Author Archives: Anne

「ヤギの診療」書籍出版のお知らせ

この度、このブログのヤギの診療記録がもとになり、
「ヤギの診療」という書籍が発売されることになりました。

「ヤギの診療」
発売予定 2022年7月31日

価格 3300円送料無料

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書籍「ヤギの診療」の購入方法
このブログのお問い合わせフォームから購入できます。

ご住所、お名前、電話番号を明記してお申込みください。お申込みの返信メールにて、振込先をご案内致します。送料無料。

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ヤギの診療に初めて取り組む獣医師や、ヤギを専門としない獣医師が診療する際の助けになることを願い、実践的な知識を一冊にまとめました。
獣医師向けではありますが、ヤギの身体のしくみや病気のことをより詳しく知りたいヤギの飼育者のみなさまにも、理解を深めていただける内容になっています。

目次
第1章 ヤギの一般知識

第2章 ヤギの診療技術

第1節 捕獲と係留
1.捕獲する方法
2.係留する方法

第2節 治療の基本手技
1.注射法
2.食道カテーテル挿入法
3.外傷処置・麻酔
4.去勢手術
5.除角

第3節 疾病の診断
1.問診法・身体検査
2.心臓・肺の聴診
3.腹部の触診・聴打診法
4.主訴から診断に至る手順
5.畜産のヤギと伴侶動物のヤギの
診療の考え方

第4節 飼料及び飼育
1.ヤギの消化のしくみ
2.ヤギの飼料
3.栄養状態の評価
4.飼育環境(臨床上、特に注意 する点)
5.削蹄

第5節 繁殖と分娩
1.繁殖管理
2.妊娠鑑定
3.分娩

第3章 よくあるヤギの病気と診療20

1.腰麻痺
2.ルーメンアシドーシス・鼓脹症
3.下痢
4.膿瘍 (乾酪性リンパ節炎)
5.膣脱
6.子宮脱
7.胎盤停滞
8.子ヤギの低体温・低血糖
9.乳房炎
10.外傷
11.熱中症
12.関節炎
13.骨折
14.膀胱炎
15.難産
16.呼吸器感染症
17.眼の外傷
18.ロープによる首つり事故
19.乳頭損傷
20.破傷風

第4章 獣医師が知っておきたいヤギに関する法律
1.家畜の監視伝染病について
2.家畜伝染病予防法に基づく飼養報告について
3.家畜伝染病予防法に基づくTSE検査について

ここでみなさまに、私(Anne)からお礼とご挨拶をさせていただきます。

ブログを読んでいただいたみなさまの存在が私の心の支えとなっていました。ヤギのブログを読んでいただき本当にありがとうございます。

私はヤギの診療を受け入れてくれる獣医師がなかなか見つからないという声を受けけて、
未経験でヤギの診療の世界へ飛び込みました。
このブログでもお伝えしていた通り、たくさんのヤギと飼育者の方との出会いがありました。
出会ったみなさまと一緒に向き合った、診療の一つ一つが私を育て、この本の完成に至りました。
あらためて、心から感謝いたします。本当にありがとうございました。

ヤギや助けが必要な飼育者の方がどこでもいつでも安心して診療を受けられることを願い、
また、昔の私のようにヤギの診療に初めて取り組む獣医師の先生が、私が通った苦労をしないように、少しでも参考になればと思い本を製作しました。未熟ながらも私の精一杯が詰まっています。
必要な誰かにこの本が届きますように。

私は動物が好きで獣医師になりました。
これからも動物との暮らしの中にある、ちいさなしあわせを大切に暮らしていきたいと思っています。

みなさまが動物たちが健やかで心温まる日々を送れることを心からお祈りしています。

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愛知ヤギ農場主催 ヤギのオンライン勉強会開催について 2021年10月30 日開催予定

愛知ヤギ農場主催 ヤギのオンライン勉強会開催について

☆ヤギのオンライン勉強会のお知らせです☆

今回のテーマは

「ヤギの消化のしくみと病気」
「ヤギのよくある病気3つと健康チェック法」

基本的なヤギの消化のしくみ、病気のしくみ、予防、飼い主さんがいざという時にできる対処法まで、実際にヤギと暮らしている方が知っていないといけない、実践的な内容です。

全国のヤギ好きなみなさん。この機会に、わたしたちと一緒に楽しく勉強しませんか?

