Category Archives: ヤギの診療記録と飼育方法

山羊の診療Diary症例33 難産(若齢出産&頭部先行)

山羊の診療Diary症例33 難産(若齢出産&頭部先行)

今回のお話は、

「山羊の診療note10 ヤギの島野草セット」でご紹介したゆりるちゃんの分娩のお話です。

ゆりるちゃんの妊娠がわかったのは、初診時の診察でした。

その時は下痢の治療で伺いました。

全身状態を診るのに妊娠鑑定をしたところ、妊娠がわかりました。

まさか妊娠しているとは飼い主さんも思っていなかったのです。

なぜならゆりるちゃんの月齢を聞くとまだ妊娠するにはずいぶん早かったのです。
しかし、譲っていただいたお家の方に確認してもらったところ、雄山羊さんとずっと一緒にいたという事でした。

ヤギさんがいつから赤ちゃんを作ることができるのか?
ということですが、

性成熟は5~6か月ごろと言われています。

しかし、実際は個体差もあり3か月ではじめての発情がくるヤギさんもいます。
その為、正書では3か月過ぎたら、雄と雌を別々に飼育することをお勧めしています。
実際、3か月過ぎの男の子と女の子の子ヤギさんを一緒に飼育していたら妊娠してしまったというお話を
別の飼い主さんから伺っています。その妊娠発覚以降そこでは3か月で必ず、雄雌を分けて飼育しているそうです。

元の飼い主さんに聞いたゆりるちゃんのお誕生日とお腹の赤ちゃんの大きさの様子が、
一致せず、いつ妊娠したかは正確にはわかりませんでした。

しかしまだ、成長過程で妊娠してしまったことには間違いがありませんでした。
お父さんだと思われるヤギさんも体が大きく、難産が予想されました。

どうして、若齢での妊娠が危険かというと、
まだ体が出来上がっていないので、骨盤の広さを赤ちゃんが通れない可能性があります。
お父さんヤギの体格が大きいときはなおさらです。

ゆりるちゃんは分娩前に下痢と食欲不振が続いていたため体力がかなり消耗していました。

出産に挑むにはギリギリの状態だったのです。

分娩予定日も不明だったため、治療に通いながら分娩を待ちました。

飼い主さんの懸命の看護もあり、ようやく食欲が戻ったのですが、すぐに陣痛がはじまることとなりました。

飼い主さんから、陣痛がはじまっているというご連絡があり、現場に向かいました。

治療経過と体格を考えると通常の自然分娩で生まれない可能性も十分あるので、帝王切開の準備をしてゆりるちゃんの元へと向かいました。

到着すると、
ゆりるちゃんの陰部からは子ヤギさんの鼻先が見えていました。
これは「頭部先行」という難産の胎位となります。
ヤギでは頭から出てきてしまうと、足が引っかかり出ることができません。

はじめに通常通り頭を押して引っ込めて、
両前足を確保しました。

その次に、頭を足の間におき、後頭部に手を添えてひいて赤ちゃんを出そうと考えました。普通ならこれで赤ちゃんを無事に産ませることができます。

以前ご紹介した、
「山羊の診療Diary症例2 難産 頭からでてきた場合」
に胎位を直して生まれる映像がありますのでご参考にしてください。
https://vet-present.com/goat/268/

しかし!
今回はこれではまだ赤ちゃんを出してあげることができませんでした。
なぜなら、ゆりるちゃんの骨盤腔はとても狭くて、両足と頭が同時には通らなかったのです。

とにかく、頭と前足を骨盤腔に通さなければいけません。

そこで、まず前あしそれぞれひもをかけて一旦引っ込めます。そして、頭を参道に入れ、後頭部にひもをかけます。実際は結び目は口の中にはいっています。

産道の狭い部分を、先に頭だけ通り抜けてもらいます。その後、首の隙間から前足のひもをひっぱり両足を出しました。

ここまでで、なんとか骨盤腔から出すことができたので、あとは外陰部を通れれば無事に誕生です。

ここからの様子はこちらの映像になります。

無事に生まれることができました!!

