山羊の診療Diary 症例7「出産後20日の下痢」

*山羊の診療Diary 症例7 「出産後20日の下痢」

お母さん山羊のあめちゃんが朝、下痢をしているのに気がつきました。

ヤギの固まった下痢
山羊さんの便はコロコロ丸いのが健康なので、このように粒がなくなり固まっているのは
下痢をしていることになります。

さっそく、あめちゃんの診察スタート。
はじめに、ごはんをあげて様子を見てみました。草を口にはするものの食欲は前日より落ちていて、元気もいつもよりありません。
次に聴診をしてお熱を測ってみました。聴診で心臓や肺の音には問題はなく、熱は40.5℃と高めでした。腹部の触診と聴診ではガスがたまっている様子も見られません。おしっこは確認できました。

 

ヤギが下痢を起こす主な原因

ではいったいあめちゃんの下痢の原因はなんでしょうか?
通常、下痢を起こす原因として以下の原因が考えられます。

食餌性 中毒や過食、変質飼料など
感染性 ウィルス・細菌・寄生虫など
環境性 寒さやストレス(神経性)など

今回、問診から食餌性の下痢の可能性は低いと思われました。

次に感染性の下痢について考えてみます。
ウイルスや細菌感染は子山羊さんも大人の山羊さんも可能性があります。一方、コクシジウムなどの寄生虫は通常大人の山羊さんでは寄生していても問題にならないことがほとんどです。しかし免疫が低下したような時は注意が必要です。あめちゃんは産後でいつもより体に負担がかかり免疫力が落ちている状態です。そのため、寄生虫の下痢も可能性も考えられました。

最後の環境性ですが、何日か雨が降り続いている毎日だったのであめちゃんにとってストレスがかかっていたことも考えられました。

 

産後間もない時期は、免疫力が落ち感染しやすい状態。産後特有の病気も

そして今回の症例では「産後間もない」ということは非常に大切なキーワードになります。
先ほどもお話ししましたが、免疫力が下がっている状態なので感染がいつもより簡単に起こる状態です。また、産後特有の病気がいくつかあります。代表的なものに以下の病気があります。

①産褥熱
分娩時に産道の傷から細菌感染が起こりお熱が出ます。出産後、1~7日の間に起こることが多く、
発熱すると食欲がなくなったりおっぱいの出る量が減ります。免疫が下がるのでいろいろな病気にかかりやすい状態になります。

②ケトーシス
いろいろな原因がありますが(妊娠末期に栄養が追い付かない・ホルモンの失調・肝臓の機能の低下など)からだの中にケトン体というものがたまってしまう一種の中毒でです。ケトーシスになると食欲を落としてしまいますので様々な病気を誘引することになります。

③栄養不足
おっぱいを出すためにいつもより栄養が必要ですが、栄養が足りない場合も免疫を落として感染に弱い状態になります。

 

症状はひとつでも、原因は様々で動物の状態もさまざま。(院長追記)

※院長追記〈〈〈〈
今回の症状は「下痢」です。
上記のように、症状はひとつでも、原因は様々で動物の状態も様々なんです。ですから、

①あらゆる原因の中から可能性の高いものを推定し、それらに対する対策を取ります。あくまで推定なので、いろいろな可能性をカバーできるように考えます。どうしても原因を区別しないといけない場合は検査をします。

②動物の状態を観察して、体を元気にする対策を取ります。大雑把に言うと体の弱り具合をみるんです。緊急性が高いほど、この治療が大切になってきます。
〉〉〉〉

 

今回の山羊の下痢ケースでの治療内容

以上のことをふまえて・・・あめちゃんの治療を行いました。

・ごはんの改善(あめちゃんが好きなもの・食べられるものを探して食欲を増進させる・栄養不足を解消する)
※体を元気にする治療、ケトーシスの予防

・整腸剤をごはんと一緒にあげる。
※食餌性下痢の治療

・抗生物質・駆虫剤の投与
※細菌性と寄生虫性下痢の治療、産褥熱の治療

・脱水、食欲のないときは輸液を検討
※体を元気にする治療

・床の掃除
※環境性下痢の治療

幸いなことにあめちゃんは2日後には熱も下がり、食欲、元気もいつも通りになりました。
便も形になってきたので経過を見ることになりました。

このように大人の山羊さんの下痢でも、産後はいつもと体の状態が違うので、考えられる病気が増えてきます。

ただの下痢と思わずに出産後の経過も考慮して見てあげることが大切だと感じました。

山羊の症例Diary 症例6「顔面浮腫」(ふしゅ・むくみ)

