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山羊の診療Diary 症例13 ~犬による咬傷~

*山羊の診療Diary  症例13  ~犬による咬傷~

今回の症例は・・・

山羊さんが犬に咬まれてけがをしているという連絡がありました。

ご自宅に伺って見ると・・・
オーナーさんのお家のお庭で暮らしている
山羊のめーめーちゃんが元気なくうつむいていました。

オーナーさんにお話を伺ってみると、
昨日の夜中に、野犬に襲われているところを近所の人が気がついてくれて、
助けたときにはすでに咬まれた後だったということでした。

ケガの状態を見てみると・・・
両方の後ろ足が血で汚れています。
出血の場所や咬まれた場所はどこかを確認するために
はじめにお水で洗浄しました。

犬による咬傷を水で洗浄

すると両後ろ足の太ももの部分に傷が見つかりました。

傷のまわりの毛をカミソリで剃り、さらに傷を洗浄して消毒をしました。

山羊の傷を洗浄し消毒

そして、
傷を保護するために包帯をつけました。
最後に抗生物質の注射をして、今日の治療は終わりになりました。

包帯と抗生物質

傷が化膿しないようにオーナーさんに明日から抗生物質を飲ませてもらうことに。

 

山羊への抗生物質の飲ませ方(投薬)

投薬の仕方は
お口の脇から歯のないところに指を入れて、そのまままっすぐ、のどの奥にお薬を入れます。
お口を手で押さえて閉じて、ごっくんと飲み込むまで待ちます。

山羊に抗生物質を飲ませる

1週間後、傷の様子を再診することになりました。

犬による咬傷のヤギ経過観察

野犬に襲われてしまった、めーめーちゃん。
いつもは小屋で夜、過ごしていますがこの日はたまたま
外に出たままになっていたそう。

 

ヤギ小屋に野犬が侵入できないよう、定期的な点検を

診療の後、オーナーさんはめーめーちゃんが再度、犬に襲われないように
夜はこれから必ず小屋にしまうとお話されていました。
そして、犬が入れないか山羊小屋の点検もされていました。

山羊さんが野犬に襲われる事故があるので、夜間はとくに山羊さんが
安心して過ごせるよう、山羊小屋に野犬が侵入できないかなど
気をつけてあげてくださいね。

続きの記事: 山羊の診療Diary 症例13-2 犬による咬傷(経過)

3-3=12? 牛の分娩予定日 算出方法

たまには牛さんのこと。

突然ですが・・・計算問題です。

3-3=?

私が大きな声で0といったら、
農家さんも院長先生も・・・みんなあきれ顔。
ほんとうなら答えはあっているのに!!
なんでー。

牛の農場では

3-3=12
2-3=11
1-3=10

になります。

いったいこれは何の式?

これは牛の分娩予定日の算出方法なのでした。

 

牛の分娩予定日 算出方法

牛の妊娠期間は285日。
えーっと。
今日種付けした牛はいつ生まれるかというと・・・。
普通に考えると頭がこんがらがるので
簡単に出産予定日を算出できる式があります。

牛の分娩予定の算出方法は・・・

種付けの月から3を引いて、日にちに10を足す

です。

だから先ほどの式をよく見ると・・・

3月の3か月前=12月
2月の3か月前=11月
1月の3か月前=10月

なのでした。

たとえば・・・
10月20日に種付けなら?

→10月から3を引いて7月、20日に10足して30日。

答えは7月30日に出産予定になります。

わーい、簡単にできた!

これならすぐに種付け日から出産予定がわかりますね。

それでは早速練習してみましょう~。

 

*練習問題

4月5日種付けなら?

→4月から3を引いて1月、5日に10を足して15日。

答え 1月15日に出産予定

 

*応用問題

2月3日種付けなら?

→2月から3を引いて-1月は11月、3日に10を足して13日。

答え 11月13日に出産予定

 

*さらに応用問題

1月25日種付けなら?

→1月から3を引いて-2月は10月、25日に10を足して35日・・・35日は次の月に繰り上がって4日になります。

答え 11月4日に出産予定

できましたかー?

 

ヤギの分娩予定日 算出方法

そして、最後はやっぱり山羊さんのこと!
山羊さんはというと・・・
妊娠期間が150日(5か月)なので、
種付けした月に5を足すだけで大丈夫です。なんてシンプル!

