2)便と消化管

消化管の機能

便に注目する前に、消化管の機能を整理しておきましょう。消化管の機能は消化吸収のみではなく、詳しくみると以下の7つがあります。

①食物の推送
消化管は食道の一部、喉、肛門を除き平滑筋です。蠕動(ぜんどう)運動により食物を推送します。
②消化液の分泌
消化液には酵素や電解質が含まれています。
③他の臓器から消化液を分泌させるホルモンを分泌
④栄養素の吸収
栄養素の吸収の多くは能動輸送系で能動的に行われています。
能動輸送系は細胞膜に存在し、栄養素や電解質を生体内に移動させています。物質の移動は受動的拡散により移動される場合と、能動的に移動される場合がありますが、大半は能動的に輸送されています。
消化液には酵素や電解質が含まれています。
⑤電解質の調節
体内の電解質の寡多によって消化管の能動輸送系を調節しています。例えば生体内でマグネシウムが不足すると、吸収能力が上がります。
⑥体水分の調節、便の水分調節
消化液の分泌により、ヒトで1日7〜10Lの水を分泌しています。栄養素の吸収には溶媒としての水が必要で、電解質を移動させるために、ヒトで1日9Lの水を吸収しています。
栄養素の吸収および電解質の分泌のために通常時から体内では大量の水を移動させているので、下痢が起こると体水分に異常をきたしやすくなります。
⑦消化管内からの感染を防ぐ免疫機能
消化管内は体内という見方もできますが、体外という見方もできます。消化管内は外界と接して栄養素を取り込まなければならない場所であり、かつ、病原微生物を通さないようにしなければならない場所です。ですからそこでは、活発な免疫機構により感染から身を守っています。免疫細胞の70%が消化管に存在していると言われており、生体の感染防御における最大の関所なのです。

消化管の調節機構

前項の基本機能を順序よく効率的に行うため、さまざまな調節機構があります。消化器の調節機構の全体像を掴むために生体レベルの調節を中心に解説します。

前項の消化管の機能に対して、それらが達成されるように、生体は協調的に調節を行います。

神経性の調節と内分泌性の調節

消化管の分泌調節は神経性の調節と内分泌性の調節(ホルモンによる調節)があり、またこれらが連携して行われることもあります。
神経系と内分泌系について以前書きましたが、神経通路を介して直接情報を伝えるか、血中濃度を介して伝えるかの違いでしたね。

神経性の調節では、食事による味覚、嗅覚、機械的刺激による無条件反射、あるいは食事に関する視覚や聴覚刺激による条件反射によって、脳から迷走神経を経て分泌指令が送られます。また胃内や腸内では胃内PHの感知、胃内の各種栄養素の感知、胃壁の伸展の感知により、反射性に調節を行います。

消化管には、消化管同士で連絡をとるための内在性神経があります。ですから消化管の神経性調節は中枢を経由する調節と、中枢を介さず消化管内での連絡(内在性神経)による調節があります。
内在性神経の存在により消化管単独でも自律的に調節することが可能となっています。

ホルモンによる分泌調節は、消化管自体がホルモンを使って他臓器や消化管自身に情報を伝えて調節を行います。消化管ホルモンには、胃液や膵液を分泌させるホルモンや、分泌を抑えるホルモンなどがあります。

分泌の調節

まず空腹感や視覚からの条件反射などにより消化液の分泌と胃の収縮が起こります。
そして食物が消化管に入ると、味覚や胃の伸展を感知して消化液が出され、量と質に応じて消化管運動は亢進したり抑制されたりします。消化液と混ざった食物が、下部消化管に流れていくと、その刺激を感知してさらに適切な消化液を分泌したり運動を調節したりします。食物が通過し空になった胃では、胃液の分泌が抑制されます。
これらの情報伝達には、神経系と内分泌系のどちらも関与しています。

吸収の調節

栄養素や電解質などの生体に必要な物質は、消化管内壁の細胞膜を通って輸送されます。また、不要な物質を排泄したり、消化液の分泌に伴って消化管内に排泄されたりします。

そういう吸収と分泌は、濃度勾配による自動的な拡散によるものと、濃度勾配に逆らった能動的な輸送によるものがありますが、多くは能動的な輸送によるものが占めています。
養分の吸収や消化液の分泌に伴って、溶媒である水も同時に輸送されています。

吸収の調節では、生体内に不足している栄養素や電解質に応じて、吸収能力を高めたり抑えたりします。
摂食によって食物が与える胃や腸の伸展刺激や、生体内で不足している物質を感知した情報により、吸収機能は促進されます。もう十分だと感知されれば、その物質の吸収は抑制されます。

例えば腸管内に栄養素(グルコース、アミノ酸など)が存在すると、腸液の分泌を抑えて栄養素を吸収しやすくします。
また例えば腸管から集めた血液が通る門脈にはNa濃度を感知する受容器があります。この受容器で高Naを感知すると、神経反射を介して腸管の副交感神経を活性化させ、消化管からのNa吸収抑制(および腎臓からのNa排泄促進)を行います。

ちなみに調節機構ではなく物理性質によるものとして、吸収不可能な物質をたくさん摂取すると便中の水分が多くなることがあります。
消化管内に吸収不能な物質が存在すると、管内が高浸透圧となり、水分吸収が阻害されるからです。

外来神経による調節

消化管は消化管内で感知された刺激による反射性調節だけでなく、消化管外の神経支配(外来神経)の調節も受けます。消化管は生体が消化機能を調節するべき状況だと判断された時にも調節を受けるということです。

例えば交感神経が興奮すると、通常消化機能は抑制されます。外的の襲来で逃げなければいけない時などは、消化活動にエネルギーを割くのではなく走ることに集中させなければならないからです。また急な出血のため貧血状態になったとします。すると同様に消化活動は抑制されます。消化よりも優先順位の高い生命維持装置である心臓や肺、脳に血量を集めなければならないからです。
ただし、消化機能は抑制されますが、循環血量を増やすため電解質の吸収は亢進します。
一方副交感神経が興奮すると、消化機能は促進されます。生体レベルで休息や栄養吸収を行う状況であると判断された時です。同時に心臓機能が抑制されます。

免疫による分泌調節

炎症反応またはアレルギー反応の結果、電解質、粘液、IgA分泌亢進、腸管運動の亢進が起こります。
また細菌の毒素に反応して、腸液分泌は促進され、吸収抑制が起こります。腸管内に存在する細菌の情報を感知した時は、栄養素が吸収できなくなったとしても、細菌を洗い流すことを優先して調節されているということです。
標準生理学p682

捕足

少し分かりにくいところがあるので捕足します。

「分泌」というと何かを放出することですね。

「消化液」というと唾液、胃液、膵液、胆汁、腸液などのことです。

消化液は胃内、腸管内など(体外)に「分泌」されます。

「ホルモン」は特定の機能を持った細胞から血液中(体内)に「分泌」されるものです。

消化液のうち、唾液、胃液、膵液、胆汁は主に食物の分解が仕事ですから、たくさん分泌されると消化は促進されることになります。

一方腸液は、分泌亢進しすぎると吸収がうまくできなくなります。腸液は電解質および栄養素の吸収が仕事なので、一定量は必要なのですがたくさんありすぎると流れてしまうからです。同じ消化液でも、腸液の分泌亢進は、細菌などの不要物を流してしまいたい時に起こります。

腸管内に栄養素を感知した時は腸液の分泌抑制が起こります。腸液の分泌抑制は、栄養素の吸収促進とも言えます。

さて、これでやっと便のお話に行けますね。

Leave a Reply

Your email address will not be published.