山羊の症例Diary 症例6「顔面浮腫」(ふしゅ・むくみ)

朝、山羊小屋でごはんをあげている時、はなちゃんの顔がいつもと違うように感じました。
顔に触ってみると、顔が腫れてほっぺたがつかめる状態になっています。

ヤギの顔面浮腫、むくみ

 

そして、食いしんぼうのはなちゃんなのにごはんも食べません。
しかも足下には吐いたようなものが落ちていました。

ヤギが吐いたもの

はなちゃんが吐くのはよくあることなのでしょうか?

 

ヤギやウシなどの反芻動物は、人間のように吐いたりしない

実は山羊さんや牛さんなどの反芻動物はわたしたち人間や犬や猫ののようには吐きません。
それは、消化のしくみが大きく違うからです。
ごはんとして食べた草は口でもぐもぐ噛んだ後、胃に送られて、再び口の中に戻してもぐもぐ噛みなおすというのを繰り返して消化していきます。
わたしたち人の感覚でいうと吐いたのを飲み込む!!を繰り返しているような状態です。
そう考えると気持ち悪いですが・・・。

まれに口の中の痛みや胃に寄生虫が寄生したときまた胃腸炎の後に未消化のものを口から吐き戻して外に出すことがあります。

 

反芻動物が「外に吐く」という症状は、ほとんどの場合「飲み込めない」という意味。原因の一位は、食道梗塞(院長追記)

※院長追記〈〈〈〈
アン先生の言うように、反芻動物は基本的に吐いたり飲んだりしています。
犬やヒトなんかの単胃動物は、胃腸に不快感があると嘔吐しますが、反芻動物は日常的に吐いてるんです。

だから反芻動物が「外に吐く」という症状は、
ほとんどの場合「飲み込めない」という意味になります。
飲み込めない原因の一位は、食道梗塞です。
草の塊や、胡瓜、大根みたいのを丸呑みしてしまって詰まることを言います。

「よだれが出る」という症状もこれに似ています。
よだれも、常に分泌されています。
でもいつもは飲み込んでいるから、外には流れ出てこないんです。
よだれが外に流れ出てくる場合、

  • 口の中に傷がありうまく舌が使えない。
  • 痛くて口を動かしたくない。
  • 舌に紐みたいのが絡まっている。
  • 口の麻痺を起こす病気。
  • 歯が痛い。
    などが考えられます。
    〉〉〉〉

 

ロープが絡まり、「顔面浮腫」(ふしゅ・むくみ)に

というわけで、はなちゃんの吐いたようなものを見たとき、お口の中に何か問題があるのかな?と頭に浮かびました。でもなぜ顔が腫れているのか?

そこではなちゃんをよく観察してみると・・・

なんとロープがからまって首が絞まっている状態になっていました。

ヤギのロープ事故

どうして首がしまってはなちゃんの顔が腫れてしまったのでしょう?

首には、全身を流れて心臓に帰ってくる「頸静脈」というホースの太さくらいある大きな血管と、心臓から全身に血液を送る出す「頸動脈」という血管があります。
顔が腫れていたのは首にある大きな「頸静脈」という血管が圧迫されて顔に血管から漏れ出した水分がたまり、むくんでいたからでした。むくんでいる部分はロープで圧迫されているところから上の首のところから顔全体に及んでいました。

急いでロープを解いてあげると何事もなかったようにごはんを食べはじめました。
それでも顔のむくみはすぐには戻りませんでしたが、その日の夕方には回復しました。

 

