つたえること、つたわること。読み取る力・受け取る力を伸ばしていこう

「伝える」という行為は、ある意味エゴイスティック

ひとは、自分と同じじゃありません。
やってほしい事は、基本的に伝わりません。
ひとを思い通りに動かそうなんて、なおさらです。

伝えるのは、とても難しい。
伝えようとする事は、ある意味エゴイスティックな行為だからかなと思います。

そもそも伝える必要があるのは、自分の為である事が多いんじゃないでしょうか。
伝えたいひとはたくさんいても、思ってもない事を伝えられたいひとはあんまり居ませんしね。 

そういうわけで、伝えようと必死に努力しても、受け取る側が目を閉じていたら完全に無理です。伝えるテレパシーはないのです。

 

受け取る側には、見ていれば分かることが無数にある。獣医としても。

でもね、
受け取る側には、テレパシーみたいなものがあります。
見てれば分かる事が、無数にあるんです。
会った瞬間に、この人の嬉しさ、悲しさ、怒り、苦しみ。
このくらいは、誰でもすぐ分かるでしょう。

さらに少し話したら、今気になっている事なんかが分かる。

メンタリストダイゴさんが、ヘソをこちらに向けて話してくれないひとは、自分に好意がないと言ってました。細かな説明しても仕方ないのでしませんが、そういうのは大抵合ってますよね。

受け取る力は、もともと誰にもある力です。
ですから望めばすぐ、すごく簡単に身につくんです。

 

獣医さんが診察する時、 今の動物の状態、飼い主さんの状態、今までどんな風に飼われてたのか。どんな風に動物と向き合ってるのか。
それくらいは、会って2つくらい質問するとすぐにわかるんですよ。

あ、この話は今度書きましょうね。

 

受け取る力を、伸ばしていこう

とりあえず、僕は今日も受け取る力を伸ばしていくことにします。

そしたらその人から、受け取る力を自分に向けてもらえる日が来るかもしれません。

自分の気持ちを受け取ってもらえる時が来るかもしれませんから。そう。つたわる時が来るかもしれません。

 

ところで、「顔に書いてある」とはよく言ったもので。隠そうとする事は、大抵うまくいきません。伝わらないように気をつけていても、受け取る側がみるとこ見たら、バレちゃいます。 

今日も僕のズルい心がバレませんように。
頑張っていきましょう。

山羊の診療Diary 症例3「子山羊の低体温・低血糖」

*山羊の診療Diary症例3 子山羊の低体温・低血糖

 

生まれて3日齢の子山羊の男の子、ひまわりくんが小屋で倒れていると連絡がありました。

沖縄でも1月と2月は風が吹くと寒い一日になります。

山羊小屋に到着してひまわりくんの熱を測ると37.4℃しかなくぐったり倒れていました。

 

ヤギ低体温の主な症状と判断方法

 低体温の主な症状は

・口の中が冷たい

・蹄の間を強くつまんでも感覚がない

・ぐったりしている

 などがあります

 

体温計がないときは口の中に指を入れてみてください。冷たく感じれば、体温は37以下の可能性が高いので危険な状態であると判断することができます。

 ここですぐに温めてあげたいのですが、低体温の時は低血糖を伴っていることが多く先に体の糖分を補ってあげないと体に残っている糖分を温めることで使い切ってしまい昏睡状態におちいる可能性があります。

 

そのため、注射でお腹の中、そして点滴で血管の中にブドウ糖を体の中に入れてあげてまず低血糖の状態を改善する必要があります。

 その後、バケツに42℃くらいのお風呂を作り、ビニールにひまわりちゃんをいれてお風呂で温めます。直接お湯に入れると体が濡れてしまい湯冷めをしてしまうのでビニールに入れます。

 

 あったかーい。

低体温時、ヤギをお風呂で温める

 

お風呂では、体温計で体温を測りながら温めること

ここで大事なことがもう一つ。体温計で体温を測りながら温めましょう。体温が37℃になったらお風呂で温めるのは終わりです。

子山羊の平熱は39.5℃くらいですが37℃以上温めてしまうとその後急激に体温が上がってしまうからです。

 温まった後は、ミルクをあげます。自分で飲めないときは胃にチューブをいれて哺乳する場合もあります。

 

