山羊の診療Diary症例33 難産(若齢出産&頭部先行)

山羊の診療Diary症例33 難産(若齢出産&頭部先行)

今回のお話は、

「山羊の診療note10 ヤギの島野草セット」でご紹介したゆりるちゃんの分娩のお話です。

ゆりるちゃんの妊娠がわかったのは、初診時の診察でした。

その時は下痢の治療で伺いました。

全身状態を診るのに妊娠鑑定をしたところ、妊娠がわかりました。

まさか妊娠しているとは飼い主さんも思っていなかったのです。

なぜならゆりるちゃんの月齢を聞くとまだ妊娠するにはずいぶん早かったのです。
しかし、譲っていただいたお家の方に確認してもらったところ、雄山羊さんとずっと一緒にいたという事でした。

ヤギさんがいつから赤ちゃんを作ることができるのか?
ということですが、

性成熟は5~6か月ごろと言われています。

しかし、実際は個体差もあり3か月ではじめての発情がくるヤギさんもいます。
その為、正書では3か月過ぎたら、雄と雌を別々に飼育することをお勧めしています。
実際、3か月過ぎの男の子と女の子の子ヤギさんを一緒に飼育していたら妊娠してしまったというお話を
別の飼い主さんから伺っています。その妊娠発覚以降そこでは3か月で必ず、雄雌を分けて飼育しているそうです。

元の飼い主さんに聞いたゆりるちゃんのお誕生日とお腹の赤ちゃんの大きさの様子が、
一致せず、いつ妊娠したかは正確にはわかりませんでした。

しかしまだ、成長過程で妊娠してしまったことには間違いがありませんでした。
お父さんだと思われるヤギさんも体が大きく、難産が予想されました。

どうして、若齢での妊娠が危険かというと、
まだ体が出来上がっていないので、骨盤の広さを赤ちゃんが通れない可能性があります。
お父さんヤギの体格が大きいときはなおさらです。

ゆりるちゃんは分娩前に下痢と食欲不振が続いていたため体力がかなり消耗していました。

出産に挑むにはギリギリの状態だったのです。

分娩予定日も不明だったため、治療に通いながら分娩を待ちました。

飼い主さんの懸命の看護もあり、ようやく食欲が戻ったのですが、すぐに陣痛がはじまることとなりました。

飼い主さんから、陣痛がはじまっているというご連絡があり、現場に向かいました。

治療経過と体格を考えると通常の自然分娩で生まれない可能性も十分あるので、帝王切開の準備をしてゆりるちゃんの元へと向かいました。

到着すると、
ゆりるちゃんの陰部からは子ヤギさんの鼻先が見えていました。
これは「頭部先行」という難産の胎位となります。
ヤギでは頭から出てきてしまうと、足が引っかかり出ることができません。

はじめに通常通り頭を押して引っ込めて、
両前足を確保しました。

その次に、頭を足の間におき、後頭部に手を添えてひいて赤ちゃんを出そうと考えました。普通ならこれで赤ちゃんを無事に産ませることができます。

以前ご紹介した、
「山羊の診療Diary症例2 難産 頭からでてきた場合」
に胎位を直して生まれる映像がありますのでご参考にしてください。
https://vet-present.com/goat/268/

しかし!
今回はこれではまだ赤ちゃんを出してあげることができませんでした。
なぜなら、ゆりるちゃんの骨盤腔はとても狭くて、両足と頭が同時には通らなかったのです。

とにかく、頭と前足を骨盤腔に通さなければいけません。

そこで、まず前あしそれぞれひもをかけて一旦引っ込めます。そして、頭を参道に入れ、後頭部にひもをかけます。実際は結び目は口の中にはいっています。

産道の狭い部分を、先に頭だけ通り抜けてもらいます。その後、首の隙間から前足のひもをひっぱり両足を出しました。

ここまでで、なんとか骨盤腔から出すことができたので、あとは外陰部を通れれば無事に誕生です。

ここからの様子はこちらの映像になります。

無事に生まれることができました!!