ロープが山羊の首や体に巻き付いて起こる事故は多い。ロープ事故の予防策

はなちゃんはロープで直接首のところを縛っていたので、今回のようなことが起きてしまいました。実はロープが山羊さんの首や体に巻き付いて起こる事故も多いです。

事故を防ぐためにできることは、
①杭や首輪を結ぶところにはヨリ戻しのついたナス環を付ける
②ロープで直接首を縛らず犬の首輪をつけてあげる
などがあります。
さっそくはなちゃんも首輪とロープを取り替えました。

ひとつの症状にとらわれず、「全体をみること」「先入観をもたないこと」の大切さ

わたしは今回の症例で
「全体をみること」と「先入観をもたないこと」の大切さを学びました。
ひとつの症状にとらわれないで体全体、環境や群れの様子・・・など俯瞰すること。(広い視野で物事を見ること)
また、ひとつの症状や状態から先入観をもって決めつけないこと。
この二つを忘れてしまうと、意外と簡単なこと、でも重大なことを見逃してしまうことに気が付かせてくれた症例になりました。

ここちよさ

回復中の子山羊さんの様子も見たいし、
仕事もしたくて、作ってもらった牛舎の中の私のデスク

風通しの良い牛舎はとても快適
ここの牛さんたちが元気なのがよくわかる

ひともどうぶつも心地よい環境は
とても大切
心地よさを無視したらきっと健やかに生きられない

わたしも
子山羊さんに
干し草のふかふかベットを作ってあげた
ここでゆっくり休んでね

それなのに
めーめー足下に来て大きな声で鳴いている

あれ?
もしかして、
くっつきたいの?
あなたがきたいのなら
おひざにどうぞ

ふかふかのベットより
あなたにとったら
ここがここちよいのかな

そのひとの
そのこの
それぞれの心地よさ

わたしも少しひとやすみ

目の前に
風に揺られるサトウキビ
雲が流れる青い空
やわらかい萌黄色の草原
そして
すやすや眠るあなたのあたたかさ

事始めのエール。獣医師キャリアの選びかた

新しい仕事・獣医キャリアの選びかた

新しい事を始めるとき、特に仕事についてですけど、

やりたい事をやるんだ!
自分のやりたい事って何?
って悩みますよね。

安定だから公務員がいいとか。
動物が好きだから獣医がいいとか。
几帳面だから事務系がいいとか。

それはそれで大切な事なんですけどね。

「やりたい事」って切り口で探すのは、多分かなり難しいです。
「事」って、そもそもやりたいなんて思わないから。
僕だって「注射する事」が大好きなわけじゃないです。

誰でも本当に求めているのは、
「どう感じるか」なんです。
「やりたい事」が先にあるんじゃなくて、
「嬉しくなる事」をやりたくなるんですよ。

嬉しい、悲しい、腹が立つ。
そういうものしか、自分を元気付けないし、
やる前から好きか嫌いかなんて誰にもわからないんです。

何かをやってくうちに、自分が嬉しかった事、楽しいと感じた事、嫌だなと感じた事。
そういう事に出会うんです。
やらないと出会えないんです。
ただ頭で考えてても、感じることができません。

だから実際、職種なんてどうでもいい。
とりあえずやってみればいい。

そこで出会ったらチャンスです。
自分が何に喜ぶんだろう。何に悲しむんだろう。
何に怒るんだろう。それに気がつく機会です。

 

目の前の仕事に取り組むなかで、自分の獣医としての価値観を見つけていく

若いひとたちは、そういう事を感じるために、とりあえず目の前のことに取り組むといいと思います。

迷ってる時間は、ちょっと厳しく言えば、
ほぼ無駄なんです。

嫌な事があってもいいじゃないですか。
「あ、それ、嫌だったんだ」と気付けるんだから。
それが仕事や友達を変えるとか、嫌な事が起こらないために何をするかとか、考えるきっかけになるんだから。
そしてまた次の行動が、新しい経験をくれます。

