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山羊の診療Diary  症例16 腰麻痺疑い ~治療をしないという選択~

*山羊の診療Diary  症例16 腰麻痺 ~治療をしないという選択~

今回の症例は・・・

昨日から雄山羊が立てないから診察してほしいという連絡がありました。
現場に向かってみると100kg以上はある大きな雄山羊さんが座り込んでいました。

座り込む大きな雄山羊

さっそく、オーナーさんからお話しを伺うと、
4~5日前から、いつも決まった場所におしっこをするのにその場所まで行かなくなったそうです。
観察していると歩き方がおかしくて動くのが辛そうに見えた、
そして、今日から後ろ足が立たなくなってしまったということでした。
また、食欲、元気はあっておしっこ、うんちは問題ないということです。

後ろ足が立たなくなったヤギ

診察してみると・・・
体温 39.8℃
聴診 問題なし
腹部 ガスの貯留など膨満なし
後肢 立てない。
蹄から腰まで観察するものの外傷(ケガ)や骨折、股裂けなどなし。

以上のことから、
オーナーさんのお話し、診察を合わせると「腰麻痺」が強く疑われました。

腰麻痺については、山羊の診療note6 ~腰麻痺(脳脊髄糸状虫症)について~ に詳しく記載しています。

治療の話を始める前に、2つの選択肢を提案

今までの症例では、治療のお話しからはじめます。

しかし、今回ははじめから2つの選択肢を提案しました。

それは、

「治療する」

もしくは

「治療しない」

という選択です。

それでは、今までの症例と今回は何が違うのでしょう?

 

「産業動物としての山羊」という観点から

私の住む島では山羊肉を食べる文化があります。
このオーナーさんは畜産農家さんとして山羊を飼養しています。
山羊農家さんとして、地域の食文化を支えているのです。

今回は、産業動物としての山羊を診療しています。

この雄山羊さんは、
雌山羊さんと交配して子山羊を増やすという役割がありました。
その子山羊たちが大きく育って出荷され、お肉になっていくのです。

今回の症例は、
治療をして回復する可能性も
後遺症が残る可能性も
そして、死んでしまう可能性もあります。

こんなとき
どのような選択をすれば良いのでしょう。

 

治療した場合と、治療をしなかった場合。さまざまなケースを考慮しお話をする

今回、オーナーさんとお話ししたことは・・・

*治療した場合*
①完全に回復
→山羊さんも飼い主さんも獣医師もハッピーエンド。

②回復したけど麻痺が残った
→繁殖用の雄山羊として役目が果たせないので、お肉として出荷されることになる。
ただし、この症例で使用したい薬は注射すると2ヶ月出荷できない。
この2ヶ月間、えさ代など飼養する費用が増え、牧場全体の損失になる。
このような積み重ねから経営不振になり牧場自体立ちゆかなくなることはよくあること。
また、この2ヶ月の間に麻痺のため筋肉が衰え、お肉としての価値が下がる。
最悪の場合、腰麻痺の合併症から死んでしまうこともある。

③死んでしまった
→治療代の損失、お肉にできなかった損失だけが残る。

*治療しない場合*
→今すぐ出荷すれば、しっかりお肉がとれるのでお肉代がこの山羊さんを購入した代金よりも
高くなり、利益が得られる。またこのお金で新しい雄山羊さんを牧場に連れてくることができる。

お話しの後、
オーナーさんは今回「治療しない」という選択をされました。
この山羊さんは出荷され、お肉として町の商店に並ぶことになります。

 

動物との関係は人それぞれ。獣医学を含めた総合的なことをお話し、オーナーさんご自身に「決めてもらう」

そして・・・
診察の後、他の山羊さんをオーナーさんが見せてくれました。
1頭ずつ牧場の山羊さんのことをお話ししてくれます。
治療をしないと決めた山羊さんのことも、どんな経緯でこの牧場に来たのか、
どんな山羊さんだったのか、どんなことを期待していたのか・・・

動物との関係は人それぞれです。
治療の選択もそれぞれのベストがあります。

産業動物としての山羊さんを診療するとき、治療のことだけを考えません。
オーナーさんの状況、想いを伺い、獣医学的なことを総合してお話しして
オーナーさん自身が選択肢の中から「決めること」を目指します。