飼い主さんのご家族のみなさんや、ご近所のみなさんに見守られて、
赤ちゃんヤギさんが生まれた時は喜びの声が上がりました。

 

この動画中で起こっていることを解説すると、

骨盤腔は通っていたものの
頭が外陰部ギリギリ通るか通らないかだったので
外陰部を手で広げました。

生まれた後に、まだおなかに赤ちゃんがいないか確認しました。
今回はいませんでした。

また、呼吸が弱かったので、
水につけてシャワーの皮膚からの刺激で呼吸を誘発するとともに、
前足を開いたり閉じたりして、肺が広がるのを補助しました。

自分でしっかりと呼吸するのが確認できたので、赤ちゃんヤギさんはタオルにくるんで少し休憩した後、お母さんのゆりるちゃんのケアをして初乳を飲ませました。

今回の症例は、
まだ体が成長途中のお母さんヤギさんで骨盤腔が狭いためとても難しい症例になりました。
今回、とても幸運なことにお母さんヤギさんも子ヤギさんも無事でしたが、、
若齢での妊娠・分娩はとても危険で、ヤギさんの体に大きな負担をかけてしまいます。
また、お母さんも子ヤギさんも助からないという悲しい結果になることもあります。
獣医師として、診療やこのような難産介助も大切ですが、このようなことが未然に防げるように
ヤギさんの性成熟などの体のことをみなさんによく知ってもらったり、日頃のごはんや暮らし方などの飼養管理についてお話していくことの大切さを改めて感じました。

大変なお産になりましたが、
はじめてお家にきたヤギさんがすでに妊娠していて分娩という事態にも関わらず、飼い主さんやご家族のみなさんの懸命のサポートによって、
お母さんヤギのゆりるちゃんが、体調を壊しながらも最後まで分娩をよく頑張ってくれました。

そして、私もこの分娩に立ち会えて、生まれた子ヤギちゃんの生命力の強さに心が震えました。

後日、赤ちゃんヤギさんのお名前はリンクに決めましたとご連絡をいただきました。
「ヒトやモノや出来事を結びつけるもの、絆」という意味が英語ではありますよね。
誕生のときにすでにおおきな感動をみんなにくれたリンクくん。
リンクくんがこれからもいろいろな人や出来事を結びつけてくれますように。

ゆりるちゃんとりんくくんにはこちらで会うことができます!
宿のホームページはこちらです。

山羊の診療Diary症例32 難産(側位側胎向)

山羊の診療Diary症例32 難産(側位側胎向)

前回、ヤギの正常な分娩についてお話しました。
今回は、お産に介助が必要だった難産の症例をご紹介します。

飼い主さんより、
「朝から陣痛がはじまっているが、赤ちゃんが出てこない。とても苦しそうなので来てほしい」との連絡が夕方に来ました。

ご連絡いただいた農家さんのところに急いで向かいました。
到着すると、母ヤギさんが「うーうー」と苦しそうにうめいていました。
陰部からは何も出ていませんでした。

すぐに手袋をして、陰部を消毒し手を入れて、内診をおこない
赤ちゃんヤギさんの向きがどうなっているか確認しました。

通常なら、前足または後ろ足が触れます。

前足が2本触れた場合は次に頭が触れます。

いわゆる逆子で。後ろ足が触れる時もあります。
逆子であせる方がいらっしゃいますが、ヤギやウシの場合は、異常ではなく、前から生まれる時よりも頭が引っかからず、するりと順調に生まれることが多いのでびっくりしないでくださいね。

注意するのは、胴体の部分で引っかかってしまうと息ができずに亡くなってしまうので、そういう事がないようよく観察して、危険な時は引っ張って介助してあげる必要があります。

前足と後ろ足の区別の仕方は肢端から2番目の関節を触って確認します。
後肢のときは飛節が触れます。前肢の時は膝関節(人間の手首の関節にあたる)が触れます。
蹄の向きだけで判断すると診断を誤るので、必ずこの関節を確認するようにしてください。
下胎向の場合(上向きで万歳している状態)前足を後足と間違えてしまう事があります。

そして、今回はどうだったかというと・・・・

なんと足も頭も触れませんでした!!
いったいどうなってたかというと・・・

こんなふうに背中が産道にきてしまって、つまっている状態でした。
名前を付けるなら側位側胎向でしょうか。

お母さん山羊は、苦しそうにうめいていて早く出してあげたいのですが、
ここは落ち着いて、どうにか赤ちゃんヤギさんが出られる胎位にもどしてあげる必要があります。

初めに、赤ちゃんを押して奥に戻しました。
産道では、狭くて向きが直せないので、何とか赤ちゃんの向きを変えるスペースを探します。

奥の少し広いスペースに押したところで片足が触れました。
足をたどっていくと頭が確認できました。
なかなか、向きが直らなかったのですが頭をさらに押して、自分の片手で前足2本を確保し、
もう片方の手で、頭の上に手を添えて、
やっと引っ張り出すことができました。

生きてる!!