基本のきからお話しますので、ヤギに興味がある方ならどなたでもご参加していただけます。

事前の質問も受け付けています。ご参加をお待ちしております♪

 

主催は愛知ヤギ農場さんです。

愛知ヤギ農場さんは、今年度ヤギのオンライン勉強会をシリーズで開催されています。

これまでも、様々な分野のヤギの専門家の先生が登壇されてきました。ヤギの飼育管理やごはんのお話や人工授精などなど役立つ情報が盛りだくさん。

愛知ヤギ農場さんYoutubeでの勉強会のお知らせ動画

こちらのYoutubeでは愛知ヤギ農場さんがヤギの飼い主さんに役立つ情報をたくさん発信されています。ぜひ他の動画もご覧くださいね。

勉強会のお申し込みはこちらから。

https://forms.gle/3e4Z94Xyp43Gi9sN7

 

さて、勉強会の前に一つクイズ。

どちらのヤギイラストが正しいでしょう?

(ヤギにみえない!!なんて言わないでください・・・)

答えは当日に。。。

ではでは、お会いできるのを楽しみにしています!!

開催要項

【日 時】2021年10月30日(土)13:00~16:00

【場 所】自由 ※ご自身のパソコンや携帯からZoomに参加

【テーマ】「ヤギの消化のしくみと病気」
「ヤギのよくある病気3つと健康チェック法」

【講 師】 宮古獣医科医院 内田直也獣医師・寺島杏奈獣医師

【参加費】 1人1,000円 ※事前お振り込み

【事務局】 愛知ヤギ農場

勉強会のお申し込みはこちらから。

https://forms.gle/3e4Z94Xyp43Gi9sN7

 

「ヤギの友第44号」に寄稿し掲載されました

全国山羊ネットワークで年2回発行されている会報「ヤギの友」の第44号に寄稿し掲載されました。

今回私たちは、
「山羊の病気と発情同期化」について寄稿しました。

病気は膣脱のご紹介をしました。
産前も産後も膣脱は起こります。
産後におこる、子宮脱と胎盤停滞と合わせて、
「陰部から何か出ている」という病気を知っておいてくださいね!

発情同期化は、膣内クリーム法のご報告でした。

「ヤギの友」は全国ヤギネットワークの会報です。
ご興味がある方は、ホームページはこちらです↓

https://japangoat.web.fc2.com/

ひとりぼっちのりんりん~自分の居場所~

今回のお話は、獣医としてではなく、いちヤギの飼い主としてのお話です。

ヤギを群れで飼育していると、そこに人間関係ならずヤギ関係が生まれていると感じます。
学術的にも、
「ヤギは群れる習性を持つと同時に、一定の個体間隔を保とうとする習性を持っており、
それらは社会的順位に反映する。群内の敵対関係、親和関係、性的関係、母子関係および人間あるいは他の動物との関係がある」
(ヤギの科学より引用)
また、「女王様ヤギ」という群れのリーダーがいて、飼い主さんが他のヤギに優しくすると意地悪をしてしまうことがあるようです。
飼い主さんは女王様ヤギがさみしい気持ちにならないようにはじめに優しくしてあげるのが対策とのこと。

順位とかやきもち、仲良しグループを作ったり仲間外れしたりとかいじめとか、
みんなと居たいけどひとりがいいとか・・・
ヤギ関係ってまるで人間関係!!