最後にはひまわりくんはミルクを自分で飲めるまで回復しました。

自力でミルクを飲む子山羊

 

低体温・低血糖は子山羊さんが亡くなってしまう原因としてとても多いので、寒い日は特に気をつけてあげてくださいね。

 

さようなら。すべての想いを内包して、この言葉で送り出したい

さようなら

なんて強く凛とした言葉だろう

と思ったのはこの言葉の語源を知った時。

「左様ならば」から今の言葉の意味で

「そうでなければならないならば」。

自分から離れていく人の選択も想いも

自分の別れに対する哀しみも絶望も

そうでなければならないならば

と受容する言葉。

そして、救えなかった命にも…

さようならは

最後かもしれない今を受け入れる言葉。

今、この時を大切に、そしてお別れのときには

すべての想いを内包してこの言葉で送り出したい。

さようなら

山羊の診療Diary 症例2「難産」(頭から出てきた場合)

*山羊の診療Diary症例2「難産」(頭から出てきた場合)

 

山羊のゆきちゃん(3歳の女の子)が出産しました。

 

わたしたち人間の赤ちゃんは頭から生まれてきます。

さてさて、山羊の赤ちゃんは頭から生まれてくるのかな?それともあしから生まれてくるのかな?

 

正解は 「前足から生まれる」です

 

山羊の正常な分娩でははじめに2本の前足が見えその間に鼻先が見えてきます。しかし、今回ゆきちゃんの赤ちゃんは頭から先に出てきてしまいました。頭から先に出てしまうとさあ大変。前足が引っかかり上手く生まれてくることができないのです。この場合、出産にお手伝いが必要になります。

 

出産シーンはこちら。

頭でふさがって前足を探せないときは、いったん手で頭を押し戻し前足2本を探り出す

今回、すぐに前足が見つかり引き出すことが出来ましたが、頭でふさがって前足を探せないときは、いったん手で頭を押し戻して前足2本を探り出しましょう。そして、頭が足の間に入るように位置を修正してから前足をつかんで、お母さん山羊の陣痛に合わせて引っ張ります。

そして、子山羊が生まれたらすぐに羊膜を破り、鼻や口のまわりを拭い呼吸を確認します。羊水を飲んでしまい呼吸が確認できない場合は体を逆さまにして軽く振り、鼻や口にたまっている羊水を吐きださせましょう。呼吸が確認できたら一安心。お母さんに赤ちゃんを渡すと体を舐めてお世話をはじめます。

この後ゆきちゃんは2頭の赤ちゃんを無事出産しました。

無事に出産した山羊

ゆきちゃんおつかれさまでした。

たどりつきたいところ

この島に来る前に、病を抱える大好きな恩師に会いに行った。

「あなたに次会える約束はできないの」と優しい声で言われたとき子供みたいに泣いてしまった。

先生の前では最後まで大人になれなかったわたし。

本当は誰とも明日の約束なんてできない。

どうぶつの命の誕生や死とともにある診療を通じていつも思うこと。

それでもなお

山羊小屋を出るとき、診療が終わったとき、最後に顔を見るときは

‘明日も元気に会えますように’

と瞬きとともに小さく祈る。

その日の夜に先生から送られた言葉。

「中略

新しい旅立ち 成功するようにお祈りしています。どこまでもご自分を信じて歩まれてください。きっと道は開かれます。そして、最後には、人のために少しだけ幸せを分けてあげてくださいな。心の母より!」

これが、最後にわたしのたどりつきたいところ。

まずは自分を信じてしっかり1人で立ちたいな。

やさしく、つよく。

山羊の診療Diary 症例1「子宮脱」

山羊の診療Diary 症例1「子宮脱」

今回のお話はオーナーさんからの電話
「出産後いつもと違う肉の塊みたいなのがぶら下がっている」
からはじまりました。

出産後、お母さんがお腹の中で栄養を赤ちゃんにあげるために必要だった胎盤(後産)が出てきますが、赤ちゃんが入っていた子宮がひっくり返って出てきてしまうことがあります。これを「子宮脱」といいます。

子宮脱は緊急を要するのですぐに獣医さんに連絡をしましょう。早ければ早いほど治る可能性が高くなります。

 