呼吸を確認して、まだ赤ちゃんがいないかすぐに確認しました。
するともうひとり子ヤギさんがいました。この子もそのまま介助して無事生まれました。

その時の映像はこちらです。

陣痛開始から長い時間がかかっていたことと、体の向きが異常だったので、心配しましたが無事生まれて、
私もほっとして飼い主さんと一緒に喜びました。

お母さんヤギもすぐに赤ちゃんヤギたちをぺろぺろ舐めてお世話をしてくれました。

分娩介助はとても緊張する仕事ですが、
元気に生まれた時は本当にうれしく幸せな気持ちになります。

今回の症例のように、前あしも後ろあしも触れない場合があります。
胎児の体位が正常かどうかは目で見ることができず、手の感覚での作業になるので少し難しいです。
しかしどんな時でも、お落ち着いて、ヤギの体の構造を頭の中で思い浮かべて、まずは体がどんな向きになっているのかを確認することが大切です。現状を把握したあと、解決に向けて、体位を正常に戻すことをひとつづつ試していきます。

院長先生によく言われているのは、
「同じことをずっとしない。一つだめだったら次の手を考えること」

私も焦ると「あれ?あれ?」と同じことを繰り返しそうになります。
今回もなかなか頭がまっすぐにならず正直とても焦りましたが、いろんな角度から押したり引いたり試行錯誤し、2頭とも無事に生まれました。

赤ちゃんヤギさんたちの元気な様子をみてほっとしたときに、分娩だけでなく病気の治療でもこれは大切なことだと心から感じました。

山羊の診療note12 ヤギのお産

山羊の診療note12 ヤギのお産

ヤギの難産の症例をこの後2つご紹介したいのですが、
その前にヤギの正常な出産について今日はお話したいと思います。

ヤギの分娩は難産になることが少なく、安産であることが多いといわれています。
実際、私の住む島のヤギの飼い主さんたちから、「自然に生まれていた」「難産は見たことない」という声をききます。
しかし、診療で難産の依頼を受けることはもちろんあります。
お産の異常に飼い主さんが気がついて対処すれば子ヤギさんを助けることができるので、
まずは、正常なお産を知っておきましょう!

*正常なお産の進み方

①陣痛開始
・ごはんを食べなくなる
・うろうろする
・地面をひっかく動作 など

②1次破水

③足胞(ふうせん)が出る
風船の中に足が2本みえます

④2次破水 重要 *ここから先お産がスムーズに進まないときはすぐに連絡!!

⑤足2本と鼻が出る

⑥頭が出る

⑦体が出る

子ヤギさん誕生!!

これが正常なお産の順番です。

陣痛から1次破水まで、牛や羊は2時間から6時間程度ですがヤギでは12時間かかることもあるそうです。
(家畜改良センター山羊の飼養管理マニュアルより)
私たちの病院では牛では陣痛開始から2時間しても1次破水しない場合は連絡いただくようにしていますが、
ヤギはこのように牛に比べて12時間と陣痛の時間が長いため、ここでの異常の発見は難しいです。
しかし、陣痛が始まって、半日経過しても生まれないときや異常に苦しんでる様子など見られた際は獣医師に連絡してください。

一番注意してほしいのは2次破水してそこからお産が進まないときです。
この時は待たずにすぐに獣医師に連絡するようにしてください。
赤ちゃんが出られない体の向きだったり、体のどこか(頭や腰)が引っかかって出られないことがあります。

また、ヤギさんは双子や三つ子のことが多くあります。
正常な分娩の場合、1頭目から次の赤ちゃんは1~2時間の間に生まれます。
1頭目が生まれた後、まだおなかに入っていないか確認しましょう。
飼い主さんが確認する方法として、妊娠鑑定の時にお話しした、
「おなかを持ち上げる方法」があります。乳房の付け根を上に持ち上げておなかの中にいる子ヤギさんを確認します。
詳しくはこちらの記事を参考にしてください。

そして、ヤギの分娩は日中(早朝から夕方)が多く、夜間は少ないと言われています。
分娩に立ち会うチャンスがあった場合は、このような異常がないか確認しつつ、
そっと見守ってあげてくださいね。