私がヤギの飼育管理の勉強をしているゆうきさんの牧場の、ヤギのりんりんは、小さいころから、のんびりやの女の子のヤギさんです。一緒に生まれた男の子のヤギさんにミルクを飲み負けてしまい、体調を崩したため、しばらく病院で預かり治療。元気になったところでまた、もとの群れで暮らすようになりました。

ヤギ関係は人間関係のように変化しているようで・・・
はじめは、群れに戻ってみんなとごはんを一緒に食べれていましたが、新しいヤギが入ってきたり、仲良しだったヤギのパンダがお引越ししたり、子ヤギたちの誕生・・・など
何かがきっかけで、群れの順位やバランスが変わったようでりんりんが群れになじめなくなっていきました。
ごはんをあげる場所を増やすなど工夫をしてみたものの、りんりんはみるみる痩せてしまい、
どこへいっても頭突きされ、食べる場所が見つけられないでひとりぼっちでたたずんでいることが多くなりました。
そこで、1頭で別に飼育してまずはとにかくりんりんの元気を取り戻すことにしました。

りんりんを元気なふくふくのヤギにするぞー!!
と、私は心に誓いました。

気合十分、毎朝、栄養たっぷりのネピアグラスを刈って、りんりんのところに通いました。
おいしそうに食べる姿をみてほっとしたものの、
しかし!!
タンパク質が多すぎで下痢・・・。そして自分で治療・・・。
バカバカバカー!!なんていうバカな事。初歩的な失敗。
反省し、気持ちを落ち着けて、
今度は、午前中、配合飼料と草地で自由に草を食べれるようにして、
午後は小屋で乾草と配合飼料を食べるようにしました。

そして、朝は私と一緒に牛舎の周りをお散歩。
野草(バナナの葉っぱ、おおばぎ、ガジュマル、センネンボク)を道草しながらいろいろ食べていました。


初めはリードをつけていましたが、リードなしでもついてくるようになり、
帰りは自分で小屋に入るようになりました。
そのうち、
牧場主のゆうきさんが牛のぼろだしで一輪車を押していると一緒についてお散歩するようになりました。

そして、ついに!!
ひとりぼっちだったりんりんに仲良しができました。

牧場猫のみーちゃんです。

一緒に寝たり、ふたりでぶらぶらしたりするようになりました。

りんりんは、
はじめに私やゆうきさんに慣れ、、
次に猫のみーちゃんと仲良くなり
そして、最後には、時々私と一緒に、
私が群れのヤギたちに草を運ぶときに一緒についてきて
自分でもう一度群れに入っていきました。
この時はどいてと他のヤギにどつかれても、負けずに食べていました。

りんりん強くなったねー。

散歩に行けるとはいうものの、元気になったりんりんが、
小さな小屋でなくのびのびと暮らせる環境はないかなと考えていた時、
動物が好きな子供たちのいる牛農家さんがりんりんのことを好きになってくれて
新しい家族のところでお家を作ってもらい暮らすことになりました。

りんりんとの日々で、
所属している場所に居場所を見つけられない時でも
世界は閉じているわけでなく
外の世界に心温まる繋がりを探すこともできる。
ぞして外ではなく自分自身とのつながりを結び直すこともできる。
その中で、受容される気持ち、受容する気持ちを自分の中にもてれば、
戻ることも、そのまま外に出ることも、そして、一人でいることも
人は自分で選んで、進んでいけるのではないかと感じました。

りんりんが元気になり、新しい家族のもとにいったあと、
良かったなと想うと同時に心にぽっかり穴が開いてしまったのも本当の気持ち。
しみじみ、さみしいなー。
元気にしようと頑張ってきたけど、元気にしてもらっていたんだな。

ありがとうね、りんりん。
どうかどうか幸せにね!!

