14.監視伝染病と畜産関係者の責務について

家畜を飼養するにあたって知っておかなければならない家畜伝染病予防法と監視伝染病について記します。

さまざまな伝染病のうち、特に重要であるため家畜伝染病予防法で定められたものを家畜伝染病(法定伝染病)、農林水産省令で定められたものを届出伝染病といい、いずれも発見次第届け出ることが義務付けられています。この家畜伝染病と届出伝染病を合わせて監視伝染病といいます。

家畜の飼養者、獣医師、家畜を運搬する者、授精師、削蹄師、その他複数の農場に出入りする関連事業者は、伝染病の予防に対して一定の責任を負い、家畜伝染病予防法を守らなければなりません。

(1)家畜の所有者の責務
家畜の所有者は、その飼養している家畜の伝染性疾病の発生予防、まん延防止の第一責任者です。
ですから家畜伝染病の発生予防及びまん延防止のために、必要な知識及び技術の習得に努めなければなりません。
また家畜の飼養に関する衛生管理を適切に行わなければなりません。(第二条の二)

(2)衛生管理区域における消毒設備の設置等の義務
家畜の所有者は、衛生管理区域(畜舎、施設、その敷地)の出入口付近に、伝染病の発生を予防するために必要な消毒設備を設置しなければなりません。(第八条の二)

(3)定期の報告の義務
家畜の所有者は、毎年、家畜の頭羽数と衛生管理の状況に関して、農林水産省令で定める事項を、管轄する都道府県知事に報告しなければなりません。(第十二条の四)

(4)関連事業者の責務
複数の畜舎及びその敷地に出入りする者、家畜を集合させる催物の開催者、家畜の集合する施設の所有者、その他の畜産業に関連する事業を行う者は、その事業活動に関し、家畜伝染病の病原体を拡散させないための措置を講ずるよう努めなければなりません。
また、国や地方公共団体が行う家畜の伝染病予防及びまん延防止のための施策に協力するよう努めなければなりません。(第二条の四)

(5)獣医師の責務(伝染性疾病についての届出義務)
獣医師が家畜が家畜伝染病(法定伝染病)または届出伝染病にかかっている疑いがある家畜を発見したときは、遅滞なく、その農場を管轄する都道府県知事に届け出なければなりません。(第四条、第十三条)

*監視伝染病・届出
資料1 「家畜の監視伝染病 農研機構」
https://www.naro.affrc.go.jp/org/niah/disease_fact/taisho_index.html

資料2 家畜伝染病予防法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC1000000166_20210401_502AC0000000016

監視伝染病の発生状況
https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/kansi_densen/kansi_densen.html

13.死亡牛が出てしまったら

牛がなんらかの事故により死亡してしまう事があります。産業廃棄物処理業者以外は、原則的に解体、焼却、埋却いずれも禁止されていますので、処分するために処理業者に依頼しましょう。
BSE特措法対象家畜の場合は、家畜保健衛生所に届出して検査が必要です。
死亡牛の処理が終わったら、インターネットより牛トレサ法に基づく死亡の届出を行ってください。

(1)捨てること、焼却は禁止

死亡家畜は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)において産業廃棄物に定められており、産業廃棄物処理基準に則った方法以外では、捨てることも焼却することも禁止されています(廃掃法第十六条)。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000137

(2)解体、埋却、焼却は禁止

死亡家畜の解体、埋却又は焼却は、「化製場法」により死亡獣畜取扱場以外の施設又は区域で行う事は禁止されています(第二条)。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000140_20150801_000000000000000

(3)BSE特措法の対象かどうか確認して届出

BSE検査対象となる牛が死亡した場合、牛海綿状脳症対策特別措置法(BSE特措法)により、死亡の届出および検査の実施が定められています。届出は家畜保健衛生所に行います。
(2019年現在において検査対象となるのは①96ヵ月以上の死亡牛②48か月以上の起立不能を示した死亡牛、③他BSEを疑う症状を示した牛です。)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=414AC1000000070_20150801_000000000000000

(4) 処理業者に委託

死亡家畜の運搬や処分または再生処理を業者に委託する場合は、原則として廃棄物処理法に基づく許可を有する処理業者に委託しなければなりません。これらを業者に委託する場合は、書面により委託契約を締結しなければなりません。死亡家畜を業者に引き渡す時には、排出者である畜産農家が産業廃棄物管理票(マニフェスト)を用意し、業者に対して発行しなければなりません。

https://www.pref.kyoto.jp/yamashiro/ho-kita/documents/1321492893715.pdf

(5)家畜伝染病による死亡の場合は届出

死亡の原因が家畜伝染病予防法で定める家畜伝染病である場合は、獣医師による診断や家畜保健衛生所への連絡が必要です。

(6)牛トレーサビリティ制度に基づく死亡の届出

死亡牛を化製場、家畜保健衛生所などに引き渡したあと、牛トレーサビリティ制度に基づく死亡の届出を行ってください。個体識別番号、死亡の年月日、死亡牛の引渡し先(処分先)の名称、住所等の届出が必要です。