山羊の診療Diary症例31 皮下膿瘍 2例

山羊の診療Diary症例31 皮下膿瘍 2例

今回の症例は・・・
皮下にできた2つの膿瘍の症例をご紹介します。

①おしりにできた皮下膿瘍
初めの症例は、下痢の治療で往診治療を依頼された際に、
おしりのところにできものがあることに気がつきました。
おしりの左側のしっぽの斜め下にピンポン大の腫瘤がありました。

初めに針を刺す検査(バイオプシー検査)を行いました。
すると、針先に白いチーズ様のものが吸引できました。
この時点で、細菌感染の膿の可能性が大きくなった為、はじめの治療は、
1週間抗生物質の投与をして経過を見ることになりました。
病院に戻り、バイオプシー検査でとれた白いチーズ様のもので塗抹を作り
、染色して顕微鏡で確認しました。はっきりとした好中球の像は見られなかったものの、
異形の細胞なども見つかりませんでした。

1週間後の再診で、下痢はすでに治り、食欲・元気も元にもどったもののできものの大きさは
そのままだったので、切開して洗浄することになりました。

やはり、白いチーズ様の膿がたくさん排出されました。
ヨード剤にて洗浄しました。
その後、飼い主さんからきれいに治りましたと連絡いただきました。

②顔にできた膿瘍(乾酪性リンパ節炎疑い)

飼い主さんが右側の耳の下が腫れていることに気が付き往診に伺いました。

女の子のヤギのくにちゃんの診療をしてみると、
右側の耳の下にピンポン玉よりやや大きめのできものができていました。

食欲、元気もあり全身状態は良好でした。

顔、特に耳の下にこのような腫瘤ができる場合、耳下リンパ節に細菌が感染して膿の入った腫瘤ができる
乾酪性リンパ節炎が疑われます。

*乾酪性リンパ節炎とは・・・
膿瘍の原因がコリネバクテリウム属菌の場合、膿瘍から細菌が血流やリンパ系を介して
体内リンパ節や内部臓器に転移すると、乾酪性リンパ節炎を引き起こします。

症例20のヤギのけんとくんも同じ場所に膿瘍ができ、この病気が疑われました。
詳しくは・・・

山羊の診療Diary 症例20 顔にできた膿瘍

くにちゃんは、体の大きなヤギさんで穏やかですが、治療が安全にできるように軽い鎮静をはじめにかけました。
次にくにちゃんを横に寝かせてから、
腫瘤をイソジンで消毒し、針を刺す検査(バイオプシー検査)をして白い膿を確認しました。

そのまま、メスで腫瘤を切開し

膿の排出と洗浄を行い

最後にヨード剤で洗浄・消毒を行いました。

抗生物質のお注射と1週間の抗生物質の処方をして経過観察をしました。

10日後です。きれいに治りました。

ヤギさんの膿瘍は、固いカッテージチーズ様のものが多く、
なかなか自然には排出されずこぶのようになってしまう場合が多いので、
見つけた時には、獣医さんに相談して洗浄や消毒、お薬の処方の相談をしてくださいね。

山羊の診療Diary症例30 乳頭の皮膚にできた膿疱

山羊の診療Diary症例30 乳頭の皮膚にできた膿疱

今回の症例は・・・
「出産した母ヤギのおっぱいが腫れているように見える今朝から、子ヤギがおっぱいを飲もうとすると足で蹴って
嫌がっているみたい。」
というご連絡がありました。

産後で乳房が痛そうという事で、乳房炎や乳頭損傷の可能性を考えながら、早速診療に伺いました。

お母さん山羊の星ちゃんは22日前に出産したとのことです。
星ちゃんのそばには元気な男の子と女の子の双子の子ヤギちゃんがいました。

飼い主さんに詳しくお話を伺うと、
昨日から、食欲はあるけれどいつもより元気がなく座っていることが多いとのことでした。

お熱を測ると、微熱でした。全身状態は良好です。
食欲も、乾草を診察中ももりもり食べていました。

乳頭の診察をしてみると、左右の乳頭にぶつぶつができていました。


針を刺してみると、白い膿が排出されました。


乳房自体は腫脹や熱感などはありませんでした。

治療は、
抗生物質を1週間投与、
そして、乳頭の刺激を減らすため、母ヤギさんから子ヤギさんを離す時間を作ってもらい、その間は人工哺乳をしていただくことにしました。