飼い主さんのご家族のみなさんや、ご近所のみなさんに見守られて、
赤ちゃんヤギさんが生まれた時は喜びの声が上がりました。

 

この動画中で起こっていることを解説すると、

骨盤腔は通っていたものの
頭が外陰部ギリギリ通るか通らないかだったので
外陰部を手で広げました。

生まれた後に、まだおなかに赤ちゃんがいないか確認しました。
今回はいませんでした。

また、呼吸が弱かったので、
水につけてシャワーの皮膚からの刺激で呼吸を誘発するとともに、
前足を開いたり閉じたりして、肺が広がるのを補助しました。

自分でしっかりと呼吸するのが確認できたので、赤ちゃんヤギさんはタオルにくるんで少し休憩した後、お母さんのゆりるちゃんのケアをして初乳を飲ませました。

今回の症例は、
まだ体が成長途中のお母さんヤギさんで骨盤腔が狭いためとても難しい症例になりました。
今回、とても幸運なことにお母さんヤギさんも子ヤギさんも無事でしたが、、
若齢での妊娠・分娩はとても危険で、ヤギさんの体に大きな負担をかけてしまいます。
また、お母さんも子ヤギさんも助からないという悲しい結果になることもあります。
獣医師として、診療やこのような難産介助も大切ですが、このようなことが未然に防げるように
ヤギさんの性成熟などの体のことをみなさんによく知ってもらったり、日頃のごはんや暮らし方などの飼養管理についてお話していくことの大切さを改めて感じました。

大変なお産になりましたが、
はじめてお家にきたヤギさんがすでに妊娠していて分娩という事態にも関わらず、飼い主さんやご家族のみなさんの懸命のサポートによって、
お母さんヤギのゆりるちゃんが、体調を壊しながらも最後まで分娩をよく頑張ってくれました。

そして、私もこの分娩に立ち会えて、生まれた子ヤギちゃんの生命力の強さに心が震えました。

後日、赤ちゃんヤギさんのお名前はリンクに決めましたとご連絡をいただきました。
「ヒトやモノや出来事を結びつけるもの、絆」という意味が英語ではありますよね。
誕生のときにすでにおおきな感動をみんなにくれたリンクくん。
リンクくんがこれからもいろいろな人や出来事を結びつけてくれますように。

ゆりるちゃんとりんくくんにはこちらで会うことができます!
宿のホームページはこちらです。

山羊の診療Diary症例32 難産(側位側胎向)

山羊の診療Diary症例32 難産(側位側胎向)

前回、ヤギの正常な分娩についてお話しました。
今回は、お産に介助が必要だった難産の症例をご紹介します。

飼い主さんより、
「朝から陣痛がはじまっているが、赤ちゃんが出てこない。とても苦しそうなので来てほしい」との連絡が夕方に来ました。

ご連絡いただいた農家さんのところに急いで向かいました。
到着すると、母ヤギさんが「うーうー」と苦しそうにうめいていました。
陰部からは何も出ていませんでした。

すぐに手袋をして、陰部を消毒し手を入れて、内診をおこない
赤ちゃんヤギさんの向きがどうなっているか確認しました。

通常なら、前足または後ろ足が触れます。

前足が2本触れた場合は次に頭が触れます。

いわゆる逆子で。後ろ足が触れる時もあります。
逆子であせる方がいらっしゃいますが、ヤギやウシの場合は、異常ではなく、前から生まれる時よりも頭が引っかからず、するりと順調に生まれることが多いのでびっくりしないでくださいね。

注意するのは、胴体の部分で引っかかってしまうと息ができずに亡くなってしまうので、そういう事がないようよく観察して、危険な時は引っ張って介助してあげる必要があります。

前足と後ろ足の区別の仕方は肢端から2番目の関節を触って確認します。
後肢のときは飛節が触れます。前肢の時は膝関節(人間の手首の関節にあたる)が触れます。
蹄の向きだけで判断すると診断を誤るので、必ずこの関節を確認するようにしてください。
下胎向の場合(上向きで万歳している状態)前足を後足と間違えてしまう事があります。

そして、今回はどうだったかというと・・・・

なんと足も頭も触れませんでした!!
いったいどうなってたかというと・・・

こんなふうに背中が産道にきてしまって、つまっている状態でした。
名前を付けるなら側位側胎向でしょうか。

お母さん山羊は、苦しそうにうめいていて早く出してあげたいのですが、
ここは落ち着いて、どうにか赤ちゃんヤギさんが出られる胎位にもどしてあげる必要があります。

初めに、赤ちゃんを押して奥に戻しました。
産道では、狭くて向きが直せないので、何とか赤ちゃんの向きを変えるスペースを探します。

奥の少し広いスペースに押したところで片足が触れました。
足をたどっていくと頭が確認できました。
なかなか、向きが直らなかったのですが頭をさらに押して、自分の片手で前足2本を確保し、
もう片方の手で、頭の上に手を添えて、
やっと引っ張り出すことができました。

生きてる!!