(7)家畜共済に加入している場合は、共済金の給付申請手続き

家畜共済に加入している場合は、共済獣医師による診断を依頼します。共済の廃用認定を受け、保健適用の死亡事故と認められれば共済金が支払われます。

12.記録すべき項目

繁殖和牛を飼育する際に発生する事務作業について触れます。まず当然のことながら、日常的に発生するイベントを記録しておかなければなりません。分娩、授精、発情、治療などです。
これらは健康管理、繁殖管理、経営や各種届出に必要なばかりでなく、授精師、獣医師、他取引先と円滑な取引をするために必要です。その際、最低限何をどう記録すればいいかを書きます。

記録方法で最も大切なのは、予定情報と記録情報を分けて管理することです。

まず個体台帳を作ります。すべての記録の元になるのは個体に紐づく情報で、基礎情報と経時記録に分かれます。多頭数飼う場合でも、牛では一頭ごとの履歴は重要です。
そして次に、予定表(カレンダー)です。その日1日にしなければならない作業を横断的に把握して実行するために、予定を書き込みます。

最低限この2種類で対応可能ですが、繁殖作業を独立させたい場合や、決算等で集計情報が必要な場合など、農場業務の実情に合わせて繁殖台帳や販売管理台帳を作ります。

(1)個体台帳


〈基礎情報〉
生涯変わらない、基本的な情報です。登録証の内容は基礎情報のひとつとしてまとめておきます。


・出生情報、導入時情報、母牛、生年月日、性別など。

〈経時記録〉
飼育の過程で起こるさまざまなイベントを経時的に記録していきます。


・治療や予防の履歴 (ワクチン、疾病、投薬、治療、去勢など)。
疾病の記録は、疾病多発時の原因究明に参考になります。また、畜産農家は食物生産者でもあり、薬剤の使用履歴を記録保管しておく義務もあります。


・成長の記録(生時体重、7日目体重など)。
成長の記録は、子牛の成長だけでなく母牛の乳量推定、種牛の評価、母牛の妊娠後期の栄養状態を評価など、飼料と生産に関わる業務改善に利用されます。


・繁殖と分娩の記録(分娩日、分娩の状態、発情、人工授精、妊娠鑑定など)。
繁殖の記録は、効率的に妊娠させるために必要です。繁殖成績の評価と改善にも利用されます。また生産に関する各種届出時にも必要です。

(2)予定表(カレンダー)

予防処置、取引先への依頼連絡、発情注目などすべての予定を記入しておきます。その日1日の作業を横断的に把握できるようにします。

(3)授精台帳、繁殖台帳

個体に紐づく情報ではありますが、繁殖に関する作業員が独立している場合や、非常に頭数が多い場合など、繁殖作業に関する情報を個体台帳と別に記録することがあります。

繁殖に関する作業を効率化するため、発情牛、人工授精、妊娠鑑定などを日付順に記録していきます。

(4)販売台帳

繁殖台帳と同様に個体に紐づく情報ではありますが、販売に関する情報は決算時などまとめて必要になるので、経時的に記録し独立させておいた方が良いでしょう。導入価格、販売価格、販売時の情報など。

(5)経費帳

消耗品費、地代家賃、水道光熱費、外注費、給与賃金などの経費を経時的に記録します。

11.粗飼料生産と濃厚飼料の調達

牛を飼うために必要なことは、動物の世話だけではなく、粗飼料を作らなければなりません。粗飼料は購入することもできますが、自給することで安定した飼育ができます。コストを抑えて安定した品質のものを得られるからです。

粗飼料(牧草)にはさまざまな種類があり、地域に適した品種と栽培方法があります。
実際の粗飼料生産作業では、農地の耕作、施肥、種蒔き、刈り取り、反転、集草、梱包、運搬などの作業があります。
適宜、追肥と追加播種をしたり雑草の駆除をしたりします。数年に一度は農地の更新といって再度土から作り直します。作業にはトラクターやロールベーラーが必要になります。
採草地の管理と同様に、放牧を行う場合も、放牧地の牧草がどのように伸びているか、どれだけ減っているか、常時観察しながら効率的に牧草を育てるよう配慮しなければなりません。

これらの粗飼料生産にかかるコストと時間は、地域によりどこまで外注できるかが異なります。
自分の地域に粗飼料生産を請け負ってくれる業者がいるか調べてみてください。

一方、濃厚飼料については日本国内の耕地面積と輸入価格の関係で自給することは少なく、大抵は輸入飼料を購入することになります。飼料会社各社から配合飼料が市販されており、農協等を通じて購入できます。
配合されたものではなくとうもろこしや大豆などの単味飼料を混ぜて給与する場合や、混合飼料(TMR)を用いる場合は、飼料の混合作業が必要になります。

農水:飼料自給力の向上に向けた取り組み(2007)