乳頭にいくつもの膿疱ができるのはヤギそして牛でも経験がないため、
詳しい病態については不明なままでしたが、まずは膿疱の基本の治療からはじめて見ることにしました。
乳頭の子ヤギさんの哺乳などで小さな傷ができ化膿してできた膿疱なら抗生剤の投与で改善されるのではと考えています。
しかし、基礎疾患やほかの原因の場合は、哺乳が維持できるような違う治療も考えなければと思っています。
人では無菌性の膿疱もあるようです。
このような症例を経験されている方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてください。

また経過はご報告したいと思います。

おっぱい大作戦 ヤギ編

おっぱい大作戦(ヤギ編)

今回は、おっぱい大作戦のヤギ編です。

山羊の診療Diary症例29 子ヤギの下痢(コクシジウム症)でご紹介した、ヤギののどかちゃん。
生後1か月でお母さんヤギが亡くなってしまい、コクシジウムという寄生虫の下痢のため入院していました。
また、お母さんが亡くなってから、1週間、草しかあげていなかったという事で、栄養も足りず、
消化もうまくできていなかったので、人工哺乳をする必要がありました。

普段は、ヤギの人工哺乳をするのに人間用の哺乳瓶を使っています。
しかし、乳首が太いのと硬さが固いので、慣れるまでに時間がかかる子がいます。
そこで、おっぱい大作戦(ウシ編)で手作りした、乳首を再度作成し使用してみることにしました。

材料
・お掃除や炊事の時に使う手袋
・ペットボトル
・ペットボトルのふた
・ガムテープ

作り方
1.ペットボトルのふたの部分をくりぬく手袋の指の部分を切る
2.ふたにかぶせてガムテープなどで固定する
3.指の先端に穴をあけてミルクがちょうどよく出る量を調整する

早速、のどかちゃんに試してみました。

のどかちゃんのお口に手作り乳首をくわえさせて、初めは少し押してミルクを出しました。
何度かやっているうちに・・・
自分で吸うことができました!!
手作り乳首大成功。

その後、人間用とヤギ用の乳首でも哺乳しましたが、すぐに上手に使うことができました。
そして、人間の哺乳瓶よりも手作り乳首のほうが吸いやすそうでした。

人工哺乳をする態勢は、足の間に挟んで壁際で後ろに下がれないようにします。
お母さんのおっぱいを吸うときみたいに、頭の前を手で押さえてあげるのも飲みやすくなります。

一つ注意点があります。
手袋を使う場合は、しっかりふたにくっつけないと、勢いよく哺乳した際に、手袋の先が外れて飲み込んでしまう危険性があります。

実際、一度外れて慌てて口に手を突っ込んで飲み込むのを避けられましたが、かなり焦りました…。

もし飲み込んでしまったら取り出すには手術しかありません。哺乳どころではありません。十分注意してくださいね。

 

退院時に、オーナーさんに人工哺乳のやり方をお伝えし、これからしばらくがんばっていただくことになりました。

前回の牛編では、手作り乳首での哺乳は成功しませんでしたが、人間の哺乳瓶よりも飲みやすそうでヤギさんでは大成功でした。

下痢も治って無事退院したのどかちゃん。オーナーさんにミルクをもらってすくすく大きくなってね!

山羊の診療Diary症例29 子ヤギの下痢(コクシジウム症)

山羊の診療Diary症例29 子ヤギの下痢(コクシジウム症)

今回の症例は・・・
「生後1か月の子ヤギが下痢をしていて元気がない」という連絡が来ました。

子ヤギさんは、1カ月齢の女の子でのどかちゃん。
先週にお母さん山羊さんが突然死してしまい、その後、下痢をしているそうです。
お母さん山羊さんが生きているときは、おっぱいを吸っていたそうですが、亡くなってからは草を食べていて人工哺乳はしていなかったという事でした。

早速、のどかちゃんを診察すると、立ってはいましたが、足がふらつき、目が落ちくぼみ脱水していました。
おしりは下痢で汚れ、のどかちゃんのいた周りには、匂いの強いタール状の水様便がいくつも落ちていました。

