Category Archives: ヤギの診療記録と飼育方法

山羊の診療note 12-4 正常な胎位

「ヤギの友43号」に寄稿した「ヤギのお産」を改めてこちらのブログでも図解などを入れてお話したいと思います。
今回は、正常な胎位についてお話します。
分娩介助の時に最初にすることは胎位の確認です。
前回、前あしと後ろあしの確認の仕方をお話しました。さらに頭の位置を確認すると胎位がわかります。そして、正常な胎位は2つありますとお話しました。
みなさん、答えはわかりましたか?

正解一つ目。

①背骨が上で前肢2本と頭が触れるもの。

正解2つ目。

②背骨が上で後ろ肢2本が触れるもの。

牛農家さんでもよく「逆子だ!異常だ!大変だ!」
と大騒ぎで連絡がくることがありますが、これは正常な胎位です。
ただ、途中で止まってしまったときは要注意。
へその緒が切れやすいので、切れたまま止まると酸素が赤ちゃんに行かなくなります。
こうなると時間との勝負。すぐに介助する必要があります。

そして、その他は全部異常になります。
参考までに、今までの症例の異常な胎位をご紹介します。

頭位先行

頭位屈曲位

側位側胎向

見えないところで胎位を把握しなければなりませんが、胎位の確認はとても大切です。
正常であることが確認できないときはあきらめずによく触って確認しましょう。
そして、正常な胎位に直します。ここまでできれば分娩介助成功まであと少し!!

山羊の診療note12-3 胎位の確認の仕方

前回ご紹介した「ヤギの友43号」に寄稿した「ヤギのお産」を改めてこちらのブログでも図解などを入れてお話したいと思います。
今回は、胎位の確認の仕方を復習してみましょう。

2次破水からお産が進まない時はまず胎位を確認する必要があります。
陰部から手を挿入して確認します。

*前肢?後肢? 胎位の確認の仕方
前肢と後肢の区別の仕方は肢端から2番目の関節を触って確認します。
前肢の時は膝関節(人間の手首の関節にあたる)が触れます。

後肢のときは飛節が触れます。


蹄の向きだけで判断すると診断を誤るので、必ずこの関節を確認するようにしてください。
下胎向の場合(上向きで万歳している状態)前肢を後肢と間違えてしまう事があります。
前肢が2本確認出来たら、頭が前に向いているかを確認します。横に曲がっているときはきちんと前を向くよう整復します。
正常な胎位であれば、産道を通れるように頭に手を添えて、ゆっくりいきみに合わせて肢を引きます。後肢2本の場合は肢のみを引いて大丈夫です。

次回は正常な胎位についてお話します。
実は、今回の中に答えがあります。
正常な胎位は2つありますよー。

山羊の診療note12-2 ヤギの正常なお産

前回ご紹介した「ヤギの友43号」に寄稿した「ヤギのお産」を改めてこちらのブログでも図解などを入れてお話したいと思います。今回は、正常なヤギのお産を復習してみましょう。

ヤギの正常なお産の進み方

①陣痛開始

・ごはんを食べなくなる

・うろうろする

・地面をひっかく動作  など

②1次破水

多量の水(羊水:おしっこ3回分くらい)がでます

③足胞(水風船のようなもの)がでる

風船の中に蹄が2本見えます

④2次破水

粘性のある液体がでます

重要!!ここからお産がスムーズに進まないときは注意・獣医さんに連絡

⑤肢2本と鼻が出る

⑥頭が出る

⑦からだが出る

⑧赤ちゃんヤギさん誕生!!

お産が終わったら・・・
お母さんヤギさんにはおつかれさまのお味噌汁を(ミネラルや水分の補給になります)
赤ちゃんヤギさんには初乳をしっかり飲ませて(免疫をつけます)くださいね。
飼い主さんはお祝いのビールかな!!