獣医学の技術の向上や治療だけでなく、
その選択にそっと寄り添えるようになりたいと
感じた症例になりました。

旅人同士

今、目の前にいるあなたが
あした
わたしの前に
いるとはかぎらない

今、目の前にいるわたしが
あした
あなたの前に
いるとはかぎらない

わたしもあなたも
旅人同士

いつかどこかで
道が別れる

あなたはあなたらしく
わたしはわたしらしく

一緒に
行けるところまで

目の前のあなた
今、この時

それを感じて

最後の日まで

ハーブと山羊

今日は、縁あって養鶏農家さんの
ホーリーバジルの畑を見せてもらいました。

畑で一息ついて深呼吸すると・・・

わー!!良い香り。

鶏のごはんに混ぜて使うために育てているそうです。

ビタミンや繊維不足の解消に役立てているということでした。

私もぜひ山羊たちに食べさせてみたい!!とお話ししたら、

快くハーブを分けてくださいました。

早速、牧場に帰ってみんなにあげてみると・・・

やったー。

食べてる、食べてる。

お家に帰って

ホーリーバジルの効果を調べてみると、

葉っぱに含まれる、ジエチルエーテルに、抗菌効果があることもわかりました。

今までも山羊農家さんから、グワバの葉っぱが下痢に効くというお話しや、

タンニンを含む葉っぱが寄生虫症に効果があるというお話しを耳にしてきました。

植物やハーブの効果はなかなか興味深い。

また、少し前になりますが飛行機の機内誌で、山羊が特集されていてました。

その中の記事で、
石垣島では山羊農家さんで山羊肉のにおいを軽減するために、
長命草、よもぎ、レモングラスを混ぜてあげているというお話しがありました。

また、沖縄本島の南城市ではハーブ生産が盛んで、
その一環でハーブの加工過程で出る残渣(絞りかす)を粉末化したものを
山羊のご飯に混ぜて山羊を青立てて地域ブランドとして特産化するプロジェクトに
官民あげて取り組んでいるそうです。
一年に及ぶ試験飼育と成分分析の結果、
「ハーブ類を与えると、与えない場合に比べて、脂肪を燃焼させる機能性アミノ酸
のL-カルニチンと、疲労回復を助けるタウリンが豊富な肉質になると判明した」
ということでした。

山羊とハーブ。
なかなか興味深い。
私もこの記事を読んで、
少しずつ山羊牧場のまわりにハーブを植えはじめました。

ミント、バジル、レモングラス、ローズマリー。
そして、今日いただいた
ホーリーバジル。

ハーブたちがたくさん増えたら、山羊さんたちのごはんに
少しずつ混ぜていけたらいいなと思っています。

マンゴーの季節

私の住む島は
マンゴーの季節になりました!!

山羊さんたちも

マンゴー大好き。

ゆうきさんの山羊牧場のお隣はマンゴー農園なのです。

なんとも贅沢。マンゴー山羊。

いいな。いいな。

わたしもひとついただきました!!やったねー。

丸ごと一つ食べるときのマンゴーの剥き方は・・・

豪快。

それではいきます・・・

がぶっ。

おいしいー!!

ちなみにマンゴーには

ビタミンA
βカロテン
ビタミンC
葉酸

が豊富に含まれているそうです。

マンゴー食べて、暑い夏を元気にのりきろう!!

山羊の診療Diary 症例15 子山羊の下痢・沈うつ

*山羊の診療Diary  症例15 子山羊の下痢・沈うつ

今回の症例は・・・

オーナーさんより、子山羊のゆきぽよちゃんが元気がなく下痢をしている
という連絡がありました。

お話を伺ってみると、3日前にお家にゆきぽよちゃんをお迎えしたそうです。
オーナーさんは山羊さんと暮らすのがはじめとのことでした。
今日の朝から、草は食べているものの、座り込んでいることが多く、
うんちが泥状になったのを心配して連絡をくれました。

さっそく、ゆきぽよちゃんを診察してみると・・・
元気がなくオーナーさんの足下でうずくまっていました。

下痢をする山羊
おしり周りが汚れていて、うんちも泥状でした。
お熱は39.1℃で聴診では特に問題はありませんでした。
前のお家の他の子山羊さんたちの中でゆきぽよちゃんは
一番小さく痩せていたということでした。
確かに、ここ数日の食欲不振というよりは痩せていて
少し栄養の状態が良くないように思いました。

 

ヤギの下痢 3つの原因と選択した治療法

何度か下痢の症例を取り上げているので復習になりますが、
下痢の原因には大きく分けると以下の3つがあります。

食餌性 中毒や過食、変質飼料など
感染性 ウィルス・細菌・寄生虫など
環境性 寒さやストレス(神経性)など

そこで今回の治療は・・・

感染性の下痢の可能性を考えて、抗生物質と駆虫剤の注射を行いました。
また、子山羊さんは体調が悪くなると低体温と低血糖を起こしやすいので
ブドウ糖の静脈注射も一緒に行いました。