草は食べていたという事ですが、おなかが膨らんでいるのに痩せている状態でした。
熱はなく、聴診では異常が見られませんでした。

脱水していて、診療中も何度かタール状の下痢をして元気がなかった為、山羊舎で点滴を行った後、入院することになりました。

まどかちゃんが初めにしていた便はこちらです。

タール状でお魚が腐ったような生臭いにおいの便でした。
糞便検査では、コクシジウムが検出されました。
生臭かったのは、便に血が混ざっていた可能性があります。

〜〜〜〜

*コクシジウム症とは・・・
コクシジウムという原虫が腸管に寄生して下痢を引き起こす病気です。
コクシジウムが増えるときに腸の粘膜上皮細胞に傷害を与えるので、下痢や血便などの症状を引き起こします。
大人のヤギさんでは感染しても症状が出ることは少ないですが、子ヤギさんが感染すると下痢とそれに伴い脱水が起こり亡くなってしまうこともあります。

治療は、抗コクシジウム剤を注射や飲み薬で投与します。

コクシジウム症の症状は、感染の量に比例するといわれていますので、コクシジウムがお口に入る量が多いほど、症状がより悪化します。

その為予防は、お掃除をしてヤギさんのお口に入るコクシジウムの数を減らすことです。コクシジウムは環境や薬剤に対して抵抗性が強いため完全に除去することは難しいですが、ヤギ舎のお掃除よって、コクシジウムの数を減らすことはできます。

〜〜〜〜

のどかちゃんにも、抗コクシジウム剤を注射と飲み薬で投与しました。

さらにのどかちゃんの場合、下痢の原因としてごはんの問題もありました。
まだ、おっぱいを飲む時期なのに、母ヤギさんが亡くなってしまって、1週間くらい飲めていない状態です。
草だけでは栄養が足りず、また消化も上手にできていないことが考えられました。

そこで、点滴の後少しお休みをはさんで人工哺乳をしました。
今まで、お母さんのおっぱいしか飲んでいなかったために、哺乳瓶で飲む練習が必要でした。
(このことについては、後日、「おっぱい大作戦ヤギ編」でお伝えしようと思っています)
練習の後、無事に哺乳瓶に慣れることができました。

ミルクの量の目安は、1か月齢では、体重の20%なので(家畜改良センター 飼養管理マニュアルより)
3kg弱ののどかちゃんは600ml必要です。
200mlを1日3回に分けて哺乳しました。

コクシジウムの治療と人工哺乳によって、便はこのように改善していきました。

2日目

3日目

おっぱいも上手に飲めるようになり、便もコロコロうんちに戻ったので無事退院することができました。
オーナーさんにあと1か月は人工哺乳をがんばっていただくことになります。

 

おっぱいを飲むのどかちゃんはとてもかわいくて、
元気になって退院して本当に良かったのですが、
帰った後の入院室をみてさみしい気持ちになったのでした。
診療の合間に顔を見に行こうと思っています。

のどかちゃん、お家のヤギさんたちと仲良く元気にね!

☆☆書籍のご案内☆☆

書籍「ヤギの診療」 
著 寺島杏奈
出版 日本橋出版
2022.7.31発刊

下痢についてだけでなく、ヤギの飼い方、消化の仕組み、診断の方法、他のよくある病気についても体系的に解説しています。

☆☆☆☆

山羊の診療note11 山羊の食餌と栄養

様々な野草と、手差し給与が有効です。
という記事を書きました。

そこで登場した島野草とお芋の茎の栄養成分をのせておきます。

*オオバギ
TDN 65.5
CP 16.4
NR 3.0
タンパクが多めです

*ガジュマル
TDN 56.0
CP 9.6
NR 4.8

タンパクと炭水化物のバランスがとれています

*バナナの葉っぱ
TDN 59.0
CP 15.7
NR 2.7

タンパクが多めです

*センネンボク
TDN 68.9
CP 8.6
NR 6.9

炭水化物が多めです

*センダングサ
TDN 57.7
CP 12.6
NR 3.4

タンパクが多めです

*サツマイモの茎と葉っぱ
TDN 64.0
CP 13.0
NR 3.9
タンパクが多めです。

 

*草の栄養で使われる略号

・CP=粗タンパク    (主にタンパク質の指標)
・TDN=可消化養分総量 (主に炭水化物の指標、CPと炭水化物が混ざっている)
・NR=栄養比 (TDN-CP)/CP