 

山羊の診療Diary症例42 離乳後の乳房炎

山羊の診療Diary症例4 2 離乳後の乳房炎

今回の症例は・・・
「離乳後、片方の乳房が腫れていて元気がない」というご連絡がきました。
お話を伺うと、離乳後1か月ほど経過しているという事でした。
食欲・元気はあるものの、熱を測ると発熱しており、左側の乳房が拳大のしこりがあり、腫脹している状態でした。


乳を搾ってみると、透明の液体に時々クリーム状のものが詰まりながら出てくる状態でした。

写真 乳頭の先から白いクリーム状のものがでてきました。

これらの症状から乳房炎を疑い治療を開始しました。

ヤギの乳房はどんな構造?
ヤギの乳房は2つ(1対)あり、それぞれ乳区が分かれ独立しています。
乳房内には、上部に乳を産生する多数の乳腺胞があり、その下に乳をためておく乳腺槽があり、
そこから繋がる乳首にも乳をためておく乳頭層があります。

乳房炎とは?

乳房に細菌などの病原菌が侵入し乳房に炎症を起こします。
乳区が独立しているため、病原菌の感染はそれぞれの乳頭からの侵入で起こり左右間をまたいでの感染はありません。
*症状
乳房の腫脹、硬結が見られ熱感を伴う事もあります。また乳汁にも変化が見られます。
(乳汁が薄くなる、ブツブツとした塊が出てくる、クリーム状になるなど)
大腸菌の感染による乳房炎の場合、内毒素のエンドトキシンにより全身症状(元気食欲がなくなる・発熱・起立不能など)があらわれ、
急性に経過が進み乳房の壊死や死亡することがあります。

治療は乳房洗浄と抗生物質の全身投与を行い、熱が下がったところで乳房内に抗生物質の投与を数日間しました。
しこりは残ったものの、乳房の腫脹が減り、全身状態も良くなったので終診としました。

乳房洗浄の方法
①乳を搾る。
②生理食塩水に抗生物質、抗炎症剤を加えて、洗浄液を作る。
③点滴のラインをつけ留置針の外芯のプラスチックの針の部分を乳頭から差し込み洗浄液を乳房内に入れる。
④その後、乳房をやさしくマッサージしながら洗浄液を絞って出す。
⑤②と③を数回繰り返す

はじめに乳を搾ります

乳房洗浄中です

先端はこんな感じです

飼い主さんにできること
・飼育場所を清潔に保つ。
・清潔で適切な搾乳をする。
・乳房炎に罹患した際は、獣医師の指示のもと頻回に搾乳する。
・乳房炎の母ヤギの乳は子ヤギに与えないで人工哺乳をする。

特に、乳房炎の場合は、飼い主さんに乳を搾っていただくことが重要になります。
乳房の中は、体温で温かく、ミルクという栄養があるので細菌が感染すると培養器のように
なってしまいます。
今回も初めは、飼い主さんが一人で難しいという事で、
通いながら一人でも搾乳できるようにヤギの保定の仕方から練習しました。
無事、できるようになり、ヤギさんも元気になりほっとしました。
乳房炎で腫れている乳房の搾乳はヤギが痛がる場合があり、飼い主さんも大変だと思いますが、
これも治療の一環なので、担当の獣医師と相談しながら頑張ってくださいね。

山羊の診療note14 ヤギの角 ~除角について~

ヤギの角ってどんな構造かご存じですか?
ウシ科であるヤギの角は角芯と呼ばれる骨の突起を角鞘という鞘が覆っています。
角芯は頭蓋骨の一部の角突起で角鞘はケラチンというタンパク質でできています。
つまり・・・
ヤギの角は骨にカバーが付いているような構造になっています。
そして、角は一生の間、生え変わることなく伸び続けます。

ヤギのくにちゃんの立派な角!