ヤギの診療Diary 症例37 鮫口

前回、ご紹介したむちむちの子ヤギのがんくん。

グレーがかったとてもきれいな毛色の子ヤギさんです。

産まれた時から、お口が不正咬合でした。

このように、下の顎が短い不正咬合を鮫口。

反対に、上の顎が短いのを逆鮫口といいます。

がんくんは指1本分くらい下顎が短くなっていました。

残念ながら、不正咬合は治療法がありません。

産まれてからすぐ、おっぱいを飲み始めましたが、
一緒に生まれた女の子のヤギのかんなちゃんより、
身体の成長が若干遅い感じがしました。

治療法がないので、まずはヤギの気持ちになって考えてみました。
そこで自分の下顎をひっこめてみたところ、やはりおっぱいが飲みにくいだろうなと感じ、
ゆうきさんにお願いして、補助的に人工哺乳をしてもらうことになりました。

はじめ、人の赤ちゃん用の哺乳瓶であげてみましたが、上手に飲めず、注射器のシリンジを使いお口のわきからあげるとごくごく飲んでくれました。

今後、がんくんの成長の様子を見ながらえさや草が食べにくくないかひとつづつ確認して、
食べにくそうなときは、草を短く切るなど工夫していきたいと思います。

がんくんの名前の由来は、がんばって生まれてきたからのがんばるのがんくんです。

一緒にがんばって生きていこうね、がんくん!!

山羊の診療Diary症例36 膣脱

山羊の診療Diary症例36 膣脱

今回のお話は・・・

「分娩が始まっているみたいだけど、赤ちゃんではなくて子宮がでてきているみたいにみえる。
ずっと、いきんで苦しそうだから診てほしい」

という連絡がありました。

すぐに、お電話をいただいたヤギ舎に向かいました。

すると、1頭のヤギさんが苦しそうに座り込んでいました。

ヤギさんを立たせて出ているものをしっかり確認しました。

立たせて、横から見たところ

後ろからみたところ

陰部から出ているのは、子宮でなくて膣でした。
そして子宮外口部がはっきり見えますが、ここが開いていないのでまだ分娩もはじまっていませんでした。

これは「膣脱」です。

膣脱とは・・・

膣の一部、または全部が反転して陰部から出てしまった状態をいいます。
出てしまった膣はヤギさんが立つと元に戻ることもあります。
膣が戻らずに出っぱなしになってしまうと、膣が汚れてしまい細菌感染を起こしたり、
またおしっこの通り道を圧迫しておしっこを出せなくなり危険な状態になります。
自然に戻らない膣脱をほっとくと、むくんでしまい中に戻すのが難しくなるので、
見つけた時には、早めに獣医さんに相談してくださいね。

膣脱は、分娩前と分娩後、どちらにも起こります。
分娩前は、もうすぐ分娩という妊娠後期に子宮が大きくなりこの圧迫で膣が出てしまいます。
産後は、難産の後に無理な力がかかった場合に起こりやすくなります。

膣脱は、太りすぎたり、運動不足、高齢などで赤ちゃんの通り道の筋肉が
衰えてしまうことが要因になるので、
妊娠中も運動できる環境を作ってあげると予防になります。

膣脱の治療です。

はじめに、ぬるま湯で出ていた膣の部分を洗います。

そして、ローションをつけて少しづつ、膣を陰部の中に戻していきます。

戻したときに、大量のおしっこが出ました。
出ていた膣が尿道を圧迫しして、おしっこを出すことができなくなっていました。
おしっこができなくて、これはとても苦しかったと思います。

膣を正常な位置に戻せましたが、膣脱が一度、起こるとすぐにまた出やすい状態にあるので縫い縮める必要がありました。
はじめに神経ブロックで局所麻酔をしました。肛門の横の窪んでいるところから針を刺して、脊椎からでている神経を麻酔します。

そして、18Gの注射針を利用して、巾着縫合を行いました。

このまま、分娩の始まる日をまって、分娩がはじまったら糸を切ります。
最後に、感染の可能性を考えて抗生物質の注射を打ちました。

縫合が終わって、落ち着くと、このヤギさんはすぐに草をもりもり食べはじめました。

その姿を見て、ほっと一息。
おしっこが出なくて、出そうといきむとますます膣が飛び出すという状態で
だいぶ苦しかったと思います。

このまま、分娩の日まで膣が出ないように飼い主さんにはよく観察していただくことをお願いしました。

元気な赤ちゃんヤギさんが産まれますように!!