そして、今回は食事指導(ミルクの追加)も行いました。
ゆきぽよちゃんは正確なお誕生日がわかりませんが、
体の大きさや状態から考えると、まだ草ではなくて
ミルクからの栄養が必要な月齢に思われました。
山羊さんは草食動物で草を食べる動物ですが、赤ちゃんの頃は草を消化してくれる
第1胃よりもミルクの栄養を吸収する第4胃の方が大きくなっています。
そのため、草を食べていても上手に吸収されず、ミルクからの栄養が必要になります。

そこで、ミルクを温めて、
ゆきぽよちゃんにあげてみると・・・

温めたミルクを飲むヤギ

ミルクを飲んでくれました!
今日はこのまま様子を見て頂くことにしました。

次の日、オーナーさんからお電話があり、
うんちはころころうんちになり、
ミルクも飲んで元気が出てきたとのことでした。
このまま、ミルクをあげるのを続けていただき
栄養状態の改善をしていただいて
様子を見ることになりました。

お家のわんちゃんのはなちゃんとも
すっかり仲良しのゆきぽよちゃん。
このまま、すくすく大きくなって、
みんなと仲良く暮らせますように。

レンタル山羊

みなさん!

「レンタル山羊」をご存知ですか?

お友達が送ってくれた記事で私は知りました。

記事はこちら・・・

https://finders.me/articles.php?id=879&fbclid=IwAR0cDc5-NqZzaNRFwFbjeBdzG863pd93ftkbaroh4ho5-2QESbiw26RsA80

レンタル山羊とは。

草刈り代行サービスの山羊さんのことです。

機械の代わりに山羊さんが除草をします。

メリットは、

・機械の燃料を使用しないので環境にやさしい
・除草剤を使用しない
・崖など機械が入れないところでも除草できる
・刈り終わった草がゴミにならない(山羊さんが食べるから!)

デメリットは、
・鳴き声が大きくてご近所に迷惑になる
・逃げ出すことがある

そして・・・
・可愛すぎてレンタルしても返せなくなる!!
そして、山羊ロスになる・・・

おもしろーい。

わたしがお世話をしている、ゆうきさんのやぎ牧場の山羊さんたちにも
依頼がないかなーと思っていたら、
なんとレンタル山羊の依頼が来ました。
近くの大きな牛の牧場の草刈りです。

そして、選ばれたのが、
だいわくんとあめちゃん。

ふたりのお仕事の様子を見に行ってみると・・・

だいわくん

あめちゃん

ふたりとも、名前を呼ぶとお仕事を中断して
かけよってきてくれました。

ふたりとも元気だった?

草がいっぱいだね・・・
大変な仕事だね・・・
もう、帰りたいよね・・・

以上、わたしの心の中。

そして、気がつきました。

あっ、私がさみしいんだ。

記事にないデメリットがもうひとつ。

貸し出す方も
さみしくなり山羊ロスになる・・・

だいわくん、あめちゃん
元気にお仕事がんばって、
草をもりもり食べて
はやく牧場に帰ってきてねー。

 

院長追記〉〉〉

ヤギ除草の本当のメリットは、「常時除草」だと私は思います。

動物を飼う事になるので、手間はそれほど減りません。除草能力も刈払機のように一度に全てキレイにはなりません。

でも、うまく管理すれば、雑草を抑えた環境を常に保っていられる可能性があります。

レンタルではそのメリットを感じるまで、時間がかかるかもしれませんが、ヤギと暮らす練習や体験としてはいいのかなと思います。

ヤギに心癒されて、楽しみながら環境整備ができたなら、気の合うヤギさんをお迎えしてみてください。〈〈〈

山羊の診療note6 ~山羊の去勢について~

山羊の診療note6 ~山羊の去勢について~

ゆうきさんのお家のけんとくん雄(4ヶ月齢)の去勢手術をしました!