→ヤギでは4.5前後がバランスが良い

値が低いと・・・タンパクが多い

値が高いと・・・炭水化物が多い

栄養学は、英語の略語も多く、少し頭がこんがらがると思います。
まずはじめは、難しく考えず、草を2種類以上あげてみてください。

お家のヤギさんの好きな草を見つけてみましょう。

1種類の草だけで栄養バランスをとるのは難しいけれど、
配合飼料やいくつかの草を組み合わせると

ヤギさんのごはんのバランスが取れますよ。

院長追記>>

飼料設計のガイドになると思うので、ヤギの栄養について詳しい説明のあるページを載せておきます。

ノースカロライナ州立大学のページです。
https://content.ces.ncsu.edu/nutritional-feeding-management-of-meat-goats

ヤギは牛ほど効率よく細胞壁を分解できません。なぜなら食物がルーメンに滞在する時間が短いからです。加えて、消化管のサイズが要求量に対して小さいので、牛より高栄養の飼料を必要とします。牛と比べて体重当たり約2倍の栄養を必要とします。

ヤギは低木類の枝を避けて葉のみを選ぶことができるので、比較的高タンパクの部分のみ食べることができます。また味はあまり気にせず、タンニンを含むものも解毒して食べることができます。

ヤギの栄養要求量自体は他の反芻獣に比べても非常に高いものですが、ヤギはその中から高品質の部分を選びとることができるので、低品質の飼料が多い場合でもよく耐えることができます。

とのことでした。

山羊の診療note10 山羊の島野草セット

山羊の診療note10 ヤギの島野草セット

ここ最近、分娩前のゆりるちゃんがが下痢と食欲不振で治療を続けていました。

基本の治療を行ったもののなかなか改善されず、食欲が日に日に落ちてきて飼い主さんもとても心配されていました。

どうにかゆりるちゃんにごはんを食べてもらおうと、私たちの住む島に生えている野草でヤギさんが好きなものを集めて診療の時に持っていきました。

ヤギの島野草セットです。

今回用意した島野草は

がじゅまる

バナナの葉っぱ

センダングサ

センネンボク

オオバギ

ハイビスカス

食欲がない動物にごはんを食べてもらいたいときは、与え方に小さなコツがあります。

食べやすいように小さく切ってあげて、手でお口の前までそっと差し出してあげると、
ただ目の前のお皿に置いておくだけより食べてくれることがあります。

手の平に乗せる、手でお口の前に持って行ってあげる・・・
手であげるのがポイントです。

この手であげるごはんの上げ方は、犬と猫の病院で働いているときに先輩の女性の獣医さんから教えていただきました。
そして、特に飼い主さんにお願いすると動物も安心して食べるようです。
(犬や猫のごはんの場合はさらに温めて匂いをたててあげると良いです)

ある時、入院したヤギさんに思い出してやってみたら、特にガジュマルの新芽の小さい葉っぱを手であげると1枚づつ食べていました。。
やはり元気がないときは大きい葉っぱは食べにくいようでした。
またある時は、1枚食べ始めるとそこから食欲が出てくるヤギさんもいました。

この経験から犬猫だけでなくヤギさんにも効果がありそうなので、食欲のない場合、診療中に私がやってみて飼い主さんにお願いしています。

ヤギさんによってそれぞれ好みの葉っぱが違ったり、昨日までは好きだったのにの急に違うものが食べたいヤギさんもいるので、食欲がないときには何種類かの草を試してみると良いと思います。

今回もゆりるちゃんに一つずつお口の前に持っていってあげてみました。

どの葉っぱが好きかな?

人気の小さなガジュマルの葉っぱはどうですか?

「食べたくない」

センダングサのお花はどうですか?葉っぱもおいしいけど
病気の時はお花ばっかり食べる子がいましたよ。

「食べたくない」

せんねんぼくはどうですか?
しゃきしゃきのはごたえですよー。

「はじめて食べるからちょっとだけ。
でもそんなにいらない。

少しだけたべてみる。

ハイビスカスは全然食べたくない。」

では、最後にオオバギは?