わたしはやっぱり山羊が好きー。子ヤギ

山羊の診療Diary 症例12-2 山羊の起立不能(経過)~腰麻痺疑い~

*山羊の診療Diary  症例12-2 山羊の起立不能(経過)~腰麻痺疑い~

前回の記事「山羊の診療Diary  症例12  山羊の起立不能(初診) ~腰麻痺疑い~」の続きです・・・

 

腰麻痺の詳細については、山羊の診療note6 ~腰麻痺(脳脊髄糸状虫症)について~ にも詳しく說明をしています。

診療2日目: 腰麻痺の疑いから、駆除剤の注射を継続

腰麻痺の疑いで、立てなくなってしまったみやちゃんの再診2日目です。
今日も駆虫剤の注射を続けます。

腰麻痺は、指状糸状虫によって神経が損傷された部位にもよりますが
神経の損傷が軽いうちに駆虫剤の投与を行えば回復の可能性が高くなります。
その経過は、1日で回復することもあれば、1ヶ月以上経ってから回復することもあります。
しかし、残念ながら、麻痺がそのまま残ってしまうこともあります。

 

回復までの間に飼い主さんができること。看護とリハビリの重要性

治療自体は駆虫剤の投与で終わりですが、
回復までの間に飼い主さんができることがあります。
それは、看護とリハビリです。
座りっぱなしによる褥瘡(床ずれ)や誇張症を防止すること、
栄養状態が悪くならないようにすることが大切です。
また、足腰の筋肉が弱らないようにリハビリも重要になってきます。

今回、みやちゃんの看護とリハビリについていろいろ考えました。
先ほどの理由により、
一日に何度か立たせてあげることが必要ですが、
みやちゃんは70kg体重があり、なおかつ出産前でおなかも乳房も大きくなっています。

 

ロープワークのアイデアを応用し、リハビリに活かすことに

そこで、ロープを使って、お腹や乳房に負担にならないように縛り、
オーナーさんが一人でも滑車などを使って持ち上げるのはどうかと考えました。

はじめに、ゆうきさんにロープワークのアイディアをいただいて、
まずは小さな山羊さんで練習。

山羊ロープワークの練習

その後、院長先生にその縛り方を応用していただいて、
最終的にオーナーさんと一緒に持ち上げることができました。

ロープワークで山羊を持ち上げるロープでリハビリをする山羊
ヤギ腰麻痺のリハビリ
そして、一週間一日3回くらいみやちゃんをも持ち上げてもらい、
リハビリをしていただくことになりました。

 

1週間後・・・自分で立とうとする意欲が生まれる

オーナーさんの懸命な看護とリハビリの結果、
みやちゃんは後ろ足と前足の片方には力が入るようになり、
そして、自分で立とうという意欲が出てきました。

自分で立とうとする山羊

しかし、前足の片方が曲がったままになり伸ばせなくなっているのは続いていました。

前肢の麻痺

みやちゃんは今回、前足に強く症状がでているようです。
腰麻痺という名前から腰や後ろ足が麻痺してしまうイメージを受けますが、
このように前肢の麻痺で立てなくなることもあります。

前足に、義足のような支えになるものがあればもしかしたら立てるかもしれないと
可能性を探っています。

今後もリハビリを続けていただきながら、出産まで頑張れるように
みやちゃんとオーナーさんのサポートを続けられたらと考えています。

*山羊の診療Diary  症例12  山羊の起立不能(初診) ~腰麻痺疑い~

*山羊の診療Diary  症例12 山羊の起立不能(初診) ~腰麻痺疑い①~

今回の症例は・・・

出産を1か月後に控えた山羊さんが立てなくなったという連絡が来ました。

みやちゃんは体重70kgくらいのおっきな山羊さんです。

大きな山羊

まずはじめにみやちゃんのオーナーさんからお話を伺いました。
昨日から急に座り込んでしまい立てなくなってしまったそうです。
食欲と元気はあって、うんちやおしっこも問題ないということでした。
そして、一ヶ月後に出産を控えているとのことです。

診察をしてみると・・・

体温 39.5℃
咳やくしゃみなし
触診で肢に骨折やケガなどなし
右側の乳房腫脹
脱水 なし
聴診異常なし
腹部 妊娠により大きくなっている以外は膨満などなし
便確認 問題なし
陰部からの触診 外子宮口 指1本分開口