除角の方法は、デホーナーを用いる方法とのこぎりを用いる方法があります。
しかし、どちらの方法も除角は強い痛みを伴います。
また、出血や化膿、破傷風、脳に障害を与えることやショック死などを起こす場合があります。
痛みを軽減し何かあった際は適切な処置ができるよう、獣医師の処置をお勧めします。

・デホーナーを使用する方法
生後7~10日で実施します。子ヤギを保定し、局所麻酔後、熱したデホーナーを角芽部に強く押し当て焼き切ります。
その後、電気ごてで除角部の周りを焼き皮膚をはがします。除角部に抗生物質の軟膏を塗布し、抗生物質、破傷風血清を注射します。
この方法は頭蓋骨にデホーナーをあてるので、加熱しすぎると脳に障害を与え、
ショック死することがあるので子ヤギの様子を観察しながら注意深く行う必要があります。

・のこぎりを使用する方法
角がすでに伸びているヤギの除角をする際は、のこぎりによる切断になります。
しかし、この方法はヤギの角の構造からもわかる通り、骨を切るという事になります。
出血や痛みを伴うので、鎮静や局所麻酔を行い、のこぎりで切断後、電気ごてで止血を行います。
その後、抗生物質、破傷風血清の注射を行います。

☆☆書籍のご案内☆☆

書籍「ヤギの診療」 
著 寺島杏奈
出版 日本橋出版
2022.7.31発刊

鼓腸症についてだけでなく、ヤギの飼い方、消化の仕組み、診断の方法、他のよくある病気についても体系的に解説しています。

☆☆☆☆

山羊の診療note 13 破傷風

みなさん、破傷風という病気はご存じですか?
人の破傷風はワクチンのおかげで今ではだいぶ少ない病気になりました。
地域性があるので、この病気をみないところもありますが、
今も存在する病気です。
私の住んでいる島は、破傷風常在地域です。
普段は牛の診療を主に行っていますが、牛では破傷風は年に何度か診療します。

ヤギも破傷風にかかる動物です。
その為、ヤギの診療でもいつも頭の片隅にこの病気はあります。
ヤギの去勢手術などの際は破傷風の血清を注射してから行っています。

そして、人もかかる病気で、少なくなったとはいえ、治療が困難な病気なので
私自身も破傷風トキソイドの注射(ワクチン)を接種して診療にあたっています。
人の破傷風についてはこちらを参照してください。

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/466-tetanis-info.html

*破傷風ってどんな病気?
破傷風菌が傷口から体に入ることによって感染します。
破傷風菌は土の中など環境中にいる菌で、そして空気のないところで増えます(嫌気性菌)
土のついた傷口のなかの酸素のないところで増えて毒素を作ります。

破傷風菌の作る毒素は、「神経のはたらきを抑制する神経」に作用します。
すると筋肉がずっと収縮し続けて、筋肉のけいれんをひきおこします。

(基礎知識)
・筋肉の収縮・・・神経からの伝達でおこなわれます
・けいれん・・・自分の意思とは無関係に起こる筋肉の収縮のこと

咬筋、舌筋、嚥下筋に影響があると→開口困難、咀嚼困難および嚥下困難 (口が開かない、飲み込めない)
眼筋および鼻筋に影響があると→瞬膜突出、鼻翼開帳

*飼い主さんが気が付く症状

元気がない。ふらふらしている。歩き方がおかしい。
食欲がない。口が開かない。涎が出る。痙攣する。

このような症状が出る前に、手術や除角、外傷などがあった
またはお産後(母ヤギの胎盤停滞)、赤ちゃんヤギ(おへそからの感染)などが疑われます。
(潜伏期間は通常2~5日、1~2週間の時もある)
しかし、釘などを踏んだりなどの、飼い主さんが気が付かない小さな傷でも感染する場合があるので、
実際は発症した時どこ傷から感染したかわからないことも多いです。

*実際の診療
私がこれまで経験した牛のお話をします。

実際の現場では、歩き方が破傷風特有のものであったりする場合はすぐにわかりますが、
たいていの場合、他の病気を除外しながら破傷風の症状がないか診察することになります。
特に、「口が開かない」は破傷風を疑うポイントになります。
飼い主さんからは、なんとなく元気がない、様子がいつもとなんとなく違う、
えさを食べないというお話を伺うことが多いです。