呼吸を確認して、まだ赤ちゃんがいないかすぐに確認しました。
するともうひとり子ヤギさんがいました。この子もそのまま介助して無事生まれました。

その時の映像はこちらです。

陣痛開始から長い時間がかかっていたことと、体の向きが異常だったので、心配しましたが無事生まれて、
私もほっとして飼い主さんと一緒に喜びました。

お母さんヤギもすぐに赤ちゃんヤギたちをぺろぺろ舐めてお世話をしてくれました。

分娩介助はとても緊張する仕事ですが、
元気に生まれた時は本当にうれしく幸せな気持ちになります。

今回の症例のように、前あしも後ろあしも触れない場合があります。
胎児の体位が正常かどうかは目で見ることができず、手の感覚での作業になるので少し難しいです。
しかしどんな時でも、お落ち着いて、ヤギの体の構造を頭の中で思い浮かべて、まずは体がどんな向きになっているのかを確認することが大切です。現状を把握したあと、解決に向けて、体位を正常に戻すことをひとつづつ試していきます。

院長先生によく言われているのは、
「同じことをずっとしない。一つだめだったら次の手を考えること」

私も焦ると「あれ?あれ?」と同じことを繰り返しそうになります。
今回もなかなか頭がまっすぐにならず正直とても焦りましたが、いろんな角度から押したり引いたり試行錯誤し、2頭とも無事に生まれました。

赤ちゃんヤギさんたちの元気な様子をみてほっとしたときに、分娩だけでなく病気の治療でもこれは大切なことだと心から感じました。

山羊の診療note12 ヤギのお産

山羊の診療note12 ヤギのお産

ヤギの難産の症例をこの後2つご紹介したいのですが、
その前にヤギの正常な出産について今日はお話したいと思います。

ヤギの分娩は難産になることが少なく、安産であることが多いといわれています。
実際、私の住む島のヤギの飼い主さんたちから、「自然に生まれていた」「難産は見たことない」という声をききます。
しかし、診療で難産の依頼を受けることはもちろんあります。
お産の異常に飼い主さんが気がついて対処すれば子ヤギさんを助けることができるので、
まずは、正常なお産を知っておきましょう!

*正常なお産の進み方

①陣痛開始
・ごはんを食べなくなる
・うろうろする
・地面をひっかく動作 など

②1次破水

③足胞(ふうせん)が出る
風船の中に足が2本みえます

④2次破水 重要 *ここから先お産がスムーズに進まないときはすぐに連絡!!

⑤足2本と鼻が出る

⑥頭が出る

⑦体が出る

子ヤギさん誕生!!

これが正常なお産の順番です。

陣痛から1次破水まで、牛や羊は2時間から6時間程度ですがヤギでは12時間かかることもあるそうです。
(家畜改良センター山羊の飼養管理マニュアルより)
私たちの病院では牛では陣痛開始から2時間しても1次破水しない場合は連絡いただくようにしていますが、
ヤギはこのように牛に比べて12時間と陣痛の時間が長いため、ここでの異常の発見は難しいです。
しかし、陣痛が始まって、半日経過しても生まれないときや異常に苦しんでる様子など見られた際は獣医師に連絡してください。

一番注意してほしいのは2次破水してそこからお産が進まないときです。
この時は待たずにすぐに獣医師に連絡するようにしてください。
赤ちゃんが出られない体の向きだったり、体のどこか(頭や腰)が引っかかって出られないことがあります。

また、ヤギさんは双子や三つ子のことが多くあります。
正常な分娩の場合、1頭目から次の赤ちゃんは1~2時間の間に生まれます。
1頭目が生まれた後、まだおなかに入っていないか確認しましょう。
飼い主さんが確認する方法として、妊娠鑑定の時にお話しした、
「おなかを持ち上げる方法」があります。乳房の付け根を上に持ち上げておなかの中にいる子ヤギさんを確認します。
詳しくはこちらの記事を参考にしてください。