 

山羊が「立てなくなった」(起立不能)のときに考えられる病気

山羊さんが「立てなくなった」という症状があるときに考えられる病気は

・腰麻痺
・骨折や捻挫など後ろ脚の異状
・誇張症などの胃腸の病気
・感染症による発熱で全身症状が悪化している
・乳房炎

などがあります。

今回、みやちゃんの問診及び診察から、
腰麻痺が一番に疑われました。

 

腰麻痺(脳脊髄糸状虫症)とは。主な症状

腰麻痺とは指状糸状虫という寄生虫が蚊から山羊さんの脳や脊髄に入り、
神経を損傷する病気です。
感染後、2週間~1か月後に症状があらわれます。
そして症状は神経が損傷された部分によって異なります。

主な症状として・・・

・突然の腰部や後肢の麻痺
・歩様のふらつき
・起立困難
・頭が片方に傾く(斜頸)
・顔面神経麻痺により涎を垂らす、ごはんが食べられなくなる
・前足の麻痺で起立できない

などがあります。

腰麻痺は山羊さんにとって重要な病気の一つなので改めて
下記の「山羊の診療note6 : 腰麻痺(脳脊髄糸状虫症)について」でお話ししますね。

山羊の診療note6 ~腰麻痺(脳脊髄糸状虫症)について~

 

ヤギ腰麻痺の治療内容

今回の治療は・・・
・イベルメクチン注射

腰麻痺の治療のため、駆虫剤のイベルメクチンの投与をおこないました。
これは症状が出ているため3日間続けます。

・抗生物質の投与

乳房に熱感・硬結があり産前の乳房炎の可能性も考えられたので
抗生物質の注射をしました。

・ブドウ糖静脈注射
食欲はあるというもののいつもより量が少ないので食欲刺激のため
ブドウ糖の投与を行いました。

最後に、
オーナーさんに、立てないみやちゃんがごはんを食べやすいように、
お顔の前にごはんを置いてあげることや体の下に乾草などを敷いて、
褥瘡ができないようにしてもらうことをお伝えし初日の診療は終わりました。

続く・・・

続きの記事: 山羊の診療Diary 症例12-2 山羊の起立不能(経過)~腰麻痺疑い~

☆☆書籍のご案内☆☆

書籍「ヤギの診療」 
著 寺島杏奈
出版 日本橋出版
2022.7.31発刊

腰麻痺についてだけでなく、ヤギの飼い方、消化の仕組み、診断の方法、他のよくある病気についても体系的に解説しています。

☆☆☆☆

同じ景色、違う想い

診療の途中…

突然現れた

お花畑

そばのお花が満開でした

お花畑って夢のよう

揺れるお花を見ていたら

昔読んだ

絵本を思い出した

小さな白いお花畑で

ひとりでぽつんと

空を見ていた

迷子の子羊

同じ景色をみても

感じることは

みんな違う

ひとりひとりの

違う世界

同じ景色と違う想い

あなたにはどんな風に

みえますか?

違うからこそ

その想いを

映してみたい

でもね

わたしは信じている

その違いを超えた

ずっとずっと

奥に

普遍的な世界があって

そこでまた出会える人がいる

ことを。

山羊の人工授精チャレンジ ~精液の性状~

山羊の精液についての調査

私の目標は凍結精液での現場でできる人工授精です。
しかし、まずは受胎率の高い液状精液での人工授精も考えはじめたので、
山羊の精液について調べてみました。
(液状精液での受胎率60~70%、凍結液精液での受胎率20~30%)

まずはじめに精液が正常かどうか検査をする

液状精液は、雄山羊から精液採取した後、はじめに精液が正常か検査をします。
そして液状保存用希釈液で薄めて、2時間程度かけて4~5℃に温度を下げます。
その後、遮光して冷蔵庫で保存して、人工授精に利用します。

日数経過による状態変化

1週間保存は可能ですが、3日間以内に使用すると良好な受胎率が期待できるとのことです。
実際、私は長野支場に研修に行ったときに、2頭の雄の精液を、
3日目と5日目に顕微鏡で見せてもらいました。
3日目は2つとも精子の活力が良好でしたが、
5日目は1つは良好、もう一つは活力がかなり落ちていて、
人工授精では使用できない状態でした。