*治療
残念ながら治癒率は低い病気になります。
抗生物質の連続投与や対処療法を行って経過をみます。

最後に大切なこと
この病気は人獣共通感染症であり、見つけた時は県知事に届出し、適切に処分しなければなりません。疑わしい時は、獣医師及び家畜保健衛生所に連絡してくださいね。

さらに詳しく知りたい方は・・・
http://nichiju.lin.gr.jp/tksn/deer/deer21.html

余談
私は小学生の頃に「震える舌」という小さい女の子が破傷風にかかってしまう映画を見て、破傷風を知りました。その映画が小さい頃の私にはとても恐ろしく、映画を見た後、しばらくけがをすることがとてもこわかったのを今でも覚えています。

山羊の診療note6-② ヤギの去勢について (精巣の解剖学)

以前、山羊の診療note6山羊の診療note6でヤギの去勢についてお話しましたが、
今回は、精巣の構造を詳しく見ていきたいと思います。

精巣は左右別々に陰嚢という袋に2つ入っています。
陰嚢中隔で左右に分かれています。

陰嚢を切開すると精巣は精巣鞘膜という膜に包まれています。

精巣鞘膜をメスで切ってめくるとこのような状態になります。

精巣鞘膜は一部、精巣上体尾部に付着しているのでここをはがすと
きれいに露出することができます。

*陰嚢
ヤギの陰嚢は身体の外に垂れ下がっていて、精巣が縦に収まっています。
牛や羊も同じスタイルです。

ちなみに・・・
猫や犬は体の外にありますが垂れ下がっていません。
イルカは身体の中に精巣があります。

精巣が体の外側に近い場所にあるのは、精子が作られるときの温度は身体の中の温度より
低めが良いからです。

体の中にあるイルカは大丈夫なのかな?と調べたところ、
背びれの静脈の温度が低くこの低い温度の静脈血が精巣のまわりにある静脈にきて冷やしているそうです。
生き物の身体の仕組みってすごいですね。

*精巣
精子と雄性ホルモンのテストステロンを作成しています。

ヤギの精巣は体の大きさに対して重量があります。

牛は精巣1つが300g~400g
ヤギは145g~150g

体の大きさはずいぶん違うのにヤギはおっきめなんです!
雄ヤギさんの足の間に存在感たっぷりにぶら下がっています。

*精巣上体
精巣で作られた精子はまだ未成熟で、精巣上体の中で成熟していきます。
精巣上体は未成熟な精子を運搬しながら濃縮・成熟・貯留を行います
頭部・体部・尾部の3つに分かれています。

*精管

精子は精巣→精巣上体→精管と移動していきます。

山羊の診療Diary症例41 子ヤギの深部膿瘍 (ドレーン留置)

山羊の診療Diary症例4 1 子ヤギの深部膿瘍

今回のお話は・・・

「子ヤギのあしからしばらくの間、膿が出続けている。消毒したけど治らない」
とのご連絡で診療に伺いました。

ヤギ舎に伺うと、かわいい子ヤギさんがいました!

しかし、あしからはこの通り、膿がでていました。

 

触って詳しく見てみると、膿が出ているところに穴があり足全体が腫れていました。
皮膚の下の一部ではないようだったので、麻酔をかけて治療することになりました。

まずは膿が出ている穴の周りをきれいに剃毛します。


そして、傷口を良く洗います。


カテーテルを入れるとかなり深部まで化膿していることがわかりました。
ここまで深いと1度の洗浄や、抗生物質の投与だけでは傷がきれいにならないので
ドレーンを入れることにしました。

ドレーンは栄養カテーテルを切って作成しました。
栄養カテーテルの先端を一度結び、その上に切り込みを入れます。
それを、排膿している穴から挿入し、奥まで入ったら、糸でとめ留置しました。

このままでは、すぐに取れてしまうので、
傷口の保護も含めて、ビニールで被膜しテーピングを行いました。

カテーテルの反対側の先端は出しておいて、ここからPVPヨード液で
1週間、飼い主さんに傷の洗浄をお願いしました。

1週間後、腫れはひいています。自壊創はやや改善が見られます。

2週間後には排膿もなくなり、腫れもさらに改善したのでドレーンを外すことができました。

左右差もありません。歩行も正常にできていて、一安心です。抗生物質の注射をし、飲み薬を処方して診療を終えました。

今回は比較的早くきれいになりましたが、
皮下だけでなく腱や関節にまで膿瘍が及んでしまうと治療が困難になります。
あしのけがや関節炎で立てないというのは、ヤギさんにとって致命的なのです。
傷が深い場合や、足全体が腫れている場合は、早めに治療をお願いしてくださいね!