 

山羊の去勢手術

去勢の時期

去勢の時期:生後3ヶ月ごろ

これより早いと尿道の発育が悪くなって、尿石症を起こす確率が高くなるといわれています。

 

去勢手術の方法

方法:2つの方法があります。

・観血去勢
陰嚢を切開して、精巣を摘出する方法。

・無血去勢
陰嚢を切開せずに、皮膚の上から精管や血管などを挫滅する方法。

 

去勢手術の手順

それでは、けんとくんの去勢手術を順を追って見ていきましょう。
今回は観血去勢を行いました。

①はじめに麻酔の注射をします。

麻酔の注射を受けるヤギ

②陰嚢を消毒します。
切開後の感染を予防するためです。

③陰嚢摘出します。

陰嚢摘出される山羊

片方ずつ、陰嚢を切開して精巣を摘出します。
1.陰嚢の皮膚の下側の睾丸の真ん中の部位を精巣を出せる程度を切開します。
2.次に鞘膜(精巣を包んでいる膜)を切開して、精巣を出します。
3.精索(精巣がつながっている管の部分)を鉗子で挟み精巣からはがします。
4.鉗子で血管と精管を挟み、糸で縛り、切断して精巣を摘出します。

片側が終わったら、同じ手順でもう一つの精巣も摘出します。

陰嚢摘出されるヤギ

④切開した部分に抗生物質をかけます。

⑤抗生物質の注射をします。

⑥麻酔をさますお薬を注射して終わりです。

この後、1週間は傷が腫れないか観察します。

去勢手術が必要な場合は、獣医さんに相談してくださいね!

山羊の診療note6②につづく

去勢を望まない場合には、雄山羊と雌山羊を別々に飼うことが必要

そして・・・
去勢を望まない場合、
3ヶ月齢になる前には、雄山羊さんと雌山羊さんを別々に飼う必要があります。
なぜかというと、山羊さんは早熟で離乳後1ヶ月もすると、生殖活動がはじまるからです。
そのため、雄と雌を別々に飼うようにしないと、雌子山羊さんが妊娠してしまします。
体の小さいうちに妊娠してしまうと、妊娠した雌山羊さんの発育に影響するのと、
難産の可能性が高くなるので注意が必要です。

☆☆書籍のご案内☆☆

書籍「ヤギの診療」 
著 寺島杏奈
出版 日本橋出版
2022.7.31発刊

去勢についてだけでなく、ヤギの飼い方、消化の仕組み、診断の方法、よくある病気についても体系的に解説しています。

☆☆☆☆

山羊の診療Diary 症例13-2 犬による咬傷(経過)

*山羊の診療Diary  症例13-2 犬による咬傷(経過)

前回の続きです・・・

前回の記事:  山羊の診療Diary 症例13 ~犬による咬傷~

犬にかまれてケガをしてしまっためーめーちゃんの1週間後の再診です。

前回、痛みとおそらく犬に咬まれたショックでしょんぼりしていた、
めーめーちゃん。

経過はどうかなーと診察に行ってみると・・・

犬による咬傷から回復したヤギ

ご機嫌に草を食べていました。
よかったー!!
全身状態はだいぶ良さそうです。

オーナーさんにお話を伺うと、
食欲、元気が戻ってきたとのこと。
お薬も1週間しっかり、飲ませてくれたそうです

そして、傷口を確認します。
2カ所の大きな傷のうち一カ所は、傷ももう少しでふさがりそうです。

ふさがりかけている傷口

これははこのままで大丈夫。

しかし、反対側の傷は、まだ傷口が大きいままでした。

やや大きな傷口

このままオーナーさんに消毒をしながら様子を見ていただき、
傷がふさがらない時は、ご連絡いただき縫合をすることにしました。

オーナーさんのご家族として、
そしてお庭の除草係として活躍しているめーめーちゃん。
今は、夜は小屋で眠っているそうです。
ゆっくり休んで元気になってね!!

山羊の診療Diary 症例14-2 子山羊の斜頸(終診)~腰麻痺疑い~

*山羊の診療Diary  症例14-2 子山羊の斜頸(終診) ~腰麻痺疑い~

前回の続きです・・・

前回の記事: 山羊の診療Diary 症例14 子山羊の斜頸 ~腰麻痺疑い~

腰麻痺の疑いで、斜頸になってしまったさしみちゃんの1週間後の再診です。

初診の後、駆虫剤のイベルメクチンの投与を2日間行い、
オーナーさんに人工哺乳をお願いし、経過を見ていました。

そして、1週間後・・・
さしみちゃんの診察に行くと・・・

元気になっていましたー!!

