとしても、まずは呼吸の状態を改善することが必要でした。
横から押さえながら、診療するのに精いっぱいで
すぐに気が付かなくてごめんねとたつくんと思いながら、
急いでたつくんの鼻の上を上向きに豚さんのように押し上げました。
そのまましばらくすると呼吸がどんどん改善されていきました。
鼻の穴さえ開いてさえすれば、熱中症もおそらく食欲不振なども改善されそうでした。
しかし、私がずっと鼻を押しているわけにもいかないので、鼻の穴を拡張する手術が必要です。
しかし、今のたつくんは熱中症を併発しており、数日間の食欲不振もあり、
長い時間鎮静をかけるのは危険な状態と判断し、
短い時間の鎮静で応急処置で糸で鼻を持ち上げることになりました。
処置の様子はこちらです。
処置が終わり、鎮静が覚めたころには、体温も安全なところまで下がり、呼吸も楽になっていました。
良かったーとほっと一安心。
そして、むくっと立ち上がったたつくんは・・・
ごはんを食べに行くのかと思いきや
雌ヤギさんのおしりのにおいをかいで
フレーメン!!
それから草を食べ始めたのでした・・・。
えー。まずはそこなの!?たつくん・・・。
本能だからしょうがないのかもしれませんが、
助かったと思ったらまず女の子・・・
緊急事態で緊張した現場でしたが、
たつくんの行動に思わずみんなで笑ってしましました。
そして、
飼い主さんには、たつくんのヤギ舎を涼しい環境に整えていただくことと
呼吸の状態の観察をお願いしました。
食欲が改善されたら、鼻の整形手術をすることになりました。
数日後、飼い主さんから、
すっかり元気を取り戻し、鼻の音も消えて、
ごはんをもりもりたべて、雌ヤギさんをを追いかけまわしている・・・
というご連絡をいただきました。
たつくん良かったね。今までいろいろ苦しかったのかもしれません。
根本的な改善を目指して次に鼻腔拡大の手術に踏み切ることになりました。
たつくん、あともう1歩、一緒にがんばろう。
手術の様子は次回へつづきますー。