 

精液検査の方法

精液の検査は…

*肉眼的検査

・精液量 1ml (0.5~1.5ml)
・色   白色~クリーム色
・におい 無臭
・PH   6.8(6.4~7.1)
・雲霧状態 +++
・粘稠度 濃厚で粘稠
・活力概観 渦流
・比重 1.032~1.047 (平均 1.039)

*顕微鏡検査

・活力、生存率 90+++,90%以上
・精子数 20億/ml(11~40億/ml)
・奇形率 10%以内

 

*不良精液

・無精子のもの
・血液(精液がピンク)や尿、膿の混入
・精子の生存率、活力が極端に悪いもの
(新鮮精液で生存率が50%以下のもの。活力++以上のものが50%以下のもの)
・奇形率が極端に高いもの(山羊の平均奇形率は22%)
・PHが著しく酸性またはアルカリ性のもの

そして、
山羊さんはは家畜の中で精液量が最も少なく(平均1ml)
逆に最も精子濃度が濃く、精液量の約1/3を精子が占めています。

山羊の診療Diary 症例11 山羊の跛行

*山羊の診療Diary  症例11 山羊の跛行

今回の症例は・・・

ゆうきさんのお家の山羊さんたちに夕方ごはんをあげにいくと、
その中の1頭の山羊さん、ゆきちゃんが右後ろ足を痛そうにしていることに気がつきました。
昨日までは元気にしていたのにどうしたのでしょう。
ゆきちゃんの様子をみていると食欲と元気はあります。

 

ヤギの跛行診察。触診時には「痛くないところから触る」

それではさっそく診察をはじめましょう。

まずは視診。歩く姿を観察してみます。

すると、ゆきちゃんは右後ろ脚をあげて歩いています。

足を挙上(上げる)する病気は

・骨折、捻挫
・背骨、股関節、膝、蹄などの異常
・神経や筋の損傷
・靱帯と腱の損傷
・蹄の間に棘が刺さる

などがあります。

次に触診をしていたい部分を確定します。
触診時気をつけるところは

「痛くないところから触る」です。

なぜかというと、
痛いところから触ると、痛みで動物が嫌がったりびっくりして
その後、どこを触っても痛がる反応や嫌がる反応をするようになり、
本当に痛いところがどこかわからなくなってしまうからです。

ゆきちゃんの肢を触診してみると、
足根骨(踵)の部分が腫れて痛みがあることがわかりました。

ヤギ足根骨(踵)の腫れ

さらにその部位は熱感がありなにか液体が入っているような感触がありました。
そして、腫れている部分の皮膚を見るとごっそり毛が抜けていました。

また、腫れている部分の液体が何か確認するために
針を刺しました。(穿刺検査)

ヤギ足の穿刺検査

吸引された液体はさらさらした薄いピンク色の漿液でした。
もし、膿が出てきた場合は、細菌感染からの化膿性関節炎が疑われます。

もしかしたら、ゆきちゃんはどこかに足を挟んでしまったのかもしれません。
そこから足を外そうとしたときに挟まっていた毛がごっそり抜けてしまった可能性がありました。

 

治療内容。抗生物質と抗炎症剤の注射、鎮痛・消炎効果のあるカンメルブルーを塗布

以上のことから今回ゆきちゃんの治療は・・・

今後の感染を防ぎ痛みや腫れを取り除くために、
抗生物質と抗炎症剤の注射をしました。

抗生物質と抗炎症剤の注射

そして、患部には鎮痛・消炎効果のあるカンメルブルーを塗布しました。
腫れが引くまで1日2回肢にスプレーを続けてもらうことにしましました。

カンメルブルーを塗布

このスプレーは名前の通り青色なので
ちゃんとお薬がついているのかわかりやすいです。

次の日はまだ足を引きずり腫れがありましたが
2日後には元気なりました。
そして、山羊さんは隙間などに足を挟んでしまうことが多いので
この後、ゆきちゃんの小屋に危ない場所がないか確認しました。
山羊さんが隙間に足を挟むとひどいときには骨折などの事故にもつながりますので、
山羊小屋の隙間など山羊さんにとって危ない場所がないか気をつけてあげてくださいね!