元気になったヤギ

お母さん山羊さんのそばで草を食べる、さしみちゃん。
元気になってよかったねー。

 

早期の駆虫薬の投与と看護によって回復する場合も。希望を捨てずに看護やリハビリをすることが大切

オーナーさんはこの1週間、人工哺乳を頑張って続けてくれました。

腰麻痺は、経過がいろいろで、1週間で回復することもあれば、
1か月以上の経過が必要な時もあります。
そして、残念ながら、麻痺が残ることもあります。

このように早期の駆虫薬の投与と看護によって
回復する場合もあるので、希望を捨てずに
できる看護やリハビリをすることが大切だと感じました。

そして、動物の生命力。
自分で回復する力を持っている。
そこを信じないとね。

元気になったさしみちゃんを見て
わたしも元気になりました。
ほんとうにうれしかったな。ありがとう。

そして、
オーナーさん、看護おつかれさまでした。
さしみちゃん、どうかこのまま元気にね!

山羊の診療Diary 症例14 子山羊の斜頸 ~腰麻痺疑い~

*山羊の診療Diary  症例14 子山羊の斜頸 ~腰麻痺疑い~

今回の診療は・・・

子山羊のさしみちゃんが立てなくなったという連絡がありました。

さしみちゃんは、生後40日齢の子山羊さんです。

現場に向かいお話をオーナーさんに伺ってみると
食欲はあるものの、立てずにうずくまっているということでした。

うずくまる子山羊

診察してみると・・・

熱 39.3℃
咳やくしゃみなし
触診で肢に骨折やケガなど運動器の異常なし
斜頸(頭が片方に傾いている)
食欲あり(草を手であげると食べる)
脱水 なし

聴診 頻脈
腹部膨満なし
便確認 問題なし

さしみちゃんを支えて立たせてみると・・・
ふらふらとはしていましたが、立って歩くことはできました。
しかし、顔を斜めに傾けている(斜頸)の症状が見られました。

斜頸の症状がある子山羊

 

子山羊に「立てない」という症状があらわれる病気。腰麻痺は斜頸の形で症状が現れることがある

子山羊さんで「立てない」という症状があらわれる病気は

  • 低血糖
  • 腰麻痺
  • 骨折や捻挫など後ろ脚の異常
  • 胃腸の病気
  • 発熱

などがあります。

腰麻痺は名前からイメージすると、腰や後ろ足の麻痺だけのように感じますが、
神経が損傷された部分に症状が出るので、今回のように斜頸という形で症状が現れることがあります。

腰麻痺疑いの子山羊
また、さしみちゃんはまだ40日齢の子山羊さんですが、
腰麻痺は感染してから2週間から1か月で症状が現れるので、
腰麻痺を十分疑える状況でした。

 

腰麻痺の詳細については、山羊の診療noteにて說明をしています。

山羊の診療note6 ~腰麻痺(脳脊髄糸状虫症)について~

 

子山羊の腰麻痺への治療内容。早期の駆虫剤の投与と、神経症状が改善するまで間の看護がとても重要

そこで今回の治療は・・・

イベルメクチンの投与

現時点で可能性が高い病気が腰麻痺のため、
駆虫剤としてイベルメクチンの投与をおこないました。
これは症状が出ているため3日間続けます。

ブドウ糖の静脈注射

食欲はあるというもののいつもより量が少ないので食欲刺激のため、
また、子山羊さんは体調不良の時に低血糖を起こしやすく、
低血糖がさらに病状を悪化させるため、ブドウ糖の投与を行いました。

抗生物質の注射

微熱があったので感染症の可能性も考え注射をしました。

抗炎症剤の注射

腰麻痺による神経損傷の炎症を抑えるため注射をしました。

 

腰麻痺には、早期の駆虫剤の投与と神経症状が改善するまで間の看護がとても重要

症例12の大人の山羊さん同様、
腰麻痺疑いの場合、早期の駆虫剤の投与と
神経症状が改善するまでの間の看護がとても重要になってきます。

*山羊の診療Diary  症例12  山羊の起立不能(初診) ~腰麻痺疑い~

山羊の診療Diary 症例12-2 山羊の起立不能(経過)~腰麻痺疑い~

さしみちゃんの場合、まだ生後40日齢の子山羊さんなので、
栄養状態を維持してあげることが必要です。
頭が傾いている斜頸の状態、そしてふらふらしているので
お母さんのおっぱいを吸えていない可能性が高いです。
また草だけでは、この月齢の子山羊さんは元気ではいられません。
そのため、オーナさんには人工ほ乳をお願いしました。

続く・・・

続きの記事: 山羊の診療Diary 症例14-2 子山羊の斜頸(終診)~腰麻痺疑い~