そして、ヤギの分娩は日中(早朝から夕方)が多く、夜間は少ないと言われています。
分娩に立ち会うチャンスがあった場合は、このような異常がないか確認しつつ、
そっと見守ってあげてくださいね。

ヤギ飼育の基本講習会を開催しました in まいぱり宮古島熱帯果樹園

先月、ヤギ飼育の基本講習会を開催しました。

今回の講習会は、ヤギの健康管理でいつも診療にお伺いしています「まいぱり宮古島熱帯果樹園
のスタッフの皆さんに向けての講習会でした。

まいぱり宮古島熱帯果樹園さんでは、現在9頭のヤギさんたちが暮らしています。

スタッフさんの方の中には、はじめてヤギをお世話する方もいらっしゃるとのことで、ヤギの基本をみんなで勉強することになりました。

この機会に、普段の診療では伝えきれなかったことをお話したり、管理する上での悩みや質問などをお受けしたりしました。

第1部は院長、第2部は私が講師としてお話させていいただきました。

第1部 ヤギってどんな動物?
・動物の分類からみたヤギ
・ヤギの消化の仕組み
・成ヤギの基本のごはんについて
・島でよくヤギにあげる野草の栄養について

第2部 ヤギがどんな時獣医さんを呼ぶ?
・ヤギでよくみられる3つの病気のお話
(下痢・鼓脹症とルーメンアシドーシス・腰マヒ)
・ヤギの健康チェック
・事前にいただいていた質問の回答
「ヤギの仲間はずれといじめについて」

第3部は削蹄師のゆうきさんに講師をお願いし、
実際にまいぱりのヤギのはなこちゃんの削蹄をしながらの実技講習を行いました。

第3部 ヤギの削蹄

みなさんとても勉強熱心で、質問もたくさんいただいた講習会でした。
普段、診療に行った際もいつもたくさん質問をいただきます。

また何か問題が出た時は、皆さんで話し合われてヤギたちが健康に暮らせる努力をしていらっしゃいます。先日はヤギの健康チェツクシートを作成されていました。

わたしたちも勉強会や診療を通して、ヤギの健康管理をこれからも一緒にがんばっていきます。

まいぱり宮古島熱帯果樹園のホームページはこちらです。

きれいな南の島のお花やくだものが園内にたくさんあり、お散歩するのにもとても素敵な場所です。
そして、かわいいヤギさんや宮古馬に会うことができます。
この春に生まれた子ヤギのハイジちゃんやクララちゃんもすくすく成長中。
まいぱりのスタッフの方が大切に愛情をもって人工哺乳を頑張ったヤギさんなのでとても人に慣れています。
宮古島にいらっしゃった際には、まいぱり宮古島熱帯果樹園で、「ハイジー!」「クララー!」と声をかけてみてくださいね。

また、講習会開催などのご希望はお気軽にこちらのブログのコメント欄よりご連絡ください。

山羊の診療Diary症例31 皮下膿瘍 2例

山羊の診療Diary症例31 皮下膿瘍 2例

今回の症例は・・・
皮下にできた2つの膿瘍の症例をご紹介します。

①おしりにできた皮下膿瘍
初めの症例は、下痢の治療で往診治療を依頼された際に、
おしりのところにできものがあることに気がつきました。
おしりの左側のしっぽの斜め下にピンポン大の腫瘤がありました。

初めに針を刺す検査(バイオプシー検査)を行いました。
すると、針先に白いチーズ様のものが吸引できました。
この時点で、細菌感染の膿の可能性が大きくなった為、はじめの治療は、
1週間抗生物質の投与をして経過を見ることになりました。
病院に戻り、バイオプシー検査でとれた白いチーズ様のもので塗抹を作り
、染色して顕微鏡で確認しました。はっきりとした好中球の像は見られなかったものの、
異形の細胞なども見つかりませんでした。