飼料自給力・自給率の向上に向けた取組
(濃厚飼料の大部分は海外に依存)
家畜の飼料は、粗飼料と濃厚飼料に分けられる。粗飼料には、乾草やサイレージ(飼料作物を乳酸発酵させ、保存性・し好性を高めた飼料)、稲わら等があり、牛をはじめとする草食家畜に給与される。粗飼料の自給率は78%(2007年度)となっている。
一方、濃厚飼料には、とうもろこしを中心とする穀類、糠類(ぬか)、粕類(かす)等があり、豚や鶏のほか、肉用牛の肥育に多く使われている(図129)。国土条件の制約等から飼料向けの穀類は国内で生産が困難なため、濃厚飼料の自給率は10%(2007年度)にとどまっている。国内の耕地面積は4628ha2008年)であるのに対し、飼料用穀物等の輸入量を生産するための面積は429ha2007年)と試算されている(農林水産省試算)。

参考までに、畜種によって粗飼料と濃厚飼料の給与比が違います。粗飼料の自給が経営に与える影響が最も大きいのは、繁殖和牛経営だという事がわかります。

10.見回り

見回りは疾病の早期発見、発情発見、分娩事故の予防、その他異常の発見のために行います。
農場ではさまざまなことが起こります。牛だけでなく動物を飼う上で変化を見逃さない事は重要です。通常業務として必ず「見回り」をする時間を確保する事が必要です。

(1)疾病発見の見回り

最低で1日2回、すべての牛の食欲と便を確認します。
さらに疾病の早期発見には以下のチェックポイントを見逃さないようにしてください。

食欲 食いつき方、腹囲、左けん部の大きさと硬さ
便 硬さと色、量
飲水 飲み方、量
呼吸 胸壁の動きで確認し、速さ、深さ、咳
口 開口、流涎
反芻 反芻回数と間隔
歩様 歩幅、足のつき方、歩き方
排尿 尿の出る回数、色、一回の量、尿流の太さ
被毛 被毛のツヤ、糞便の付着具合、脱毛
削痩 肋骨の見える本数、肩の角度
耳の角度 下がっていないか、音に反応しているか
首の角度 首を伸ばしていないか、頭を上げるのを嫌がっていないか、傾いていないかに
群の様子 群れから離れていないか、序列、闘争
飼槽 汚れと残飼の量

それぞれが何を意味するかは、他項に書きます。
まずはこれらを変化させる要因があるということを認識した上で、平常時の状態を覚えておくことが大切です。
そしてなぜこれらが変化するのか考えてください。
動物を飼うことが上手な人とは、動物の出すさまざまなサインに気づき、考え、柔軟に対処することができる人のことです。

(2)分娩の見回り

分娩前の牛は、体が分娩に近づいている兆候がどのように現れているか、また分娩開始はいつなのか見逃さないように以下の項目をチェックします。

靭帯の緩み
乳房のむくみ
陰部の緩み
粘液
食欲低下
便の軟化
尾挙上
陣痛による起伏や旋回、呻吟
破水、怒責

分娩の異常は、陣痛開始から遅くとも3時間以内に発見する必要があります。
ですから分娩直前の牛は1日8回は見回りしなければならないことになります。人員の都合で直接見回りが困難な場合や頭数が多い場合は、webカメラや分娩検出のためのIoT機器を利用します。

その他、発情発見のためにも、病気の前兆から気づくためにも、畜舎環境の温度、換気、風あたり、日照、床の濡れなどに注目して見回りを行ってください。

9.去勢

(1)バルザック法

無血去勢鉗子を用いて、精索(精子、蔓状静脈叢、精索動脈を含む)を陰嚢の上から鉗圧することで精索内の血管を破損させます。その結果精巣が虚血に陥り、精子の生産機能を失うことになります。

適用
2〜4か月令
月齢が若い場合陰嚢の皮膚が薄く、鉗圧により皮膚ごと切断されてしまう場合があります。
月齢が進んだ個体では保定が困難になり、蹴りの届く範囲も広くなります。また陰嚢は厚くなり、精索は太く精巣は大きくなります。そのため術者の危険性が上がり、去勢の成功率が下がります。

具体的方法
・牛を立たせた状態で鼻をロープで固定します。
・左右に動けないよう壁や補助員が保定します。
・左手で陰嚢の付け根を保持し、右の精索を右に押し付けます。
・去勢鉗子で右精索を陰嚢の皮膚の上から鉗圧します。
・鉗圧された状態で精索を折るように精巣に上下の力をかけることで、皮膚を残して精索の鉗圧部位のみ破断することができます。
精索の破断を行わず鉗圧状態で1分待つというやり方もありますが、筆者は精巣残留率を下げたいので精索により大きな障害を与える上記方法を用います。障害が大きい事は陰嚢内出血の可能性が高まる可能性もあるため、どちらを選択するかは術者に委ねます。
・同様に反体側の精索も処置します。
この時、陰嚢上の鉗圧した跡が左右で接合しないように注意してください。陰嚢全周を鉗圧してしまうと陰嚢が壊死脱落し、非常に治り難い化膿創を形成します。

術後2〜3週は陰嚢の腫脹が見られるのが普通です。疼痛のため数日は食欲低下がみられます。
術後8週ほどで、触診にて精巣の萎縮、硬化、または融解消失が認められれば去勢効果ありと判断します。しかし判断できないような中間的な治癒となる場合も多いです。

(2)ゴムリング法

強力な輪ゴムを用いて陰嚢の上から精索を結紮する事で、精索内の血流を遮断させます。その結果精巣が虚血に陥り、精子の生産機能を失うことになります。陰嚢も同様に血量遮断されるために2週間程で萎縮硬化し、30〜90日で脱落します。