葉っぱが大きいから小さくすると、少しずつ食べはじめました。
なぜか、葉っぱよりも茎が好きな様子。

点滴の治療が終わると、少し気分がよくなったようで、茎と今度は乾草を少し食べてくれました。

わたしが帰った後、近所の方がお芋のつると葉っぱをもってきてくれて、
ゆりるちゃんは少し食べはじめたとのうれしい知らせが届きました。

基本の下痢の治療、輸血・輸液の治療の効果、そして好きな草もみつかり食欲が戻って本当に良かった。

ゆりるちゃんは今回、茎を好んで食べてくれました。

この後、ゆりるちゃんは出産に挑むことになりますが、このお話はまた改めて。次回はヤギの栄養の話をします。

〉〉ゆりるちゃんは島の民宿のヤギさんです。

あがりの宿さんさーら公式ホームページ

 

山羊の診療Diary症例28 難産 (頭位屈曲位)

山羊の診療Diary28 難産 (頭位屈曲位)

今回の症例は…
ゆうきさんから、山羊のメリーちゃんが
「はじめの子山羊が生まれた後、風船のようなものが出てから2時間経っても状態が変わらず
2頭目がいるかもしれないがでてこない」という連絡が来ました。
第1子目は順調に生まれたとのことです。
すぐに、牧場に向かいました。
到着後、まずメリーちゃんの様子を確認しました。


はじめに、乳房の付け根を持ち上げて、子山羊がもう1頭お腹にいるか確認しました。
お腹に子山羊が入っていることが確認出来ました。
(詳しくは妊娠鑑定を参照にしてください)
引き続き、陰部の汚れをお水で洗い流し、直腸検査用の手袋をはめて陰部から内診を行いました。手を入れてはじめに子山羊さんの「あし」が触れました。この時にこの「あし」が前肢なのか後肢なのかを確認します。確認の仕方は関節を触って確認します。
後肢のときは飛節が触れます。

注意
蹄の向きだけで判断すると診断を誤るので、必ず関節を確認するようにしてください。

下胎向の場合(上向きで万歳している状態)前足を後足と間違えてしまう事があります。

メリーちゃんの場合、触診で前肢であることが確認出来ました。しかし、頭が、頚が曲がって横向きになっていることがわかりました。この体位を「頭位屈曲位」といいます。

頭位屈曲位とは・・・
頚が曲がって横を向いて、前肢だけが出てきている状態をいいます。
通常だと、子山羊さんは前肢と前肢の間に頭が挟まれて、前肢と連動して頭も出てきます。
しかし、前肢だけでてきてしまい頭が横向きになっていると、頭が引っかかって生まれることができない状態になります。
そのため、頭を前肢の間に戻す必要があります。

内診で、頭位屈曲位であることがわかったので、子山羊さんの頭の位置を戻すために分娩介助の準備をしました。
消毒液に頭や肢を引っ張るロープを浸しました。牛ですと産科チェーンを使いますが、山羊では洗濯用のロープを使用しています。

そして、準備が出来たので、分娩介助をはじめました。
前肢2本はすでに陰部から出ていますが、このままでは一番狭いところに。横に曲がった頭があるため頭の向きを直すことが出来ません。
一度、前肢と頭を奥へ戻す必要があります。
奥のスペースのあるところに、肢と頭を押し戻したら、そこで頭の位置を直します。
頭を前肢と前肢の間にのせます。ここまできたら、頭の上に手を添えながら両前肢をお母さん山羊のいきみに合わせてゆっくりひきます。(産道が狭くて頭の上に手を添えられないときは、頭の位置を整復できた時点で頭の後ろから口にロープをかけます)

この症例では、子山羊さんの頭がなかなか前肢の間に戻せず苦労しました。
なんとか、位置を正常に戻せ、両前肢を頭の上に手を添えながらひいて、
無事に生まれました。

1頭目の子山羊さんは男の子で2頭目の子山羊さんは女の子でした。
お母さん山羊さんが疲れていてので、初乳を絞って、元気な男の子にはほ乳瓶で、
後から生まれた女の子ははじめに人工呼吸をおこない、吸う力が弱く飲まなかったので経鼻チューブで初乳をあげました。


また、頚が生まれた後も、曲がっていてうまく立てなかったので、ゆうきさんが
頚にサポーターを巻いたところ次の日には自分で経って、おっぱいも飲めていたとのことでした。

難産は、時間との勝負でとても緊張する診療です。
山羊は安産が多いといわれていますが、このように難産のケースがあります。
お産が通常どうり進まない場合はすぐに獣医さんに連絡してくださいね。
(あらためて正常なお産について記事にしたいと思います)
無事に生まれた2頭の子山羊ちゃんをみて、
ほっとするとともにとても幸せな気持ちになりました。
ふたりとも元気におおきくなってね!!