1週間後の再診で、下痢はすでに治り、食欲・元気も元にもどったもののできものの大きさは
そのままだったので、切開して洗浄することになりました。

やはり、白いチーズ様の膿がたくさん排出されました。
ヨード剤にて洗浄しました。
その後、飼い主さんからきれいに治りましたと連絡いただきました。

②顔にできた膿瘍(乾酪性リンパ節炎疑い)

飼い主さんが右側の耳の下が腫れていることに気が付き往診に伺いました。

女の子のヤギのくにちゃんの診療をしてみると、
右側の耳の下にピンポン玉よりやや大きめのできものができていました。

食欲、元気もあり全身状態は良好でした。

顔、特に耳の下にこのような腫瘤ができる場合、耳下リンパ節に細菌が感染して膿の入った腫瘤ができる
乾酪性リンパ節炎が疑われます。

*乾酪性リンパ節炎とは・・・
膿瘍の原因がコリネバクテリウム属菌の場合、膿瘍から細菌が血流やリンパ系を介して
体内リンパ節や内部臓器に転移すると、乾酪性リンパ節炎を引き起こします。

症例20のヤギのけんとくんも同じ場所に膿瘍ができ、この病気が疑われました。
詳しくは・・・

山羊の診療Diary 症例20 顔にできた膿瘍

くにちゃんは、体の大きなヤギさんで穏やかですが、治療が安全にできるように軽い鎮静をはじめにかけました。
次にくにちゃんを横に寝かせてから、
腫瘤をイソジンで消毒し、針を刺す検査(バイオプシー検査)をして白い膿を確認しました。

そのまま、メスで腫瘤を切開し

膿の排出と洗浄を行い

最後にヨード剤で洗浄・消毒を行いました。

抗生物質のお注射と1週間の抗生物質の処方をして経過観察をしました。

10日後です。きれいに治りました。

ヤギさんの膿瘍は、固いカッテージチーズ様のものが多く、
なかなか自然には排出されずこぶのようになってしまう場合が多いので、
見つけた時には、獣医さんに相談して洗浄や消毒、お薬の処方の相談をしてくださいね。

「ヤギの友」第42号に寄稿、掲載されました

全国山羊ネットワークで年2回発行されている会報「ヤギの友」の第42号に寄稿し掲載されました。

今回私たちは、前回の第41号に引き続き
「山羊の病気と削蹄」について寄稿しました。

削蹄は、削蹄師のゆうきさんと一緒にお隣の島のヤギのくになかちゃんにモデルになっていただき、削蹄したときの事例を紹介しました。

病気については、
・産後の膀胱炎
・ルーメンアシドーシス2例
についてまとめました。

特に、ルーメンアシドーシスを理解するために、ヤギの胃や消化の仕組みを図解しました。
ヤギは人間と違い、胃が4つもあるのでなかなか理解が難しい部分でもありますが、
消化の仕組みを理解すると、ヤギの食事や病気に対する理解が深まると思います。
また、治療のための「経口チューブの挿入法」やそのときに使用する手作りの道具についてご紹介しました。

「ヤギの友」は全国ヤギネットワークの会報です。
ご興味がある方は、ホームページはこちらです↓

https://japangoat.web.fc2.com/

山羊の診療Diary症例30 乳頭の皮膚にできた膿疱

山羊の診療Diary症例30 乳頭の皮膚にできた膿疱

今回の症例は・・・
「出産した母ヤギのおっぱいが腫れているように見える今朝から、子ヤギがおっぱいを飲もうとすると足で蹴って
嫌がっているみたい。」
というご連絡がありました。

産後で乳房が痛そうという事で、乳房炎や乳頭損傷の可能性を考えながら、早速診療に伺いました。

お母さん山羊の星ちゃんは22日前に出産したとのことです。
星ちゃんのそばには元気な男の子と女の子の双子の子ヤギちゃんがいました。

飼い主さんに詳しくお話を伺うと、
昨日から、食欲はあるけれどいつもより元気がなく座っていることが多いとのことでした。

お熱を測ると、微熱でした。全身状態は良好です。
食欲も、乾草を診察中ももりもり食べていました。

乳頭の診察をしてみると、左右の乳頭にぶつぶつができていました。


針を刺してみると、白い膿が排出されました。


乳房自体は腫脹や熱感などはありませんでした。

治療は、
抗生物質を1週間投与、
そして、乳頭の刺激を減らすため、母ヤギさんから子ヤギさんを離す時間を作ってもらい、その間は人工哺乳をしていただくことにしました。