適用
生後1か月以内
最も適しているのは生後10日前後と言われています。
月齢が進むと結紮の失敗や硬化した陰嚢皮膚が皮膚に食い込むことで化膿したり治癒が遅れることがあるため、生体に与える障害が大きくなります。

具体的方法
・陰嚢内の精巣を出来るだけ引き下げます。
・脱落する陰嚢の皮膚を極力残すよう、かつ精巣全体を除去できるような位置にゴムリングを装着します。
体壁近くに装着すると、陰嚢脱落後に皮膚が足りなくなるため大きな皮膚欠損が生じます。
・必ず精巣が2つとも陰嚢内に隔離されたことを確認してください。ゴムを装着した時に精巣を残してしまうと目視発見するのが困難になり、肥育牛の妊娠などの事故につながります。

ゴムリング法は脱落までに長期間を要するため、破傷風の感染リスクが高い方法です。常在地域では破傷風トキソイドや抗生物質など予防策を講じてください。

また萎縮硬化までは進んでも、なかなか脱落しないことがあります。この場合も化膿するリスクが高いので、切除するなど対処が必要となります。

(3)観血去勢法(手術による方法)

手術により精巣を摘出する方法です。摘出が目視できるので目的達成は確実にできますが、術者が未熟な場合は出血や感染のリスクがあります。適切に行えば最もストレスが少なく、治癒が早い方法です。

適用
5か月以内
麻酔(鎮静)下で行いますので、全年齢で可能ではありますが、術者の安全性から、やむを得ない場合を除いて5か月以内に行なってください。術者は必然的に牛の股間に顔を近づけることになり、大きな個体では処置中に蹴られたりメスを弾かれたりした時の危険性が高いためです。もちろん体格が小さい牛の場合も、確実に肢を保定して怪我をしないよう注意してください。
技術者の中には無麻酔で処置する方もいますが、動物福祉の面からだけではなく実利の面から私は推奨していません。強い疼痛を与えることは食欲と増体を落とし、体の動きを避けながら処置することは傷の汚染リスクを上げるからです。

具体的方法
手術方法の種類はいくつかあります。
麻酔(鎮静)キシラジン、その他の全身麻酔
保定方法 立位(無麻酔の場合)、四肢拘束、片足伸展
剃毛、消毒方法
皮膚の切開方法 縦切開、下側陰嚢切除、下側横切開
精索の結紮方法 捻転切除、結紮切除
薬剤の選択 抗生物質の使用有無、破傷風トキソイドの使用有無
上記のうちから術者がそれぞれ選択することになります。

参考までに筆者は以下ように行います。
・キシラジン
・片足伸展保定
・抜毛
・アル綿清拭
・カミソリにて下側横切開
・漿膜切開、剥離
・精索の露出
・捻転切除
・ペニシリン及び破傷風トキソイドを注射
・アチパメゾールで覚醒

それぞれの手技と注意点を以下に示します。

・麻酔(鎮静)
牛はキシラジンを高容量投与すると鎮静ながら不動化できます。去勢の場合はこれで十分対応可能です。
鎮痛作用はありませんので、強い疼痛を与えると反射で肢は動きます。鎮痛剤を併用した方が術後の回復が良いという報告がありますので、推奨されます。

・保定方法
立位の場合は鼻環または頭絡を確実に固定することと、左右に動かないこと、また後方に蹴ることができないよう片前肢を吊るか、蹴り予防板を設置するなどします。板の破損や脱落で余計に危険なことがありますので工夫してください。
四肢拘束はまず両前肢、両後肢をそれぞれロープで巻いた後、それらのロープ端を用いて前後を結びます。経験の少ない方にとっては最も失敗の少ない方法です。
片足伸展は、麻酔下で横臥している牛の上側後肢を伸展させるようにロープで引っ張って固定します。術者は肢の届く範囲に体を入れないよう注意すれば蹴られる事なく処置することができます。最も簡易的で短時間で処置することができますが、安全領域内で処置できるようになるまでにある程度は熟達する必要があります。
・剃毛、消毒の方法
カミソリで剃毛→アルコール清拭→ヨード塗布→乾燥
というのが最も丁寧な方法でしょう。
ところが牛舎内で行う手術では、飛沫粉塵、他の牛が振り撒く糞尿、乾草や配合飼料の粉、天井からの埃、牛体に付着した乾燥便など、術創だけ清潔に保とうとしてもなかなか汚染を防げません。

総合的に術創を清潔に保つために、私は以下のことに注意しています。
牛床の水溜まりは避けます。
飼槽の風下は避けます。
後肢の可動範囲で、術創に触れられる部分の乾燥便は取り除きます。
牛体は濡らさないようにします。
同居牛の可動範囲を確認します。

その上で、以下の方法を用いています。
 陰嚢にある長毛を可能な限り指で抜く。
 精巣を下向きに押して陰嚢皮膚を伸ばします。
 アル綿で汚れがつかなくなるまで何度も擦り清拭します。