山羊の診療note5 ~繁殖季節について~

やぎの診療note5 ~繁殖季節について~

わたしたち人間は、毎月誰かのお誕生日がありますよね!
一年中、赤ちゃんが誕生しています。

さて山羊さんたちはどうでしょう?

山羊さんの赤ちゃんをよく見る季節があるように感じませんか?

春になると子山羊さんが生まれましたというお話を聞きませんか?

そうなんです。山羊さんは赤ちゃんを作れる季節と作れない季節があるのです。

 

ヤギの繁殖季節について。品種や地域の違いで季節繁殖と周年繁殖に分かれる

一般に雌山羊さんの多くは秋になると(日の長さが短くなる)赤ちゃんを作る繁殖季節を迎えます。

しかし、全部の山羊さんが繁殖季節を持っているわけではありません。

品種や地域によって繁殖季節のあるもの(季節繁殖)と一年中、発情をを示すもの(周年繁殖)があります。

*ヤギの品種で考えると・・・

ザーネン種は季節繁殖(9月~1月)で、
シバ山羊は周年繁殖です。

*地域で考えると・・・

高緯度の地域 季節繁殖
低緯度の地域 周年繁殖

となります。

 

なぜヤギの繁殖季節に緯度が関係するのか

なぜ、ヤギの繁殖季節に緯度が関係するのでしょう?

 

日長の変化の差によって、発情シーズンが異なってくる

山羊さんは昼の明るい時間が短くなる(短日性)と発情を開始します。

これを山羊さんの体のしくみから見てみると・・・

日が短くなり、夜が長くなると山羊さんの目の網膜が日長の減少を感知します。
すると夜の暗いときに出る「メラトニン」というホルモンが増えます。
このメラトニンがさらに発情に関連するホルモンの分泌を促して発情シーズンが始まっていきます。

高緯度の地域は日長の変化が大きいため、このようなしくみで季節繁殖を示しますが
低緯度の地域は日長の変化が小さいためはっきりとした繁殖季節を持たず周年繁殖を示す傾向になります。

面白いことに、季節繁殖型の品種の山羊さんを緯度の低い地域で飼育すると日長の変動が少なくなるため、
周年繁殖の形態になり、反対に周年繁殖の山羊さんを日長の変動が大きい高緯度の地域で飼育すると季節繁殖の形態になるそうです。

また、東南アジア等の雨期・乾期がはっきりしている地域で、粗飼料のみで飼育されると、
草が豊富な雨期に発情がくることがわかっています。

私の住んでる地域の山羊さんははザーネン種がもとの雑種が多いので季節繁殖を示す山羊が多いですが、地域の特性(緯度が低い)や雑種の品種の混ざり具合によって、
周年繁殖を示す山羊さんもいます。

このように、雌山羊さんのからだは日の長さや季節を感じて、
発情に関連するホルモンが分泌され、赤ちゃんを作る季節が決まっていきます。

 

雄山羊は季節を問わず、繁殖をすることは可能。しかし季節により活動能が異なる

一方、雄山羊さんはというと・・・

季節繁殖型の雄山羊さんも1年中交尾をすることが可能です。
しかし雌山羊さんの繁殖季節の方が性欲が高まり射精回数も増加、精子の活動能も高まります。

確かに、私が繁殖季節の11月に長野支場に伺ったとき、
ザーネンの雄山羊軍団は雌山羊さんたちを見るとふごふごいって大興奮していました。
しかし、3月に伺ったときはすっかりおとなしく、ぼーっとしていました。

それでもやっぱり、お隣のおんなのこたちが気になる雄山羊さん。

雄山羊

 

雌山羊さんたち。

雌山羊

なんだか雄ってシンプルですね。(ひとりごとです。。。)

(写真 家畜改良センター茨城牧場長野支場にて撮影)

山羊の人工授精チャレンジ しろちゃん自然周期人工授精③

山羊の人工授精チャレンジ しろちゃん自然周期人工授精③

前回のしろちゃん人工授精チャレンジの結果報告です。
前回の記事: 山羊の人工授精チャレンジ しろちゃん自然周期人工授精②

3月4日に人工授精をしてから40日目の妊娠鑑定を行いました。

妊娠していますように!!とエコー開始。

エコー検査など、妊娠鑑定方法などはこちらの記事をどうぞ。
山羊の人工授精チャレンジ 妊娠鑑定方法

エコー診断

結果は・・・

羊水に浮かぶ赤ちゃんをエコーで確認できず・・・
残念ながら、今回も妊娠していませんでした。

 