山羊の診療Diary症例35 中手骨の骨折②

山羊の診療Diary症例35 中手骨の骨折②

今回のお話は、前回の続きになります。

左前足の中手骨を骨折してしまったおおちゃん。
副木とテープで仮に固定をし、次の日にギブスで固定することになりました。

まずはじめに、昨日仮で固定した副木とテープを外しました。

確認すすると、やはり中手骨が折れて、ガタガタしています。

はじめに「オルテックス」というギブス用包帯を巻きます。
これは、ふわふわした綿のようなもので、
ポリエステルとレーヨンの混紡で、肌触り・吸湿性に優れていてクッションの役目をします。
また、手で簡単に切れるので使いやすく、色が青いのでギブスをとる際に目印になります。

足先まで巻いたら、次に「スコッチキャスト」を巻いてギブス固定をします。
これは水で硬化させるキャスティングテープです。
素材はガラス繊維にポリウレタン樹脂を含浸させたもので、水に浸すと固まります。
石膏ギブスのような固定ができます。

ベタベタと接着するので必ず手袋をつけて行います。
素手では触らないようにしてくださいね。
そして、袋から出すと、どんどん固まってきてしまうので時間との勝負。
しっかり巻いた後は、お水をつけるとさらに固くします。

無事にギブス固定ができました。
しっかり固まっているので、足をついて歩けるようでした。

そして、3週間後・・・

ギブスを外しました。

外して骨折部位を確認するとしっかりとくっついていました。

立たせてみると、足を少し上げていましたが、このままリハビリもかねて様子を見ることになりました。

その後、飼い主さんからご連絡があり、徐々に足も地面について元気にしているというお話でした。

さらに1か月後・・・

診療の途中でおおちゃんのおうちのそばを通りかかったので、

「おおちゃーん!」
と声をかけると・・・

こちらに元気に歩いてきてくれました。


おっ!足も地面につけるようになっているね!
良かった、良かった。
これで広い放牧場で元気に遊べるね。

山羊の診療Diary症例35  中手骨の骨折①

山羊の診療Diary症例35 中手骨の骨折①

今回のお話は、・・・

「前足を上にあげてびっこひいているので診療してほしい。」

というご連絡が来ました。

早速、ヤギさんたちがいる放牧場に行ってみると、

1頭だけゆっくり前肢をあげて最後にそばに来たヤギさんがいました。
近くに来てくれたおおちゃん。左の前足を上にあげています。

飼い主さんにお話を伺うと
女の子のヤギのおおちゃんは、今朝、放牧場のフェンスにに足が挟まっていたそうです。
すぐに、おおちゃんの足を外して助けてあげたそうですが、その時から左の足をあげて歩いているという事でした。
食欲はあり、声をかけるといつも通り来るという事でした。

この放牧場は、草原の中に、大きなガジュマルの木があり、琉球石灰岩で作った岩山もあります。
岩山はヤギさんたちの遊び場になっていて、
大きなガジュマルは木陰を作り、みんなの休憩所になっていました。
近くをよく診療で通りかかるので、いつもヤギさんたちが気持ちよさそうに暮らしているなと思ってみていました。

ヤギさんたちが岩山に昇っています。

おおちゃんを飼い主さんにおさえてもらって、左前足を触診してみると
触った瞬間「折れている!」ということがはっきりわかりました。

肢をよく見ても傷もななく骨も飛び出したりという事はありませんでした
場所は、中手骨で触ると折れた骨がこすれるざらざらする感触が伝わってきます。
開放性の骨折ではなかったので、ギブスで固定して治療することになりました。

しかし、この時、診療車にギブスなどが載ってなかったので、
今日は応急処置の固定をすることになりました。

はじめに足をまげて固定してみました。
これは、犬の前肢の骨折のときの包帯法「ベルポースリング法」という方法です。
牛の上腕骨折の治療で使用している例もあり、ヤギの治療でも有用なのではと考えたからです。
これなら、足を地面につくことがなく、骨折した部分に負重がかからずにすみます。

しかし、固定はうまくできたものの今回は中手骨の骨折だった為、関節を曲げたままにしておくよりも伸ばして固定したほうが良いのではと考え直し、全部外してやり直すことにしました。