・皮膚切開の方法
縦切開は、片側ずつ、陰嚢上方から末端へ切開する方法です。筆者は6か月以上の牛で精巣が大きい場合にこの方法を用いています。

下側陰嚢切除は、陰嚢を下方に引き伸ばし、下側1/3を横向きに切除する方法です。短時間で処置でき、創口が大きく開くため精巣の露出がしやすいこと、また精巣内に血液が貯留しない利点があります。逆に切開創が大きいため、皮膚癒合は比較的時間がかかります。

下側横切開は、陰嚢下側の皮膚を左右の精巣を横断するように切開します。一度の切開で処置できることと、切開創が最も短く済むため、筆者はほとんどの場合この方法を用いています。

一般的に縫合は行いませんが、精巣内脂肪が創口から露出してそのままでは治癒できないとか、汚染環境のため創面を保護したいとかいう場合は縫合することがあります。

また特殊な場合ですが、湿潤汚染環境でどうしても処置しなければならない場合は陰嚢上部を縦切開したり、皮下陰睾の場合はその時精巣がある位置で切開したりします。

縦切開と横切開 鎮痛効果について
http://www.nlbc.go.jp/tokachi/kachikueisei/eiseijouhou/ronbun/jb_castration.pdf
“4~7ヵ月齢の黒毛和種雄育成牛における観血去勢方 法においては、縦切開方法の方が横切開方法より発育 への影響が少ない傾向であった。”
“簡便かつ発育低下の影響による経済的損失を 最小限に抑えられる去勢方法として、ペインコントロール を行った縦切開よる捻転去勢方法は、有効な手段だと考えられる。”

つまり、縦切開で捻転去勢は発育がいい。鎮痛剤を使うとなお良い。ということです。

http://jlia.lin.gr.jp/cali/manage/121/s-semina/121ss1.htm
“去勢は新観血法で4~5ヵ月齢に実施 “
“陰嚢の下部1/3をカッターナイフで切取り、睾丸を引抜く去勢法です。慣れると子牛を立たせたままで、1頭当り1~2分間で実施できます。陰嚢下部が切断されているため、血液や分泌液を陰嚢内に貯留することがなく、外傷としての治癒を待つだけで、ストレスが少なく完全な去勢法と言えます。”

こちらは陰嚢下部切除で捻転切除を推奨している報告です。

・精巣の摘出方法
まず精巣漿膜の切開と剥離を行います。
その後精巣を下に引くとともに陰嚢を上に引き上げ、精索を露出させます。
捻転去勢法では、精巣と精索の間を鉗子や鉤で挟み30回ほど捻転することで精索の切断と止血を同時に行います。この時汚染された精索断端が陰嚢内に戻らないよう力加減を調節して、切れる位置に注意してください。
結紮止血後に切除する方法では、露出した精索を縫合糸を用いて結紮後、メスまたは鋏で切除します。糸を汚染させないよう特に注意してください。
汚染が疑われる時は術創に抗生物質を注入する場合もありますが、有効性は不明です。
感染リスクを下げるためには、可能な限り触らないこと、体内に戻す部分は露出させないこと、短時間で終わらせること、周囲を濡らさないことが大切です。

・薬剤の投与
筆者はペニシリンまたはアンピシリンと破傷風トキソイドを筋肉注射します。特に汚染が疑われない時は、局所への投薬は行いません。毛細管現象により皮膚周囲の雑菌を侵入させることを懸念してのことです。逆に、糞便が付着したり汚染した手で触れたりした時など、汚染したことが明らかな時は、生食等で洗浄後ヨード剤または抗生物質等を局所適用します。

・覚醒
手術後はアチパメゾールを注射して覚醒させます。
牛は長時間横臥させると鼓脹症や低体温が誘発されるためです。

(4)去勢方法の比較

・去勢方法の比較
ゴムリング法は、生後まもなく行う方法としては最も簡便です。ただし処置期間が最も長くなるために、疼痛にさらされる期間が長くなります。その結果食欲低下が起こりやすいため増体に影響が出やすいです。また傷の汚染が起こりやすいために破傷風リスクが高いです。

バルザック法は観血去勢とゴムリングの中間的な方法です。方法は簡便ですが、ある程度熟達する必要があります。精索を目視できない状況で鉗圧により挫滅する方法のため去勢失敗率がやや高いです。傷が出来ないため感染リスクはやや低いものの、陰嚢の腫れや疼痛は2週間ほど続くので増体にも影響します。

観血去勢法は短時間の疼痛で完全な去勢ができるため、確実性と増体をどちらも確保できます。しかし手技は最も難しく、薬剤も適宜必要になります。

http://www.naro.affrc.go.jp/org/karc/seika/kyushu_seika/2003/2003197.html
“1.去勢後8週間の増体は観血区のほうが多いことから、観血去勢法によるストレス低減が示唆された。
2.去勢日から去勢後107日目までの増体量は観血区のほうが優れていることから、子牛セリ出荷時の価格でも観血去勢法はゴム去勢法より上回ることが示唆された。“

http://www.agri-net.pref.fukui.jp/shiken/hukyu/data/h21/26.pdf
最近はゴムリングも工夫すれば大丈夫という報告もあります。