わたしはがっくり…自然周期で妊娠を確認したかったな。

でも!!落ち込んでいても、何もはじまらないので、

急遽、その場で院長先生とゆうきさんと作戦会議。

そして、基本を一つずつ見直していくことになりました。

 

人工授精の基本を見直し

・凍結精液の性状を確認する

→凍結精液の精子の活性を確認する。

精液の性状について、詳しくはこちら。
山羊の人工授精チャレンジ ~精液の性状~

・人工授精をする山羊の数を増やす

→もしかしたら、しろちゃんが妊娠しにくい山羊さんの可能性がある。
出産後60日経過して、人工授精にチャレンジが出来る山羊さんたちがいるので
しろちゃんと一緒に発情の誘起、同期化して数を増やしてチャレンジする。

・液状精液を作成してみる

液状精液は1発情あたり60~70%の受胎率があり、凍結精液は20~30%と低い。
そのため、受胎率の高い液状精液の人工授精から試してみる。

・ホルモン剤による発情の誘起・同期化を行う

わたしの住む地域の山羊は雑種が多く、緯度が低いためはっきりとした繁殖シーズンを持たない
山羊さんもいる。しかし、出産は1月~3月が多いのでザーネン種と一緒で、
9月~11月が繁殖シーズンとしている山羊さんが多い。
そのため、非繁殖シーズンである今、ホルモン剤による発情の誘起が必要になる。

まだまだはじまったばかり。
やれることはたくさんあるので、心折れずにがんばろう!!

山羊の診療Diary 症例10 尿道の異所開口

山羊の診療Diary  症例10 尿道の異所開口

今回の症例は・・・

はっきりとした診断と治療ができなかった症例です。

この症例に出会ったのは、
牛の往診時に牛舎の隣にいた山羊さんを見たときです。
その山羊さんのお腹に何か見慣れない塊があったのに気が付きました。
オーナーさんにお話を伺うと、
しばらく前からお腹のところにこの塊はあるとのこと。
食欲・元気はあり、おしっこもでているということでした。

写真はこちらです。

ヤギの尿道異所開口

陰茎の横の皮膚が大きく膨らんでいました。
この時点ではこの塊が何かわからないので一つずつ検討していくことにしました。

はじめに、包皮の入り口のところが炎症を起こしており化膿していたため洗浄をしました。

ヤギの包皮洗浄

次に、膨らんでいるところが包皮なのか、皮膚なのかを確認するために
カテーテルを包皮の先端に挿入して生食を注入しました。
そして、包皮の外周を確認しましたが、水疱と包皮腔は繋がっていないようでした。

カテーテルを包皮の先端に挿入して生食を注入

最後に塊の中のものが、液体のようだったので、針を刺して溜まっていたものを採取し確認しました。
その結果、中身は尿であることがわかりました。

尿が溜まっていた

 

ヤギの包皮の一部が炎症を起こして癒着していると予測したが…

この時点で、図3の状態を予測しました。

図3

包皮の一部が炎症を起こして癒着していると予測

・包皮の一部が炎症を起こして癒着していると予測。
・陰茎の先から出た尿が袋状の部分(A) に溜まっていると考えた。
・カテーテルを通すことを試みましたが通らず。
・針を刺して一度尿を抜いた後、どれくらいで溜まるのか経過を見ようと思った。
→すぐに溜まって元に戻った。

 

予測に反したため再度検討。尿道の異所開口として経過観察

予測とは違う結果になったため、再度検討をおこないました。
そこで、尿が溜まったAの袋を圧迫して、尿が排出される場所を確認してみることにしました。
すると、陰茎の先から尿が出てきました。
この結果、陰茎の一部に穴が開いていてそれがAの部分に貯留していることが示唆されました。

現時点で尿道の異所開口として経過を見ています。

治療法としては、この尿道の穴を塞ぐ外科手術が検討できますが、
場所が常に尿で濡れてしまうこと、床の糞尿での汚染も考えられ、
外科手術後の経過が難しいことが予測されました。
オーナーさんと相談の上、排尿はできていることから経過観察することになりました。

このような症例が他にないのか、論文など検索してみたいと思います。