それを繰り返していくうちに、自分が何に喜ぶのか、見つけていけばいいんですよ。

僕は、僕たちの会社の仕事を揃えます。
事業を行う気持ちを規定します。
社員の仕事中はそれに従ってやってもらいます。それは仕方ない事なんです。

本当はみんな、人それぞれ。
大切にしている事が違うのは分かってます。

価値観を押し付けられる事は当然、社員にとっては痛い時も苦しい時もあるんです。
でもそこで気づいてください。
自分はなんでこれが痛いのかなと。
自分はこれ、好きじゃないんだなと。

そうしているうちに、
92歳のロープワーク – 仕事のやりがいになりうるのは「やってみたら嬉しかった事」 に書いた僕みたいに、
びっくりするくらい嬉しい時もあります。

そんな時わかります。
自分はこういうのが嬉しいんだって。

仕事中、嬉しいことが、辛い事より多かったら、その仕事を続けてください。
そうでないなら、やりながら何が辛いのか、何が嬉しいのかよく自分を見つめてから、行動するといいと思います。

その仕事が辛すぎるなら、きっといい仕事はできないでしょう。
楽しんで働ける職場じゃないと、職員は輝きません。

もし僕たちと一緒に働いて楽しかったら、それはとても幸せです。
でも、どうしても辛かったら、それにちゃんと気づいて、本当に輝ける職場に移れるといいなと思います。

仕事は人生において重要な場合もありますが、重要とするかどうかは自分で決めること。

辞めたところで大した事はありません。

大切なのは、自分がどう感じるかです。

92歳のロープワーク – 仕事のやりがいになりうるのは「やってみたら嬉しかった事」

ロープの結び方を、ニュースレターとして発行していたときの出来事

僕ね、毎月ニュースレターのようなものを顧客向けに発行してるんです。

今回は、ロープの結び方。

獣医学と直接関係ないし、実を言うとちょっと手を抜いたくらいの内容です。

 

92歳のおばあちゃんが、新しいことに挑戦してくれた

で、今日行った農家さんで、

「ちょっと見て。これ教えてもらったから結んでみたの。これで合ってる?」と。

牛がもやい結びで繋いであるんです。

「え!本当に?あってる。ちゃんと出来てますよ!」

「これね、今まで知らなかったんだけど、夜ロープを部屋に持って来て練習したのよ。」

「すごい!あれ、たいらさん、失礼ですがおいくつでしたっけ?」

僕ね、その情報紙出す時、いつもそこまで期待してないんです。まぁ何かの役に立てばいいかなって。

今回はあまりに驚いて立ち尽くしました。
だって92歳のおばあちゃん。
普通は会話もままならない。

いつもなら、
「何したらいい?うん。じゃーそれやっとくね〜」で終わりです。

説明や提案なんて、最初から求められてないし、こっちの話なんかほぼ聞いてないので、だいたい言われたとおりやる。
そういうものだと思ってました。

誰でも新しい事に挑戦するのは力が要るんです。それが、ただ紙一枚郵送しただけで、その内容を読み、自分でやってみて出来るようになる方がいる。
それがまさか。僕の偏見ももちろんありますが、こんなに年配の方が。

ほんとに嬉しかったです。
涙が出そうでした。

 

仕事において大切なのは「やりたい事」じゃなくて、「やってみたら嬉しかった事」なのかもしれない

「誰かが何かを出来るようになる。」という事は、自分にとって本当に嬉しい事だったんだなと分かりました。

仕事において大切なのは「やりたい事」じゃなくて、「やってみたら嬉しかった事」なのかもしれません。

一人でも二人、二人でも一人で・・・

「一人でも二人、二人でも一人で生きるつもり」

河合隼雄さんの「こころの処方箋」の中の言葉。

「一人でも二人」
一人で生きていくためには、心の中にパートナーをもって
生きていくということ。一人でも一人じゃない。

「二人でも一人で」
誰かと二人で生きているときこそ、
一人でも生きていける強さをを前提としてふたりで生きること。
一人でも生きていける人が二人で生きたとき、喜びや楽しみが
生まれる。