(5)去勢時期について

昔から早期去勢では尿道発育を阻害し尿石リスクを上げるといわれています。これに関する日本の論文は見つけられませんでしたが、海外論文でアワシ種の羊に対する研究では、無去勢の群は2週令、3か月令で去勢された群と比較して陰茎の長さ、直径、尿道断面積が有意に大きかったと報告しています。牛でも尿道が狭くなることはおそらく本当なのだろうと思います。
しかし増体に関しては去勢時期による差がないとする報告が多く、特に海外では、去勢を遅らせることは疼痛と感染リスクを高めて治癒を遅らせるため、生後なるべく早く去勢することを推奨することが多いようです。
日本では、体重230kg時が増体、歩留まりが良かったとする報告があります。

以上総合して、筆者は以下のように推奨します。
簡易性、作業性重視の場合は生後10日でのゴムリング去勢を用います。尿道は細くなるかもしれませんが、尿石症は尿道が細いことが第一原因ではないからです。増体についても説が分かれているため、自分の牛群で確認する必要があります。
バルザックを用いる場合は精索の太さと術後の危険度のバランスから3〜4か月令に行います。
観血去勢を用いる場合は尿道成長と増体を期待してなるべく遅らせるが、術者の危険性を下げるため5か月を限度に行います。

http://tru.uni-sz.bg/bjvm/vol10-no1-04.pdf
“この研究の目的は、アワシの子羊の陰茎および尿道の発達に対する去勢の影響を調べることでした。
生後1〜2週のアワシの子羊21頭を、ランダムに4つのグループに分けました。グループ1、2、および3は、それぞれ2週齢、3か月齢、および5か月齢で去勢されました。グループ4は去勢されませんでした(対照)。
陰茎と尿道の発達を評価するために、デジタル画像分析を使用して、陰茎の長さ、陰茎の直径、および尿道の断面積を3つの部位(近位S状結腸屈曲、遠位S状結腸屈曲、および亀頭)で測定しました。対照動物の陰茎は、2週齢および3ヶ月齢の去勢動物の陰茎と比較して、有意に長く、直径が大きかった。対照動物の尿道断面積は、グループ1および2と比較して、3つの選択された部位で有意に大きかった。この研究の結果は、去勢が陰茎および尿道の正常な発達に悪影響を及ぼし、Awassi子羊が早期に去勢されたことを示している。年齢は、ペニスが小さく、尿道が狭くなっています。
キーワード:アワシの子羊、去勢、発達”

https://edis.ifas.ufl.edu/publication/AN289
“業界の推奨事項では、一般的に、子牛は出生後できるだけ早く去勢することを推奨しています(Bretschneider2005)。一般的な信念は、若くて性的に未熟な子牛の去勢は、ストレス反応をあまり誘発せず、去勢に関連する失血のリスクと感染の可能性を減らすというものです(King et al。、1991; Lyons-Johnson 1998; Stafford and Mellor 2005) 。同時に、多くの生産者は、去勢が早すぎると、出生から離乳までの雄牛の子牛の成長率が低下することを懸念しています(Lehmkuhler2003)。いくつかの研究は、授乳期に雄牛が去勢牛よりわずかに速く成長することを示唆しています(Klosterman et al。、1954; Marlowe and Gaines1958)。しかし、他の研究者は、これらの違いは遺伝的選択によって得られた改善に よるものであると提案しています(Cundiff、Willham、およびPratt1966)。
去勢後期と比較して、初期の子牛の成長率に差は観察されませんでした。この試験および他の試験からの子牛の成績の結果は、去勢をいつ実施するかを生産者が決定する際にある程度の柔軟性があることを示唆しています。生産者は、出生時または出生直後の去勢が子牛の成績や最終的な離乳時の体重に悪影響を及ぼさないことを認識する必要があります。同様に重要なこととして、生産者は、子牛が生後約131日になるまで去勢を遅らせても、そのような管理慣行を支持する生産者の哲学やマーケティングの主張にもかかわらず、離乳時に利益の増加をもたらさないことを理解する必要があります。”

http://jlia.lin.gr.jp/cali/manage/121/s-semina/121ss1.htm
“最近、集団で実施している例で2ヵ月齢程度でも作業の都合で一緒に実施してしまうことが多く、発育を低下させる一要因になっています。また、早期去勢は尿道の発育を阻害し、肥育に入ってから尿石症になりやすい例も見受けられます。一方では育成の初期は雄性を利用して発育水準を高め、胃や筋肉成長を促す方が有利なことや、直検(種雄牛を育成するための合否を直接検定する方法)落ち(12ヵ月齢)後に去勢肥育した枝肉のBMS(育種価)が高い事例があります。肉質の評価の良い兵庫の血液の割合が高い場合には6カ月齢去勢でも上物率が高い例があることを考えると、従来の去勢時期を若干遅らせて、4~5ヵ月齢で実施をした方がよいように北海道の場合は思います。表-4に去勢時期と産肉性を調査した成績を示しました。この成績では230kg体重時の去勢牛の脂肪交雑が最も高く、増体、歩留りも優れていることを示しています。これより遅かったり、未去勢牛の場合BMSは明らかに低下しています。実際の去勢作業の場合危険性を考えると、月齢が進み、体を大きくすることは避けなければなりません。4~5ヵ月齢が無難なところと考えられます。”