山羊の診療Diary症例40 子ヤギの上腕骨の骨折 (固定の失敗からの治癒)

山羊の診療Diary症例40 子ヤギの上腕骨の骨折 (固定の失敗からの治癒)

今回の症例は・・・
「子ヤギの男の子が牧場の柵に前あしを挟んでいて、
助けたらその後、前あしをぶらぶらしているから診てほしい」

というご連絡が来ました。

さっそく、牧場に伺ってみると、

左の前あしをあげたまま走り回る子ヤギさんを見つけました。
どうやら左の前あしを地面に着けないようです。

子ヤギさんを捕まえて、左の前あしを触診してみました。
足先から触診をします。
蹄問題なし。
中手骨、関節大丈夫。前腕骨も問題なし。
そして・・・
上腕骨を触ったとき、折れているまたはひびが入っている部分が
明らかに触診でわかりました。


骨は皮膚から出ておらず、開放性の骨折ではありませんでした。

動物病院でしたら、レントゲンを撮れば詳細がわかると思いますが、
往診での診療の場合、ここで骨折の治療にはいります。
(参考 山羊の診療Diary症例35 中手骨の骨折)

はじめに「オルテックス」というギブス用包帯を巻きます。
これは、ふわふわした綿のようなもので、
ポリエステルとレーヨンの混紡で、肌触り・吸湿性に優れていてクッションの役目をします。
また、手で簡単に切れるので使いやすく、色が青いのでギブスをとる際に目印になります。

次に「スコッチキャスト」を巻いてギブス固定をします。
これは水で硬化させるキャスティングテープです。
素材はガラス繊維にポリウレタン樹脂を含浸させたもので、水に浸すと固まります。
石膏ギブスのような固定ができます。

ベタベタと接着するので必ず手袋をつけて行います。
そして、袋から出すと、どんどん固まってきてしまうので時間との勝負。
巻き終わったら、お水をつけて完全に硬化させます。

感染予防のために抗生物質を最後に打ちました。
そして、ケージに入れて、安静状態で様子を1週間様子を見ることになりました。

次の日、診てみるとまだあしが地面についていません。
おまけにギブスの上がすれている様子でした。
テープで補強して様子を見ました。

しかし、このまま1週間してもあしが地面についていません。
そこで、院長に再診をお願いしました。

私の、巻き方が甘くて、一番固定したい骨折の部分がしっかり固定されていないことが判明。
大、大、大反省です。
強く巻きすぎて、血流が阻害されて浮腫がおこるのを心配しすぎてしまいました。
骨折部位が固定できてないからいつまでたっても骨折部位が良くならずあしも地面に着けない状態になっていました。

一度ギブスを外して、院長に巻きなおしてもらいました。
前膝の上、なるべく高い位置までギプスを巻き、その上から防汚のためテープを巻いています。

2週間後外してみると、骨折部位は接合し、前からも横からもわかるくらい太くなっていました。

ギブスを巻きなおしてから地面にあしが着くようになり、外してからしばらく経つと元気に走り回れるようになりました。

単純骨折の場合は、骨折部位が動かないように固定することが大切です。もちろん皮膚の血流を阻害しないように注意することも同時に大切です。
子ヤギの場合、成長期でもあり骨も付きやすく予後が良いようです。
ただし、私のように巻きが甘いとくっつくものもくっつきません・・・
とてもとても反省する症例になりました。