乳頭にいくつもの膿疱ができるのはヤギそして牛でも経験がないため、
詳しい病態については不明なままでしたが、まずは膿疱の基本の治療からはじめて見ることにしました。
乳頭の子ヤギさんの哺乳などで小さな傷ができ化膿してできた膿疱なら抗生剤の投与で改善されるのではと考えています。
しかし、基礎疾患やほかの原因の場合は、哺乳が維持できるような違う治療も考えなければと思っています。
人では無菌性の膿疱もあるようです。
このような症例を経験されている方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてください。

また経過はご報告したいと思います。

ヤギと一緒にロッケンロール♪

この度、ゆうきさんの牧場のヤギのだいわくんが
ミュージックビデオに出演しました!!

沖縄県にはなんと、琉球ドラゴンプロレスに所属する
ヤギのプロレスラー「ヒージャーキッドマン」さんがいます。
沖縄の方言で「ヤギ」=「ヒージャー」なのです。

そのヒージャーキッドマンさんのテーマソングのミュージックビデオにだいわくんが出演しました。

ビデオはこちらです↓
「ヒージャーキッドマンのテーマ」
演奏 THE OSAKA BULL(s)

THE OSAKA BULL(s)さんのHPはこちら

ビデオの中でだいわくんは見事な「マイダツ・脳天割り」を決めています。

(マイダツ・脳天割りの記事はこちら)

とっても元気の出る歌で、診療に行く途中についつい口ずさんでいます。

♪きっとヒーローきっとヒーロー
ヒーローヒージャーキッドマン♪

みなさんもぜひ
ヤギと一緒にロッケンロール♪

ヤギ界のヒーローとして
ヒージャーキッドマンさんがんばってくださいね。
必殺技のヒージャードロップキックを炸裂させてください。
ケガの時は診療しましょうか・・・!?
応援していますー。

琉球ドラゴンプロレスのHPはこちら

CDはこちらです。


お問い合わせはコメント欄からお願いします。

おっぱい大作戦 ヤギ編

おっぱい大作戦(ヤギ編)

今回は、おっぱい大作戦のヤギ編です。

山羊の診療Diary症例29 子ヤギの下痢(コクシジウム症)でご紹介した、ヤギののどかちゃん。
生後1か月でお母さんヤギが亡くなってしまい、コクシジウムという寄生虫の下痢のため入院していました。
また、お母さんが亡くなってから、1週間、草しかあげていなかったという事で、栄養も足りず、
消化もうまくできていなかったので、人工哺乳をする必要がありました。

普段は、ヤギの人工哺乳をするのに人間用の哺乳瓶を使っています。
しかし、乳首が太いのと硬さが固いので、慣れるまでに時間がかかる子がいます。
そこで、おっぱい大作戦(ウシ編)で手作りした、乳首を再度作成し使用してみることにしました。

材料
・お掃除や炊事の時に使う手袋
・ペットボトル
・ペットボトルのふた
・ガムテープ

作り方
1.ペットボトルのふたの部分をくりぬく手袋の指の部分を切る
2.ふたにかぶせてガムテープなどで固定する
3.指の先端に穴をあけてミルクがちょうどよく出る量を調整する

早速、のどかちゃんに試してみました。

のどかちゃんのお口に手作り乳首をくわえさせて、初めは少し押してミルクを出しました。
何度かやっているうちに・・・
自分で吸うことができました!!
手作り乳首大成功。

その後、人間用とヤギ用の乳首でも哺乳しましたが、すぐに上手に使うことができました。
そして、人間の哺乳瓶よりも手作り乳首のほうが吸いやすそうでした。

人工哺乳をする態勢は、足の間に挟んで壁際で後ろに下がれないようにします。
お母さんのおっぱいを吸うときみたいに、頭の前を手で押さえてあげるのも飲みやすくなります。

一つ注意点があります。
手袋を使う場合は、しっかりふたにくっつけないと、勢いよく哺乳した際に、手袋の先が外れて飲み込んでしまう危険性があります。

実際、一度外れて慌てて口に手を突っ込んで飲み込むのを避けられましたが、かなり焦りました…。

もし飲み込んでしまったら取り出すには手術しかありません。哺乳どころではありません。十分注意してくださいね。

 

退院時に、オーナーさんに人工哺乳のやり方をお伝えし、これからしばらくがんばっていただくことになりました。

前回の牛編では、手作り乳首での哺乳は成功しませんでしたが、人間の哺乳瓶よりも飲みやすそうでヤギさんでは大成功でした。

下痢も治って無事退院したのどかちゃん。オーナーさんにミルクをもらってすくすく大きくなってね!