ずっと心の中にしまっておいたこの言葉。
仕事の合間に思い出す。
人間関係についてだけでなく仕事においても大切なのかな。

一人で症例を目の前にして心乱れそうになっても、
落ち着いて、心の中で話をしよう。
今までの知識や経験、先生の言葉が声となって私を助けてくれるだろう。

もし、誰かと一緒に仕事をするときは、
まだ自分の力が未熟で及ばなくても
頼りきりでなく、一人で立つ気持ちは持っていたい。

そして…

私の人生でほんとうにこの言葉を心に持てたなら
胸にあるさみしさは淡い雪のように溶けていくのだろうか

誰かと一緒に抱え込みでない自由の中で、喜びを分かち合えるのだろうか

山羊の人工授精チャレンジ しろちゃん自然周期人工授精①

山羊の人工授精チャレンジ しろちゃん自然周期人工授精①

しろちゃんのオーナーさんから人工授精の依頼がありました。

人工授精予定のヤギ
しろちゃんは発情行動が分かりやすいため、自然周期での人工授精からはじめてみることになりました。

前回の発情時、人工授精を一度試みました。
この時、外子宮口が人工授精時にゆるんでいるのが確認できました。
今回、もし発情がこなければ妊娠の可能性が高くなります。
(ノンリターン法による妊娠鑑定)
また、発情が来た場合は残念ながら妊娠はしていませんが、
発情行動と外子宮口の様子を経過を追って人工授精を実施してみることにしました。

妊娠鑑定の方法詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
山羊の人工授精チャレンジ 妊娠鑑定方法

 

発情行動と外子宮口の様子を経過を追って人工授精を実施

day20(前回発情から20日目)
18:00
発情行動 なし
外子宮口 開いていない
粘液 透明の粘液があるが膣鏡を入れるときのジェルなのか判別できず

外子宮口

day21
18:00
発情行動 オーナーさんから朝からよく鳴いているというお話あり。
人が近づくとしっぽを振って寄ってくる。
(前日までは見られなかった)
外子宮口 開いていない
粘液   確認できず

外子宮口

day22
7:00
発情行動 人が近づくとしっぽを振って寄ってくる
外子宮口 開いていない
粘液   確認できず

外子宮口

19:00
発情行動 朝より弱くなっている
(寄ってこない、しっぽを振らない)
外子宮口 色が赤みがなくなってきた

人工授精を1回実施

人工授精を実施

わたしはday22の朝、判断迷ってしまいました。
発情行動はしっかりでているものの、前回の発情のように外子宮口が開いていない。
発情行動を信じてすぐに人工授精するべき?それとも外子宮口の方を信じる?

ここで院長先生からのアドバイス

生体内で何がおこると発情兆候が出るのか?
→エストロゲンが増加する。
ということは卵胞が育っているということがわかる。
発情行動があるけど充血がないということは、
普通自律神経その他の反応が総合的に起こるけど、
各器官で反応性に差異が出る場合があるということ。
発情兆候はエストロゲンの量に依存する場合と、
受容体の量や反応性に依存する場合がある。

以上のことと人工授精の適期を考えると(これについてはまたあらためて)
発情行動をみて時期を決めて良かったことがわかりました。
今回の場合、day21の夕方とday22の朝に人工授精を行うのが適期だったと思われます。

 

*まとめと反省*

・発情行動及び発情周期の情報により前回の人工授精では妊娠はしていないと思われる。
・しろちゃんは発情行動が明確でわかりやすい。しかし、外子宮口の開き方と発情行動は
からだとホルモンのバランスにより連動するときとしないときがある。
・発情行動が出ているときは卵胞が育っているので迷わず人工授精を実施する。

 

*今後の予定*

・超音波での妊娠鑑定をday40で行い、ノンリターン法での妊娠鑑定を確定する。
・妊娠していない場合、次回の人工授精にて、再度、自然周期での人工授精を今度は
2回実施して挑戦してみる。

続き: 山羊の人工授精チャレンジ しろちゃん自然周期人工授精②

山羊の人工授精チャレンジ「保定台を作ろう!」

山羊の人工授精をはじめる前に必要なもの「保定台」

山羊の人工授精をはじめる前に必要なものがありました。
それは人工授精をするときの保定台です。
家畜改良センター茨城牧場長野支場に実習に行った際にはこのような三角の保定台を使用して人工授精を行っていました。