足を伸ばして、段ボールで副木を作って布テープで固定しました。

この布テープは、ホームセンターで売っているものですが診療でよく使います。
水や汚れに強くて、しっかりくっつくのにはがすときはきれいに剥がれます。
(牛の臍ヘルニアのときおなかに巻いたり、関節炎の時にも足に巻いてりして使っています)

副木とテープで固定が終わると、足先を下について立っていました。
あまり今は、この足に負重をかけて欲しくないのですが、
治療が終わると、岩山のみんなのところに一生懸命登っていきました。

感染がおこらないように抗生物質のお注射を打って、明日ギブスを巻きなおすことになりました。

次回は、ギブスでの固定のお話です。

つづく。

はじめてヤギがお家にやってきた(ヤギの飼養相談)

今回のお話は・・・

まいぱり熱帯果樹園のヤギのペーターくんがお引越しすることになりました。

私たちは先春、まいぱり熱帯果樹園のヤギのはなこちゃんが3つ子を出産し、クララ・ハイジ・ペーターと名付けられ、ヤギ担当の方が一生懸命育てていたのを見てきました。健康チェック、駆虫なども済ませてお引越し前の準備は万全でした。

そしてお引越し先のご家族の方から、
初めてヤギと暮らすので相談したいという依頼が来ました。

お伺いしてみると・・・

まだ、お引越ししてから1週間、
すっかり子供たちと仲良しになっているペーターくんが待っていました。

到着するなり、子供たちがペーターくんのことをいっぱい教えてくれます。

一緒にお散歩してるんだよ。
走るととっても早いんだよ。
でも、好きな草があると歩いてくれないの。
あの木の葉っぱ全部食べちゃった。
ヤギには胃がいっぱいあるの?
トマトは食べたらだめですか?

と元気にお話してくれます。

はじめに、お話を聞いて、ひとつずつ質問に答えました。
そして、ペーターくんが元気でいられるように、
健康チェックを一緒にしました。

まずはお熱の測り方。
おしりから優しく体温計をいれてあげてね。

お母さまから
体温計は人間用ので大丈夫ですか?
というご質問があり、
「測るのは人間用ので大丈夫です。
ペーターくん用に一つあると良いと思います」とお答えしました。

次は心臓の音を聞いてみてもらいました。

ヤギさんがどんな風だったら具合が悪いのかのお話をしました。

この後、ペーターくんとお散歩しながら、

ペーターくんのおうちを見せてもらいました。

そこには・・・


立派な表札が!!
これは、まいぱりのヤギの担当の方がお別れの時にプレゼントしてくれたそうです。

そしてペーターくんのお家はこちら。

屋根が上から開くようになっていて、掃除や換気がしやすいつくりになっていました。

床が高床でないので雨の時のことを伺うと、
雨の日はガレージに行くという事でした。

この後、
ペーターくんが何を食べているのか伺いました。
ヤギ用飼料、オーツヘイ、野草というお話でした。
ごはんはバランスよくあげられていて、体格も問題ないとお話ししました。
アドバイスとして草を2種類以上あげていただくことにしました。
そして、お庭にある、草木の中でヤギさんの好きな草木を子供たちと一緒に探しました。

はじめてヤギと暮らすという事でしたが、こちらのお父様は先日、まいぱり熱帯果樹園で開催した勉強会にも参加されていました。
またお子さんたちも、すっかりヤギが大好きになり、勉強会の資料を読んだり、インターネットでいろいろ調べてくれたりしていたので、すでにヤギについてとっても詳しくなっています。ですから大きな問題もなく、改善点はありませんでした。

病院ではこのような、飼養相談の依頼も受けています。なぜなら、病気にならないことが一番だと思うからです。
そのためにまずヤギがどんな動物か知ることからです!

ご家族でお休みの日にペーターくんとお散歩するのが楽しみだそうです。
そして、女の子のヤギさんを迎えて、いずれは赤ちゃんに会いたいとお話されていました。

ペーターくん。ご家族様。元気に楽しく暮らしてくださいね!!