8.鼻環

鼻環を装着することで係留や捕獲、行動制御が容易になります。

生後3ヶ月くらいまでは哺乳していることや、顔の大きさがまだ小さいこともあり、4ヶ月くらいから装着することが多いです。

左右の鼻孔の間、鼻中隔の鼻先側に、薄い膜の部位がありますので、ここに穴を開け装着します。

鼻中隔の奥の方には軟骨があり、ここには開けないようにしてください。奥深くに装着すると激痛のためむしろ牛を制御し難くなります。

膜部分と軟骨部分を、人差し指と親指でつまんで確認してください。

最近はプラスチック製で穴を開けると同時に装着できるものが主流です。特に寒い地域では、金属よりプラスチックの方が安心です。

7.耳標と和牛登録

(1)随時届出が必要な事項

日本にいる牛は、牛トレサ法(牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法)によって個体識別番号を付与され、データベース化して管理されています。

https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/trace/

牛の管理者は、牛トレサ法に基づき、牛の両耳への耳標の装着と出生、転入、転出、死亡の届出を行うことが義務付けられています。

届出はブラウザからこちらのページより行えます。https://www.id.nlbc.go.jp/top.html?pc

自治体によっては畜産課などが代行してくれる場合がありますので、ネット環境がない方は相談してみてください。

(2)耳標

耳標の取り付け方法、届出方法の詳細ははこちらに記載があります。https://www.id.nlbc.go.jp/pdf/202108Manual_for_farmer_all.pdf

耳標は専用の取り付け器具を用いて、耳介の中心に取り付けます。躊躇すると牛が動くため余計に傷つけてしまいますので、一気に挟んでください。

(3)子牛登記(和牛)

黒毛和種の子牛の場合は、個体識別番号とともに全国和牛登録協会に和牛として登記、登録をしなければなりません。

これを行わない場合は黒毛和種として認められませんので、売買や繁殖させる際に品質が証明出来なくなるからです。

登記検査は生後4ヵ月以内に行います。個体の確認(鼻紋の採取)、親子の確認(場合によっては遺伝子型検査を実施)、性別、生年月日、妊娠期間等、個体の情報として基本的な事項を確認します。

この検査で一定の資格条件を満たせば、生後6ヵ月以内に「子牛登記証明書」が発行されます。

牛の鼻にある紋様を鼻紋といい、人間の指紋と同じように利用するものです。これを登録証に添付するため、鼻鏡にインクを塗り鼻紋スタンプを取ります。

登記検査時に、個体情報と個体識別番号が関連付けて登録されます。

和牛の登記実務について

(4)母牛登録(和牛)

子牛登記された個体を繁殖させたい場合は、改めて登録審査が必要になります。

登録審査は生後16ヶ月以後30ヵ月未満の繁殖牛に対して行います。書類の確認,個体の確認、体型測定を行い、1頭ごとに審査得点を付け、繁殖牛として適しているかどうかを判断します。一定の資格条件を満たせば「登録証明書」が発行されます。

牛飼いの基本作業6

6.除角

飼育地域や飼育方法、好みにもよりますが、闘争の予防や人間側の怪我予防のために、除角をすることがあります。

(1)クリームを用いた除角

角芽周囲の半径2cmほどに、角の成長組織を壊すクリームを塗布する方法です。毛刈りした後に塗布し、その後数時間は頭部を擦ったり舐め合ったりしてクリームが取れないよう気をつけて管理します。

http://thms.jp/thms201602-001.pdf

生後1ヶ月以内のまだ角が小さなうちに処置します。

除角クリームとか除角ペーストなどと呼ばれて市販されています。KOHを用いて自作する方法もあるようです。

使用感はケースによりさまざまな意見があります。ストレスが少ないという意見もありますが、皮膚を薬品により壊す方法ですので、ある程度は疼痛もあります。目標部位以外、特に眼などに付かないよう注意が必要です。

(2)角周囲の皮膚を焼烙する方法

広範囲を焼ける焼きごてか、径3〜5cmのパイプのような先端をもつ焼きごてを用います。

生後1ヶ月以内のまだ角が小さなうちに処置します。

ペーストを使う場合と同様に角芽周囲の皮膚を焼き壊すか、角の生える部分の皮膚を皮膚を焼き切る事で角が生えないようにします。パイプ型の場合は皮膚ごと剥がす場合があります。この場合は頭蓋骨が露出しますので、感染予防に抗生物質等を使用します。