(家畜改良センター茨城牧場長野支場にて撮影)

山羊保定台セッティング山羊人工授精のために抑える

とても使いやすかったのですが、この保定台は山羊をおさえておく人が3人必要でした。
実際、現場で使うとき、山羊のオーナーさんとわたしまたは授精師さんしかいない場合を想定すると保定台の改良が必要だと思いました。

 

手作りで改良!スタンチョン付きの山羊授乳ストール&人工授精保定台

そこで、DIYが得意なゆうきさんに相談して保定台を作ることになりました。
せっかくなので育児放棄気味の山羊のお母さんの哺乳ストールとしても使えるようゆうきさんが考案してくれました。廃材を使って見事スタンチョン付きのヤギ授乳ストール&人工授精保定台完成!!

スタンチョン付きの山羊授乳ストール&人工授精保定台
山羊人工授精の保定台とし使用時

ヤギ人工授精のため保定台使用時

山羊哺乳ストールとして使用時

ヤギ哺乳ストール使用時

これで準備万端!

山羊の保定台については、こちらの研修レポートにも書いています。

研修レポート6「手作り山羊の保定台対決」

ぜひ読んでみてくださいね。

 

次回は人工授精にいよいよチャレンジです。

山羊の診療Diary 症例5 乳房炎疑い

「一週間前に出産した山羊のサミちゃんのおっぱいが腫れて痛そうにしている」
という連絡をオーナーさんから受け診察に行きました。

サミちゃんは1週間前に子山羊を1頭出産しました。
オーナーさんにお話を伺うと食欲と元気は変わらずあるとのこと。
生まれた子山羊さんはお母さんの右側のおっぱいしか飲まず左側が腫れているようです。

写真はこちら

お熱を計ると40.1℃で平熱より少し高めでした。
さみちゃんの乳房を触ってみると、左側が浮腫といわれるおっぱいがたまりむくんでいる状態になっていました。

まだ乳房炎といわれる状態になってはいないもののこのままでは進行していく可能性があったので、
炎症を抑えるお薬と抗生物質のお注射、左側の乳房の内に抗生物質を注入しました。
そして、大切なことがもう一つ。オーナーさんに1日1回以上、おっぱいをしぼってもらうことをお願いしました。
乳房炎は乳房のなかに病原菌が入りそこで増える病気です。乳房の中は体温で温かく、そこにあるミルクは栄養がたっぷりなので
菌が増え、炎症が起きます。おっぱいをしぼることで、菌が乳房の中にずっとある状態、増える状態を避けることが出来ます。

また乳房炎にかかっているミルクを飲むと小山羊さんが下痢をおこしたり、乳房炎のミルクは味が変わってしまいますので
小山羊さんが飲みたがらず栄養不足になることがあります。乳房炎になってしまったときや疑われるときは、
お母さん山羊だけでなく子山羊さんの様子も気をつけてあげてくださいね。
さみちゃんはオーナーさんにおっぱいを搾りながら経過を見ていくことになりました。

*乳房炎のまとめ

<原因>
乳房の中に病原菌が入り込み、乳汁中や乳腺で増殖することにより炎症が起きる。

<どんな時にかかりやすい?>
・乳房・乳頭に傷がある場合
・乳汁が長時間乳房内にたまっていた場合。
・死産あるいは子山羊が病気で哺乳出来ないとき。
・離乳後の乾乳期
・機械搾乳時