山羊の診療Diary症例34 熱中症&呼吸困難(鼻腔拡大手術)②

山羊の診療Diary症例34 熱中症&呼吸困難(鼻腔拡大手術)②

今回は前回のお話の続きです。

たつくんは前回の処置、「糸で鼻を持ち上げた状態」で過ごしていました。

5日後、飼い主さんにご連絡すると、
食欲も以前のように戻り、とても元気という事でした。
処置の前に、聞こえていた呼吸をするときのいびきのような音も聞こえなくなったそうです。
また、飼い主さんも早速、避暑用に日中木陰で過ごせるようにヤギ舎の外に、
たつくんの他、雄山羊さんたちが快適に過ごせる場所を作ったという事でした。

お話しから、たつくんの経過が良好なので、いよいよ仮止めの糸を外し、
手術に踏み切ることになりました。

まず、鎮静をかけて横になってもらいました。
前回の処置で糸で鼻の上の皮膚を持ち上げています。

このようにしっかりと鼻の穴が開いています。

この釣りあげている糸をはじめに抜糸しました。
そして、今日の処置をする部分に、痛みが少ないように部分麻酔をしました。

今日はこのように皮膚を三角に切開しそこを縫い縮めて鼻の上の皮膚を持ち上げる予定です。

皮膚を切開すると、出血が見られたので止血を行いながら皮膚の切開を行いました。

三角に切開できた後は、縫合します。

無事、縫合が終わり、鎮静を覚ましました。


鎮静が覚めたのを確認して今日はこれでおしまいです。

そして、10日後の抜糸の様子です。
傷はきれいに閉じていました。


鼻の穴の開き具合は、糸で釣っていた時のほうが大きく開いていましたが、
飼い主さんのお話では、今のところ呼吸ができているようだったので、ひとまず様子を見ることになりました。
もし、また息苦しい症状やいびきのような音が出る場合は、もう少し広げるための再手術が必要というお話をしました。

抜糸から10日後のたつくんです。

今回の症例の後、他のヤギ舎でボア種の雄山羊さんの顔をよく見ると、
顔の構造上、ザーネン種よりも鼻孔が狭いように思いました。
たつくんのように、いびきのような音がでて息苦しいくらい鼻孔が狭いときは、暑い時期に熱中症のリスクが上がります。
また、通常の時でも、運動時に呼吸が苦しくなり疲れやすかったり、交尾などが上手くできない可能性もあります。
今後、ボア種の雄山羊さんの様子をよく観察してみようと思っています。

なにはともあれ手術後、すっきりしたたつくんの顔をみてほっとしました。
雄山羊のリーダーとしてこれからもこのヤギ舎で活躍してくださいね!

山羊の診療Diary症例34 熱中症&呼吸困難(鼻腔拡大手術)①

山羊の診療Diary症例34 熱中症&呼吸困難(鼻腔拡大手術)①

今回のお話は・・・

「雄ヤギが餌を食べなくて元気がないから診療してほしい」
という連絡を飼い主さんからいただきました。

早速、伺ってみると、大きな雄ヤギのたつくんがヤギ舎の中に雌ヤギさんと一緒に居ました。

飼い主さんにお話を伺うと、
たつくんはここ最近、以前より食欲がなく、特にここ数日餌をたくさん残すようになった。
一緒にいる雌ヤギさんに餌をほとんど食べられてしまっている。」
というお話でした。

たつくんの様子を見ると、ヤギ舎の中で普通に歩いてはいますが、
時折、鼻からいびきのような音を鳴らしていて、少し呼吸が苦しそうに見えました。
そのことを飼い主さんに尋ねると、
「このこは小さいときから、鼻をこんな風に鳴らしていて、他の場所にいる兄弟もこんな感じだよ。ボアの系統が入っていて顔の形が違うからかな?」と教えてくれました。
確かに、ザーネン種より鼻のところがいわゆる鷲鼻(鼻筋が途中から隆起し、鼻筋が湾曲した鼻の形)のようになっています。
また、この日は数日間、夏の暑さが続いていました。
ヤギ舎の中も蒸し暑い状態でしたが、一緒にいる雌やぎさんや、隣のお部屋のヤギさんたち3頭は呼吸は荒くなく元気にごはんを食べていました。