いずれの場合も頭部を焼烙するため、脳に熱傷を与える場合があります。

(3)子牛の除角

生後1ヵ月を過ぎたら、伸びてきた角を切り取る必要があります。ニッパーのような除角器で角を切り取ります。

切り取った後、根元の皮膚を焼烙することで、その後角が伸びてこないようにします。

ウシ科の角は頭蓋骨の角突起が芯になって、皮膚が爪のように変化した角鞘に覆われています。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E8%A7%92

https://www.shepherd-clc.com/archives/14865

http://jlia.lin.gr.jp/hi_wakaushi/pdf/2-7-1.pdf

皮膚の最下層を胚芽層といい、角の根元の胚芽層が成長して角が伸びます。ですから角の根元の皮膚を深層まで焼烙することで、その後の角の伸長が抑えられます。

資料1 p5
http://www.city.oshu.iwate.jp/htm/ushi/03_back/archives/01/23.pdf

すでに角突起(頭蓋骨が伸びた角の芯)が形成されている場合は、皮膚の切除創からだけでなく角突起の切除創からも出血します。これも焼烙により止血します。

処置後はハエが産卵したり、感染症にならないよう汚染を防ぐため包帯やテープによる被覆を行い、また抗生物質の投与を行います。

(4)成牛の除角

成牛の場合は、かなり太い骨を切る処置になります。

角突起には血管が通り、根元近くでは中が空洞化して頭蓋内と通じています。また角鞘の内側にも血管が通っています。

成牛の除角をする場合、どの部位から切るか目的に応じて選択します。今後完全に生えてこないようにするためなら、かなり頭蓋骨近くの根元から切る必要があります。人の事故や牛同士の闘争を予防するためなら、武器にならない長さまで短くする必要があるでしょう。角が巻き込んで自身の顔面を傷つけるのを防ぎたいなら、先端のみの切除でいいかもしれません。

基本的に頭蓋骨に近いほど血管は太く多く、角突起の内腔は大きくなり、除角した時に与える障害は大きくなります。概ね先端の1/3くらいであれば出血も僅かで空洞もない事が多いです。

角突起内の空洞が大きく開いてしまった場合は、雨水やハエ、埃などが頭蓋内に入れる状態になってしまいますから、当分の間、結合織がその孔を埋めてくれるまでの間は、テープ等で被覆しておく方が安全です。

手順1(保定と麻酔)

首をスタンチョンや柵等から出して、横向きにロープで固定します。

手順2(駆血)

牛の角に向かう血管は、角の根元と耳の根元の間にあります。ですからハチマキのように縛ると、除角後の出血が抑えられます。ビニールテープで強めに数回巻いてください。

手順3(麻酔)

キシロカイインまたはプロカインを用いて麻酔します。こめかみ、角と耳の間、さらにその中間の3ヶ所皮下に注射して神経遮断する伝達麻酔です。それぞれ5ml、2ml、2ml注射します。

手順4(切除)

塩ビパイプ用のノコギリを使います。除角専用の線鋸もありますが、力の入れ方がやや難しいのと、清潔に保つのが難しいです。

大きなニッパーのようなギロチン式の切除器具を使う場合もあります。

スムーズに切除できて、清潔に保てる器具であれば、結果的に疼痛が少なく、感染の可能性が少なくなります。

手順5(止血)

焼烙により止血します。電気ごてを使うか、炭で熱した鉄ごてを使います。出血がない場合は不要です。

手順6(感染予防)

切除部を包帯やテープで被覆します。ハエの産卵や雨水、汚染を防ぐためです。耐水性の素材が望ましいです。

処置時に汚染してしまった場合は抗生物質を使用する場合があります。

手順7(駆血の解除)

除角後半日ほど経過したら、手順2の駆血帯を取ります。これを忘れると、頭の皮膚が広範囲に壊死してしまうため、忘れることのないよう気をつけてください。駆血帯は目立つ色のものを使用することをおすすめします。

駆血帯の除去後、再出血がないか確認し、必要であれば再度止血処置をします。

手順8(治癒確認)

翌日から3日は食欲の低下や発熱がないか確認します。

処置後7日ほどで化膿がないか確認します。

5.哺乳(牛飼いの基本作業)

繁殖和牛も乳牛も、農場には必ず産ませた子牛がいます。乳牛も子牛を産ませなければ乳を出せないからです。

繁殖和牛の場合は自然哺乳(親に哺乳してもらう)の場合と人工哺乳(人が粉ミルクを与える)の場合があります。乳牛は乳が製品になりますから、人工哺乳することになります。

(1)自然哺乳

自然哺乳の場合は、子牛は飲みたい時に飲む事になります。朝一番に母牛が立ち上がってすぐ、おなかをすかせた子牛は乳首に吸い付きます。

実際に飲んだ量を把握するには飲む前と後で体重を比較すると測れますが、普段の管理では普通そこまで行いません。ちゃんと飲めているかは観察により推定する事になり、飲む勢いと、おなかの張り具合で判断します。また飲んでいる時間の長さがとても長い時は、母乳が不足している可能性があります。

(2)人工哺乳

人工哺乳の場合は、1日2〜3回給与します。体格に応じて1回に2〜3リットル(黒毛和種の場合)給与します。

哺乳中は元気さや食欲と共に、その他の異常が見られないか観察します。

哺乳瓶を洗浄、消毒し、38℃の温湯に粉ミルクを溶かし給与します。頭数が多い場合は時間がかかるため、給与時に冷めてしまわないよう注意が必要です。

哺乳瓶が汚れていたり、濃度や温度が不定であったりすると下痢の原因となります。また哺乳に時間がかかるからと哺乳瓶の孔を拡げ過ぎると下痢の原因となります。