おっぱい大作戦 ウシ編

今回はヤギさんのお話ではなくウシさんのお話です。

先日、いつも診療で伺う農家さんから
「3か月の子牛が哺乳瓶からどうしてもミルクを飲んでくれなくて困っている」という相談を受けました。
お話をさらに伺ってみると、
・わけあって母牛をセリで3日前に手放した
・3日前までは、生まれた時からずっと母牛からおっぱいを飲んでいた
・まだ配合飼料で栄養が取れる量を食べれるようになっていない為、人工哺乳が必要
・3日前から毎朝と夕、それぞれ根気強く1時間くらい哺乳瓶に慣れさせるようにがんばったけど、
子牛さんはもう乳首もミルクも嫌がるようになってしまった
というお話でした。

とてもまじめな農家さんなので、相当な努力をされたことを感じました。
何とか良い方法がないかと、調べたところ、

「獣医師に直接聞きたい!繁殖管理のベストプラクティス」
という記事の中に人工の乳首を嫌がる子牛に哺乳させる方法として、「目隠しをする」
という方法が見つかりました。
https://farmnote.jp/contents/bestpractice7.html

この記事を参考に、4つの作戦を考えてみました。
さっそく農場へ行き農家さんと一緒にやってみることになりました。

いざ「おっぱい大作戦」決行!!

1.目隠し作戦
前述記事を参考に目隠しをしてみたらどうか。

やり方
・黒いマスクに最近吸っている未経産牛のにおいをこすりつける
・子牛をつなぐ
・マスクをかぶせて哺乳する

結果
目隠ししないより子牛が落ち着いている様子。
しかし、残念ながらこれだけでは飲んでくれませんでした。

2.乳首を変えてみる作戦

哺乳瓶の乳首は実際のお母さんの乳首より堅そう
→乳首をよりお母さんの乳首の感触に近づけたらどうか

やり方
・ドレッシングボトルに手袋をかぶせて柔らかい乳首を作る
・子牛に飲ませてみる

結果
お口には市販の哺乳瓶の乳首より入れやすいものの吸ってくれませんでした

3.ドレッシングボトルとホース作戦

やり方
・乳首がどうしてもだめならドレッシングボトルで口から飲ませる

 

結果
時間はかかりますが、少しづつ飲めました。

4.胃チューブでミルクを飲ませる作戦(緊急 最大1週間くらいまで)
チューブを入れられれば、簡単にミルクを胃に入れることはできますが、
チューブを頻回に入れることにより、食道が傷ついてしまうことや、
正常の哺乳の反射などがおこらないデメリットを考えて、こちらの作戦は緊急時のみとしました

やり方
・胃チューブでミルクを強制的にあげる

残念ながら、今回の子牛さんはどうしても乳首から吸うというのを頑なに嫌がっており、
目隠ししても、乳首を使って哺乳瓶であげることが難しいという結果になりました。
どうにか、ドレッシングボトルであげられそうなので、
農家さんのお母さまと息子さんで朝・夕、分担して頑張ることになりました。
それと同時並行で、配合飼料の量を少しづつ増やしていただき、栄養をこちらからもとれるようにしてもらうことになりました。
根気強く、牛のことをいつも一生懸命考えているお二人なので乗り切れると思います。
幸い、ここまで順調に育ってきた子牛さんなので体がしっかりしています。
無事、離乳できるまで、私たちもできるサポートはしながら見守っていきたいと思っています。

今回のことで、記事にもあった通り、和牛の子牛さんはとても頑固で、3か月からの人工哺乳はとても難しいことがわかりました。
しかし、母牛さんが突然亡くなってしまったり、様々な理由でどうしても人工哺乳が必要な場合があります。
今回の経験を今後に活かしていきたいと思いました。