ヤギが出産後、子宮脱になったら。オーナーにお願いしたい緊急処置

獣医さんが来るまでにオーナーさんにお願いしたいことは

  1.  山羊を立たせておく
  2. きれいなぬるま湯で汚れを洗い流す
  3.  お砂糖をかけておく
  4. ビニールをかぶせる

です。

 

お砂糖をかけておくと出てきた子宮のむくみが軽減され、戻しやすくなります。

今回はオーナーさんからすぐに連絡があり、洗浄・お砂糖をかけておいてくれたので子宮を戻すことが可能な状態でした。

山羊の子宮脱

 

ヤギ子宮脱に対する獣医師の処置

ここからのわたしたち獣医師の処置は、

刺激の少ない消毒液で洗い、手でゆっくりとお腹の中に戻していきます。途中、痛みで力みますがゆっくりゆっくり戻します。全部の子宮が整復できた後は、再度出てきてしまわないように陰部を縫合します。最後に感染予防のために抗生物質を処方します。

この山羊さんは1週間後、無事抜糸を終え元気に赤ちゃんの子育てを頑張っていました。

 

子宮脱の原因と予防策

子宮脱の原因として太りすぎや運動不足、加齢による赤ちゃんの通り道付近の筋力の衰えなどがあり、これに難産などで強い力が加わることがあげられます。

 

妊娠中に太らせすぎないこと、適度な運動をさせてあげることが予防になります。また一度、子宮脱を起こすと次の出産時にも繰り返すことが多いので、子宮脱を起こしたことのある山羊の出産は特に気をつけてあげてくださいね。

余韻

今日も一日おつかれさまでした!

山羊小屋のおそうじも終わり。

みんな元気にごはんも食べてる。

最後にすることは…

空を見上げて深呼吸。

光の余韻が残る夜のはじまり。

立て!立つんだ!

と言ってます。

「きぼうをつくる」。私たちが考える獣医の役割

獣医の役割ってなんでしょうね。
仕事してるとよく、「安心した〜」と言ってもらえます。「ありがとう」とも。
役に立ってるようなので素直に嬉しいことです。

僕たちの仕事で顧客の心が大きく動いてる時は、不安から安心に変わった時みたいです。
不安で息も止まりそうな飼い主を横目に手術を無事終えた時はなかなか良いです。
「ハイなおったよ〜。良かったねー。」
と言えますからね。

でも、僕がもっと好きな気持ちはワクワクなんです。ワクワクして動いてるひと。

未来に気持ちが向かうとき。
そういう話をしてる時、参加してるみんなの頭の上に、モワーンと未来の自分たちが見えています。みんなイキイキ、ワクワク、キラキラしてます。

自分が楽しい時っていつかなと思うと、そういう時や、そういう人と話してる時なんです。
獣医の知識や技術を、そういう方向にも使えたらいいなといつも思っています。

とはいえ、不安に苦しんでる人に

「ワクワク楽しくやろうよ!」なんて言ったら、「うるせー!それどころじゃないわー!」ってなりますね。

だから結局、不安を安心に変えていかないとね。それから先を一緒に考えていかないといけないんでしょうね。

というわけで、

不安を安心に変える事、ワクワク未来を語る事、両方合わせて
「きぼうをつくる」と言っています。

 

この「きぼうをつくる」というコンセプトは、臨床診療での現場判断や、飼い主さんに寄り添い、選択を行ってもらう際にも意識しています。

決める痛みと、生まれる希望。臨床獣医の仕事で大切かつ難しい「相手の気持ちを汲む」ということ

こちらの記事は臨床獣医師が現場で直面する共通テーマの内容となりますが
ぜひ読んでいってください。

牛とヤギのちから

牛とヤギ(反芻動物)は草を食べて、肉を作ります。
草はまぁ、なんでもいいんです。

重要なのは、草を肉に変える事。

ヒトは草の一部しか消化できません。
大雑把に言うと、草の汁っぽいところは利用できますが、スジっぽいところは利用できません。

サラダを食べてダイエット!できるのは、単胃動物だけなんです。

えーと、胃がひとつの動物を単胃動物といいます。ヒト、イヌ、ネコなんかです。

話を戻しますと、牛とヤギは、草を食べて太ります。草を分解して、栄養に変えて、肉になってくれます。そこまでやてくれたら、ヒトも、イヌも、ライオンも、食べて栄養として吸収できるようになるんです。

うしさんやぎさんありがとう。