まずはロープで縛って診療をはじめました。
この時、たつくんは大きな体で捕まえられるのは嫌だーとヤギ舎の中を
ぐるぐる逃げ回っていました。
100kgくらいある雄山羊さんをいつもより元気がないからといっても捕まえるのに一苦労。
ようやく縛って、診察をはじめると、呼吸が先ほどよりもだいぶ苦しそうになっていました。
熱を測ると41.0度まで上がっており、ひとまず熱中症の可能性があったので、
飼い主さんに濡れたタオルとお水、扇風機を用意してもらいました。
はじめに首周りを濡れたタオルで冷やしながら、静脈輸液のための留置をとろうとすると、
さらに暴れてしまい、呼吸の状態が悪化しそうなので、皮下補液に切り替え、
安全に保定をしながら診療を続けるのが困難と判断して、院長にも助けを求めました。

皮下補液をしながら、飼い主さんには扇風機を設置してもらい、
その間に、便の異常はないこと、おしっこは出ていること、
聴診で心音・肺音の確認、聴打診で腹部に異常がないことなどを確認しました。

冷やしすぎないように体温を測りながら、皮下補液を続けていました。
体は少しづつ冷えてきましたが、相変わらず呼吸の苦しさは改善されませんでした。

そこに、院長が到着して、たつくんの顔をみるなり
「鼻の穴がふさがっているよ」と。

よくよく正面からたつくんの顔を見ると、
息を鼻から吸うごとに、鼻の穴の上の皮膚がふたのように鼻をふさいでいる状態になっていました。

たつくんの顔は、鷲鼻の鼻の形でさらに最後の鼻の上の皮膚が垂れ下がっていて
普通にしてても、鼻の穴が線の細さで、他のヤギさんたちの様に鼻の穴が開いていませんでした。
逃げ回ってさらに苦しくなったことで、
吸うたびに鼻がピタッと穴をふたのように閉じるのが顕著になっていたのでした。

ここまでの症状やたつくんの診療で考えられることは、
もともと鼻腔が狭かったところに、暑さが重なり、呼吸で熱を下げることがほかのヤギさんより難しく、熱中症や食欲不振などの症状で元気がなかったことが考えられました。
その他の原因があるとしても、まずは呼吸の状態を改善することが必要でした。

横から押さえながら、診療するのに精いっぱいで
すぐに気が付かなくてごめんねとたつくんと思いながら、
急いでたつくんの鼻の上を上向きに豚さんのように押し上げました。

そのまましばらくすると呼吸がどんどん改善されていきました。
鼻の穴さえ開いてさえすれば、熱中症もおそらく食欲不振なども改善されそうでした。
しかし、私がずっと鼻を押しているわけにもいかないので、鼻の穴を拡張する手術が必要です。

しかし、今のたつくんは熱中症を併発しており、数日間の食欲不振もあり、
長い時間鎮静をかけるのは危険な状態と判断し、
短い時間の鎮静で応急処置で糸で鼻を持ち上げることになりました。

処置の様子はこちらです。

処置が終わり、鎮静が覚めたころには、体温も安全なところまで下がり、呼吸も楽になっていました。
良かったーとほっと一安心。

そして、むくっと立ち上がったたつくんは・・・

ごはんを食べに行くのかと思いきや
雌ヤギさんのおしりのにおいをかいで
フレーメン!!
それから草を食べ始めたのでした・・・。

えー。まずはそこなの!?たつくん・・・。
本能だからしょうがないのかもしれませんが、
助かったと思ったらまず女の子・・・

緊急事態で緊張した現場でしたが、
たつくんの行動に思わずみんなで笑ってしましました。

そして、
飼い主さんには、たつくんのヤギ舎を涼しい環境に整えていただくことと
呼吸の状態の観察をお願いしました。
食欲が改善されたら、鼻の整形手術をすることになりました。

数日後、飼い主さんから、
すっかり元気を取り戻し、鼻の音も消えて、
ごはんをもりもりたべて、雌ヤギさんをを追いかけまわしている・・・
というご連絡をいただきました。
たつくん良かったね。今までいろいろ苦しかったのかもしれません。
根本的な改善を目指して次に鼻腔拡大の手術に踏み切ることになりました。
たつくん、あともう1歩、一緒にがんばろう。

手術の様子は次回へつづきますー。