<症状>
・乳汁の異常(色が変わったり、かたまりが混じったり、悪臭をもつクリーム状。

おっぱいの様子
・乳房が腫れる・熱を持つ・痛みがある
・皮膚が赤色や暗紫色に変色する
・乳房全体が硬く腫れて、乳汁が全く出なくなるときもある。

*乳房に病変があっても食欲・体温など一般状態に変わりないことも多い。
急性の場合は全身性の発熱が見られる。

若い獣医さんへ。診療現場に「問い」と「答え」はない

診療現場には、「問い」と「答え」はない

はじめたばかりの獣医さんに必ず教える事があって、診療の基本的な考え方を書いてみます。

治療方針を決めるとき、誰でも最初は迷うと思うんです。決めるのが、苦しいと思うんです。私なんかが決めちゃっていいのかな。とか思うんです。

治療って、試験に出るような「問い」と「答え」があって、マルかバツかが決まってて、それでバツがついたら死ぬ。みたいな、そういう事をしてるわけじゃないんですよ。

そういう風に考えたら、そりゃ怖いですよね。
決断できなくなって、いつになったら私はまともな獣医になれるんだろう。と思ってしまいます。

診療するときって、最初の頃は「答え」を探しちゃう。この病気なら、この薬。この治療。このスケジュール。

定型化するのはすごく大切なんだけど、それだと知らない病気に当たったら頭真っ白になっちゃうんです。

誰だって、いきなりなんでも知ってるスーパー獣医にはなれないんだから。

治療ってそういうもんじゃなくて、
最初は病名も答えもない。

ただ、飼い主がやってほしい事と、動物の状態だけがある。

熱があるから、感染か、炎症かな。
便は正常だから消化器はまぁ大丈夫か。
呼吸と心拍早いから貧血か、熱を下げようとしてるのか、または酸素消費が増えてるのか、できないのか。

そんな感じで、からだの恒常性を軸にチェックしていく。
それで、その傾いた恒常性を戻していくように、処置や検査や薬を選択していく。

全部をいきなり正常に持っていくような答えを探してるんじゃなく、どっちかと言えば、こっちやった方が要望に近づくよねという風に。
寒いんだったらあっためた方がいいよね。みたいなね。

それと、生体は基本的に治ろうとする。バランスをもとに戻そうとしている。黙ってたら自分で治ろうとしてるんです。

「牛の力を信じなさい」と、授精師であり牛飼いのゆうきさんは言います。

この方は獣医じゃないけど動物に対する接し方、考え方は的を得ていて、まさにそういう事なんです。

 

獣医診療の仕事は、動物に「添え木」をしてあげること

だから治療って、
ちょっと傾いた木につっかえ棒を付けたり、風が強くて折れそうだったら塀を作ったり、添え木をしたりする事なんです。

すると、そのうち自分でバランスとって、また自分で伸びて行けるようになってくる。

とりあえず塀たてたり、紐で補強してる間に教科書や論文で調べて、幹を強くする栄養剤を見つけて買ってくる。
それで、効果が出てきたらもうこの塀壊してもいいかな。

みたいな事をしてるんです。

誰かが平均台から落ちそうになってグラグラしてる時、横からちょっとだけ手を貸してやる感じ。

するとね。
ふう。あぶねー。。。
治ったわー。
ってなるんです。

向こうに倒れそうならこっちに引っ張る。
こっちに倒れそうなら押してやる。

向こうかこっちか分からないときは、まー分からないので適当にどっちか押してみる。
余計に傾いたら、あ、違ったのねと引っ張り戻す。
そういうのを治療的診断といいます。

違ったら戻すつもりだし、そういう時もいつも決断に苦しむわけじゃないのです。

ベテランの獣医さんはそうやって治療しているんです。それを側から見てると、100発90中くらいに見えるんです。

 

手持ちのカードの中で最善を尽くせばいい。獣医学は学問から、道具にできる

仮に病名がつかなくても、今の手持ちのカードの中で最善のものを使えばいい。
それらのカードは大学と国家試験を通ってる時点でちゃんと持ってるから大丈夫です。どれを使っても、なんらかの結果が出る。

難しい試験問題のように、完全に分からない中で一発を狙うような事はあんまりないんですよ。

牛の力を信じて、ちょっと手を貸してやる事です。
疲れてたら休ませる。
寒かったら温める。
血は止めてやる。
傷口は洗って閉じてやる。

治療ってそういう事です。
普通にやさしく考えたら分かります。

初学の優秀な獣医さん
教育と現場の間で心折れずに、
ちょっとだけ視点を上げてみてください。
その瞬間から、獣医学は学問から道具になります。
今まで努力して得た道具の使い方を覚えましょう。
すぐに自信に満ち活躍する日が来ますから。